トップ > 宿泊市場動向 > OTA掲載在庫率の中央値は33%、シティホテルは19% — 5,451施設で測る「完売」の意味

OTA掲載在庫率の中央値は33%、シティホテルは19% — 5,451施設で測る「完売」の意味

投稿日 : 2026.10.17

東京都

大阪府

京都府

北海道

沖縄県

福岡県

長野県

OTA掲載在庫率の中央値は33%、シティホテルは19% — 5,451施設で測る「完売」の意味

OTAの残室がゼロでも、その宿が満室とは限らない。残室の推移から「完売」を読む記事が増えるほど、前提として確かめておきたいのが、その施設がそもそもOTAに客室の何割を出しているかである。メトロエンジンリサーチでは施設ごとに「観測期間中にOTAで確認できた最大の販売可能室数 ÷ 総客室数」を掲載在庫率として算出している。本稿では東京・大阪・京都・北海道・沖縄・福岡・長野の7都道府県、ビジネス/シティ/リゾート/旅館/ホステルの5業態、計5,451施設(2026年10月3日宿泊)を集計し、掲載在庫率が業態・客室規模・エリアでどう分布するか、そして掲載在庫率の低い施設を含めると「完売」のカウントがどれだけ変わるかを実測で示す。

本記事における指標の定義

  • 掲載在庫率:チェックイン日の最大90日前から当日までの観測期間に、1つのOTAで確認できた販売可能室数の最大値を、施設の総客室数で割った比率。大人2名・1泊の検索条件を基本とし、観測点が最も多い人数条件を施設ごとに採用している。ドミトリーをベッド単位で販売する施設などでは観測在庫が客室数を上回ることがあるため、100%を上限として扱った(該当171施設、3.1%)。
  • LT(リードタイム):チェックイン日までの日数。LT0=当日。
  • 早期完売LT:残室数が初めて0室に到達したリードタイム。値が大きいほど早く残室がゼロになったことを示す。本稿では「LT7以上」「LT30以上」で残室0を観測した施設を数える。チェックイン当日に販売を閉じる施設も残室0になるため、LT0での残室0は完売として数えない。
  • 対象施設数/観測データあり/集計対象:対象施設数はエリア・業態に属し在庫観測の対象となった施設の数、観測データありは当該宿泊日について残室の観測点が1つ以上ある施設の数、集計対象はそのうち販売可能室数が1室以上観測された施設の数。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ
Key Takeaways
  • — 7都道府県×5業態・5,451施設(2026年10月3日宿泊)の掲載在庫率は中央値33.3%、四分位範囲13.3〜64.5%。30%未満の施設が46.3%を占める。
  • — 業態別の中央値はシティホテル18.7%(N=397)が最も低く、ホステル64.3%(N=783)が最も高い。ビジネスホテルは28.3%(N=2,684)。
  • — 客室規模が大きいほど比率は下がる。29室以下50.0%に対し200室以上は18.5%。一方、OTAで観測された最大販売可能室数の中央値は5室対57室と逆に開く。
  • — 掲載在庫率30%未満の施設を含めると、LT7以上前に残室0を観測した施設数は2.6〜2.8倍に膨らむ(10月3日宿泊:2,569施設対916施設)。
  • — 掲載在庫率10%未満の帯では82.0%が早期完売に見える。残室0は分母を確認して初めて需要の強さとして読める。

掲載在庫率とは何か — この数字で分かること、分からないこと

まず定義を置く。掲載在庫率は「観測期間中にOTA上で確認できた最大の販売可能室数」を分子、「施設の総客室数」を分母とする比率である。たとえば総客室数100室の施設で、観測期間中にOTA上で最大35室が販売可能と確認できれば掲載在庫率は35%になる。残室の推移(ブッキングカーブ)を読むときの分母がこの35室であり、総客室数の100室ではない点が本稿の出発点だ。

この指標には明確な限界がある。観測は1つのOTA、1つの検索条件(大人2名・1泊を基本)に対するものであり、他のOTA、公式サイトの直販、法人契約、旅行会社の団体ブロックに割り当てられた客室は見えない。したがって「掲載在庫率が低い=直販が強い」とは断定できない。掲載在庫率が低く出る背景には、少なくとも次の要因が混在する。

掲載在庫率が低く出る主な要因
掲載在庫率が低く出る要因内容
OTA別の出し分け複数のOTAに在庫を分けて配分しているため、1つのOTAから見える枠が総客室数の一部にとどまる
部屋タイプ限定販売大人2名・1泊の条件に合致する部屋タイプのみが観測対象になる。1名専用室や3名以上の客室は分子に入らない
団体・法人ブロック旅行会社の団体枠や法人契約で先に押さえられた客室は、OTAの販売可能室数に現れない
観測タイミング観測は1日1回前後で、在庫が追加された直後に売れた場合は最大値を捉えきれない。観測点の中央値は1施設・1宿泊日あたり86点
直販・自社会員向けの配分公式サイトやコールセンターに在庫を厚く配分する運用。これも要因の一つではあるが、上の要因と区別して観測することはできない

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

つまり掲載在庫率は「販売チャネル戦略の指標」ではなく、「残室データを読むときの分母の大きさ」を測る指標として使うのが正しい。この前提のうえで、分布を見ていく。

7都道府県×5業態の分布 — 中央値33%、半数近くが30%未満

2026年10月3日(土)宿泊を対象に、7都道府県×5業態で集計した。対象施設数は14,292施設、このうち当該日の残室観測があったのは5,461施設、販売可能室数が1室以上観測された集計対象は5,451施設である。集計対象5,451施設の掲載在庫率は中央値33.3%、四分位範囲は13.3〜64.5%と幅広い。掲載在庫率30%未満の施設が46.3%を占める一方、80%以上の施設も15.6%ある。「典型的な施設はOTAに客室の3分の1を出している」と読むより、「施設ごとのばらつきが非常に大きい」と読む方が実態に近い。

業態別に見ると差は明確だ。シティホテルの中央値は18.7%(N=397)と5業態で最も低く、68.5%の施設が30%未満にとどまる。宴会・法人・旅行会社など複数の販売経路を持つ業態であり、1つのOTAから見える枠が小さく出るのは構造的といえる。ビジネスホテルは中央値28.3%(N=2,684)で、30%未満が51.6%と半数を超える。リゾートホテル31.5%、旅館36.4%と続き、ホステルは中央値64.3%(N=783)と突出して高い。小規模でOTA依存度が高く、ベッド単位で在庫を出す業態の特性がそのまま表れている。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(10/3宿泊、N=5,451施設。薄い帯=10〜90パーセンタイル、濃い帯=四分位範囲、黒線=中央値)

都道府県別では、沖縄県の中央値が46.4%(N=675)と最も高く、80%以上の施設が26.1%を占める。リゾートとホステルの比重が大きく、かつ島外からの予約がOTAに集中しやすい市場構造が反映されていると考えられる。東京都30.8%、大阪府30.0%、北海道30.0%はほぼ同水準で、京都府36.6%、福岡県33.3%、長野県33.3%がその間に並ぶ。都道府県間の差は業態構成の差に大きく依存しており、同じ業態どうしで比べるとエリア差は業態差より小さい。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(10/3宿泊、N=5,451施設)

以下に都道府県×業態の35セル全てについて、中央値・四分位範囲・30%未満の施設割合と、対象施設数/観測データあり/集計対象の3つの母数を開示する。対象施設数に対して観測データありが4割前後にとどまるセルが多いが、これはそのOTAに掲載のない施設、他の人数条件のみで販売する施設、当該日を販売していない施設などを含むためで、集計対象は「当該OTAで当該日を販売していた施設」に限られる点に注意されたい。セルのNが20未満の箇所(大阪リゾート、沖縄旅館、沖縄シティなど)は参考値である。

都道府県×業態別の掲載在庫率と3つの母数(2026年10月3日宿泊)
業態都道府県中央値四分位範囲30%未満対象施設数観測データあり集計対象
ビジネスホテル東京都30.4%10.0〜64.2%49.5%1,544874872
大阪府30.3%12.5〜68.3%49.3%985467467
京都府28.2%12.1〜60.1%51.5%774296295
北海道28.1%11.1〜55.0%52.6%925398397
沖縄県33.3%15.2〜70.2%44.0%487184184
福岡県20.4%7.7〜50.5%59.7%488319318
長野県22.2%7.2〜46.0%59.6%567152151
シティホテル東京都15.6%5.0〜43.9%67.0%177103103
大阪府20.1%12.1〜31.5%72.6%1419595
京都府19.3%13.0〜35.9%67.9%945656
北海道17.9%9.2〜29.6%74.7%1107575
沖縄県20.7%10.8〜38.2%64.3%221414
福岡県18.1%8.6〜64.9%60.5%573838
長野県37.7%18.1〜65.2%50.0%401616
リゾートホテル東京都21.4%16.5〜37.0%64.3%341414
大阪府18.1%8.8〜32.8%66.7%1266
京都府63.5%24.5〜67.9%27.3%271111
北海道26.8%12.2〜46.7%52.5%239141141
沖縄県33.3%16.7〜64.0%45.8%482253251
福岡県51.4%21.4〜86.1%35.7%241414
長野県31.8%14.4〜61.2%46.8%327111111
旅館東京都26.7%10.4〜53.5%55.3%1944747
大阪府37.5%29.6〜64.6%25.8%1223131
京都府50.0%25.0〜70.0%30.5%475167167
北海道31.9%14.0〜50.0%46.9%905271271
沖縄県58.3%31.6〜74.2%18.2%841111
福岡県50.0%26.7〜76.1%29.7%1906464
長野県35.4%18.5〜58.5%42.0%1,427448448
ホステル東京都50.0%21.6〜84.3%28.1%716146146
大阪府51.9%30.2〜76.0%25.5%5045555
京都府50.0%28.8〜85.3%26.0%817131131
北海道66.7%31.8〜97.7%23.5%30210098
沖縄県75.0%41.9〜96.7%19.5%575215215
福岡県75.0%47.2〜100.0%18.8%344117117
長野県46.2%22.2〜100.0%38.1%812121

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年10月3日宿泊)

客室規模との関係 — 小規模ほど比率は高く、室数は少ない

総客室数の階級別に見ると、小規模施設ほど掲載在庫率は高く出るという事実が明確に現れる。29室以下の施設(N=1,920)は中央値50.0%で、80%以上の施設が24.8%を占める。30〜59室で31.9%、60〜99室で25.0%、100〜199室で27.9%、200室以上では18.5%(N=786)まで下がり、30%未満の施設が63.9%に達する。

ただし比率と室数は逆方向に動く。OTAで観測された最大販売可能室数そのものの中央値は、29室以下で5室、30〜59室で13室、60〜99室で20室、100〜199室で38室、200室以上で57室である。大規模施設は比率こそ低いが、OTAに出ている絶対数は小規模施設の10倍以上あり、残室の変化を日次で追うには十分な母数を持つ。逆に小規模施設は比率が高くても分母が5室前後しかなく、1室の予約で残室率が20ポイント動く。残室データの「読みやすさ」は比率と室数の両方で決まる。なお、規模帯ごとに在庫が消化される速さそのものは大箱は最後に埋まるのか — 客室規模別に見る在庫消化スピードの差で同一LT断面から検証しており、本稿の比率の議論と併せて読むと規模の効果を両面から把握できる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(10/3宿泊、N=5,451施設)

総客室数の階級別に見た掲載在庫率(2026年10月3日宿泊、N=5,451施設)
総客室数の階級N掲載在庫率 中央値四分位範囲30%未満最大観測室数 中央値同 四分位範囲
〜29室1,92050.0%23.9〜78.9%31.3%5室3〜10室
30〜59室86431.9%11.9〜60.0%48.0%13室5〜25室
60〜99室69725.0%10.0〜51.6%54.9%20室8〜41室
100〜199室1,18427.9%11.9〜59.5%52.5%38室16〜81室
200室〜78618.5%8.3〜46.6%63.9%57室24〜124室

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年10月3日宿泊)

この規模効果は業態の内側でも成立する。ビジネスホテルに限っても29室以下の中央値は40.0%、200室以上は22.2%であり、リゾートホテルでも50.0%対16.0%と同じ方向に開く。業態差の一部は規模差で説明できるが、シティホテルは100〜199室でも20.2%、200室以上で15.5%と、同規模のビジネスホテル(29.1%・22.2%)より一段低い。規模を揃えてもなお残る差が、業態固有の販売経路構成だと解釈できる。

完売シグナルへの影響 — 30%未満を含めると「完売」が2.8倍に膨らむ

掲載在庫率が低い施設は、少ない枠がすぐに埋まるため「早期に残室0」として観測されやすい。これが残室データから完売を読むときの最大の落とし穴である。実際にどれだけ差が出るかを、同一宿泊日について「集計対象の全施設」と「掲載在庫率30%以上の施設」に分けて、LT7以上前に残室0を観測した施設数(以下、早期完売施設数)で比べた。

10月3日(土)宿泊では、全施設5,451のうち早期完売は2,569施設(47.1%)だが、掲載在庫率30%以上の2,928施設に絞ると916施設(31.3%)になる。施設数で2.8倍、比率で15.8ポイントの差である。LT30以上という厳しい条件では1,784施設対480施設と、差はさらに3.7倍に開く。敬老の日の連休初日にあたる9月19日(土)宿泊でも全施設3,365対30%以上1,277、お盆の8月14日(金)宿泊でも2,158対834と、日程を変えても倍率は2.6〜2.8倍で安定している。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(3宿泊日、7都道府県×5業態)

宿泊日別の早期完売施設数 — 全施設と掲載在庫率30%以上の比較
宿泊日全施設 NLT7以上で残室0LT30以上で残室0掲載在庫率30%以上 NLT7以上で残室0LT30以上で残室0
8/14(金)お盆5,4872,158(39.3%)1,233(22.5%)3,144834(26.5%)401(12.8%)
9/19(土)連休初日5,4823,365(61.4%)2,347(42.8%)2,7331,277(46.7%)603(22.1%)
10/3(土)5,4512,569(47.1%)1,784(32.7%)2,928916(31.3%)480(16.4%)

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(集計対象施設ベース。括弧内はNに対する割合)

掲載在庫率の帯別に早期完売の割合を見ると、仕組みがより鮮明になる。掲載在庫率10%未満の施設では82.0%がLT7以上前に残室0を観測し、残室0に初めて到達したLTの中央値は67日前にのぼる。1〜2室しか出していない枠が観測開始直後に埋まり、以後ずっと「残室0」と記録される形だ。10〜29%の帯でも53.9%が早期完売に見える。これに対し30〜49%で40.7%、50〜79%で29.8%、80%以上では23.4%まで下がり、残室0に到達したLTの中央値は1日前になる。同じ「残室0」でも、掲載在庫率が低い施設のそれは需要の強さを示すとは限らない。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(10/3宿泊、N=5,451施設)

掲載在庫率の帯別に見た早期完売の割合(2026年10月3日宿泊、N=5,451施設)
掲載在庫率の帯NLT7以上で残室0LT30以上で残室0残室0到達LTの中央値残室0の観測日数 平均
10%未満1,04182.0%72.6%LT6742.0日
10〜29%1,48253.9%37.0%LT1416.8日
30〜49%90040.7%25.0%LT110.8日
50〜79%1,17729.8%14.4%LT17.3日
80%以上85123.4%10.1%LT16.0日

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年10月3日宿泊。残室0到達LTの中央値は残室0を1回以上観測した施設のみ)

ホテルバンクの残室・完売記事で「掲載在庫率30%以上の施設のみを集計対象とする」基準を標準にしているのは、この実測が理由である。30%未満を含めると、早期完売の半分以上が「枠が小さいために早く埋まった」施設で構成され、エリアの需要の強さを過大に読むことになる。30%という閾値は、帯別の早期完売率が10%未満の帯(82.0%)から10〜29%(53.9%)、30〜49%(40.7%)へと段階的に下がる形状のうち、残室0到達LTの中央値が「数週間前」から「直前」へ切り替わる位置に置いたものだ。逆にいえば、30%以上に絞っても早期完売の31%前後は残り、需要の強い施設の抽出はできる。

都道府県別に見ても倍率は似た範囲に収まる。10月3日宿泊の早期完売施設数は、東京都で全施設646に対し30%以上191(3.4倍)、長野県で439対184(2.4倍)、沖縄県で272対119(2.3倍)である。掲載在庫率の高い沖縄で倍率が小さく、シティホテル比率の高い東京で大きい、という分布の違いがそのまま倍率に出ている。

都道府県別の早期完売施設数 — 全施設と掲載在庫率30%以上の比較(2026年10月3日宿泊)
都道府県全施設 NLT7以上で残室030%以上 NLT7以上で残室0倍率
東京都1,1826466051913.4倍
大阪府654210329633.3倍
京都府6602563821082.4倍
北海道9824414931423.1倍
沖縄県6752724261192.3倍
福岡県5513052921092.8倍
長野県7474394011842.4倍

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年10月3日宿泊)

観測日による変動 — 同じ施設でも日程で10ポイント動く

掲載在庫率は施設の固定属性ではなく、宿泊日ごとに観測される値である。8月14日宿泊と10月3日宿泊の両方で観測できた5,386施設について差を取ると、絶対差の中央値は10.0ポイントで、差が5ポイント以内に収まる施設は35.7%、10ポイント以内は50.8%だった。一方で「30%以上か未満か」という区分は78.1%の施設で一致しており、閾値による母集団設計は日程を変えても概ね同じ施設群を指す。

この変動には、繁忙日ほど団体ブロックや直販への配分が厚くなりOTA枠が絞られる動き、逆に直前に在庫が戻されて最大観測値が上がる動きの両方が含まれる。したがって自館の掲載在庫率を把握する際は、1つの宿泊日ではなく平日・週末・繁忙日の複数日程で確認するのが実務的である。

実務示唆 — 自館の掲載在庫率を把握し、出し分けを設計する

ここまでの集計は市場側の母集団設計の話だが、同じ指標は施設側から見れば「自館がOTAにどう映っているか」の確認手段になる。手順は単純で、第一に、自館の総客室数のうち大人2名・1泊の条件で販売している部屋タイプの室数を数える。第二に、OTAの管理画面で各部屋タイプの販売可能室数(アロットメントまたは共通在庫の残数)を日程別に確認する。第三に、宿泊者と同じ条件でOTAの検索画面を見て、表示される残室数が管理画面と整合しているかを確かめる。この3つを平日・週末・繁忙日で記録すれば、自館の掲載在庫率と、エリア・業態の中央値(本稿の表)との位置関係が分かる。

そのうえでOTA出し分けを設計するときの論点を3つ整理する。第一にレートパリティ。公正取引委員会は2022年3月に宿泊予約サイト運営事業者の確約計画を認定し、他の販売経路と同等以下の料金・条件を求める行為の取りやめを確認している。価格面の制約が緩んだ分、在庫の配分(どのチャネルに何室を出すか)が差別化の主軸に移っており、掲載在庫率はその設計結果を測る物差しになる。配分の違いが販売開始日に「出せる室数」をどう左右するかは、九州ふっこう応援割 佐賀は予約サイト9/24・旅行会社10/2 — 8日差を九州1,919施設の在庫配分率で読むが九州1,919施設の実例で示している。第二に直販の獲得コスト。独立系ホテルを対象とした海外の2026年調査では予約の63.4%がOTA経由で、OTA経由のキャンセル率21.8%に対し直販は10.6%と報告されている。直販は手数料がかからない代わりに広告・会員施策・予約エンジンの費用がかかるため、OTAに出す枠を減らすほど収益が上がるとは限らない。掲載在庫率は「低いほど良い」指標ではなく、チャネル別の獲得コストとキャンセル率を踏まえて決める配分の結果として読むのが適切だ。第三に繁忙日の在庫戻し。団体や法人の仮押さえが解放された在庫をいつOTAに戻すかで、直前期の販売機会が変わる。本稿の帯別集計が示すとおり、掲載在庫率の低い施設はLTの早い段階で「残室0」として市場に映るため、戻しが遅いほど宿泊者の検索結果から外れている時間が長くなる。戻しのタイミングを日程別に決めておくことは、価格設定と同程度に収益へ効く余地がある。

残室データを読む側にとっての示唆は一つに集約される。残室0という観測は、分母を確認して初めて意味を持つ。エリアの完売状況を論じるときは掲載在庫率30%以上の施設に絞り、個別施設の完売を語るときは早期完売LTとともに総客室数と最大観測室数を併記する。ホテルバンクの残室記事がこの形式をとっている理由を、本稿の実測が裏付けている。実際に30%以上の施設に絞って予約進捗を読んだ例としては、紅葉3連休11/21〜23の予約進捗、大分の旅館は残室10.9%・広島市52.2%が同じ基準で3県の残室率を比較している。

集計方法

対象は東京都・大阪府・京都府・北海道・沖縄県・福岡県・長野県の7都道府県と、ビジネスホテル・シティホテル・リゾートホテル・旅館・ホステルの5業態で、メトロエンジンリサーチが追跡する施設のうち稼働が確認できる約27,000施設の一部にあたる。宿泊日は2026年8月14日(金)、9月19日(土)、10月3日(土)の3日程で、いずれも集計時点で宿泊日を過ぎており、残室の推移が確定している。分布・規模・帯別の集計は10月3日宿泊を用い、完売シグナルの比較は3日程を併記した。観測はチェックイン日の最大90日前から当日までで、1施設・1宿泊日あたりの観測点は中央値86点である。都道府県×業態の各セルは市区町村単位で分割して全施設を取得し、集計対象の施設数が各セルの母数と一致することを確認した。四分位は線形補間によるパーセンタイルで算出している。

まとめ

7都道府県×5業態・5,451施設の掲載在庫率は中央値33.3%、四分位範囲13.3〜64.5%で、施設間のばらつきが大きい。業態ではシティホテル18.7%からホステル64.3%まで開き、客室規模では29室以下の50.0%から200室以上の18.5%へと、規模が大きいほど比率は下がる一方で絶対室数は増える。掲載在庫率30%未満の施設を含めると、LT7以上前に残室0を観測した「早期完売」施設数は2.6〜2.8倍に膨らみ、10%未満の帯では82.0%が早期完売に見える。残室データから需要を読むときは分母を確認すること、施設側は自館の掲載在庫率を複数日程で把握し、チャネル別コストと在庫戻しのタイミングを含めて配分を設計すること。この2点が本稿の結論である。

よくある質問

Q. 掲載在庫率が低い施設は直販が強いということですか。

A. 断定できません。1つのOTA・1つの検索条件で見える枠が小さいという事実までしか分からず、他のOTAへの配分、部屋タイプ限定の販売、団体・法人ブロック、観測タイミングのいずれも同じ結果を生みます。直販への配分はその要因の一つにすぎません。

Q. 残室記事で掲載在庫率30%以上に絞るのはなぜですか。

A. 30%未満の施設を含めると、LT7以上前に残室0を観測した施設数が2.6〜2.8倍に増え、その多くは枠が小さいために早く埋まった施設です。10%未満の帯では82.0%が早期完売に見える一方、80%以上の帯では23.4%にとどまります。需要の強さを過大に読まないための母集団設計です。

Q. 自館の掲載在庫率はどう確認すればよいですか。

A. 大人2名・1泊で販売している部屋タイプの室数を数え、OTA管理画面の販売可能室数と、宿泊者と同じ条件で見た検索画面の残室表示を日程別に照合します。平日・週末・繁忙日の複数日程で記録し、本稿の業態・規模別の中央値と比べると位置関係が分かります。

あわせて読みたい

参考資料・出典一覧

■ データソース

メトロエンジンリサーチが継続観測している施設別の残室データ。東京都・大阪府・京都府・北海道・沖縄県・福岡県・長野県の7都道府県、ビジネスホテル・シティホテル・リゾートホテル・旅館・ホステルの5業態を対象に、2026年8月14日・9月19日・10月3日宿泊の3日程を集計した(10月3日宿泊:対象施設数14,292、観測データあり5,461、集計対象5,451施設)。

■ 試算前提

掲載在庫率=観測期間(チェックイン日の最大90日前〜当日)に1つのOTAで確認できた販売可能室数の最大値÷総客室数。大人2名・1泊の検索条件を基本とし、100%を上限として扱った。早期完売はLT7以上(またはLT30以上)で残室0を観測した施設とし、LT0での残室0は数えない。四分位は線形補間によるパーセンタイル。

■ 限界・留意点

観測は1つのOTA・1つの検索条件に限られ、他のOTA、公式サイトの直販、法人契約、団体ブロックに割り当てられた客室は含まない。掲載在庫率は宿泊日ごとに変動する値で、施設の固定属性ではない。Nが20未満のセルは参考値。海外調査の数値は独立系ホテルを対象とした報告値であり、国内市場にそのまま当てはまるものではない。

関連記事