仙台三越の南側、東二番丁通に面したSS.仙台ビル(旧小田急仙台ビル)の跡地で、地上14階・客室200室のホテル計画が動き出している。仙台市の都市計画審議会は2025年11月17日、この敷地に宿泊施設向けの容積率緩和を初めて適用し、上限を600%から850%へ引き上げる都市計画の変更を承認した。日本経済新聞やkhb東日本放送によれば、運営は西武・プリンスホテルズワールドワイドで、建物は2029年2月の完成を見込む。本稿では、仙台駅前ではなく一番町・勾当台側に入るこの200室を、計画地1km圏の客室ストックと就業人口、青葉区の推定成約ADRに照らし、事業が成り立つ単価の水準を逆算する。
本記事における指標の定義
- ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
- OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。
- 掲載価格:2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均。ADRとは別の指標として区別して表記します。
- 計画地1km圏:仙台市青葉区一番町四丁目7番(北緯38.2650度・東経140.8719度)から半径1km。客室ストックは、2026年7〜9月に販売価格を観測できた施設(レジャーホテルを除く)の客室数合計です。
- データ出典:メトロエンジンリサーチ(数値は2026年10月4日の調査時点)
- — 計画は敷地約1,800㎡に延べ約1万6,600㎡・200室。1室あたりの延べ床は約83㎡で、客室を30㎡以上とし、200人収容のホールやレストランを併せ持つ構成である。
- — 計画地1km圏の客室ストックは53施設・7,435室で、200室の上乗せは+2.7%にとどまる。現存ストックの24%にあたる13施設・1,790室は2017年以降の開業である。
- — 青葉区の推定成約ADR(2025年9月〜2026年8月の平均)は全業態約9,700円、シティ約1万3,300円。2km圏で最も高い5施設の平均でも約1万8,700円で、2万円を超える層は検証対象の業態に見当たらない。
- — 計画地1km圏には事業所1万1,291・従業者15万4,377人(2021年)が集まり、青葉区の稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)は2026年7〜9月に90〜93%で推移した。数量は埋まっており、伸びしろは単価の側に残る。
- — 簡易試算では、期待利回り5.3%に届く客室単価は建物投資のみを分母にして約2.4万〜2.6万円、参考地価で土地を加えると約3.4万〜3.6万円となる。既存の上位帯の1.3〜1.9倍にあたる空白の価格帯を取りにいく計画と読める。
計画概要 — 14階・200室を「所有と運営の分離」で建てる
まずは計画の輪郭を、仙台市都市計画審議会(第222回・2025年11月17日)の議案書と議事録で確認しておきたい。対象は「一番町四丁目七番地区」と名付けられた約0.3haの区域で、地下鉄南北線 勾当台公園駅の南西、東二番丁通沿いに位置する。現況は築約50年のSS.仙台ビルで、提案者は大和ハウス工業北日本支社である。同社は土地所有者の承諾を得たうえで、約1,800㎡の敷地に宿泊施設と関連施設を計画した。日本経済新聞は、同社が土地と建物を取得する契約を結び、完成後は西武・プリンスホテルズワールドワイドがプリンスホテルを運営すると報じている。
建物は地上14階・地下1階、高さ約60m、延べ床面積は約1万6,600㎡(報道では約1万7,000㎡)とされる。3階にフロントとロビーを置き、4階から13階の10フロアに客室200室を収めるため、1フロアあたり20室の計算になる。客室はおおむね30㎡以上で、報道によれば高層階にはスイートルームも設ける。2階には200人を収容できる多目的ホールが入り、レストランやラウンジ、北東方向を望むテラスも計画に含まれている。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 仙台市青葉区一番町四丁目(仙台三越の南側・東二番丁通沿い)/地下鉄南北線 勾当台公園駅の南西 |
| 現況 | SS.仙台ビル(旧小田急仙台ビル・築約50年) |
| 事業者・運営 | 提案者 大和ハウス工業 北日本支社/運営 西武・プリンスホテルズワールドワイド(報道) |
| 規模 | 地上14階・地下1階、高さ約60m、敷地約1,800㎡、延べ床約1万6,600㎡(報道では約1万7,000㎡) |
| 客室 | 200室(4〜13階、おおむね30㎡以上、高層階にスイート) |
| 付帯機能 | 2階に200人収容の多目的ホール、3階にフロント・ロビー、レストラン、ラウンジ、テラス |
| 工程 | 2026年1月 既存建物の解体着手、2027年1月 新築着工、2029年2月 完成見込み(開業時期は調査時点で公表を確認できていない) |
| 都市計画 | 高度利用地区を新設。容積率の上限850%・下限300%、建蔽率の上限60%、壁面後退は東二番丁通側4m・南北2m |
床の使い方にも、この計画の性格が表れている。延べ1万6,600㎡を200室で割ると1室あたり約83㎡となり、客室を13〜18㎡に絞って延べ床を1室25〜30㎡程度に収める宿泊特化型とは原単位がまったく違う。仮に全室が下限の30㎡だとしても客室部分は6,000㎡で、延べ床の36%にすぎない。残りはホール、ロビー、レストラン、駐車場、そして30㎡を上回る客室の広さに充てられることになる。面積あたりの客室数を追うのではなく、1室の単価と宿泊以外の売上で回収する設計といえる。
容積率緩和 — 宿泊機能で+100%、空地で+150%を積み上げた
敷地の指定容積率は600%で、今回の上乗せは250%である。市は2017年3月に定めた「宿泊施設の整備に着目した容積率緩和制度」の運用方針に沿って、客室の広さ、コンベンション機能、周辺交通への配慮、サービス機能の4項目を評価した。議事録によると、宿泊施設の整備で100%以上、歩道状空地と広場状空地の確保で150%以上の緩和が可能と判断され、合わせて250%となった。敷地約1,800㎡に当てはめると、容積対象の床は上限1万800㎡から1万5,300㎡へ約4,500㎡増える。条件として、建築確認の前に客室・ホール・車寄せ・サービス機能の適合を市が確認する注記も都市計画に書き込まれた。制度そのものの条件比較はホテルの容積率緩和を国・東京・大阪・仙台で比べた記事に譲り、以下では市場側の数値を見ていく。
立地評価 — 東二番丁通沿いの商業地域、至近の標準地は1㎡303万円
計画地は仙台駅から北西へ約1.1km、市役所本庁舎と定禅寺通、一番町四丁目商店街のアーケードに囲まれた都心の商業地にある。国土交通省の不動産情報ライブラリで計画地の規制を確認すると、用途地域は商業地域、指定容積率600%・建蔽率80%、防火地域に指定されている。地形分類は砂礫質台地で液状化の発生傾向は低い区分に入り、洪水浸水想定区域のデータは計画地を含む区画に該当がなかった。災害面のリスクは限定的と整理できる。
| 用途地域 | 商業地域 |
| 指定容積率/建蔽率 | 600%/80% |
| 高度利用地区の上限 | 850%/60% |
| 防火指定 | 防火地域 |
| 液状化の発生傾向 | 低い(砂礫質台地) |
地価の水準も確かめておく。計画地から直線で約70mの標準地「仙台青葉5-8」(本町2丁目、商業地域・容積率600%)は、2026年1月1日時点の地価公示で1㎡あたり303万円(前年比+5.2%)だった。2021年の241万円から5年で25.7%上がっており、同じ地点の都道府県地価調査(2026年7月1日時点)でも307万円(同+4.1%)と上昇が続く。一方、アーケード側の基準地(一番町4丁目)は193万円(同+2.7%)で、大通りに面するかどうかで約1.6倍の開きがある。東二番丁通の間口を持つ約1,800㎡というまとまった敷地は、都心でも出物が限られる。
交通の面では、最寄りの勾当台公園駅の乗降客数が2023年に1日あたり3万2,856人まで戻り、2019年の3万3,926人の96.8%に達している。仙台駅までは地下鉄で2駅、徒歩でもアーケードを抜けて20分弱の距離で、新幹線の利用者にも届く位置といえる。
1km圏の客室ストック — 53施設・7,435室、4分の1が2017年以降の開業
それでは、200室が加わる市場はどの程度の厚みを持つのか。メトロエンジンリサーチが把握する範囲で、2026年7〜9月に販売価格を観測できた施設(レジャーホテルを除く)を数えると、計画地から半径0.5km圏は23施設・3,184室、1km圏は53施設・7,435室、仙台駅の東西を含む2km圏は85施設・1万3,002室となった。200室の上乗せは0.5km圏では+6.3%だが、1km圏では+2.7%、2km圏では+1.5%にとどまる。
1km圏の内訳を見ると、ビジネスホテルが47施設・6,573室と客室の88%を占め、シティホテルは4施設・709室である。開業時期では、2000年代までに開業した施設が35施設・5,212室と全体の7割を占める一方、2017年以降に開業した施設は13施設・1,790室で、現存ストックの24.1%にあたる。とりわけ2020〜2023年の4年間に10施設・1,454室が集中しており、一番町・国分町側でも宿泊主体型の新築が相次いだことがわかる。ただし、この時期の開業は100〜200室前後の宿泊主体型が中心であり、200人収容のホールを併設する今回の計画とは性格が異なる。
需要の厚み — 1km圏に従業者15.4万人、居住人口は2040年まで横ばい
需要の土台となる昼間の人の集積はどうか。経済センサス(2021年)を計画地からの半径で集計すると、1km圏には事業所1万1,291、従業者15万4,377人が集まり、オフィス系の業種が26.4%を占める。県庁・市役所と金融機関、支店・営業所が重なる一帯で、平日の出張と会議の需要を生む構造である。客室ストックに対しては、従業者1,000人あたり約48室という計算になる。
| 半径 | 施設数 | 客室数 | 200室の比率 | 従業者数 | 事業所数 | 居住人口(2025年) | 2040年(2020年比) |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.5km | 23 | 3,184 | +6.3% | 40,414 | 3,553 | 2,367 | 0.0% |
| 1km | 53 | 7,435 | +2.7% | 154,377 | 11,291 | 29,927 | +0.9% |
| 1.5km | 77 | 12,226 | +1.6% | 197,367 | 13,926 | 71,555 | +2.3% |
居住人口は1km圏で2万9,927人(2025年推計)と、従業者の5分の1ほどにすぎない。つまりこの一帯は住む街ではなく働く街であり、宿泊需要は外から来る人が担う。将来推計では2040年の居住人口が2020年比+0.9%とほぼ横ばいで、1.5km圏では+2.3%と増える見通しになっている。なお、ここでの人口は国勢調査を基にした居住人口であり、来街者や通過する人の数ではない点に留意したい。
単価の現在地 — 青葉区は全業態約9,700円、シティ約1万3,300円
次に、この市場で実際に取れている単価を確認する。青葉区の推定成約ADRは、2025年9月〜2026年8月の12か月平均で全業態約9,700円(N=68〜74)だった。月別では8月が約1万2,400円と最も高く、前年同月の約1万1,900円を4.3%上回った。七夕まつりと夏休みが重なる8月に山ができる形は3年続けて変わっていない。
業態別に分けると、ビジネスホテルが12か月平均で約9,300円(N=55〜56)なのに対し、シティホテルは約1万3,300円(N=8〜9)と1.44倍の水準にある。シティホテルは対象が8〜9施設と少なく月ごとの振れが大きいため、年間の平均で見るのが適切だろう。8月はシティホテルが約1万6,100円、ビジネスホテルが約1万2,200円で、繁忙月でも2万円には届いていない。
稼働の面では、青葉区の稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定)が2026年7月90.1%、8月92.8%、9月92.1%だった(対象36施設/客室5,518〜5,522室、主要予約サイト掲載ベース)。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なるが、夏から秋にかけて掲載在庫の9割前後が消化される市場であることは読み取れる。数量は埋まっており、伸びしろは単価の側に残っているといえる。
ポジショニング — 2km圏80施設に2万円超の層は見当たらない
ここまでの水準を、施設単位の分布に落としてみる。計画地2km圏で推定成約ADRを算出できた80施設(ビジネス67・シティ10・旅館2・カプセル1)を、客室数と12か月平均の推定成約ADRで並べたのが下の図である。中央値は約9,500円で、1万5,000円以上は11施設、1万8,000円以上は仙台駅周辺の4施設に限られ、2万円を超える施設はなかった。1km圏に絞ると52施設の中央値は約9,400円、最高でも約1万7,600円である。
密集1万円前後 × 70〜250室
ビジネスホテルが厚く並ぶ帯。1km圏のビジネスホテル47施設・6,573室の大半がここに入り、2020年以降の新築も多くがこの帯に加わった。
上位帯1.5万〜2万円 × 主に120〜300室
2km圏で11施設。仙台駅前のシティホテルと、温浴や広めの客室を持つ宿泊主体型が中心。上位5施設の平均は約1万8,700円。
空白2.4万円超 × 200室級
検証対象の業態では該当なし。1km圏のすぐ外側にデラックス級が1施設(292室)あり、掲載価格(全プラン平均・税込)は6万円台。その手前の価格帯が空いている。
上位帯のさらに上には、1km圏のすぐ外側にデラックス級のホテルが1施設(292室)ある。この業態は推定成約ADRの検証対象外のため掲載価格で見ると、全プラン平均・税込で6万円台と、シティホテルの掲載価格(青葉区の12か月平均で約2万5,400円)の2.5倍にあたる。成約ベースで2万円前後の上位帯と、このデラックス級との間に、200室規模の施設が入る余地が残っている。仙台駅前の価格帯別の構造は仙台駅周辺の供給パイプラインを扱った記事でも整理しており、今回の計画はその空白を駅前ではなく一番町側から埋めにいく位置づけになる。
開発シナリオ試算 — 期待利回りに届く単価は2.4万〜3.6万円
では、この計画はどの単価で成り立つのか。公表されていない事業費を、公的統計を手がかりに2段階で置いてみる。国土交通省の建築着工統計によると、宿泊業用建築物の工事費予定額は2024年の全国平均で1㎡あたり59.1万円(坪195.5万円)で、2022年の41.9万円から2年で41%上がった。この平均には低層や木造の建物が含まれるため、14階建てでホールを併設する本計画では3割強を上乗せし、坪260万円(1㎡あたり約78.7万円)を第1段階の前提とした。延べ1万6,600㎡に掛けると建築費は約131億円になる。
第2段階では、着工予定の2027年1月から完成見込みの2029年2月までの中間にあたる2028年初めまで、年5%の上昇を2年分織り込む。2019年から2024年の統計上の上昇率は年平均約10%だったので、5%は抑えた前提である。この場合の建築費は約144億円(坪約287万円)となる。土地は取引価格が公表されていないため、至近の標準地の地価公示303万円に敷地約1,800㎡を掛けた約55億円を参考値として置いた。建築費の上昇は事業費を押し上げる一方で、後に続く新規供給を抑える方向にも働くため、先に着工する計画にとっては競合環境の面でアップサイドにもなりうる。
| 項目 | 第1段階(現在の水準) | 第2段階(建設期間の上昇を織り込み) |
|---|---|---|
| 建築単価の前提 | 坪260万円(78.7万円/㎡) | 坪約287万円(86.7万円/㎡) |
| 建築費 | 約131億円 | 約144億円 |
| 土地(参考値・地価公示×敷地面積) | 約55億円 | 約55億円 |
| 事業費の合計 | 約185億円 | 約198億円 |
| 1室あたり(建築費のみ) | 約6,500万円 | 約7,200万円 |
| 1室あたり(土地込み) | 約9,300万円 | 約9,900万円 |
収入側は、稼働率80%(通年の想定)、客室売上が総売上の70%(ホール・料飲などが30%)、GOP率35%を前提に置いた。GOP率は、インヴィンシブル投資法人が開示する主要運営会社91物件の実績38.9%(2024年12月期)を参考に、料飲と宴会を持つ施設であることを踏まえてやや低く設定している。比較の物差しには、日本不動産研究所「第54回 不動産投資家調査」(2026年4月時点)が示す仙台の宿泊特化型ホテルの期待利回り5.3%を用いた。同調査の利回りは純収益ベースであり、ここでのGOPは固定資産税や運営委託料などを差し引く前の数値であるため、試算の利回りは上限寄りの目安として読んでほしい。
| 項目 | A. 既存上位帯並み | B. 上位帯の1.4倍 | C. 上位帯の1.7倍 利回り5%水準 |
|---|---|---|---|
| ADR想定 | ¥20,000 | ¥26,000 | ¥32,000 |
| RevPAR | ¥16,000 | ¥20,800 | ¥25,600 |
| 客室売上(年) | 11.7億円 | 15.2億円 | 18.7億円 |
| 総売上(年) | 16.7億円 | 21.7億円 | 26.7億円 |
| GOP(年) | 5.8億円 | 7.6億円 | 9.3億円 |
| GOP÷建築費(第1段階) | 4.5% | 5.8% | 7.2% |
| GOP÷事業費(第1段階・土地込み) | 3.2% | 4.1% | 5.0% |
| GOP÷建築費(第2段階) | 4.1% | 5.3% | 6.5% |
| GOP÷事業費(第2段階・土地込み) | 2.9% | 3.8% | 4.7% |
この前提で5.3%に届く単価を逆算すると、建築費のみを分母にした場合は第1段階で約2万3,700円、第2段階で約2万6,100円となる。参考地価で土地を加えると、それぞれ約3万3,600円、約3万6,000円まで上がる。2km圏の上位5施設の平均(約1万8,700円)に対して、建物ベースで1.3〜1.4倍、土地込みで1.8〜1.9倍の水準である。裏を返せば、既存の上位帯と同じ単価では回収に時間がかかり、30㎡超の客室、スイート、ホールと料飲を束ねて一段上の単価を取りにいくことが、この計画の前提になっていると読める。土地と建物を大和ハウス工業が持ち、運営をホテル会社が担う分離の構造も、長い回収期間を所有側が引き受ける形として理にかなう。
| 項目 | ベースケース | ADR −10% | 稼働率 −5pt | 両方 |
|---|---|---|---|---|
| 総売上(年) | 26.7億円 | 24.0億円 | 25.0億円 | 22.5億円 |
| GOP(年) | 9.3億円 | 8.4億円 | 8.8億円 | 7.9億円 |
| GOP÷事業費(第1段階・土地込み) | 5.0% | 4.5% | 4.7% | 4.3% |
| GOP÷事業費(第2段階・土地込み) | 4.7% | 4.2% | 4.4% | 4.0% |
単価と稼働を同時に動かした場合も見ておく。下の表は、最も保守的な分母である第2段階・土地込みの事業費(約198億円)に対するGOPの比率を、ADR5段階と通年の稼働5段階で並べたものである。25通りのうち期待利回り5.3%に届くのは、ADR ¥36,000で稼働80%以上、またはADR ¥32,000で稼働90%の4通りに限られる。シナリオCの水準(ADR ¥32,000・稼働80%)では、稼働を5pt積み増す効果はADRを2,000円引き上げる効果と等しく、青葉区の掲載在庫がすでに9割前後まで消化されていることを踏まえると、採算を左右するのは稼働の上積みよりも単価の到達水準だといえる。
| ADR想定\通年の稼働 | 70% | 75% | 80% | 85% | 90% |
|---|---|---|---|---|---|
| ¥20,000 | 2.6% | 2.8% | 2.9% | 3.1% | 3.3% |
| ¥24,000 | 3.1% | 3.3% | 3.5% | 3.8% | 4.0% |
| ¥28,000 | 3.6% | 3.9% | 4.1% | 4.4% | 4.6% |
| ¥32,000 | 4.1% | 4.4% | 4.7% | 5.0% | 5.3% |
| ¥36,000 | 4.6% | 5.0% | 5.3% | 5.6% | 6.0% |
投資家・金融機関への示唆 — 見るべきは単価の階段と宿泊以外の売上
ここまでを整理すると、この計画は数量ではなく価格帯で市場に入る案件である。1km圏への上乗せは+2.7%と小さく、既存のビジネスホテル帯と正面から客室を取り合う構図にはなりにくい。むしろ、成約ベースで2万円前後に上限がある現在の市場に、一段上の単価の階段を新しくつくれるかどうかが焦点となる。融資や出資を検討する立場では、次の4点を確かめておきたい。
| 確認したい点 | 本稿のデータから言えること | 次に見る資料 |
|---|---|---|
| 単価の到達可能性 | 2km圏の最高は約1万9,700円。必要単価は建物ベースで約2.4万〜2.6万円 | 他都市で同ブランドが取っている単価と客室面積、開業後の料金体系 |
| 宿泊以外の売上 | 200人収容のホールとレストランを併設。延べ床の6割超が客室の下限面積以外に充てられる | 会議・宴会の年間件数の見込み、仙台国際センターなど大型会場との役割分担 |
| 事業費の変動 | 建築費は年5%の上昇で約13億円増える試算。完成見込みは2029年2月 | 工事請負契約の時期と価格の固定方法、解体の進み具合 |
| 周辺の追随供給 | 2020〜23年に1km圏で10施設・1,454室が開業。宿泊主体型が中心だった | 都心の容積率緩和を使う後続計画の有無、建築確認の動向 |
需要面の追い風としては、従業者15.4万人という平日の業務需要に加え、市が容積率緩和の目的に掲げる国際会議の参加者の受け皿という位置づけがある。宮城県は欧米豪からの宿泊が単価の上昇に結びついた県の一つでもあり、その動きは欧米豪の宿泊が伸びた県を比べた記事で確認できる。利回りの物差しについては8都市のホテル期待利回りを整理した記事も参考になるだろう。東北で用地を探す投資家にとっては、駅前の一等地でなくとも、大通りに面した1,800㎡級の敷地と容積率緩和を組み合わせれば上位価格帯の計画が組めるという前例ができた点に、この案件の意味がある。
よくある質問
Q. 仙台・一番町のプリンスホテルはいつ完成しますか。
A. 報道によると、2026年1月に既存建物の解体、2027年1月に着工し、建物は2029年2月の完成を見込んでいます。開業時期は2026年10月4日の調査時点で公表を確認できていません。
Q. 客室数と建物の規模を教えてください。
A. 仙台市都市計画審議会の資料では、地上14階・地下1階、延べ床面積約1万6,600㎡、客室は200室(おおむね30㎡以上)です。2階に200人を収容できる多目的ホール、3階にフロントとロビーが入ります。
Q. 容積率はどのように緩和されましたか。
A. 指定容積率600%の敷地に、仙台市の「宿泊施設の整備に着目した容積率緩和制度」を初めて適用し、高度利用地区として上限を850%としました。宿泊機能で100%以上、空地の確保で150%以上が評価されています。
Q. 周辺のホテル市場の規模はどのくらいですか。
A. メトロエンジンリサーチの集計では、計画地1km圏の客室ストックは53施設・7,435室で、200室は+2.7%にあたります。青葉区の推定成約ADRは12か月平均で全業態約9,700円、シティホテル約1万3,300円です。
まとめ
一番町四丁目のホテル計画は、容積率850%という制度面の新しさに目が向きがちだが、市場側から見ると「53施設・7,435室の1km圏に、既存の上位帯より一段高い単価の200室を入れる」計画である。青葉区の推定成約ADRは全業態で約9,700円、シティホテルで約1万3,300円、2km圏の最高でも約1万9,700円にとどまり、その上のデラックス級との間に価格帯の空白がある。簡易試算では、期待利回り5.3%に届く単価は建物ベースで約2.4万〜2.6万円、参考地価で土地を加えると約3.4万〜3.6万円となった。
完成見込みの2029年2月までには、建築費の動きと仙台の単価水準の両方が変わりうる。着工が予定される2027年1月の前後に、工事費の確定と料金の方向性が見えてくるはずで、その時点で改めて市場データと突き合わせたい。なお、本稿の試算は公表資料と統計を基にした簡易なもので、土地の取引価格や賃料条件など非公表の要素は含んでいない。
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参考資料・出典一覧
■ データソース
メトロエンジンリサーチ&コンサルティングの集計データ(OTA掲載価格と販売在庫に基づく推定成約ADR・稼働率)。客室ストックは計画地から半径0.5km・1km・1.5km・2kmの範囲で、2026年7〜9月に販売価格を観測できた施設(レジャーホテルを除く)を集計した(1km圏 N=53施設・7,435室)。推定成約ADRは青葉区(全業態 N=68〜74、シティ N=8〜9、ビジネス N=55〜56)と2km圏80施設の2025年9月〜2026年8月平均、稼働率は青葉区36施設の2026年7〜9月。就業は経済センサス-活動調査(2021年)、居住人口は国土数値情報の250mメッシュ別将来推計人口、地価と建築規制は不動産情報ライブラリ、計画概要は仙台市都市計画審議会の議案・議事録と報道による。
■ 試算前提
延べ床約1万6,600㎡・200室。建築単価は、建築着工統計(宿泊業用・2024年全国平均59.1万円/㎡)に3割強を上乗せした坪260万円を第1段階、年5%の上昇を2年分織り込んだ坪約287万円を第2段階とした。土地は至近の標準地の地価公示303万円/㎡に敷地約1,800㎡を掛けた参考値(約55億円)。収入は通年の想定稼働率80%、客室売上比率70%、GOP率35%で固定し、日本不動産研究所「第54回 不動産投資家調査」が示す仙台の宿泊特化型ホテルの期待利回り5.3%と比較した。
■ 限界・留意点
土地の取引価格、工事請負額、賃料や運営委託の条件はいずれも非公表であり、事業費は統計と地価公示から置いた仮定である。GOPは固定資産税・運営委託料・更新投資の積立などを差し引く前の数値で、純収益ベースの期待利回りとの比較は上限寄りの目安にとどまる。GOP率は単価や稼働の水準によらず35%で固定しているが、実際には売上の水準に応じて変動する。推定成約ADRと稼働率はOTA掲載情報に基づく推定値で、各施設の会計数値とは異なる。開業時期は調査時点で公表を確認できておらず、2029年2月は建物の完成見込みである。
■ 市場データ
- メトロエンジンリサーチ&コンサルティング — 計画地2km圏の客室ストック(85施設・1万3,002室)、推定成約ADR(青葉区 N=68〜74、2km圏 n=80)、稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定、青葉区36施設)
■ 政府統計・公的データ
- 仙台市「令和7年度 仙台市都市計画審議会開催状況」(第222回・2025年11月17日)
- 仙台市都市計画審議会 議案第1080号「高度利用地区の変更(一番町四丁目七番地区)」
- 仙台市都市計画審議会 第222回議事録
- 仙台市「『宿泊施設の整備に着目した容積率緩和制度』の運用方針」(2017年3月16日)
- 国土交通省 不動産情報ライブラリ — 地価公示・都道府県地価調査、用途地域、防火地域、駅別乗降客数、洪水浸水想定区域、地形区分に基づく液状化の発生傾向
- 国土交通省「建築着工統計調査」(e-Stat 統計表ID 0003114490、用途=宿泊業用)
- 総務省・経済産業省「経済センサス-活動調査」(2021年)、国土交通省 国土数値情報(250mメッシュ別将来推計人口)
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■ ニュース・プレスリリース
