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訪日客が語る温浴文化と地方温泉地の受け皿 ― 言語別に見る温泉評価と分散需要

投稿日 : 2026.07.19 更新日 : 2026.09.02

インバウンド

訪日客が語る温浴文化と地方温泉地の受け皿 ― 言語別に見る温泉評価と分散需要

2026年5月、訪日外客数は356万人と前年同月比マイナス3.6%で2カ月連続の前年割れとなったが、その内実は市場の入れ替わりが進む「転換局面」だった。韓国が95万人(前年比+15.2%)と過去最高水準で全体を牽引する一方、中国は31万人(同マイナス60.4%)と大きく落ち込んだ。この構造変化のなかで、日本の宿泊体験を語る訪日客の言葉に一貫して現れるのが「温浴文化」への高い関心である。本稿では、宿泊者口コミを意味解析したタグデータをもとに、どの国・地域が日本の温泉・大浴場・露天風呂・サウナ文化を評価しているかを言語別に集計し、その需要を受け止める地方温泉地の地理的な厚みを定量的に読み解く。

本記事における指標の定義

  • 言及率(mention %):対象言語で投稿された口コミのうち、その温浴タグ(大浴場・露天風呂・温泉・サウナ等)に言及した口コミの割合。宿泊者口コミをNLPで意味解析して抽出したもので、★スコア(評価点)とは異なり「どれだけ話題にされたか」を表す。言及率が高いほど、その体験がその国・地域の宿泊者にとって印象に残っている度合いが強いと解釈できる。
  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合(91施設・直近3ヶ月間)で誤差中央値は約7%。エリア単位のADRは対象施設の中央値。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。
  • データ出典:口コミタグ=ホテルバンク編集部調べ(宿泊者口コミのNLP解析)。ADR=メトロエンジンリサーチ。訪日客数=日本政府観光局(JNTO)。
Key Takeaways
  • — 韓国が最大市場に浮上し、中国の構成が「新市場」へ入れ替わる需要転換が、温泉評価の言語差として口コミに表れている。
  • — 訪日客ほど温泉を語る傾向が強く、別府温泉の言及率は韓国33.1%・繁体31.7%・英27.1%と言語で差が出る。
  • — 露天風呂・サウナへの言及は体験の解像度で嗜好が分かれ、温浴文化の裾野拡大を裏づける。
  • — 箱根235施設/6,296室・別府118施設/5,030室など、地方温泉地の供給厚みが分散需要の受け皿となる。
  • — 推定ADRは大分¥15,300・神奈川¥14,500・岐阜¥11,500・北海道¥9,500と価格に受け皿の余力が読み取れる。

市場の転換 ― 韓国が牽引、中国は「新市場」への入れ替わり

まず市場背景を確認する。JNTOの2026年5月推計値によれば、訪日外客数は3,559,900人で前年同月比マイナス3.6%。桜と夏休みの端境期にあたる5月としては、韓国・台湾・米国など19市場が同月の過去最高を記録し、東アジアと東南アジアの休暇需要が全体を下支えした。国別では韓国が951,300人(前年比+15.2%)で最大市場の座を固め、台湾も好調に推移した。

一方で中国は313,000人(同マイナス60.4%)と大きく減少した。これは渡航関連の環境変化、航空便の減少、そして端午節の休暇が2025年の5月下旬から2026年は6月中旬へ移動した暦のずれが重なったものと説明されている。数字だけを見れば逆風のようだが、俯瞰すればこれは「特定市場への一極集中から、韓国・台湾・東南アジア・中東・インドといった多市場分散へ」という構造転換の局面と捉えられる。実際、インドや中東は5月として過去最多を更新しており、受け入れ側の地方エリアにとっては、より幅広い国・地域の嗜好に応える体制を整える成長機会が広がっているといえる。過去最高を更新した韓国客がどのようなタグで宿を選んでいるかは、韓国客超リピーター化が選ぶ宿の細分タグ偏在で食・立地・言語評価まで踏み込んで分析している。

出典:日本政府観光局(JNTO)「訪日外客数(2026年5月推計値)」より作成

訪日客ほど温泉を語る ― 言及率で見る温浴文化の評価

それでは、訪日客は日本のどの体験に心を動かされているのか。ホテルバンク編集部が集計した宿泊者口コミ(直近24ヶ月、15言語)を言語別に解析すると、温浴体験に関する言及に明確なパターンが浮かび上がる。主要温泉地における「温泉」タグの言及率を言語別に見ると、多くのエリアで訪日客(外国語口コミ)が日本語口コミを上回っているのである。

別府(大分県)を例にとると、温泉への言及率は日本語口コミで18.6%であるのに対し、韓国語では33.1%、繁体字(台湾等)では31.7%、英語では27.1%に達する(各言語の分析件数:日本語n=40,628、韓国語n=3,606、繁体字n=2,388、英語n=5,700)。つまり訪日客にとって、別府という土地の記憶は「温泉に浸かった体験」と強く結びついている。同様の傾向は草津(群馬県)、下呂(岐阜県)でも確認でき、下呂では韓国語の温泉言及率が32.8%と日本語(16.0%)の約2倍に達する。

出典:ホテルバンク編集部調べ(宿泊者口コミのNLP解析、直近24ヶ月)

この差が意味するところは示唆に富む。日本語話者にとって温泉は「あって当然のもの」として言及されにくい一方、訪日客にとっては旅の目的そのものであり、体験の中核として語られる。言い換えれば、温浴文化は訪日客の満足度を形づくる強力な資産であり、その受け皿を持つ地方エリアには、この評価をさらに引き上げる成長余地が広がっている。

露天風呂とサウナ ― 体験の解像度で読む嗜好の違い

温浴体験を「露天風呂」と「サウナ」というより細かい体験に分けて見ると、国・地域ごとの嗜好の輪郭がさらに鮮明になる。別府では露天風呂への言及率が韓国語9.3%・繁体字8.6%と、英語(5.0%)より高く、日本語(9.6%)に近い水準にある。東アジア圏の訪日客が、屋外で自然と一体になって湯に浸かる露天風呂の情緒を、日本人に近い解像度で味わっていることがうかがえる。

サウナに目を向けると、また異なる地図が描かれる。全国のサウナ言及上位施設を集計すると、都市部のカプセル・ビジネスホテルや、サウナを主役に据えた専門宿が上位に並ぶ。北海道の都市型ホテル、富山・つくば・新潟といった地方都市のビジネスホテル、そして「ととのう」体験を前面に出した施設群である。温泉が地方リゾートの資産であるのに対し、サウナは都市・地方を問わず広がる新しい温浴カルチャーとして、幅広い立地で受け皿を形成しつつある。近年はサウナ専門の宿や個室サウナ付き客室を備えた施設も現れており、温浴文化の裾野が着実に広がっていることを示している。猛暑期に評価が伸びる水風呂・かけ流し冷泉といった温浴差別化の地理的な偏りについては、夏の『水風呂・サウナ・かけ流し冷泉』口コミ偏在2026が詳しい。

出典:ホテルバンク編集部調べ(宿泊者口コミのNLP解析、直近24ヶ月)

需要を受け止める地方の厚み ― 温泉地の地理的な広がり

訪日客の高い温浴評価を、地理はどれだけ受け止められるのか。温泉地を擁する主要府県の宿泊施設供給を集計すると、その受け皿の厚みが見えてくる。稼働が確認できる施設ベースで、北海道が1,432施設・約82,900室と客室数で群を抜き、長野県(1,891施設・約45,300室)、静岡県(1,437施設・約47,300室)が続く。別府を擁する大分県は580施設・約17,800室、草津を含む群馬県は676施設・約20,500室、下呂を含む岐阜県は571施設・約17,400室と、それぞれの温泉ブランドを核に厚い供給層を形成している。

個別の温泉地単位で見ると、その集積はさらに具体的になる。箱根町(神奈川県)は235施設・約6,300室、由布市(大分県・湯布院)は184施設、別府市は118施設・約5,000室、草津町(群馬県)は110施設・約2,400室と、狭いエリアに宿が密集する「温泉タウン」が全国に分布している。この地理的な厚みこそが、韓国・台湾を中心とする東アジア需要、そして今後拡大が見込まれる東南アジア・中東・インドといった新市場の温浴需要を、東京・大阪といった大都市に集中させず地方へ分散させる受け皿として機能する。なお、別府・草津・箱根といった人気温泉地の知名度と実際の宿泊満足度のズレについては、草津・別府・箱根:人気温泉地ランキングと実際の満足度のズレで95.5万件のレビューをもとに検証している。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(円の大きさ=客室数規模)

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

価格水準に見る受け皿の余力

これらの温泉エリアの価格水準を推定成約ADRで見ると、地方温泉地には需要を受け止めながら価格を伸ばす余地が残されていることがわかる。直近実績(2026年5月)の推定成約ADRは、別府を擁する大分県が約15,300円、箱根を含む神奈川県が約14,500円、群馬県が約12,300円、岐阜県が約11,500円、北海道が約9,500円(税抜相当・エリア中央値)。都市部のシティホテルと比べれば控えめな水準であり、訪日客の高い温浴評価という強みを段階的なプライシングと組み合わせることで、さらなる収益拡大の機会が生まれる。

季節性も見逃せない。北海道の推定成約ADRは2026年4月の約8,000円から夏季にかけて上昇基調にあり、群馬県・大分県も夏の繁忙期に向けて水準を切り上げている。訪日需要のピークと国内レジャー需要が重なる時期に、温浴という明確な訴求軸を持つ地方温泉地は、価格・稼働の両面で伸びしろを持つといえる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

接客の実感 ― 温浴体験を支える「もてなし」

温浴文化の評価は、湯そのものだけで完結するものではない。訪日客の口コミを見ると、温泉地の宿における接客への言及も高い。別府の宿を対象にした集計では、韓国語口コミにおける「丁寧な接客」への言及率が35.5%、繁体字(台湾等)で25.0%、英語で18.8%に達し、いずれも高い水準にある。慣れない土地で入浴のマナーや館内の動線に戸惑いがちな訪日客にとって、案内や気配りといったもてなしの実感が、温浴体験全体の満足度を押し上げている構図が読み取れる。

この点は、地方温泉地が新市場を受け止めるうえでの成長軸を示している。多言語での案内表示や入浴文化の丁寧な説明といった受け入れ体制を整えることは、韓国・台湾で既に高い評価を、東南アジア・中東・インドといった新市場へと広げていくための実効性ある一手となる。温浴という日本ならではの資産と、それを支える接客の掛け合わせが、地方分散型のインバウンド成長を後押しするだろう。

まとめ ― 温浴文化は地方分散の推進力

2026年5月のJNTO統計が示す市場の入れ替わりは、日本のインバウンドが特定市場依存から多市場分散へと移行する転換点である。そのなかで、宿泊者口コミの言語別解析は、韓国・台湾を筆頭とする訪日客が日本の温泉・露天風呂・大浴場・サウナといった温浴文化を、日本人以上に旅の中核として評価している事実を浮かび上がらせた。別府・草津・登別・下呂・箱根・有馬といった温泉地は、それぞれ厚い供給層を持ち、都市集中を緩和しながらこの温浴需要を地方へ分散させる受け皿として機能している。

価格水準にはなお伸びしろがあり、多言語対応や入浴文化の案内といった受け入れ体制の充実が、既存市場の評価をさらに高め、新市場の開拓へとつなげる成長の道筋を描いている。温浴文化は、日本の地方が持つ最も分かりやすく、そして最も再現しにくい強みの一つである。この資産を軸に据えることで、地方温泉地は次の成長局面を主体的に切り拓いていけるだろう。

⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事のADRのうち2026年7月・8月分は調査時点でOTAに公開されている販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。新規プランの追加や価格調整により水準が動く可能性がある点にご留意ください。

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参考資料・出典一覧

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