トップ > 投資・開発 > ホテルの上下水道費、自治体で2.1倍差 — 100室の年間差785万円とNOI影響

ホテルの上下水道費、自治体で2.1倍差 — 100室の年間差785万円とNOI影響

投稿日 : 2026.08.28 更新日 : 2026.09.02

東京都

大阪府

北海道

福岡県

熊本県

山口県

長野県

千葉県

投資・開発

ホテルの上下水道費、自治体で2.1倍差 — 100室の年間差785万円とNOI影響

ホテルのランニングコストを議論するとき、話題はほとんど電気とガスに集まる。だが宿泊業がもう一つ大量に買っている資源がある——水である。国際観光施設協会エコ・小委員会が全国約100施設を調査した結果によれば、宿泊客1人あたりの水道使用量は630リットル。1泊の滞在で、家庭の1人1日分(282リットル)の2倍以上を使う計算になる。

本稿が扱うのは、その630リットルを「いくらで買っているのか」である。そして重要なのは、その価格を決めているのが国ではなく、立地する市町村の水道事業体だという点だ。同じ100室のビジネスホテルを7つの自治体に置いて上下水道費を積み上げると、年額は699万円から1,485万円まで2.12倍に開いた。差額785万円は10年で7,854万円、キャップレート5.0%で資産価値に換算すれば1億5,709万円に相当する。

既刊の光熱費記事との違い(本稿の位置づけ)
HotelBankではこれまで2026年夏季の電気代高騰がホテルGOPに与えるインパクト試算や2026年電気料金上昇の供給側コスト構造インパクト分析を扱ってきたが、いずれも主題は電気・ガスと国の補助金だった。上下水道はこれと4点で性質が異なる。
(1) 費目が違う:電気・ガスとは別勘定で、しかも上水と下水の2本立てになる。
(2) 価格を決めるのが国ではない:各市町村(一部は県営・企業団)の水道事業体が条例で決める。
(3) 国による恒久的な緩和措置がない:電気・ガスのような全国一律の激変緩和スキームは存在しない。自治体独自の減額は例外的かつ期間限定である(後述の下関市の事例)。
(4) 結果として、立地が恒久的にコストを決める:電気は小売事業者を替えられるが、水道事業体は替えられない。
人的コストを扱った客室清掃の派遣単価高騰、気候コストを扱った雪はコストか資産か(立地評価の第5軸)とも別軸の、第6の立地コスト軸として整理する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。政令指定都市については区単位の値を施設数で加重した中央値を用い、2025年8月〜2026年7月の12ヶ月平均(すべて確定月ベース)としています。
  • 上下水道費:各水道事業体・下水道事業者が条例で公表する料金表に基づき、本稿が使用水量から算出した金額(消費税込)。実際の請求額は検針周期・日割・減免制度により異なります。
  • 原単位:宿泊客1人1泊あたりの水道使用量(リットル)。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(ADR)/各水道事業体・下水道事業者の公表料金表(料金)/国際観光施設協会・日本旅館協会(原単位・水光熱費)
1人1泊の水道使用量
630L
全国約100施設調査
100室BHの年間使用量
15,768m³
稼働80%・1.35人/室前提
自治体間の年額格差
2.12倍
福岡市 対 松本市
年額の差
785万円
10年で7,854万円
CR5.0%の資産価値換算
1.57億円
同一ADR前提
Key Takeaways
  • — 同一仕様の100室ビジネスホテルの年間上下水道費は、7自治体で699万〜1,485万円(2.12倍)。差額785万円はキャップレート5.0%で資産価値1.57億円に相当する。
  • — 上水だけの比較は負担の3〜5割を見落とす。松本市は下水道381万円が上水318万円を上回り、上水の安さで選ぶと逆転される。
  • — 公表される「平均改定率」は施設の改定率ではない。松本市は見出し20.11%に対し100室モデルの実効上昇率4.7%、札幌市の下水道は22.6%に対し19.9%。
  • — 費用の絶対額ではなくその市場のADRに対する比率で見ると順位が入れ替わる。客室売上比は熊本市3.69%が最重、松本市1.79%が最軽。
  • — 福岡市の施設が松本市の同型施設と同じNOIを出すにはADR +269円/室・泊(ADR¥12,000の2.2%)。原単位を300〜630L/人泊で振ると+184〜465円の幅に収まる。

1人630リットルの出所 — 水光熱費1,300円のうち、水はいくらか

まず原単位の一次情報を確認しておく。国際観光施設協会と日本旅館協会が2017年に開催した「宿泊施設の生産性向上推進シンポジウム」で、施設協会は全国約100施設を調査した結果として、宿泊客1人あたりの水光熱使用量が水道630リットル、電気30.4キロワット時、油4.8リットルであったと報告している。同協会は宿泊客1人あたり水光熱費の目標値を900円と設定し、これを達成するには水道を600リットルまで抑える必要があるとした(観光経済新聞 2017年12月5日)。

この630リットルという値は、大浴場を持つ旅館を多く含む母集団の平均である点に注意がいる。同協会は「温泉のある旅館は、水道、電気、重油などの使用量が多く、大浴場の運営などに改善の余地が大きい」と指摘しており、業態によって上下に大きく振れる数字だと理解すべきだ。実際、同シンポジウムで紹介された日本海側の客室26室の温泉旅館では、設備改修によって1人あたり水光熱費が1,956円から992円へ半減している。

金額側の目安としては、日本旅館協会の2015年度統計が宿泊客1人あたりの水光熱費を大規模旅館(100室以上)1,259円、中規模旅館(31〜99室)1,307円、小規模旅館(30室以下)1,346円としており、客室規模に関係なく1,300円前後で揃っていた。ただしこれは10年以上前の水準であり、現在値として使うことはできない。同協会エコ・小委員会の委員長は2023年時点のコラムで「旅館はコロナ前には水道代を入れて1人当たり平均1350円程度の水光熱費が掛かっていましたが、エネルギー価格の高騰などで今では2千円を超えていると思います」と述べており、これは統計値ではなく実務家の見立てである。

原単位の扱いについて:本稿では検証済みの調査平均630L/人泊を基準に、大浴場の有無で上下に振った設定値を用いる。ビジネスホテル400L、シティホテル630L(調査平均をそのまま適用)、温泉旅館1,000L。400Lと1,000Lは調査値ではなく本稿の仮定であり、後段で感度も示す。実在の施設の使用量は設備構成・循環方式・料飲提供量で大きく異なる。

ホテルは家庭と違う料金表で水を買っている — 口径別・用途別の構造

ここからが本題である。水道料金は「基本料金+従量料金」で構成されるが、事業用途の大口需要家に適用される料金表は家庭用とは別物になる。決め方は自治体によって大きく3系統に分かれる。

第1に、口径別。メーターの呼び径が大きいほど基本料金が跳ね上がる。東京都区部(東京都水道局)では、口径13ミリの基本料金が月860円(税抜)であるのに対し、50ミリでは20,720円、75ミリでは45,623円、100ミリでは94,568円になる。しかも東京都の場合、口径が大きい契約では従量単価の低い階段が消える。家庭が使う13〜25ミリでは最初の5立方メートルが0円、6〜10立方メートルが22円と安く始まるが、50ミリの契約では最初の1立方メートルから1立方メートルあたり372円が適用される。同じ水を、家庭は22円で、ホテルは372円で買っていることになる。

第2に、用途別。札幌市は「家事の用」と「家事以外の用」を分け、後者に高い基本料金を課す。福岡市も「家事用」「家事以外の用」に分かれ、ホテルは後者に入る。ここで実務上の落とし穴がある——大阪市の「業務用」は、ホテルを指す区分ではない。大阪市水道局が公表する用途の適用基準によれば、業務用はバー・キャバレー等の風俗営業、噴水・池・滝等の修景施設、湯屋用以外の公衆浴場、一時的な事業活動などに限定されており、ホテルはこれに該当せず「一般用」が適用される。用途区分の名称だけで料金を推定すると、大阪では単価を大きく取り違える。

第3に、基本水量制。札幌市の「家事以外の用」50ミリは基本料金が月53,900円(税込)と全国有数に高いが、この中に月100立方メートルまでの使用量が含まれている。京都市の呼び径50ミリも基本料金40,260円(税込・2か月)に一定の基本水量が付与される。基本料金の額面だけを並べた比較は、この構造を見落とす。

そして下水道使用料を必ず併記する必要がある。多くの自治体では汚水排出量を水道使用量とみなして課金するため、上水を使えば自動的に下水も発生する。後述する100室モデルでは、上下水道の合計負担は上水単独の1.5〜2.2倍になった。上水だけで用地を比較すると、負担の3〜5割を見落とすことになる。

表1 7自治体+千葉県営水道の料金体系比較(ホテル適用区分・口径50mm基本料金・高使用量帯の従量単価)
自治体(事業体)ホテルに適用される区分口径50mm 基本料金
(月額・税込)
高使用量帯の
従量単価(上水)
下水道の
最高従量単価
備考
札幌市家事以外の用53,900円375円237円基本料金に月100m³を含む
松本市一般33,781円176円248.6円2026年4月改定後。従量は定額
福岡市家事以外の用23,210円542円515円料金表は2か月単位。月額換算
東京都区部一般用22,792円404円345円50mmは1m³目から372円
京都市一般用20,130円——基本水量込み。公表早見表は200m³まで
千葉県営水道口径別(用途区分なし)19,621円514円—2026年4月改定後。下水は各市が別途
下関市口径別(用途区分なし)13,221円322円209円2026年4月改定後。2か月単位を月額換算
熊本市一般用9,185円319円340.47円口径40〜150mmは従量共通
大阪市一般用935円358円234円基本料金は口径によらず一律
出典:各水道事業体・下水道事業者の公表料金表よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。税抜表示の事業体は1.10を乗じて税込換算。2か月単位で表示する事業体(福岡市・下関市・京都市)は基本料金を月額換算。下水道の最高従量単価は税込換算値(熊本市・下関市・松本市は元表が税込表示)。京都市は公表早見表の掲載範囲が200m³までのため高使用量帯の単価は記載していない。千葉県営水道は上水のみを供給し、下水道使用料は各市が別途定める。
大阪市の基本料金が口径によらず一律850円(税抜)である点は、全国的にみて構造的な外れ値である。100室規模のホテルが札幌市で50ミリ契約を結ぶと基本料金だけで年間64.7万円かかるのに対し、大阪市では年間1.1万円にすぎない。ただし大阪市は従量単価の逓増が急で、月51立方メートル以上は230円、月201立方メートル以上は342円に達する。固定費で取るか従量で取るかという設計思想の違いであり、どちらが有利かは施設の使用量規模によって逆転する。
口径別 基本料金の比較(月額・税込、使用量ゼロ時)
出典:各水道事業体の公表料金表よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。対数軸。札幌市の50mm・75mmには基本水量(それぞれ月100m³・500m³)が含まれる。

原単位から積み上げる — 3つの規模モデルの年間上下水道費

次に、原単位から実際の年間使用量と料金を積み上げる。計算式は客室数 × 稼働率 × 365日 × 1室あたり宿泊人数 × 原単位である。前提は以下のとおり、いずれも本稿の設定値とする。

表2 試算に用いた3つの規模モデルの前提(客室数・稼働率・原単位・年間使用量)
モデル客室数稼働率1室あたり
宿泊人数
原単位
(L/人泊)
延べ宿泊者
(人泊/年)
年間使用量
(m³)
月平均
(m³)
前提口径
100室ビジネスホテル10080%1.3540039,42015,7681,31450mm
200室シティホテル20078%1.6063091,10457,3964,78375mm
80室温泉旅館8055%2.201,00035,33235,3322,94450mm
原単位の基準値630L/人泊は国際観光施設協会エコ・小委員会(全国約100施設調査、観光経済新聞2017年12月5日報道)。ビジネスホテル400L・温泉旅館1,000Lは本稿の設定値であり調査値ではない。温泉旅館は大浴場・館内浴槽の入替と2食提供を織り込んで上方に置いている。口径は本稿の設定値で、実際は同時使用水量計算に基づき決まる。

この使用量を、前節の7自治体の料金表に通す。結果が下表である。施設の仕様は完全に同一で、変えたのは所在地だけという条件設定になっている。

表3 同一仕様100室ビジネスホテルの年間上下水道費(自治体別・税込)
自治体上水道(円/年)下水道(円/年)合計(円/年)円/人泊円/m³最安との差
福岡市8,612,3146,236,31414,848,627377942+7,854,422
東京都区部6,858,4035,068,93211,927,335303756+4,933,130
札幌市6,398,7002,928,1039,326,803237592+2,332,598
熊本市4,902,6124,237,7639,140,375232580+2,146,170
大阪市5,719,9823,020,2928,740,274222554+1,746,069
下関市5,195,2683,187,9448,383,212213532+1,389,007
松本市3,180,5403,813,6656,994,205177444—
100室ビジネスホテル・月1,314m³・口径50mm前提。出典:各水道事業体・下水道事業者の公表料金表よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(税込)。千葉県営水道は上水のみの供給のため本表から除外。
100室ビジネスホテルの年間上下水道費(自治体別・税込)
出典:各水道事業体・下水道事業者の公表料金表よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

注目すべきは下水道が占める比率のばらつきである。松本市では上水318万円に対して下水381万円と、下水のほうが大きい。逆に札幌市は上水640万円・下水293万円で、下水は上水の半分以下だ。上水の安さで用地を選ぶと、松本市のように下水で逆転される構造が起きうる。上下水道はセットで見る以外にない。

規模を変えても構図は変わらない。200室シティホテル(月4,783立方メートル)では福岡市5,927万円に対し松本市2,524万円で2.35倍・年額3,403万円差、80室温泉旅館(月2,944立方メートル)では福岡市3,549万円に対し松本市1,530万円で2.32倍・年額2,019万円差となった。使用量が増えるほど従量単価の逓増構造が効き、格差はむしろ広がる。

月間使用量と平均単価(上下水道合計・口径50mm・円/m³)
出典:各水道事業体・下水道事業者の公表料金表よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。横軸は対数。少量域では基本料金の希薄化で単価が下がり、その後は逓増構造で反転して上昇する。

このカーブは投資判断上とても示唆的だ。松本市と下関市は使用量が増えるほど平均単価が下がり続けるのに対し、福岡市・東京都区部・大阪市は月200立方メートルを底に反転して上昇する。逓増制を強く採る自治体では、大浴場を持つ施設や大規模施設ほど不利になる設計になっている。月1,314立方メートルの時点で追加1立方メートルにかかる限界単価は、松本市425円に対し福岡市1,055円と2.5倍の開きがある。

NOIへの翻訳 — 売上高比率2.24pt、資産価値換算1.57億円

ここまでは費用の絶対額である。投資判断に使うには、売上とNOIの言葉に翻訳する必要がある。

まず構造を押さえておきたい。上下水道費のうち従量部分は、延べ宿泊者数に比例して発生する。売上もまた延べ宿泊者数(正確には販売室数)に比例する。したがって従量部分の売上高比率は、稼働率にも客室数にもほとんど左右されない。左右するのは、1室あたり宿泊人数・原単位・従量単価・ADRの4つだけである。一方、基本料金は固定費なので、規模と稼働が上がるほど希薄化する。「水道代は規模を大きくすれば薄まる」という直感は、基本料金部分にしか当てはまらない。

そのうえで、ADRを¥12,000で固定し、所在地だけを変えた場合の売上高比率を見る。これは「同じ商品を同じ値段で売っている2つのホテルが、水道料金だけで何ポイント違うか」を測る操作である。

表4 規模モデル別の最高・最低自治体の年額差とNOI・資産価値への換算
モデル最も高い自治体最も低い自治体年額差倍率10年累計差客室売上比の差CR5.0%資産換算ADRで埋める場合
100室ビジネスホテル
ADR¥12,000固定
福岡市
14,848,627円
松本市
6,994,205円
7,854,422円2.12倍78,544,220円2.24pt
4.24%→2.00%
157,088,440円+269円/室・泊
200室シティホテル
ADR¥22,000固定
福岡市
59,271,018円
松本市
25,236,850円
34,034,168円2.35倍340,341,680円2.72pt
4.73%→2.01%
680,683,360円+598円/室・泊
80室温泉旅館
ADR¥25,000固定
福岡市
35,486,691円
松本市
15,301,079円
20,185,612円2.32倍201,856,120円5.03pt
8.84%→3.81%
403,712,240円+1,257円/室・泊
出典:各水道事業体・下水道事業者の公表料金表よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成。売上高比率の分母は客室売上のみで、料飲その他の売上を含まない。したがって総売上ベースでは比率はこれより小さくなり、特に2食提供の旅館モデルでは上限側の値である。資産価値換算はキャップレート5.0%を前提とした単純計算で、実際の取引利回りではない。
最も実務的な数字は右端の列である。100室ビジネスホテルの場合、福岡市に建てた施設が松本市の同型施設と同じNOIを出すには、ADRを1室1泊あたり269円上乗せする必要がある。ADR¥12,000に対して2.2%。200室シティホテルなら598円、80室温泉旅館なら1,257円。これは「高い自治体は投資に適さない」という話ではなく、同じADRなら成立条件が変わるということだ。逆に言えば、269円の価格差を吸収できる需要があるかどうかが、その用地の判断材料になる。

もう一つの視点として、各都市の実際のADR水準を分母に置くとどうなるか。メトロエンジンリサーチ&コンサルティングの推定成約ADR(2025年8月〜2026年7月の12ヶ月平均)を用いると、100室ビジネスホテルモデルの客室売上比は次のようになる。

表5 各市場の推定成約ADRを分母に置いた場合の客室売上比(100室ビジネスホテルモデル)
自治体推定成約ADR
(12ヶ月平均)
対象施設数年間上下水道費客室売上比
熊本市8,479円N=829,140,375円3.69%
福岡市14,273円N=24714,848,627円3.56%
下関市9,622円N=398,383,212円2.98%
東京都区部(千代田区)16,435円N=8011,927,335円2.49%
大阪市12,173円N=5048,740,274円2.46%
札幌市14,584円N=1939,326,803円2.19%
松本市13,356円N=1026,994,205円1.79%
ADR出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(推定成約ADR・全カテゴリ、2025年8月〜2026年7月の12ヶ月平均、すべて確定月ベース)。政令指定都市は区単位の値を施設数で加重した中央値。対象施設数は月次中央値。上下水道費出典:各水道事業体・下水道事業者の公表料金表より作成。

順位が入れ替わる。費用の絶対額が中位でも、ADR水準が相対的に低い市場では売上高比率が重くなる。逆に、費用が高い東京都区部はADRも高いため比率は中位に収まる。用地評価では「水道料金が安い自治体を探す」のではなく、その市場で取れるADRに対して水道料金がどれだけの比率になるかを見るのが正しい順序になる。自治体が条例で決めるコストという意味では宿泊税も同じ構図で、導入自治体の広がりと負担の重さは宿泊税ラッシュ2026 — 30自治体導入で問われる投資家・チェーン運営の税務負担で整理している。

総投資額に対する利回りへの影響としては、100室ビジネスホテル(客室18㎡・客室部分比率68%で延床2,647㎡=801坪、国土交通省建築着工統計に基づく2025年S造坪単価240.5万円で建設費約19.3億円)を前提に、総投資額20億円なら0.39pt、25億円なら0.31pt、30億円なら0.26ptとなる。分母となる建設費そのものの上昇圧力については建設費+41%と人材難で消える供給 — 2027-2029年ホテル新規開業マップが詳しい。単独では小さいが、設計でも運営でも動かせない恒久的な差であることに意味がある。

感度分析 — 原単位を振ると、結論はどこまで動くか

ここまでの試算は、100室ビジネスホテルの原単位を400L/人泊と置いている。前述のとおりこれは本稿の設定値であり調査値ではない。検証済みの調査平均は630L/人泊(大浴場を持つ旅館を多く含む母集団)であり、逆に節水設備を備え大浴場を持たない施設であればこれを下回りうる。原単位は本稿の結論を最も大きく左右する前提なので、300〜630L/人泊の範囲で振って結論の頑健性を確かめる。

表9 感度分析:原単位 × 自治体 の2軸グリッド(100室ビジネスホテルの年間上下水道費・万円・税込)
原単位(L/人泊)月間使用量(m³)松本市下関市大阪市熊本市札幌市東京都区部福岡市最大/最小
300L(節水設備・大浴場なし)9865336296266726858691,0702.01倍
400L(本稿の基準値)1,3147008398749159331,1921,4852.12倍
500L1,6438681,0481,1191,1551,1801,5151,8982.19倍
630L(調査平均をそのまま適用)2,0701,0841,3191,4441,4731,5041,9402,4412.25倍
100室・稼働80%・1室あたり宿泊人数1.35人・口径50mm前提(延べ39,420人泊/年)。各セルは本稿の平均単価カーブ(円/m³)を対数補間して算出。基準行(400L)は本文表3の積み上げ値と0.1%以内で一致する。出典:各水道事業体・下水道事業者の公表料金表よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(税込)。

読み取れることは2つある。第一に、原単位をどこに置いても自治体間の格差は消えない。最も保守的な300L/人泊でも福岡市と松本市の差は2.01倍あり、630L/人泊では2.25倍まで開く。むしろ原単位が大きいほど従量部分の比重が増すため、格差はわずかに拡大する。立地によるコスト差は、施設側の節水努力で打ち消せる性質のものではない。

第二に、絶対額の不確実性は大きい。同じ福岡市の施設でも、原単位が300Lなら年1,070万円、630Lなら年2,441万円と2.3倍の幅がある。したがって個別案件の事業計画では、本稿の400Lをそのまま使うのではなく、大浴場・料飲・洗濯の内製有無といった設備仕様から使用量を積算する必要がある。本稿が主張するのは絶対額ではなく自治体間の相対差の大きさである。

表10 3シナリオ比較:原単位の前提が変わったときの年額差・NOI影響(福岡市 対 松本市・100室ビジネスホテル・ADR¥12,000固定)
シナリオ原単位月間使用量福岡市 年額松本市 年額年額差倍率客室売上比の差ADRで埋める場合
楽観300L(節水設備・大浴場なし)986m³1,070万円533万円538万円2.01倍1.53pt
3.05%→1.52%
+184円/室・泊
中位(本稿基準)400L1,314m³1,485万円700万円785万円2.12倍2.24pt
4.24%→2.00%
+269円/室・泊
悲観630L(調査平均を適用)2,070m³2,441万円1,084万円1,357万円2.25倍3.87pt
6.97%→3.09%
+465円/室・泊
客室売上の分母は100室×稼働80%×365日×ADR¥12,000=3億5,040万円(客室売上のみ、料飲その他を含まない)。「ADRで埋める場合」は年額差÷年間販売室数29,200室で算出。出典:各水道事業体・下水道事業者の公表料金表よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(税込)。

実務的な含意はこうなる。用地選定の段階で福岡市と松本市を比較しているなら、原単位の想定が外れても「ADRで184〜465円の差」という結論の向きは変わらない。振れ幅は大きいが符号は安定しており、判断材料としては十分に使える。逆に、この幅そのものを狭めたいのであれば、必要なのは料金表の精査ではなく設備仕様の確定である。

2026年の改定ラッシュ — 見出しの改定率は、施設の改定率ではない

2026年は上下水道料金の改定が集中している年である。主な事例を公式発表で確認すると次のとおり。

表6 2026年に施行される主な上下水道料金改定(4事業体)
事業体対象平均改定率施行日内容・経緯
千葉県営水道水道18.6%2026年4月1日1996年度以来30年ぶり。基本料金・従量料金の双方を改定。県水道事業運営審議会が2025年10月16日に答申
松本市水道20.11%2026年4月1日1988年8月以来38年ぶり。準備料金(基本料金)のみを引き上げ、水量料金は据え置き
下関市水道約20%2026年4月1日国の重点支援地方交付金による減額を併用。2026年4〜11月検針分は値上げ額の100%減額、12月〜2027年1月検針分は50%減額、2027年2月検針分から新料金が全額適用。下水道使用料は減額の対象外
札幌市下水道22.6%2026年10月1日1997年以来約30年ぶり。維持管理費が直近10年で33%増加。2023年度に14年ぶりの経常損失が発生し、2027年度には資金不足が見込まれるため
出典:千葉県「水道料金の改定について」、松本市「令和8(2026)年4月1日から水道料金を改定します」、下関市「水道料金支援事業(水道料金の減額)の概要」、札幌市「下水道使用料改定のお知らせ」。いずれも各事業体の公式ページ。

ここで投資判断上きわめて重要な指摘がある。公表される「平均改定率」は、ホテルにとっての改定率とは一致しない。平均改定率は事業体全体の給水収益の増加率であり、家庭用の小口需要家が大半を占める分布に引きずられる。本稿の100室ビジネスホテル(月1,314立方メートル・口径50ミリ)に各改定を適用すると、実効の上昇率は次のようにばらける。

表7 公表平均改定率と100室ビジネスホテルの実効上昇率の乖離
事業体公表平均改定率改定前(月額)改定後(月額)100室BHの実効上昇率年間増加額
松本市(水道)20.11%253,264円265,045円+4.7%141,372円
千葉県営水道18.6%617,632円721,108円+16.8%1,241,711円
札幌市(下水道)22.6%244,009円292,521円+19.9%582,146円
100室ビジネスホテル・月1,314m³・口径50mm前提。出典:各事業体の公表料金表(改定前後)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成(税込)。

松本市は見出し20.11%に対して実効4.7%にとどまった。理由は明快で、松本市の改定が準備料金(基本料金)のみを対象とし、1立方メートルあたり176円の水量料金を据え置いたためである。大量使用者にとっては料金の大半が水量料金なので、固定費だけが上がっても全体への影響は薄まる。一方、札幌市の下水道改定は全階段の単価を引き上げるため、実効19.9%と見出しに近い水準になる。千葉県営水道も基本料金と従量料金の双方を改定するため実効16.8%と高い。

デューデリジェンスへの含意:改定情報を「平均◯%上がる」というニュース見出しで拾うと、施設への影響を最大4倍過大に見積もったり、逆に過小に見積もったりする。改定が基本料金のみか、従量料金も含むかを条例改正案の料金表まで遡って確認し、対象施設の想定使用量に当てはめて再計算する必要がある。これは公表資料だけで完結できる作業である。
公表平均改定率 と 100室ビジネスホテルの実効上昇率
出典:各事業体の公表料金表(改定前後)よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

下関市の事例は、もう一つの論点を提示する。同市は国の重点支援地方交付金を活用して値上げ分を一時的に減額しており、当初は2026年9月検針分までとしていた据置期間を11月検針分まで2か月延長した。ただしこれは期間限定であり、しかも水道料金のみで下水道使用料は対象外である。2027年2月検針分からは新料金が全額適用される。取得時のデューデリジェンスで直近の請求書を見ると、この減額後の金額が載っていることになる。直近実績のまま将来キャッシュフローを引くと、コストを過小に見積もることになる点は要注意だ。

7自治体の分布と、負担の地理

本稿で扱った自治体を地図に置くと、負担の大小に地理的な規則性がないことが分かる。大都市だから高い、地方だから安いという単純な関係ではなく、各事業体の資産更新負担・給水人口の推移・料金体系の設計思想が個別に効いている。

100室ビジネスホテルの年間上下水道費(円の大きさ=年額)
出典:各水道事業体・下水道事業者の公表料金表よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成

用地比較チェックリスト — 契約前に確認できる5項目

上下水道は、取得後・竣工後には動かせない費目である。だからこそ用地選定と設計の段階で確認する価値が最も高い。以下は公表資料と事前協議で完結できる項目に絞った。

表8 用地比較チェックリスト — 契約前に公表資料と事前協議で確認できる5項目
項目確認すること投資判断への効き方
1. 口径サイズ 同時使用水量計算から必要な呼び径を確定し、その口径の基本料金を条例料金表で確認する。基本水量が付与されるか(付与される場合は何立方メートルまでか)も併せて見る。 50ミリと75ミリで基本料金が2倍以上変わる事業体が多い。札幌市は50ミリ53,900円に対し75ミリ237,600円(月額・税込)で4.4倍。設計段階で口径を1段下げられれば恒久的な固定費削減になる。
2. 加入者分担金・給水装置工事負担金 新設時に一括で支払う加入金の額を口径別に確認する。多くの事業体が口径に対して急勾配で設定している。 札幌市の水道加入金は50ミリ1,782,000円、75ミリ4,950,000円、100ミリ10,120,000円(税込)。口径選定が初期投資に直接跳ねる。設計審査・検査手数料も別途かかる。
3. 用途区分の適用 その事業体でホテルがどの用途区分に入るかを、条例の適用基準まで遡って確認する。名称からの推定は避ける。 大阪市の「業務用」はバー・キャバレー等の限定用途で、ホテルは「一般用」。区分を取り違えると従量単価の想定が大きくずれる。
4. 井戸水・中水利用の可否と経済性 地下水採取の条例規制(採取許可・揚水量制限・対象区域)を確認する。あわせて井戸水を使っても下水道使用料は発生する点を織り込む。冷却塔の蒸発など下水道に流れない分について減量認定制度がある事業体もある。 上水を代替しても下水道分は残るため、削減効果は総額の半分前後にとどまることが多い。大阪市は汚水排出量の減量認定制度を設けており、流量計等で適正に計測できれば申請により認定を受けられる(遡っての認定は不可)。
5. 改定予定の有無と内容 事業体の経営戦略・財政計画、料金審議会の答申、議会提出の条例改正案を確認する。改定が基本料金のみか従量料金も含むかを料金表レベルで見る。一時的な減額措置が入っていないかも確認する。 公表される平均改定率と施設の実効上昇率は一致しない(松本市は見出し20.11%に対し100室モデルで4.7%)。また減額措置適用中の請求実績をそのまま将来CFに引くと過小評価になる。
出典:各水道事業体・下水道事業者の公表資料よりメトロエンジンリサーチ&コンサルティング作成
本稿の試算に関する注意:本稿の年間費用は、各事業体が公表する料金表に本稿の設定した使用量を当てはめた計算値です。実際の請求額は検針周期(2か月検針の事業体では月ごとに按分される)、日割計算、各種減免制度、水質使用料の加算などにより異なります。原単位のうちビジネスホテル400L・温泉旅館1,000Lは本稿の設定値であり、調査に基づく実測値ではありません。投資判断にあたっては、対象用地を所管する事業体への事前協議と、対象施設の設備仕様に基づく水使用量の個別積算が必要です。

まとめ — 立地評価の第6軸として

本稿の検証結果を整理する。

第一に、宿泊業は水を大量に買っている。宿泊客1人あたり630リットル(国際観光施設協会・全国約100施設調査)は、家庭の1人1日分の2倍以上にあたる。100室のビジネスホテルで年間15,768立方メートル、200室のシティホテルで年間57,396立方メートルという規模になる。

第二に、その価格は市町村ごとに大きく違う。同一仕様の100室ビジネスホテルの年間上下水道費は、本稿が検証した7自治体で699万円から1,485万円まで2.12倍に開いた。規模を大きくすると逓増構造が効いて格差はむしろ広がり、200室シティホテルでは2.35倍・年額3,403万円差となる。

第三に、上水だけを見ると3〜5割を見落とす。下水道使用料は水道使用量に連動して発生し、松本市のように下水が上水を上回る自治体もある。上下水道はセットで比較する以外にない。

第四に、この差は運営努力では埋めきれない。節水設備の導入や大浴場の運用改善で使用量を減らす余地は確かにある(前述の26室温泉旅館は水光熱費を1人あたり1,956円から992円へ半減させた)。しかし単価そのものは事業体が条例で決めるもので、需要家側が選ぶことはできない。電気のように小売事業者を替えるという選択肢がない。

第五に、だからこそ用地選定の段階で効く。100室ビジネスホテルなら、最も高い自治体の施設が最も安い自治体の同型施設と同じNOIを出すには、ADRを1室1泊あたり269円上乗せする必要がある。ADR¥12,000の2.2%。この価格差を吸収できる需要がその立地にあるかどうかが判断材料になる。繰り返すが、これは特定の自治体が投資に不向きだという話ではない。同じADRなら成立条件が変わる——それだけである。そして条件が分かっていれば、ADR設計にも設備仕様にも織り込むことができる。

駅距離、地価、気候、人的コストと並ぶ、動かせない立地コストの一つとして、上下水道を投資判断の変数表に加える価値はある。ハザードマップと防災Capexを同じ枠組みで軸に加えた検証はホテル立地評価の第4軸「災害リスク」を定量化するで扱っており、本稿の第6軸と併せて用地の変数表を組み立てられる。

あわせて読みたい

参考資料・出典一覧

■ データソース

上下水道費は、各水道事業体・下水道事業者が条例で公表する料金表(2026年8月時点の最新版。2026年4月に改定済みの松本市・下関市・千葉県営水道は改定後の表)に、本稿が設定した使用量を当てはめた計算値です。ADRはメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの推定成約ADR(2025年8月〜2026年7月の12ヶ月平均、すべて確定月ベース。政令指定都市は区単位の値を施設数で加重した中央値、対象施設数は月次中央値)。原単位は国際観光施設協会エコ・小委員会による全国約100施設調査(観光経済新聞2017年12月5日報道)。建設費前提は国土交通省「建築着工統計調査」の2025年 全国 S造 坪単価。

■ 試算前提

100室ビジネスホテル=稼働80%・1室あたり宿泊人数1.35人・原単位400L/人泊・口径50mm(延べ39,420人泊/年、年間使用量15,768m³)。200室シティホテル=稼働78%・1.60人・630L・口径75mm。80室温泉旅館=稼働55%・2.20人・1,000L・口径50mm。いずれも本稿の設定値であり、実在施設の実測値ではありません。客室売上高比率の分母は客室売上のみで、料飲その他の売上を含みません。資産価値換算はキャップレート5.0%を前提とした単純計算です。感度分析(表9・表10)の年額は本稿の平均単価カーブ(円/m³)を対数補間して算出しており、基準行は本文表3の積み上げ値と0.1%以内で一致します。

■ 限界・留意点

実際の請求額は、検針周期(2か月検針の事業体では月ごとに按分される)・日割計算・各種減免制度・水質使用料の加算などにより本稿の計算値と異なります。原単位のうちビジネスホテル400L・温泉旅館1,000Lは本稿の設定値であり、調査に基づく実測値ではありません。京都市は公表早見表の掲載範囲が200m³までのため高使用量帯の単価を記載せず、年額比較からも除外しています。千葉県営水道は上水のみを供給し下水道使用料は各市が別途定めるため、年額比較から除外しています。ADRは推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。投資判断にあたっては、対象用地を所管する事業体への事前協議と、対象施設の設備仕様に基づく水使用量の個別積算が必要です。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(全カテゴリ、2025年8月〜2026年7月の12ヶ月平均、政令指定都市は区単位を施設数加重した中央値)

■ 水道・下水道料金(各事業体の公表料金表)

■ 原単位・水光熱費

■ 建設費・投資前提

関連記事