京滋バイパスと第二京阪道路が交わる久御山ジャンクション(京都府久御山町)の周辺で、2025年3月27日に224室のビジネスホテルが開業した。メトロエンジンリサーチの施設マスターで半径3km圏を数えると、ホテル・旅館の客室は2024年末の5室から229室へと約46倍になっている。同じ圏内で働く人は43,897人にのぼり、製造と物流の事業所が集まる業務地に、初めてまとまった宿泊の受け皿ができた格好だ。本稿では、就業人口あたりの客室数という物差しで久御山と周辺5地点を並べ、用途地域・地価・周辺市の単価水準から、京都南部で次に宿泊特化型を検討する用地の条件を読み解く。
(ホテル・旅館)
客室
2040年推計
推定成約ADR
本記事における指標の定義
ADR(平均客室単価)=各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)で、本稿では月次が確定している2025年10月〜2026年9月の12か月平均を用いる。
客室数=各年末時点で開業済・閉館前の施設の客室数(当社マスター基準、2026年は10月13日の調査時点)。「ホテル・旅館」はビジネスホテル・シティホテル・スパ併設ホテル・旅館の区分を指し、大人専用施設、簡易宿所、町家・1棟貸しは含めない。従業者数は総務省・経済産業省「経済センサス‐活動調査」(2021年)、居住人口は国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口)による。居住人口は国勢調査ベースであり、滞在人口や通過人口ではない。
感度表の稼働率・GOP率・利回りは試算上の仮定であり、エリアの実績や推定値ではない。データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング。
- — 3km圏の客室は5室から229室へ — 久御山JCT付近の半径3km圏では、2025年3月開業の224室1棟がホテル・旅館の客室のほぼすべてを占める。
- — 従業者1万人あたり52.2室 — 従業者43,897人に対する客室の厚みは枚方市上野45.1室・八幡市美濃山37.1室と同じ帯で、栗東IC付近212.3室の約4分の1。
- — 城陽市寺田8.0室・伏見区横大路24.3室 — 就業規模に比べてホテル・旅館の客室が薄く、同じ物差しで次の受け皿の候補地として読める。
- — ホテルが建つ土地は3km圏の19.1% — 大半は準工業地域(9.8%)で、工業系の公示地価は前年比+7.7〜9.0%。物流・工場と用地を取り合う構図になる。
- — 1室あたり総事業費1,300万〜1,600万円が分かれ目 — 周辺7市区の推定成約ADR7,200〜9,500円(2025年10月〜2026年9月平均)に対し、利回り7%・GOP率45%・稼働率(前提)75%の仮定で釣り合う水準。
3km圏の客室は5室から229室へ — 13年動かなかった供給が1棟で変わった
まずは供給の時系列を確認する。久御山JCT付近(北緯34.8853度・東経135.7445度)を中心に半径3kmの円を描くと、2012年から2024年までの13年間、開業年を把握できる宿泊施設は1軒5室のまま動かなかった。そこへ2025年3月に224室が加わり、年末時点の客室は2軒229室となった。増えた224室は、国土交通省の建築物動態統計調査に登録された久御山町内のホテル計画(224室・9階建て・延床5,760㎡、建築主はルートインジャパン)と客室数が一致しており、1室あたりの延床は25.7㎡と計算できる。
半径を5kmに広げると、宇治市西部や京都市伏見区の淀、八幡市の一部が入ってくる。5km圏の客室は2015年の9軒97室から2019年に15軒159室へ増えたあと、2024年は13軒155室にとどまっていた。2026年10月時点では15軒399室となり、内訳はホテル・旅館が4軒267室、大人専用施設が4軒98室、簡易宿所や町家が7軒34室である。つまり5km圏でも、出張者が予約できるホテル・旅館の客室の8割超を2025年開業の1棟が占めていることになる。
開業した施設の公式サイトによれば、総客室数は224室で、京滋バイパスの久御山ICから車で約5分、近鉄京都線の小倉駅からは車で約12分の位置にある。鉄道駅から歩ける立地ではなく、車で動く出張者と工事・点検などの長期滞在者を主な客層に置いた構えといえる。
就業4.4万人に居住5.1万人 — 昼の人口が夜の人口に迫る製造・物流の町
次に、需要の母集団を就業と居住の両面から見ていく。経済センサス‐活動調査(2021年)を半径3kmで集計すると、事業所は3,006、従業者は43,897人だった。情報通信・金融・不動産・専門サービスといったオフィス系の従業者は991人で、全体の2.3%にすぎない。裏を返せば、従業者の大半は製造、運輸、卸売など現場を持つ業種で働いており、設備の据え付けや保守、納品、監査といった用務で外から人が来る構造になっている。
一方、同じ3km圏の居住人口は2025年推計で51,023人である。従業者を居住人口で割った比率は0.86となり、後述する比較5地点の0.27〜0.58を大きく上回る。夜に住む人とほぼ同じ数の人が昼に働いているわけで、住宅地に付随する宿泊需要よりも、事業所が生む需要を主軸に据えるべき市場だと読める。居住人口は2020年の53,290人から2040年に42,290人へ、20.6%減る見通しで、生産年齢人口の比率は2025年時点で56.0%だ。地元の雇用を前提にした運営計画では、清掃や朝食スタッフの確保を早い段階から織り込んでおきたい。
メッシュ地図を見ると、人口が集まるのは円の南東側(久御山町佐山から宇治市大久保方面)で、3km圏の居住人口のおよそ半分がこの方角に住んでいる。対照的に、中心から1km以内の居住人口は2020年時点で約2,500人と全体の5%に満たない。JCT周辺は工業専用地域と農地が広がり、昼間だけ人が集まる一帯になっている。
| 地点(半径3km) | 居住人口 2025年推計 | 2040年推計 (2020年比) | 事業所数 | 1事業所あたり 従業者 |
|---|---|---|---|---|
| 久御山JCT付近 | 51,023人 | -20.6% | 3,006 | 14.6人 |
| 八幡市美濃山 | 127,991人 | -14.1% | 3,237 | 13.5人 |
| 枚方市上野 | 162,271人 | -14.6% | 4,854 | 13.8人 |
| 栗東市小野 | 36,355人 | -1.4% | 1,609 | 13.0人 |
| 伏見区横大路 | 136,738人 | -10.5% | 5,500 | 11.8人 |
| 城陽市寺田 | 107,103人 | -20.1% | 2,963 | 9.7人 |
従業者1万人あたり52.2室 — 6地点を同じ物差しで並べる
それでは、229室という水準は多いのか少ないのか。同じ手法で京都南部・大阪北東部・滋賀湖南の5地点を取り、半径3km圏の従業者1万人あたりのホテル・旅館客室数を横並びにした。比較地点は、新名神高速道路と第二京阪道路が交わる八幡市美濃山、大型工場が並ぶ枚方市上野、名神高速道路の栗東IC付近にあたる栗東市小野、京都市南部の流通・工業地である伏見区横大路、新名神と京奈和自動車道が接続する城陽市寺田である。
| 地点(半径3km) | 従業者数 | オフィス系 比率 | 居住人口 2025年 | 従業者÷ 居住人口 | ホテル・旅館 | 従業者1万人 あたり客室 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 久御山JCT付近 久御山町 | 43,897人 | 2.3% | 51,023人 | 0.86 | 2軒 229室 | 52.2室 |
| 八幡市美濃山 八幡京田辺JCT・IC付近 | 43,679人 | 4.0% | 127,991人 | 0.34 | 3軒 162室 | 37.1室 |
| 枚方市上野 枚方の工場集積 | 67,111人 | 7.7% | 162,271人 | 0.41 | 4軒 303室 | 45.1室 |
| 栗東市小野 栗東IC付近 | 20,910人 | 5.8% | 36,355人 | 0.58 | 4軒 444室 | 212.3室 |
| 伏見区横大路 京都市南部の流通・工業地 | 64,928人 | 7.5% | 136,738人 | 0.47 | 6軒 158室 | 24.3室 |
| 城陽市寺田 城陽JCT・IC付近 | 28,788人 | 6.8% | 107,103人 | 0.27 | 2軒 23室 | 8.0室 |
久御山の52.2室は、枚方市上野の45.1室、八幡市美濃山の37.1室と同じ帯に入った。2024年末の5室で計算すると1.1室だったので、1棟の開業で京阪間の業務地の標準的な水準に並んだことになる。これに対し、栗東市小野は従業者20,910人に対して444室があり、1万人あたり212.3室と久御山の約4倍だ。栗東では2020年に333室の大型施設が開業しており、名神高速道路と国道1号・8号が集まる結節点では、この密度でも宿泊特化型が成り立っていることを示す参照点になる。1棟の開業で駅3km圏の客室がほぼ倍増した地方都市の例としては、大牟田に328室のルートイン開業、駅3km圏は455→841室が開業後の市単価の内訳まで追っている。
反対に、伏見区横大路は24.3室、城陽市寺田は8.0室と低い。横大路は従業者が64,928人と6地点で2番目に多いが、ホテル・旅館は6軒158室で、100室を超える施設は見当たらない。城陽は2軒23室にとどまり、開業前の久御山に近い姿が残っている。従業者あたりの客室数が低い地点は、そのまま次の受け皿の候補地として読むことができる。ただし、この指標は需要の量を直接示すものではなく、あくまで就業規模に対する供給の厚みを比べる物差しである点には留意したい。
立地評価 — 駅から3km超、工業地の地価は前年比+7〜9%
立地の性格は地価にも表れている。2026年の地価公示で久御山JCTから1.6km以内にある6地点を拾うと、工業専用地域の2地点は1㎡あたり109,000円と136,000円で、前年比はそれぞれ+9.0%、+7.9%だった。準工業地域の久御山町市田石橋も126,000円・+7.7%と同じ伸びを示す。これに対し住宅地の3地点は+1.6〜4.7%にとどまり、工業系の土地だけが強く買われている。最寄り駅(近鉄京都線の大久保駅・伊勢田駅)までの道路距離は工業系3地点で2.9〜3.7kmあり、鉄道ではなく高速道路の結節点としての価値が価格を押し上げているといえる。
| 従業者(2021年) | 43,897人 |
| 居住人口(2025年) | 51,023人 |
| オフィス系比率 | 2.3% |
| JCT付近 | 工業専用地域 |
| 224室の敷地 | 準工業地域 |
| 容積率/建蔽率 | 200%/60% |
| 標準地 | 所在 | 用途地域 | 2026年公示価格 (1㎡あたり) | 前年比 | JCT付近 からの距離 |
|---|---|---|---|---|---|
| 久御山9-2 | 久御山町田井新荒見 | 工業専用地域 | 109,000円 | +9.0% | 0.2km |
| 久御山9-1 | 久御山町佐山新開地 | 工業専用地域 | 136,000円 | +7.9% | 0.6km |
| 久御山9-3 | 久御山町市田石橋 | 準工業地域 | 126,000円 | +7.7% | 1.0km |
| 久御山-2 | 久御山町島田堤外 | 第一種住居地域 | 81,500円 | +1.6% | 1.0km |
| 久御山-3 | 久御山町佐山双栗 | 第一種中高層住居専用地域 | 112,000円 | +4.7% | 1.5km |
| 久御山-1 | 久御山町栄3丁目 | 第一種低層住居専用地域 | 127,000円 | +4.1% | 1.6km |
用途地域 — 3km圏でホテルが建つ土地は円の2割弱
地価以上に用地探しを左右するのが用途地域だ。建築基準法では、ホテル・旅館は工業地域と工業専用地域、住居専用地域には建てられない。認められるのは準工業地域、商業系の地域、準住居地域、第二種住居地域と、床面積3,000㎡以下に限った第一種住居地域である。久御山JCTの中心点は工業専用地域に入っており、事業所が最も集まる場所そのものにはホテルを置けない。2025年に開業した224室は、JCTから約700m北東の準工業地域(容積率200%・建蔽率60%)に建っている。
半径3kmの円を50m格子で区切って用途地域を判定したところ、面積の62.9%は用途地域の指定がない区域(市街化調整区域や河川敷など)だった。工業専用地域と工業地域は合わせて11.0%を占める。ホテルが建てられる用途地域は合計で19.1%、このうち床面積の上限がかからない準工業・第二種住居・近隣商業・準住居の4区分は12.1%で、その大半を準工業地域の9.8%が占めている。延床5,000㎡前後の宿泊特化型を検討する場合、候補は事実上、準工業地域の中で幹線道路に面した区画に絞られる。工業地の地価が年7〜9%で上がる局面では、物流施設や工場と同じ土地を取り合う構図になりやすく、定期借地や地主との共同事業といった土地を買わない組み立ても選択肢に入れておきたい。借地と取得で1室あたりの地代負担と成立ADRがどう変わるかは、ホテル用地は借地か取得か|17商圏の公示地価で1室あたり地代と成立ADRを試算で商圏別に試算している。
周辺市の単価水準 — 推定成約ADRは7,200〜9,500円の帯
ここからは収益の側を見ていく。久御山町で推定成約ADRを算出できる施設は1施設(N=1)にとどまるため、町単独の単価は示さず、周辺の市区で水準を確かめる。月次が確定している2025年10月〜2026年9月の12か月平均を取ると、宇治市は約8,500円(N=3)、京都市伏見区は約8,200円(N=5〜6)、枚方市は約9,500円(N=4)だった。滋賀の湖南では草津市が約8,600円(N=11)、栗東市が約8,800円(N=2)、守山市が約9,000円(N=5)で、大阪側の寝屋川市は約7,200円(N=4)となっている。
| 市区 | 推定成約ADR (12か月平均) | 対象施設数 |
|---|---|---|
| 枚方市 | 9,495円 | N=4 |
| 守山市 | 9,013円 | N=5 |
| 栗東市 | 8,782円 | N=2 |
| 草津市 | 8,626円 | N=11 |
| 宇治市 | 8,472円 | N=3 |
| 京都市伏見区 | 8,218円 | N=5〜6 |
| 寝屋川市 | 7,183円 | N=4 |
Nが2〜6の市区が多く、数百円の差に意味を持たせることはできない。それでも、対象11施設の草津市を含めて7市区が7,200〜9,500円の幅に収まっている点は押さえておきたい。観光客の多い京都市中心部とは別に、京阪間から湖南にかけての業務地には、8,000円台を中心とする価格帯が共通して存在していると読める。宇治市は平等院など観光資源を抱えるが、対象3施設の12か月の月次は8,200〜8,800円の狭い幅で推移しており、平日の業務需要が単価の土台になっていると考えられる。
宿泊特化型120〜200室の必要単価 — 総事業費と稼働率の感度
では、この単価帯で新しい1棟は成り立つのか。1室あたりの総事業費と稼働率から、必要なADRを逆算した。計算式は「必要ADR=1室あたり総事業費×目標利回り÷(365日×稼働率×GOP率)」で、目標利回り(GOP÷総事業費)は7%、GOP率(営業総利益÷売上)は45%と仮定している。売上は客室のみとし、料飲やその他の収入は見込んでいない。
総事業費の幅は公的統計から置いた。建築着工統計によれば、宿泊業用建築物の工事費予定額は全国平均で2022年が1㎡あたり41.9万円、2023年が41.7万円、2024年が59.1万円で、京都府の2024年は50.0万円(89棟・33,538㎡)だった。久御山の計画と同じ1室25.7㎡で換算すると、1㎡40万円なら1室1,029万円、50万円なら1,286万円、60万円なら1,543万円となる。土地は、延床5,760㎡を容積率200%で割った最小敷地2,880㎡に準工業地域の公示価格126,000円を掛けると約3.6億円、1室あたり約162万円という機械的な計算になる。平面駐車場を広く取る郊外型では敷地がこれより大きくなるため、土地を取得する場合の負担はさらに増える。
| 1室あたり総事業費(仮定) | 稼働率(前提)65% | 稼働率(前提)75% | 稼働率(前提)85% |
|---|---|---|---|
| 1,000万円 | 6,600円 | 5,700円 | 5,000円 |
| 1,300万円 | 8,500円 | 7,400円 | 6,500円 |
| 1,600万円 | 10,500円 | 9,100円 | 8,000円 |
| 2,000万円 | 13,100円 | 11,400円 | 10,000円 |
1室1,300万円・稼働率(前提)75%で必要ADRは7,400円、1室1,600万円では9,100円となった。周辺7市区の7,200〜9,500円と重ねると、建物と土地を合わせて1室1,300万〜1,600万円に収められるかどうかが分かれ目になる。この2つの行では稼働率が10ポイント動くと必要ADRが900〜1,400円変わるため、火曜から木曜に偏りやすい業務需要の谷を、週末のスポーツ大会や観光の宿泊でどこまで埋められるかも見ておきたい。金利水準を変えたときに成立ADRがどこまで動くかは、政策金利1.00%とホテル開発 — 主要8商圏の「成立ADR」を逆算するが同じ逆算の枠組みで整理している。
3シナリオで見る必要ADR — 稼働とGOP率を同時に動かす
上の表は稼働率だけを動かしたが、実際には稼働が下がる局面で固定費の比重が増し、GOP率も同時に下がりやすい。そこで稼働率とGOP率を組にして、悲観・中位・楽観の3通りで必要ADRを計算し直した。目標利回りは7%のまま据え置いている。
| シナリオ | 稼働率 (前提) | GOP率 (前提) | 必要ADR (1室1,300万円) | 必要ADR (1室1,600万円) | 周辺7市区の7,200〜9,500円との関係 |
|---|---|---|---|---|---|
| 悲観 | 65% | 40% | 9,600円 | 11,800円 | 1室1,300万円でも7市区の上限(枚方市の約9,500円)を上回る |
| 中位 | 75% | 45% | 7,400円 | 9,100円 | 1室1,300万円は帯の下限寄り、1,600万円は上限寄りに入る |
| 楽観 | 85% | 50% | 5,900円 | 7,200円 | 1室1,600万円でも帯の下限(寝屋川市の約7,200円)に並ぶ |
悲観シナリオでは、1室1,300万円に抑えても必要ADRは9,600円となり、7市区で最も高い枚方市の水準をわずかに超える。1室1,600万円では11,800円で、周辺の単価帯からは届かない。逆に楽観シナリオなら1室1,600万円でも7,200円に収まる。事業費を1室1,300万円前後に抑えることは、稼働とGOP率が同時に下振れしたときの余裕を確保する意味を持つ。
| 客室数 | 延床面積 (1室25.7㎡) | 総事業費 (1室1,300万円) | 総事業費 (1室1,600万円) | 久御山3km圏に 加えた場合の客室 | 従業者1万人 あたり |
|---|---|---|---|---|---|
| 120室 | 約3,086㎡ | 15.6億円 | 19.2億円 | 349室 | 79.5室 |
| 160室 | 約4,114㎡ | 20.8億円 | 25.6億円 | 389室 | 88.6室 |
| 200室 | 約5,143㎡ | 26.0億円 | 32.0億円 | 429室 | 97.7室 |
規模で見ると、120〜200室の総事業費は15.6億〜32.0億円の範囲に入る。仮に久御山の3km圏へ同規模がもう1棟加わっても、従業者1万人あたりの客室は79.5〜97.7室で、栗東IC付近の212.3室の半分に届かない。もちろん栗東と久御山では道路網も需要の中身も同じではないが、就業規模に対する供給の厚みという点では、まだ伸びしろが残る計算になる。
広域交通と制度 — 新名神の未開通区間と京都市の宿泊税
立地の将来を考えるうえで、広域交通の予定は原文で確認しておきたい。新名神高速道路は、大津JCT〜城陽JCT・IC間と八幡京田辺JCT・IC〜高槻JCT・IC間の2区間が事業中である。NEXCO西日本の事業進捗ページは2026年8月末時点で、大津〜城陽間の用地取得率と工事着手率をともに100%、八幡京田辺〜高槻間の工事着手率を99%と公表している。一方で、同ページと2024年12月24日の連絡調整会議(第3回)開催結果のリリース本文には開通年度の記載がなく、大津〜城陽間については「引き続き工程精査を継続しつつ、工事の安全を最優先に1日も早い開通を目指す」とされている。したがって、事業計画に特定の開通年を前提として置くことは避け、現在の道路網で成り立つかどうかを基準にするのが堅実だろう。
税の面では、京都市の内と外で扱いが分かれる。京都市の宿泊税は市内の宿泊施設への宿泊に課され、2026年3月1日以降の税額は、宿泊料金が1人1泊6,000円未満で200円、6,000円以上20,000円未満で400円、20,000円以上50,000円未満で1,000円となっている。比較地点のうち伏見区横大路は京都市内にあたるが、久御山町、宇治市、八幡市、城陽市の施設は京都市の宿泊税の対象ではない。出張規程の宿泊費上限に近い価格帯では、この数百円の扱いが手配先の選択に影響する場面もありうる。
次の用地の条件 — 京都南部で確かめたい5項目
ここまでを整理すると、京都府南部から大阪府北東部の業務地で宿泊特化型を検討する際の確認項目は、次の5つにまとめられる。
| 確認項目 | 久御山3km圏の実測 | 読み方 |
|---|---|---|
| 就業規模に対する客室の厚み | 従業者1万人あたり52.2室(開業前は1.1室) | 伏見区横大路24.3室、城陽市寺田8.0室は同じ物差しで低い |
| 就業の中身 | オフィス系比率2.3%、従業者÷居住人口0.86 | 製造・物流型は連泊と車利用が多く、駐車場と大浴場・食事の設備が効く |
| 用途地域 | ホテルが建つ区域は円の19.1%、準工業地域が9.8% | 工業専用・工業地域は不可。準工業地域の幹線道路沿いが主な候補 |
| 土地の取得環境 | 工業系の公示地価は前年比+7.7〜9.0% | 物流・工場と同じ土地を取り合う。借地や共同事業も選択肢 |
| 単価と事業費の釣り合い | 周辺7市区の推定成約ADRは7,200〜9,500円 | 稼働率(前提)75%なら1室1,300万〜1,600万円が目安(利回り7%・GOP率45%の仮定) |
供給済み久御山・栗東
従業者1万人あたり52.2室・212.3室
大型の宿泊特化型がすでに1棟ずつ立つ。次の1棟は客層や価格帯の出し分けが前提になる。
機会①城陽・八幡
8.0室・37.1室
新名神の結節点で、従業者2.9万〜4.4万人に対しホテル・旅館は2〜3軒。準工業地域の区画が候補になる。
機会②伏見区横大路
24.3室
従業者6.5万人に対し100室超の施設がない。京都市の宿泊税と市街地の地価を織り込んだ事業費の設計が要る。
地主や事業会社にとっては、自社の遊休地が準工業地域に入っているか、幹線道路からの出入りを確保できるかが最初の関門となる。出資や融資を検討する側は、対象地の3km圏で従業者あたりの客室数を計算し、52.2室の久御山や212.3室の栗東と比べてどの位置にあるかを確かめると、供給の余地を同じ基準で説明しやすい。出張を手配する総務担当にとっても、拠点の近くにどれだけの客室があるかを数字で把握しておくことは、繁忙期の宿泊先確保や長期出張の単価交渉に役立つはずだ。
まとめ — 観光の京都とは別に数えるべき業務地の市場
久御山JCTの半径3km圏は、従業者43,897人を抱えながら、2024年末までホテル・旅館の客室が5室しかなかった。2025年3月の224室の開業で229室となり、従業者1万人あたり52.2室と、枚方や八幡の業務地と同じ水準に並んでいる。それでも栗東IC付近の212.3室とは約4倍の開きがあり、城陽市寺田の8.0室、伏見区横大路の24.3室のように、就業規模に比べて客室の薄い地点も周辺に残る。
用地の面では、ホテルが建てられる区域は3km圏の19.1%に限られ、工業系の地価は年7〜9%で上昇している。周辺7市区の推定成約ADRは7,200〜9,500円の帯にあり、稼働率(前提)75%を前提にすると1室あたり総事業費1,300万〜1,600万円が釣り合う水準となった。居住人口が2040年に向けて2割減る一方、就業の集積と高速道路の結節という条件は変わらない。京都南部の宿泊市場は、観光客数ではなく、働く人の数と客室の比で数えると輪郭が見えてくる。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
客室数はメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの施設マスター(各年末時点で開業済・閉館前の施設、2026年は10月13日の調査時点)を、中心点から半径3km・5kmで集計した。推定成約ADRは市区単位の対象施設の中央値で、月次が確定している2025年10月〜2026年9月の12か月平均(N=2〜11施設)。従業者数・事業所数は経済センサス‐活動調査(2021年)、居住人口は国土数値情報の250mメッシュ別将来推計人口、地価と用途地域は不動産情報ライブラリによる。
■ 試算前提
必要ADR=1室あたり総事業費×目標利回り÷(365日×稼働率×GOP率)。目標利回り(GOP÷総事業費)7%、GOP率45%、売上は客室のみ。3シナリオは稼働率とGOP率の組を悲観65%・40%、中位75%・45%、楽観85%・50%と置いた。1室あたり延床は久御山町の計画(224室・延床5,760㎡)から25.7㎡、建築単価は建築着工統計の工事費予定額(1㎡40万〜60万円)、土地は最小敷地2,880㎡に準工業地域の公示価格126,000円を掛けた機械的な計算である。
■ 限界・留意点
従業者数は2021年時点で、その後の事業所の新設・移転は反映していない。比較6地点は円の一部が重なり、境界付近の施設を双方に数えている。推定成約ADRは掲載価格からの推定値で、Nが5未満の市区は少数の施設の値で動く。久御山町はN=1のため町単独の単価を示していない。感度表・シナリオ表の稼働率・GOP率・利回りは仮定であり、エリアの実績ではない。金利・運営委託料・開業前費用・駐車場用地は織り込んでおらず、実際の投資判断には個別のフィージビリティ・スタディが必要となる。新名神高速道路の未開通区間は開通年度が公表されていない。
■ 市場データ
| メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 施設マスターによる半径圏の客室数(6地点・ホテル・旅館21軒、延べ1,319室)、市区別の推定成約ADR(2025年10月〜2026年9月、N=2〜11施設) |
■ 政府統計・公的データ
| 総務省・経済産業省「令和3年経済センサス‐活動調査」(町丁・字別の事業所数・従業者数) |
| 国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口) |
| 国土交通省 不動産情報ライブラリ(地価公示2026年、都市計画決定GISデータ・用途地域) |
| 国土交通省「建築着工統計調査」(用途別・宿泊業用建築物の床面積と工事費予定額、統計表ID 0003114490)、同「建築物動態統計調査」 |
| 京都市「宿泊税について」 |
■ 事業者の公表資料
