JR北海道が進める札幌駅南口・北5西1・西2地区の再開発は、2026年7月15日に総事業費が4,000億円を超える見通しと報じられ、同時にマリオットとのホテル提携解消と高層棟6フロア・約200室という当初想定の白紙が明らかになった。札幌市が9月11日の都市計画審議会(第138回)で事前説明した変更案では、延べ床は約38万8,500㎡から約32万6,500㎡へ16.0%縮み、ホテル床を載せる西1丁目の高層棟は2030年度着工・2034年度完了へ後ろ倒しになる。本稿では、市の都市計画資料と報道で確定した見直し前後の数字を並べ、札幌駅1km圏の客室ストックと先に開く計画、中央区シティ区分の月別単価から「駅直上のホテル床」が2034年度に要る通年単価を試算する。想定読者は、札幌都心で用地や既存ホテルを持つ事業会社、複合開発のホテル床に出るオペレーター、道内の金融機関である。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値、REIT月次公表値との整合性検証で概ね数pt 程度の精度を確認済)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。本稿の中央区OCCは対象103施設/客室14,907室(主要予約サイト掲載ベース)。
- 掲載価格に言及する箇所は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
- 1km圏の客室ストック:札幌駅(北緯43.0687・東経141.3508)から半径1km以内で、2026年7〜9月に価格の観測がある施設を名寄せして集計(重複掲載を除く)。年次推移は掲載確認ベースの概算。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ&コンサルティング(調査時点 2026年10月13日)
- — 北5西1・西2再開発の延べ床は約38.85万㎡から約32.65万㎡へ16.0%縮小。ホテル床(西1高層棟27〜32階)の完成は2028年度から2034年度へ6年後ろ倒しになる(市の事前説明案)。
- — 総事業費は4,000億円超の見通し(報道)。マリオットとの提携は解消され、高層階ホテルの客室数・ブランドは未定のまま残る。
- — 札幌駅1km圏は55施設・10,513室(2026年7〜9月に観測)。2029年までに公表計画ベースで少なくとも1,105室が先に開く。
- — 1km圏で推定成約ADR3万円超の施設は2026年9月時点でゼロ(N=47)。中央区シティ区分の12か月平均は19,206円(N=25〜26)。
- — 1室7,000万円・通年稼働80%・GOP率30%・利回り6%の前提で、必要ADRは通年約31,200円。建設費の置き方で20,900〜49,000円に振れる。
見直し前後の対比 — 延べ床は16%減、ホテル床は6年後ろへ
まずは、何がどう変わったのかを一枚の表に固定しておきたい。当初計画は西1丁目・西2丁目の2街区を一体で整備する地上43階・最高高さ約245mの単棟で、延べ床は市の都市計画資料で約38万8,500㎡(報道では約38万6,700㎡)、2028年度完成が目標だった。見直し後は、西2丁目に地上11階・地下2階・高さ約80mの低層棟(A-1街区、延べ約9万5,500㎡)を2027年度に着工して2030年度に完了させ、その後に西1丁目へ地上34階・地下4階・高さ約230mの高層棟(A-2街区、延べ約23万1,000㎡)を2030年度着工・2034年度完了で建てる段階整備に切り替わる。2棟は連絡デッキで接続し、ホテルは高層棟の27〜32階、34階に展望施設が入る。
市の資料は変更理由を資材価格の高騰や労務需給の逼迫に起因する工事費高騰と説明し、工区分けによる工事量の平準化と建築規模の縮小で工事費を抑える構図を説明している。日本経済新聞によれば、それでも総事業費は4,000億円を超える見通しで、先行する低層棟の工事費は1,500億円とされる。ホテルについては、JR北海道ホテルズと米マリオットの2022年1月の提携が2025年に解除され、当初の高層棟6フロア・約200室という想定は白紙、中層階に計画していた宿泊特化型は取りやめ、高層階のホテルは維持するが客室数・ブランドは未定というのが7月時点の報道内容である。
| 項目 | 当初計画(2022年10月都市計画決定) | 見直し案(2026年9月・第138回審議会 事前説明) |
|---|---|---|
| 整備方式 | 西1・西2の2街区一体・単棟 | 工区分け・段階整備(A-1街区=西2、A-2街区=西1)、連絡デッキで接続 |
| 階数・高さ | 地上43階・最高高さ約245m | A-1:地上11階・地下2階・約80m/A-2:地上34階・地下4階・約230m |
| 延べ床面積 | 約388,500㎡(市資料)/約386,700㎡(報道) | 合計約326,500㎡(A-1 約95,500㎡+A-2 約231,000㎡)=−62,000㎡・−16.0% |
| 建築敷地面積 | 約23,060㎡ | 約22,460㎡(A-1 約8,710㎡/A-2 約13,750㎡) |
| 計画容積率 | 約1,500% | 全体約1,400%(A-1 約1,000%/A-2 約1,650%) |
| 主要用途 | 業務・商業・宿泊・駐車場・バスターミナル等 | A-1:商業・駐車場・バスターミナル等/A-2:業務・商業・宿泊・駐車場・バスターミナル等 |
| ホテルの位置・規模 | 高層棟6フロア・約200室(マリオット想定)+中層階に宿泊特化型 | A-2高層棟の27〜32階(6フロア)。客室数・ブランドは未定、宿泊特化型は取りやめ |
| 工程 | 2028年度完成目標 | A-1:2027年度着工・2030年度完了/A-2:2030年度着工・2034年度完了/事業完了2035年度 |
| 事業費 | — | 総事業費4,000億円超(見通し)、A-1工事費1,500億円(いずれも報道) |
ホテル床だけを取り出すと、変わったのは規模ではなく時間軸である。6フロアという枠は当初と同じで、位置は高層棟の最上部側に残った。一方で完成は2028年度から2034年度へ6年ずれ、ブランドの空席が生じた。事業者にとって「誰が入るか」より先に答えが要るのは、「2034年度の札幌駅前で、最上位帯のホテルがいくらで売れていれば床が回るのか」という問いであり、本稿の後半はそこに集中する。
市の資料で確認できること — 特区の容積率は西1が1,650%、「600%」は未確認
容積率については、報道見出しの「600%緩和」が何を指すのかを含めて、札幌市の公表資料で確認できた範囲だけを書く。第138回審議会(2026年9月11日)に事前説明された都市再生特別地区【札幌駅周辺地区・約9.2ha】の変更案では、容積率の最高限度が変更前の「全体1,000%・A地区1,500%・B地区800%・C地区700%」から「全体950%・A地区1,400%(A-1地区1,000%・A-2地区1,650%)・B地区800%・C地区700%」に改められる。最低限度は300%、建蔽率の最高限度は80%で変更なし。つまり再開発街区の容積は全体では下がる一方、ホテルと業務を載せる西1のA-2街区に1,650%を寄せる配分になっている。
この一連の都市計画変更(都市再生特別地区・第一種市街地再開発事業・地区計画・東豊線・地下歩道の各変更)は、第139回審議会(2026年11月13日)の諮問案件として議案第1号・第4号〜第6号に上程される予定で、市のページは10月6日時点で開催案内を掲載している。審議会の答申とその後の都市計画決定・告示は、本稿執筆時点(10月13日)では未公表のため、本稿の数値はすべて「事前説明案」である。日本経済新聞が9月24日に報じた「容積率600%緩和」の対象区域・条件は、上記の特区資料にも、市の「都心における開発誘導方針」の公開事例(指定容積率800%に対し最高1,200〜1,500%の事例)にも「600%」の記載がなく、本稿では確認できなかった。なお、国土交通省の地価データ上では、札幌駅前通沿いの標準地が指定容積率800%、創成川東側の北3条東2丁目・北2条東1丁目が600%で、「600%」が創成川東の指定容積率を指す可能性はあるが、これは当方の推測であり市資料での裏付けはない。
| 都市再生特別地区【札幌駅周辺地区】 | 変更前(2022年10月) | 変更案(2026年9月 事前説明) |
|---|---|---|
| 区域面積 | 約9.2ha | 約9.2ha |
| 容積率の最高限度・全体 | 1,000% | 950% |
| A地区(北5西1・西2) | 1,500% | 1,400%(A-1 1,000%/A-2 1,650%) |
| B地区/C地区 | 800%/700% | 800%/700%(据え置き) |
| 容積率の最低限度/建蔽率の最高限度 | 300%/80% | 300%/80%(変更なし) |
| 手続き | — | 第138回(9/11)事前説明 → 第139回(11/13)諮問予定 → 2026年度 事業計画変更認可(予定) |
札幌駅1km圏の客室ストック — 55施設・10,513室、2034年度までに先に開く1,105室
次に、ホテル床が開く2034年度までに周辺の供給がどこまで積み上がるかを押さえる。札幌駅から半径1km以内で2026年7〜9月に価格の観測がある施設を一つずつ名寄せすると、55施設・10,513室になる(うち推定成約ADRを算出できる検証済み業態は47施設・10,279室)。掲載確認ベースの年次推移では、1km圏の客室は2015年の50軒・8,653室から2026年の65軒・11,964室へ+38.3%伸びており、500m圏では31軒・6,612室、2km圏では242軒・32,691室が稼働している。概算の年次系列と名寄せ後の棚卸しで施設数が異なるのは、年次系列が改称前後の重複や休止中の掲載を含む一方、棚卸しは直近3か月に観測がある施設に限るためで、本稿の現状値は後者を使う。中央区全体で2019年以降の7年間に積み上がった客室の内訳は、札幌・中央区は7年で9,654室増で施設別に整理している。
ここに先行して開く計画を足すと、2026年10月3日開業のハイアット セントリック 札幌(216室、北1条西5丁目)はすでに稼働を始め、2027年春にアパホテル&リゾート〈札幌駅前〉(北区北8条西4丁目、当初318室から500室へ増室と報道)とアパホテル〈札幌駅前西〉(北6条西6丁目・168室)、2028年度にJR北海道グループの(仮称)中央区北3西2ホテル(約280室、既報のとおり事業主体はエスコン)、2029年に大通西4丁目の再開発ビルへパーク ハイアット 札幌(157室)が続く。北5西1・西2のホテル床が開く2034年度より前に、1km圏には少なくとも1,105室(ハイアット セントリック 札幌を含めれば1,321室)が積み上がり、ストックは10,513室から約11,800室へ+12.6%になる計算である。当初想定の約200室はこの圏域の1.7%にあたり、量として市場を動かす規模ではない。問われるのは量ではなく「最上位帯の価格を誰が形成するか」になる。
| 2034年度までに札幌駅1km圏で開く計画 | 所在地 | 客室数 | 開業時期 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| ハイアット セントリック 札幌 | 中央区北1条西5丁目(アーバンネット札幌リンクタワー17〜26階) | 216室 | 2026年10月3日開業 | 日本ハイアット 報道資料(2026年4月)、PR TIMES |
| アパホテル&リゾート〈札幌駅前〉 | 北区北8条西4丁目 | 500室 | 2027年春(予定) | 北海道新聞(2025年5月21日) |
| アパホテル〈札幌駅前西〉 | 北区北6条西6丁目 | 168室 | 2027年春(予定) | 北海道新聞(同上)、国交省 建築物動態統計(2027年4月完成予定) |
| (仮称)中央区北3西2ホテル | 中央区北3条西2丁目 | 約280室 | 2028年度(予定) | JR北海道公表資料(2026年5月20日) |
| パーク ハイアット 札幌 | 中央区大通西4丁目(再開発ビル4階・27〜35階) | 157室 | 2029年(予定) | 日本ハイアット 報道資料(2026年4月) |
| 北5西1・西2 高層棟ホテル | 中央区北5条西1丁目(A-2街区27〜32階) | 未定(当初約200室) | 2034年度完了目標 | 札幌市 第138回審議会資料、日本経済新聞 |
| 3万円以上 | 0施設・0室 |
| 2万〜3万円 | 13施設・4,063室 |
| 1.5万〜2万円 | 19施設・3,771室 |
| 1.5万円未満 | 15施設・2,445室 |
中央区の単価構造 — 2月の山と4月の谷、シティ区分は2.69倍の振れ幅
価格側に移る。札幌市中央区の推定成約ADRは、全業態で2026年9月が16,122円(N=140、前年同月比+7.2%)、直近12か月(2025年10月〜2026年9月)の平均は14,514円で、2月の20,635円(N=137、+6.1%)が山、4月の8,641円(N=134、+5.2%)が谷となり、山谷の比は2.39倍になる。シティホテル区分に絞ると、12か月平均は19,206円(N=25〜26)、2月は29,374円(+16.1%)、4月は10,926円(−8.9%)と、比は2.69倍まで広がる。雪まつりと冬季の訪日需要が2月に集中し、雪解け前の4月に底を打つ札幌固有の季節性が、上位業態ほど強く出る構造である。一方で夏は、シティ区分の7月が23,403円(−3.9%)、8月が21,634円(−13.2%)、9月が19,019円(−10.4%)と、2025年夏の高い水準からは落ち着いた。前年同月比がマイナスに転じた月を抱えつつ、OCCは7月94.0%・8月92.9%・9月92.7%と高位で推移しており、単価を譲って稼働で取り返した型と読める。
この振れ幅は、北5西1・西2のホテル床を検討する側にとって二つの意味を持つ。第一に、通年ADRの目標を「2月の水準」で置くと達成できない月が10か月あり、逆に「4月の水準」で置くと床の採算が成立しない。試算は必ず通年平均で組み、その上で2月に集中する上振れをどう取り込むかを運営設計に回す必要がある。第二に、固定賃料より変動賃料・運営委託が組みやすい市場だという点で、これは北見・札幌・旭川の3件を比較した既報で述べた整理と同じ結論になる。
最上位帯の空白 — 1km圏で推定成約ADR3万円超は2026年9月にゼロ
では、駅直上の最上位帯は今どこまで埋まっているのか。1km圏で推定成約ADRを算出できる47施設を客室数と単価で散布すると、2026年9月の上限はJRタワーホテル日航札幌(342室・29,300円)、札幌ホテル by グランベル(605室・28,500円)、2025年12月に開業したザ・ゲートホテル札幌 by HULIC(172室・27,300円、7月は34,000円)、三井ガーデンホテル札幌(177室・26,000円)が形成し、3万円を超える施設は9月時点で存在しない。2万〜3万円帯に13施設・4,063室が並ぶ一方、その上は空いている。10月3日に開業したハイアット セントリック 札幌は開業月の掲載価格(全プラン平均・税込)が77,200円で、推定成約ADRは確定月を待つ必要があるが、この空白帯に最初に入る施設になる。2029年のパーク ハイアット 札幌(157室)も同じ帯を狙う計画で、2034年度の北5西1ホテル床は、この2件が5〜8年かけて作る価格帯の上に乗る形になる。
密集 1.5万〜3万円 × 150〜600室
32施設・7,834室。大型シティと上位ビジネスが並び、2月の山を取り込める施設が上限を形成する。新規の差別化は立地より館内機能(温浴・眺望・料飲)に寄る。
空白① 3万〜5万円 × 150〜350室
2026年9月時点で0施設。ハイアット セントリック 札幌(216室)が先行、2029年にパーク ハイアット 札幌(157室)。北5西1ホテル床の試算はこの帯の通年単価が成立するかで決まる。
参照 2万〜3万円 × 170〜600室
13施設・4,063室。JRタワーホテル日航札幌・札幌ホテル by グランベル・ザ・ゲートホテル札幌 by HULICなど。2034年度に空白①が埋まれば、この帯は「駅前の標準」として厚みを増す。
6フロア・約200室を回す通年単価 — 建築費を着工統計と事業費から逆算した感度表
ここからは試算に入る。前提を明示する。第一に規模は当初想定の6フロア・約200室を置く(1フロア約33室)。第二に1室あたり延床は、客室・ホテル専用の共用部(ロビー・料飲・宴会・バック)を含めて70㎡とする。複合用途の高層棟では基準階が2,000〜2,500㎡程度になりやすく、6フロアで約14,000㎡=1室70㎡はその範囲に収まる。第三に建築費は、国土交通省「建築着工統計」の北海道・宿泊業用の工事費予定額を床面積で割った実績値と、報道の事業費から逆算した上限の間でレンジを取る。北海道の宿泊業用建築は2024年に207棟・191,797㎡で工事費予定額1,287億円、㎡あたり67.1万円(坪221.8万円)と、2019年の36.1万円から+86%上昇した。全国平均の59.1万円/㎡(2024年)を上回る。一方、日本経済新聞の数値から逆算すると、低層棟は1,500億円÷95,500㎡=157万円/㎡、総事業費4,000億円超÷326,500㎡=122.5万円/㎡以上で、ここにはバスターミナルや地下接続、用地・補償費など建築費以外も含まれる。そこで建築費は「低位67万円・中位100万円・高位157万円/㎡」の3段階とし、1室あたり建設費は4,700万円・7,000万円・1億1,000万円になる。
採算の条件は、建物コストに対する営業純収益(NOI)の利回り6%、GOP率30%(フルサービス型の初年度保守値。インヴィンシブル投資法人が開示する運営91物件のGOP率38.9%は稼働安定期の宿泊主体ホテルの実績であり、料飲・宴会を持つ上位業態の立ち上がりとしては低めに置く)、総売上に占める宿泊売上の比率65%、稼働率70〜90%とした。必要ADRは「建設費×6%÷GOP率×宿泊比率÷(365日×稼働率)」で求める。土地は市街地再開発の権利変換で取得する前提のため、用地費は含めない。
| 建設費(1室70㎡) | 稼働70% | 稼働80% | 稼働90% |
|---|---|---|---|
| 低位 67万円/㎡=4,700万円/室 | ¥23,900 | ¥20,900 | ¥18,600 |
| 中位 100万円/㎡=7,000万円/室 | ¥35,600 | ¥31,200 | ¥27,700 |
| 高位 157万円/㎡=1億1,000万円/室 | ¥56,000 | ¥49,000 | ¥43,500 |
| GOP率の感度(稼働80%) | GOP率25% | GOP率30% | GOP率35% |
|---|---|---|---|
| 低位 4,700万円/室 | ¥25,100 | ¥20,900 | ¥17,900 |
| 中位 7,000万円/室 | ¥37,400 | ¥31,200 | ¥26,700 |
| 高位 1億1,000万円/室 | ¥58,800 | ¥49,000 | ¥42,000 |
読み方はこうなる。中位の建設費(1室7,000万円)で稼働80%なら、通年の推定成約ADRで31,200円が要る。これは1km圏の現在の上限(JRタワーホテル日航札幌の29,300円)をわずかに上回り、中央区シティ区分の12か月平均19,206円の1.6倍にあたる。2月の29,374円でも届かない水準を通年で出すには、2026年9月時点では存在しない「3万円超の帯」が2034年度までに札幌駅前で定着している必要がある。低位の建設費なら必要ADRは20,900円まで下がり、現在の2万〜3万円帯の中で成立するが、2024年の北海道着工実績67万円/㎡を2030〜2034年度の高層棟に当てるのは楽観に寄る。高位の建設費では49,000円が要り、これは国内でも都心の最上級ホテルに限られる水準になる。したがって、ホテル床の成立条件は「建築費を中位に抑えつつ、ハイアット セントリック 札幌とパーク ハイアット 札幌が3万円超の帯を実需で証明すること」と要約できる。逆に言えば、2026年10月と2029年に開く2件の確定月のADRは、北5西1ホテル床のブランド選定を左右する最初の実データになる。
利回りと建設費上昇の置き方も確認しておく。中位の建設費・通年稼働80%・GOP率30%のまま要求利回りだけを動かすと、必要ADRは利回り5%で26,000円、7%で36,400円となり、利回り1ポイントの差が約5,200円に相当する。また、中位の100万円/㎡は、2024年の北海道の着工実績67.1万円/㎡が、高層棟の着工予定である2030年度までの6年間、年率約6.9%で上がり続けた場合の水準にあたる。2019〜2024年の実績は年率約13.2%の上昇だったため、同じ勢いが続けば中位を超え、年3%の上昇にとどまれば約80万円/㎡(1室約5,600万円、必要ADR約24,900円)に収まる計算になる。着工までの建築費の推移は、ブランドの選定と並ぶ変数として見ておきたい。
駅の西と東 — 地価は6.2倍の差、伸び率は東が2倍超
用地を持つ事業会社の視点では、駅の西側と東側の地価差が次の論点になる。国土交通省の地価データ(2026年)で札幌駅周辺の商業地を拾うと、駅前通沿いの北4条西4丁目が730万円/㎡(地価公示、前年比+5.0%)、北3条西2丁目が567万円/㎡(地価調査、+5.0%)、北口の北7条西2丁目が366万円/㎡(地価調査、+7.6%)であるのに対し、創成川を渡った北3条東2丁目と北2条東1丁目は118万円/㎡(地価公示、+12.4%)にとどまる。西の最高地点と東の差は6.2倍だが、前年比の伸びは東が西の2倍を超える。指定容積率は駅前通沿いが800%、創成川東が600%、北口が700%で、再開発街区の特区1,650%とは別の世界になる。
これを1室あたりの土地コストに置き換えると分かりやすい。容積率を使い切り、1室あたり延床を70㎡とすると、必要な敷地は1室あたり70㎡÷8.0=8.75㎡(西・800%)、70㎡÷6.0=11.7㎡(東・600%)になる。北4条西4丁目の730万円/㎡なら1室あたり地代相当は約6,400万円、北3条東2丁目の118万円/㎡なら約1,380万円で、建物の中位建設費7,000万円に対して西は土地が建物と同額、東は建物の2割にとどまる。駅直上の再開発に入るオペレーターが用地費を負わないのに対し、周辺で自己用地から参入する側は、西側では土地分だけ必要ADRが1.9倍に跳ね、東側ではほぼ建物の採算で読める。用地を借地にするか取得するかの比較は17商圏の試算で扱ったが、札幌駅周辺では「西は床を借りる、東は土地から建てる」という棲み分けが地価から読める。
| 標準地・基準地 | 種別 | 2026年 価格(円/㎡) | 前年比 | 指定容積率 | 最寄駅・距離 | 周辺の状況(資料原文) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 中央区北4条西4丁目1番7外 | 地価公示 | 7,300,000 | +5.0% | 800% | さっぽろ 0m | 高層の事務所ビル、銀行等が建ち並ぶ商業地域 |
| 中央区北3条西2丁目1番13外 | 地価調査 | 5,670,000 | +5.0% | 800% | 地下鉄さっぽろ 1m | 中高層の百貨店、事務所ビルが建ち並ぶ商業地域 |
| 中央区北1条西3丁目3番22 | 地価公示 | 3,890,000 | +4.3% | 800% | 大通 350m | 中高層の事務所ビルが建ち並ぶ中心商業地域 |
| 北区北7条西2丁目6番 | 地価調査 | 3,660,000 | +7.6% | 700% | 札幌 180m | 高層の事務所ビル等が建ち並ぶ駅北口の商業地域 |
| 中央区北3条東2丁目2番2 | 地価公示 | 1,180,000 | +12.4% | 600% | さっぽろ 260m | 中高層のマンションや事業所が建ち並ぶ商業地域 |
| 中央区北2条東1丁目2番1外 | 地価公示 | 1,180,000 | +12.4% | 600% | さっぽろ 280m | 中高層の事務所ビルが多い中心部の商業地域 |
オペレーター未定の高層階ホテル床 — 投資家・運営者に開く三つの機会
ここまでを整理すると、北5西1・西2の見直しが投資家と運営者に開くのは、次の三つの機会に集約できる。第一は、2034年度までの8年間、駅直上の最上位帯が「未定」のまま空くことで生じる先行者の余地である。ハイアット セントリック 札幌とパーク ハイアット 札幌が3万円超の帯を作りに行く間、駅500m圏の既存上位施設(JRタワーホテル日航札幌・札幌ホテル by グランベル・ザ・ゲートホテル札幌 by HULICなど)は、改装や料飲強化で2万〜3万円帯の上限を押し上げる時間を得る。第二は、ホテル床そのものへの参入機会である。客室数・ブランドが未定ということは、JR北海道側が運営形態(賃貸借・運営委託・フランチャイズ)とブランドを改めて選べる状態にあるということで、本稿の感度表が示すとおり、提案の説得力は「通年3万円台を札幌で実現できる根拠」をどれだけ持ち込めるかで決まる。国内外のアッパーアップスケール〜ラグジュアリーのブランドで、冬季集中型の需要に対応した変動賃料の実績があることが、交渉の入口になる。第三は、創成川東側の用地である。指定容積率600%・地価118万円/㎡・前年比+12.4%という組み合わせは、駅から260〜280mで土地から建てられる数少ない商圏であり、再開発の低層棟が2030年度に開いてバスターミナルと地下歩道の接続が整えば、東側の回遊は構造的に増える。
留意点も三つ挙げておく。一つ目は、本稿の数字が「事前説明案」であり、11月13日の第139回審議会の答申と、その後の都市計画決定・事業計画変更認可で確定する点である。二つ目は、総事業費4,000億円超という水準が建設費のさらなる上振れを前提にしていないことで、国土交通省の着工統計で北海道の宿泊業用単価が5年で+86%伸びた事実は、2030年度着工の高層棟に同じ圧力が続く可能性を示す。三つ目は、2026年夏の中央区シティ区分の前年同月比がマイナスに転じた点で、OCCが92〜94%を保つ中での単価調整は、供給が+12.6%積み上がる2029年までの価格形成を慎重に読む材料になる。いずれも床の価値を損なう話ではなく、提案に織り込むべき前提の整理である。
よくある質問
Q. 北5西1・西2再開発のホテルはいつ開業しますか。
A. 札幌市が2026年9月の都市計画審議会で事前説明した変更案では、ホテルが入る西1丁目の高層棟(地上34階・27〜32階がホテル)は2030年度着工・2034年度完了が目標です。当初計画の2028年度完成から6年後ろ倒しになります。客室数とブランドは2026年10月時点で未定です。
Q. 総事業費と延べ床はどれくらい変わりましたか。
A. 日本経済新聞(2026年7月15日)は総事業費が4,000億円を超える見通しと報じています。延べ床は市の資料で約388,500㎡から約326,500㎡へ62,000㎡(16.0%)縮小し、低層棟(西2丁目)約95,500㎡と高層棟(西1丁目)約231,000㎡の2棟構成になります。
Q. 札幌駅周辺で新しいホテル床が成立するADRの目安はいくらですか。
A. 本稿の試算では、1室あたり建設費7,000万円(100万円/㎡・70㎡)、稼働80%、GOP率30%、利回り6%の前提で通年の推定成約ADR約31,200円が必要です。2026年9月時点の札幌駅1km圏では推定成約ADR3万円を超える施設はなく、中央区シティ区分の12か月平均は19,206円です。簡易試算であり、実際の投資判断には詳細なフィージビリティ・スタディが必要です。
Q. 「容積率600%緩和」とは何を指しますか。
A. 2026年9月24日の日本経済新聞の見出しにある表現ですが、対象区域・条件は本稿執筆時点で札幌市の公表資料から確認できていません。市資料で確認できるのは、都市再生特別地区【札幌駅周辺地区】の容積率の最高限度が西1のA-2街区で1,650%、西2のA-1街区で1,000%とされる変更案です。
まとめ
北5西1・西2の見直しは、延べ床を16%削り、総事業費4,000億円超を抱えながら、ホテル床の「6フロア」という枠を高層棟の上部に残して2034年度へ送った。札幌駅1km圏には55施設・10,513室が稼働し、2029年までに少なくとも1,105室が先に開くが、2026年9月時点で推定成約ADR3万円を超える施設はない。中位の建築費で床を回すには通年31,200円前後が要り、その成否はハイアット セントリック 札幌とパーク ハイアット 札幌が作る価格帯で先に答えが出る。駅の西は床を借り、創成川東は土地から建てる——地価と容積率はその棲み分けを示している。11月13日の審議会の答申と、今後順次出る先行2件の確定月ADRを、次の判断材料として追いたい。
⚠ 計画数値と推定値に関する注意:本稿の再開発に関する数値は札幌市の都市計画審議会「事前説明」段階の案および報道に基づくもので、審議会の答申・都市計画決定・事業計画変更認可により変更される場合があります。推定成約ADR・推定OCCはOTA公開情報に基づく推定値で、各施設の実績とは異なります。必要ADRの試算は前提を明示した簡易試算です。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
推定成約ADR・推定OCCはメトロエンジンリサーチ&コンサルティングの集計(札幌市中央区 全業態N=130〜140・シティ区分N=25〜27、2024年7月〜2026年9月の確定月。OCCは中央区103施設/14,907室、2026年7〜9月)。札幌駅1km圏の客室ストックは2026年7〜9月に価格の観測がある施設を名寄せした55施設・10,513室。再開発の諸元は札幌市 第138回都市計画審議会の事前説明資料、事業費は報道、建築費は建築着工統計、地価は国土交通省 不動産情報ライブラリによる。
■ 試算前提
ホテル床は当初想定の6フロア・約200室、1室あたり延床70㎡(ホテル専用の共用部を含む)。建築費は低位67万円・中位100万円・高位157万円/㎡の3段階、建物コストに対する利回り6%(感度5〜7%)、GOP率30%(感度25〜35%)、宿泊売上比率65%、通年稼働率70〜90%。必要ADR=建設費×利回り÷GOP率×宿泊比率÷(365日×稼働率)。権利変換での取得を前提とし、用地費は含めない。
■ 限界・留意点
再開発の数値は事前説明段階の案で、第139回審議会(2026年11月13日)の答申と都市計画決定・事業計画変更認可により変わり得る。ホテル床の客室数・ブランド・運営形態は未定で、約200室・70㎡は試算上の仮置きである。必要ADRの式はGOPをそのまま営業純収益とみなす簡易式で、固定資産税・保険料・FF&E積立・運営委託報酬などGOPより下の費用は控除していないため、実際に要る単価はこれより高くなり得る。建築費の低位は2024年の着工実績の平均で、着工までの上昇は別途の換算で示した。推定成約ADR・推定OCCはOTA公開情報に基づく推定値で、開業直後の施設は確定月が揃うまで算出対象に含めていない。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 推定成約ADR(札幌市中央区 全業態N=130〜140・シティ区分N=25〜27・ビジネス区分N=100〜106、北区N=19〜22、2024年7月〜2026年9月の確定月)、推定OCC(中央区103施設/14,907室)、札幌駅1km圏の客室ストック(名寄せ後55施設・10,513室、年次推移は掲載確認ベース概算)、調査時点2026年10月13日
■ 政府統計・公的データ
- 札幌市「第138回札幌市都市計画審議会 議案の概要」事前説明第1〜5号(2026年9月11日・参考資料)
- 札幌市「第139回札幌市都市計画審議会 議案一覧」(2026年11月13日開催予定・10月6日更新)
- 札幌市「都心における開発誘導方針」公共貢献の取組事例(2026年4月8日更新)
- 国土交通省 不動産情報ライブラリ — 地価公示(2026年1月1日)・都道府県地価調査(2026年7月1日)
- e-Stat「建築着工統計調査(建築物着工統計)用途別・建築主別/建築物の数、床面積、工事費予定額」(統計ID 0003114490、52宿泊業用・北海道/全国、2016〜2024年)
- 国土交通省「建築物動態統計調査」(確認申請ベースの計画、北区北6条西6丁目 168室 2027年4月完成予定)
■ REIT・業界資料
- インヴィンシブル投資法人 — 運営ホテルのGOP率(91物件・2024年12月期 38.9%)
- 日本ハイアット 株式会社「報道資料 2026年4月」 — ハイアット セントリック 札幌(216室・2026年)、パーク ハイアット 札幌(157室・2029年)
■ ニュース・プレスリリース
- 日本経済新聞「JR北の札幌駅前再開発、総事業費4000億円超 マリオット進出白紙」(2026年7月15日)
- 日本経済新聞「どうなる容積率600%緩和 札幌駅前再開発、マリオットの『後釜』焦点」(2026年9月24日・見出しとリードのみ参照)
- 建設通信新聞「北5西1・西2地区 延べ約6万200㎡縮小」(2026年7月17日)
- タビリス「札幌駅南口再開発、段階整備へ都市計画変更手続き」(2026年7月17日)
- 北海道新聞「アパホテル札幌駅前、客室数500室に増設 新たに『駅前西』も建設 27年春開業予定」(2025年5月21日)
- PR TIMES「ハイアット セントリック 札幌 2026年10月3日(土)に開業」
- トラベル Watch「パーク ハイアット 札幌、大通西4南地区再開発ビルに2029年開業予定」
- トラベル Watch「ザ・ゲートホテル札幌 by HULIC 2025年12月20日開業」
出典: 日本ハイアット 株式会社「報道資料 2026年4月」
