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九州応援割、黒川温泉と由布院の実質単価差は665円に縮小 — 県境31kmに走る10ptの制度差

投稿日 : 2026.08.28 更新日 : 2026.09.02

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エリア・施設分析

九州応援割、黒川温泉と由布院の実質単価差は665円に縮小 — 県境31kmに走る10ptの制度差

2026年8月28日、金子恭之国土交通大臣が「九州ふっこう応援割」を10月から開始すると発表した。割引率は熊本県・鹿児島県が6割、福岡・佐賀・長崎・大分・宮崎の5県が5割。10月1日以降の宿泊分が補助対象で、対象期間と予約開始日は各県が設定する。九州7県すべてが対象という点では「面」の支援だが、割引率が県単位で10ポイント違うということは、県境をまたいだ瞬間に旅行者の支払額が段差を持つということでもある。本稿では、県境をはさんで向かい合う温泉地のペアを取り出し、その段差が競合関係をどう組み替えるかを、前年同月の推定成約ADRから定量的に読み解く。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA等で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)で、市区町村レベルの値は施設数で加重した中央値のため、県単位の値と単純に足し引きできません。
  • 算出基準:2025年9〜12月の値は確定済みの履歴基準、2026年10月の値は調査時点の掲載状況に基づくスナップショット基準です。基準が異なるため、両者の差を前年同月比として解釈することはできません。
  • 実質単価(本稿の試算):前年同月(2025年10月)の推定成約ADRに、発表された割引率をそのまま適用した参考値です。2026年10月の実際の支払額を予測するものではありません。割引上限額は本稿執筆時点で公式に確認できていないため、上限なしの前提で計算しています。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ
Key Takeaways
  • — 割引率は熊本・鹿児島6割、他5県5割。この10ポイントの差は「被災地とそれ以外」の線ではなく、県境という面の切れ目として温泉地の競合関係に現れる。
  • — 黒川温泉¥11,778に対し由布院¥12,443。前年同月の推定成約ADRに割引率を当てると、平常時に¥4,560あった差が665円の逆転に変わる(上限なし前提の参考値)。
  • — 阿蘇内牧と別府の差は¥3,847→¥47。平常時に25.8%開いていた2エリアが、制度の1行でほぼ同額の棚に並ぶ。
  • — 黒川温泉と九重・筋湯は直線7.8km。同一旅程で入れ替え可能な距離にありながら、割引率が10ポイント異なる。
  • — 逆転が成立するのは上限額が約¥17,700以上のときだけ。上限¥15,000なら順位は平常時に戻り、¥10,000なら価格差は完全に復元される(表4)。

6割県と5割県、境目は行政区画の線上にある

まず制度の骨格を確認しておきたい。今回の支援は令和8年熊本地震を受けた政府の支援パッケージ(予備費1,478億円)の観光分野の柱として位置づけられており、被害の大きかった熊本県・鹿児島県を6割、残る5県を5割としている。被害の実態に応じた配分であり、設計としては素直だ。発災直後に需要がどう動き、どの県から戻るのかという時間軸については、令和8年熊本地震|2016年の回復曲線を物差しに — 九州7県の発災時ベースラインで整理している。

制度そのものの確定内容——補助率・限度額・開始日と、限度額2.0万円がどの価格帯から効きはじめるか——は九州ふっこう応援割が確定 — 熊本・鹿児島60%/5県50%、上限2万円が効く価格帯で、割引対象初月にあたる2026年10月の在庫が7県のどこに残っているかは九州応援割、6割引の熊本・鹿児島に10月残室の34.9%が集中 — 7県の在庫余力を実測で扱っている。本稿は同じ制度を「県境の価格差」という一点に絞って見る。

一方で、宿泊需要の視点で見ると、この10ポイントの差は「被災地とそれ以外」を分ける線ではなく、行政区画の線として現れる。九州の主要温泉地は県境付近に密集しており、旅行者が「どちらに泊まるか」を並べて比較する距離に、異なる割引率が同居することになる。以下では、その距離と価格差を実測した。

なお、営業状況については既刊の黒川温泉に地震の影響は?温泉街は通常営業を継続および阿蘇・黒川温泉は通常営業で整理しているため、本稿では前提としてのみ触れ、以降は価格の話に集中する。

13の温泉地・都市の実質単価 — 上限なし前提での試算

九州7県の主要温泉地・都市部13エリアについて、2025年10月の推定成約ADRと、そこに今回の割引率をそのまま当てた実質単価を並べたのが次の表とグラフである。繰り返しになるが、これは前年同月の実勢に割引率を当てた参考値であり、2026年10月の実額の予測ではない。

表1|九州7県 主要13エリアの推定成約ADRと割引後実質単価(2025年10月の履歴基準に割引率を適用した参考値・上限なし前提)
エリア 割引率 2025年10月
推定成約ADR
対象
施設数
実質単価
(参考値)
1泊あたり
割引額
2026年10月
掲載基準推定
黒川温泉
熊本県南小国町
60%¥29,44643¥11,778¥17,668¥27,870 (45)
南阿蘇
熊本県南阿蘇村
60%¥25,57014 †¥10,228¥15,342¥26,583 (15)
由布院
大分県由布市
50%¥24,886133¥12,443¥12,443¥24,394 (141)
阿蘇内牧
熊本県阿蘇市
60%¥18,77224¥7,509¥11,263¥21,968 (25)
嬉野温泉
佐賀県嬉野市
50%¥18,55632¥9,278¥9,278¥18,950 (32)
雲仙温泉
長崎県雲仙市
50%¥18,01228¥9,006¥9,006¥18,451 (29)
九重・筋湯
大分県九重町
50%¥16,94638¥8,473¥8,473¥18,004 (38)
別府温泉
大分県別府市
50%¥14,925117¥7,462¥7,463¥15,906 (117)
指宿温泉
鹿児島県指宿市
60%¥13,17220¥5,269¥7,903¥15,752 (18)
霧島温泉郷
鹿児島県霧島市
60%¥12,70357¥5,081¥7,622¥15,577 (55)
天草
熊本県天草市
60%¥7,25626¥2,902¥4,354¥10,102 (28)
鹿児島市街
鹿児島県鹿児島市
60%¥6,64573¥2,658¥3,987¥8,600 (71)
人吉温泉
熊本県人吉市
60%¥6,47221¥2,589¥3,883¥11,402 (22)

† 対象施設数が20施設未満のエリア。参考として掲載するが、本稿の主張の根拠には用いていない。最右列は算出基準が異なるため、前年同月との差を前年比として読むことはできない。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(濃色=2025年10月の推定成約ADR/淡色=割引率を当てた実質単価の参考値。2026年10月の実額予測ではない)

まず目に入るのは、上位帯の順位が入れ替わる点だ。平常時の推定成約ADRでは黒川温泉が¥29,400で頭ひとつ抜けており、由布院の¥24,900を4,560円上回っている。ところが割引率を当てると、黒川温泉は¥11,778、由布院は¥12,443となり、665円だけ由布院のほうが高いという逆転が起きる。金額としてはほぼ同水準で、旅行者の意思決定において「価格」が判断材料にならなくなる領域に両者が入る、と読むほうが実態に近い。

同じことが中位帯でも起きている。阿蘇内牧(熊本・6割)は平常時¥18,772で別府(大分・5割)の¥14,925より25.8%高いが、割引後は¥7,509対¥7,462で差は47円。四捨五入すれば同額である。平常時に4分の1の開きがあった2つのエリアが、制度の1行によって同じ棚に並ぶ。

県境をまたぐ4ペア — 8kmで10ポイントが切り替わる

ここからが本稿の主題である。上の一覧は九州全域を俯瞰したものだが、旅行者は九州全域を等しく比較するわけではない。実際に比較されるのは、同じ旅程に入れ替え可能な距離にある宿だ。そこで、熊本県側と大分県側で向かい合う4つのペアを取り出し、直線距離とあわせて整理した。座標は国土地理院の住所検索APIで照合した各温泉街の位置を用いている。

表2|県境をまたぐ競合ペアの価格差(2025年10月の履歴基準に割引率を適用した参考値・上限なし前提)
ペア 直線距離 平常時ADR 平常時の差 実質単価 割引後の差 差の縮小幅
黒川温泉 (熊本・60%)
vs 由布院 (大分・50%)
30.9 km¥29,446 / ¥24,886+¥4,560¥11,778 / ¥12,443¥-665▲¥3,895
黒川温泉 (熊本・60%)
vs 九重・筋湯 (大分・50%)
7.8 km¥29,446 / ¥16,946+¥12,500¥11,778 / ¥8,473+¥3,305▲¥9,195
阿蘇内牧 (熊本・60%)
vs 九重・筋湯 (大分・50%)
22.1 km¥18,772 / ¥16,946+¥1,826¥7,509 / ¥8,473¥-964▲¥862
阿蘇内牧 (熊本・60%)
vs 別府温泉 (大分・50%)
54.6 km¥18,772 / ¥14,925+¥3,847¥7,509 / ¥7,462+¥47▲¥3,800

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成/距離は国土地理院 地名検索APIで照合した座標による直線距離

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2025年10月の履歴基準に割引率を当てた参考値。2026年10月の実額予測ではない)

もっとも距離が近いのは黒川温泉と九重・筋湯の組み合わせで、直線わずか7.8kmしか離れていない。徒歩圏ではないが、同じ日にどちらも下見できる距離であり、やまなみハイウェイ沿いの旅程では実質的に同一の選択肢である。この7.8kmの間に、割引率の10ポイント差が走っている。平常時に¥12,500あった単価差は、割引後には¥3,305まで縮む。黒川温泉の側から見れば、平常時には説明が必要だった価格プレミアムが、制度によって自動的に説明可能な水準に圧縮されるということだ。

より劇的なのは黒川温泉と由布院の30.9kmで、ここでは差の縮小幅が¥3,895に達し、符号まで反転する。阿蘇内牧と九重・筋湯の22.1kmも同様で、平常時は阿蘇内牧が¥1,826高かったものが、割引後は九重・筋湯のほうが¥964高くなる。4ペアすべてで、平常時の価格順位が制度によって揺らぐか、あるいは完全に入れ替わる。

地図で見る「面の切れ目」

この構図を地理的に確認する。下図は13エリアの位置を、6割県(熊本・鹿児島)を濃紺、5割県(福岡・佐賀・長崎・大分・宮崎)を青で色分けしてプロットしたものである。円の大きさは平常時の推定成約ADRに対応し、破線は上で扱った4ペアの直線距離を示す。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成/座標:国土地理院 地名検索API

阿蘇くじゅう地域を拡大すると、黒川温泉・南阿蘇・阿蘇内牧という熊本側の高単価エリアと、九重・筋湯・由布院という大分側のエリアが、40km圏内に凝縮していることがわかる。この一帯は温泉地としても道路網としても連続しており、地形的な断絶はない。にもかかわらず、割引率だけが県境で切り替わる。制度が「線」ではなく「面の切れ目」として作用する、というのは、この地理的な連続性と制度的な不連続性のずれを指している。

一方、鹿児島県側では事情が異なる。霧島温泉郷と指宿温泉はいずれも6割の対象で、近隣に5割県の同格温泉地を持たない。もっとも近い5割県の温泉地である嬉野温泉までは151kmあり、同一旅程での代替関係は成立しにくい。鹿児島の6割は、県境競合ではなく県内の需要底上げとして効く構造になっている。

県単位で見ると割引後の序列は保たれる

エリア単位では順位の入れ替わりが起きたが、県単位ではどうか。7県の2025年10月の推定成約ADRと、割引率を当てた実質単価を並べたのが次のグラフである。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2025年10月の履歴基準に割引率を当てた参考値。県単位の値は市区町村単位の値と算出母集団が異なるため、両者を足し引きすることはできない)

大分県は平常時¥14,610(N=446施設)で7県中もっとも高く、5割適用後も¥7,305で首位を保つ。熊本県は平常時¥10,428(N=374施設)だが6割適用後は¥4,171となり、佐賀県(¥5,989)や福岡県(¥5,614)を下回る。県平均という粒度では、6割県が5割県の下に沈む形になり、序列は大きくは動かない。

つまり、制度の効き方は粒度によって見え方が変わる。県平均で見れば「熊本・鹿児島が相対的に安くなる」という単純な話に見えるが、実際に競合が発生する温泉地の粒度で見ると、高単価帯の黒川温泉が由布院と並び、阿蘇内牧が別府と並ぶという別の絵が現れる。県境の温泉地の販売担当が見るべきは、後者の絵のほうだ。

5割県側にある10〜12月の成長余地

ここで5割県側の宿にとっての機会を考えたい。前提として、九州の温泉地は10月から12月にかけて単価が上がる季節構造を持っている。2025年の実績を月次で並べると、その傾きはエリアごとにかなり違う。

表3|主要8エリアの推定成約ADR 月次推移(2025年10〜12月・履歴基準・カッコ内は対象施設数)
エリア 2025年10月 2025年11月 2025年12月 10月→12月
黒川温泉 60%
熊本県
¥29,446 (43)¥30,744 (42)¥31,644 (42)+7.5%
由布院 50%
大分県
¥24,886 (133)¥25,766 (131)¥27,123 (131)+9.0%
阿蘇内牧 60%
熊本県
¥18,772 (24)¥19,720 (23)¥21,628 (23)+15.2%
嬉野温泉 50%
佐賀県
¥18,556 (32)¥23,123 (31)¥23,777 (31)+28.1%
雲仙温泉 50%
長崎県
¥18,012 (28)¥20,659 (27)¥20,177 (27)+12.0%
九重・筋湯 50%
大分県
¥16,946 (38)¥17,559 (37)¥19,320 (36)+14.0%
別府温泉 50%
大分県
¥14,925 (117)¥16,640 (113)¥18,941 (114)+26.9%
霧島温泉郷 60%
鹿児島県
¥12,703 (57)¥13,783 (55)¥16,034 (55)+26.2%

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

伸びが大きいのは霧島温泉郷(+26.2%)、別府温泉(+26.9%)、嬉野温泉(+28.1%)である。嬉野温泉は10月から11月にかけて¥18,556から¥23,123へと24.6%上昇しており、紅葉期の需要が単価にはっきり乗るエリアだといえる。5割県側の温泉地は、応援割の対象期間が11月以降にも伸びる場合、この季節の傾きを味方につけられる位置にいる。

加えて、割引率が5割であることは、6割県より単価を維持しやすいということでもある。表2で見たとおり、由布院は割引後の実質単価で黒川温泉を665円上回った。旅行者にとって「同じ実質価格帯に、由布院という選択肢が入ってきた」という見え方になる。これは由布院側にとって、平常時にはリーチできなかった価格感度の高い層に届く機会である。同じ構図は九重・筋湯(黒川温泉との差が¥12,500から¥3,305へ)にも、別府(阿蘇内牧との差がほぼ消える)にも当てはまる。

そのうえで、5割県側の差別化余地は価格そのものではなく、価格以外の軸に置くのが自然だろう。実質単価が並ぶということは、価格で選ばれる/選ばれないの判定が効かなくなるということであり、そのとき効くのは滞在内容の情報量だ。具体的には、(1)連泊時の周遊動線の提示、(2)館内の食事・湯めぐりなど滞在中の体験の明示、(3)割引適用後の支払イメージを予約導線の早い段階で示すこと、の3点が挙げられる。とくに(3)は、割引率が県で異なる今回のような制度では、旅行者が自分で計算しないと比較できない状態が生じやすいため、先に示した側が有利になりやすい。

割引上限額が入った場合の見え方

本稿の試算はすべて上限なしを前提としている。過去の同種制度では1泊あたりの補助上限が設けられることが多く、今回も上限が設定されれば、高単価帯の実効割引率は表示上の6割・5割を下回る。本稿執筆時点で上限額は公式に確認できていないため、その具体的な影響幅は算出していない。

ただし、影響の方向だけは押さえておける。上限が効くのは単価の高いエリアからであり、本稿の13エリアで平常時の推定成約ADRがもっとも高いのは黒川温泉の¥29,446、次いで南阿蘇の¥25,570、由布院の¥24,886である(いずれも2名1室利用時・1室あたり)。上限が1室あたりで設定されるのか1名あたりで設定されるのかによって、これらのエリアで上限に達する水準はまったく変わる。したがって、上限額と適用単位の両方が公表されるまでは、高単価帯のプランについて実効割引率を確定的に語ることはできない。上限額そのものの分析は、詳細が公表された時点で別稿として扱う。

表4|割引上限額を仮置きした場合の実効割引率と実質単価(上段=実効割引率/下段=実質単価。2025年10月の履歴基準に適用した参考値。上限額は公式発表値ではなく感応度確認のための仮置き)
エリア表示
割引率
2025年10月
推定成約ADR
上限なし上限¥20,000上限¥15,000上限¥10,000上限¥7,000
黒川温泉
熊本県南小国町
60%¥29,44660%
¥11,778
60%
¥11,778
51%
¥14,446
34%
¥19,446
24%
¥22,446
南阿蘇
熊本県南阿蘇村
60%¥25,57060%
¥10,228
60%
¥10,228
59%
¥10,570
39%
¥15,570
27%
¥18,570
由布院
大分県由布市
50%¥24,88650%
¥12,443
50%
¥12,443
50%
¥12,443
40%
¥14,886
28%
¥17,886
阿蘇内牧
熊本県阿蘇市
60%¥18,77260%
¥7,509
60%
¥7,509
60%
¥7,509
53%
¥8,772
37%
¥11,772
嬉野温泉
佐賀県嬉野市
50%¥18,55650%
¥9,278
50%
¥9,278
50%
¥9,278
50%
¥9,278
38%
¥11,556
九重・筋湯
大分県九重町
50%¥16,94650%
¥8,473
50%
¥8,473
50%
¥8,473
50%
¥8,473
41%
¥9,946
別府温泉
大分県別府市
50%¥14,92550%
¥7,462
50%
¥7,462
50%
¥7,462
50%
¥7,462
47%
¥7,925

赤字・淡赤セルは上限が実際に効いて表示割引率を下回るケース。上限額・適用単位(1室あたりか1名あたりか)は本稿執筆時点で公式に確認できておらず、¥20,000/¥15,000/¥10,000/¥7,000は感応度を確認するための仮置きの値である。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(上限額は仮置き。実額の予測ではない)

この表から読み取れることは2点ある。第1に、本稿の主要な発見である「黒川温泉と由布院の逆転」が成立するのは、1泊1室あたりの割引上限が約¥17,700以上(黒川温泉の6割引額¥17,668)に設定された場合に限られる。上限¥15,000なら黒川温泉の実効割引率は51%まで下がり、実質単価は¥14,446となって由布院の¥12,443を¥2,003上回る。つまり平常時と同じ順位に戻る。上限¥10,000では黒川温泉¥19,446・由布院¥14,886で差は¥4,560となり、平常時の価格差がそのまま復元される。逆転という現象は、上限額の設定水準にきわめて敏感である。

第2に、上限が効き始める順序はADRの高い順であり、6割県の高単価エリアから先に実効割引率が削られる。上限¥10,000の水準では、黒川温泉34%・南阿蘇39%・阿蘇内牧53%と6割県側が軒並み表示割引率を下回る一方、嬉野温泉・九重・筋湯・別府温泉の3エリアは50%を維持する。上限が低いほど、制度上は6割である熊本・鹿児島の高単価温泉地ほど実効割引率で5割県に追い抜かれるという逆転がもう一段起こりうる。県境ペアの競合関係を読むうえで、上限額は割引率そのものと同じ重みを持つ変数である。

まとめ

九州ふっこう応援割の10ポイントの割引率差は、九州の温泉地地図の上では「被災地とそれ以外」を分ける線としてではなく、県境という面の切れ目として現れる。前年同月の推定成約ADRに割引率を当てた参考値で見ると、黒川温泉と由布院の差は¥4,560から¥665へ、阿蘇内牧と別府の差は¥3,847から¥47へと縮み、平常時の価格順位が制度によって揺らぐ。とりわけ黒川温泉と九重・筋湯は直線7.8kmしか離れておらず、同一旅程の代替関係にあるにもかかわらず、割引率が異なる。

この構図は、6割県側にとっては高単価帯の集客レンジが広がる機会であり、5割県側にとっては上位エリアと同じ実質価格帯で比較されるようになる機会である。どちらにとっても、10月から12月にかけて単価が上がる九州温泉地の季節構造と重なる期間に制度が動くことは、販売設計を組み直す好機といえる。対象期間と予約開始日は各県が設定するため、まずは自県の日程確定を待ちつつ、割引後の支払イメージをどの導線で示すかを先に決めておきたい。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

推定成約ADRは、各施設が公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価。エリア値は対象施設の中央値で、市区町村レベルは施設数で加重した中央値。2025年9〜12月は確定済みの履歴基準、2026年10月は調査時点の掲載スナップショット基準。対象は九州7県および13市区町村(南小国町・南阿蘇村・阿蘇市・由布市・九重町・別府市・嬉野市・雲仙市・天草市・人吉市・指宿市・霧島市・鹿児島市)。各温泉街の代表座標は国土地理院の地名検索APIで外部照合した。制度の骨格(割引率・開始時期・予備費規模)は2026年8月28日の報道発表による。

■ 試算前提

実質単価=前年同月(2025年10月)の推定成約ADR×(1−割引率)。割引率は熊本県・鹿児島県を60%、福岡・佐賀・長崎・大分・宮崎の5県を50%とした。本文の主要な試算はいずれも割引上限額なしを前提としている。表4の上限額(¥20,000/¥15,000/¥10,000/¥7,000)は公式発表値ではなく、上限の設定水準に対する結論の頑健性を確認するために置いた仮の値で、1泊1室あたりとして適用した。ペア間の距離は各温泉街の代表座標間の直線距離であり、道路距離ではない。

■ 限界・留意点

推定成約ADRは推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なる(上場ホテルREITの物件別開示との照合で誤差中央値は約7%・91施設・直近3ヶ月間)。履歴基準と掲載スナップショット基準は算出母集団が異なるため、両者の差を前年同月比として解釈することはできない。市区町村単位の値と県単位の値は母集団が異なり、単純に足し引きできない。対象施設数が20施設未満のエリア(南阿蘇村・指宿市・人吉市)は参考として掲載するにとどめ、本稿の主張の根拠には用いていない。割引上限額・その適用単位(1室あたりか1名あたりか)・各県が設定する対象期間および予約開始日は本稿執筆時点で未確定であり、確定後に実効割引率は本稿の試算と変わりうる。

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