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ホテルのADRとは — 客室売上÷販売客室数|掲載価格との差と2026年の業態別水準

投稿日 : 2026.08.26

指定なし

ホテルのADRとは — 客室売上÷販売客室数|掲載価格との差と2026年の業態別水準

ADR(Average Daily Rate/平均客室単価)は、ホテルの収益を測る三大指標のうち「価格」を担う数字である。計算式そのものは 客室売上 ÷ 販売客室数 と単純だが、実務では分子に何を入れるか、分母を何室と数えるか、そして「OTAに出ている値段」をADRと呼んでよいのかという三つの論点でつまずきやすい。本稿では定義と計算例を整理したうえで、メトロエンジンリサーチの推定成約ADRを用いて2026年7月時点の業態別・都道府県別の実勢水準を示し、掲載価格と成約単価がどれだけ離れるかを実数で確認する。

Key Takeaways
  • — ADR=客室売上 ÷ 販売客室数。1室あたり・税抜・実際に売れた客室だけが分母で、人数では割らない。
  • — 掲載価格はADRではない。2026年7月の施設別中央値で、掲載価格の全プラン平均に対する推定成約ADRの比率はビジネスホテル0.573・旅館0.340。
  • — 2026年7月の推定成約ADR全国中央値は¥8,974(推定対象17,060施設)。業態別はビジネス¥7,159/シティ¥9,131/旅館¥12,105/リゾート¥14,180。
  • — 推定成約ADRの誤差中央値は7.5%(184物件月・2026年4〜5月)。ビジネス・シティ6.0%に対しリゾート・旅館は15.8%で、個別施設の単価断定には使えない。
  • — RevPAR=ADR×OCC。値上げの成否はADR単体でなくRevPARで判定する。宿泊料CPI(前年比+3〜+6%)と推定成約ADR(+15.6%〜−5.6%)は動きが揃わない。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合で誤差中央値は7.5%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値(エリアの標準的な施設の水準)。
  • 掲載価格(全プラン平均):素泊まりから食事付きまで、その施設がOTA上に公開している全プランの平均価格(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)。推定成約ADRとは基準が異なるため、本記事では別の名称で扱います。
  • OCC(稼働率):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ/総務省「消費者物価指数」/各REIT法人の月次開示

ADRの定義 — 分子は客室売上、分母は「売れた客室数」

ADRは、一定期間の客室売上を、その期間に実際に販売した客室数で割った値である。国際的な会計基準であるUSALI(Uniform System of Accounts for the Lodging Industry)に沿った整理では、分子・分母それぞれに明確な線引きがある。

ADRの分子・分母に含めるもの/含めないもの(USALI準拠の一般的な整理)
要素含めるもの含めないもの
分子:客室売上客室部分の売上(税抜)。キャンセル料のうち客室相当分を客室売上に計上する運用もある消費税・宿泊税・入湯税などの預り金、朝食や夕食の食事相当額(F&B部門へ按分)、駐車場・売店などの付帯収入
分母:販売客室数有償で稼働した客室数(延べ室数)。1室に何名泊まったかは問わない空室、コンプ(無償提供)、ハウスユース、故障等で販売停止した客室

出典:USALI準拠の一般的な整理をもとにホテルバンク編集部作成

ここで実務上いちばん誤差を生むのが、朝食付きプランの扱いである。売上を客室部門にまとめて計上している施設と、朝食相当額をF&B部門へ振り替えている施設とでは、同じ販売価格でもADRが変わる。他館やREIT開示値と自館ADRを比べるときは、まず按分ルールが揃っているかを確認したい。同様に、宿泊税・入湯税は自治体への預り金であり客室売上には含めない。

1室単価と1人単価 — 日本のOTA表示が混同を生む理由

ADRはあくまで1室あたりの単価である。ところが日本のOTA等の掲載価格は「2名1室利用時・1室あたり料金・税込」で表示されるのが主流で、しかも検索画面では1名あたりの金額に割り戻して並ぶこともある。ここで単位がずれたまま議論が進むと、ADRは容易に2倍・半分の誤差を生む。

OTA等の掲載価格の読み方とADRとしての正否
読み方金額ADRとして正しいか
OTA掲載価格(2名1室・1室あたり・税込)¥18,000単位は正しいが税込。会計上のADRは税抜
同じ表示を1名あたりに割り戻した金額¥9,000誤り。ADRは1室単価であり人数で割らない
税抜換算(消費税10%)¥16,364会計上のADRに近い単位
同じ客室に1名で泊まった場合実際の成約額1室として1回カウント。人数はADRに影響しない

出典:ホテルバンク編集部作成

1名で泊まっても2名で泊まってもADR上は「1室」であり、人数の違いはADRではなく1室あたり人数(ダブルオキュパンシー)という別の指標で捉える。インバウンド比率が上がるとダブルオキュパンシーが上昇し、同じ客室でも取れる単価が上がる——という議論は、ADRとダブルオキュパンシーを分けて見て初めて成立する。

計算例 — 1泊単位と月次単位

100室のホテルを例に、1日単位と1ヶ月単位の両方で計算してみる。ADRは「売れた分だけ」を対象にするため、稼働率が下がってもADR自体は下がらない点が重要である。

100室ホテルのモデルケース — 1日単位と30日間(月次)のADR・OCC・RevPAR
項目ある1日30日間(月次)
総客室数100室100室
販売可能客室数(延べ)100室3,000室
販売客室数(延べ)60室1,800室
客室売上(税抜)¥900,000¥28,800,000
ADR=客室売上÷販売客室数¥15,000¥16,000
OCC=販売客室数÷販売可能客室数60.0%60.0%
RevPAR=ADR×OCC¥9,000¥9,600

出典:ホテルバンク編集部作成(モデルケース)

月次のADR(¥16,000)が1日単位(¥15,000)と一致しないのは、月内で日ごとの単価と販売室数が異なるためである。月次ADRは「日次ADRの平均」ではなく「月間客室売上 ÷ 月間販売客室数」で求める、つまり販売室数で加重された平均になる。週末の高単価日に多く売れた月はADRが押し上げられ、平日中心に売れた月は下がる。日次ADRを単純平均して月次ADRとして報告するのは、実務でよくある取り違えである。

掲載価格はADRではない — 成約単価は掲載平均の34〜57%

市場分析でもっとも誤用されやすいのが「OTAに出ている値段=ADR」という置き換えである。掲載価格は売れ残った高単価プランも含めて画面上に残り続けるうえ、2名1室・税込表示であり、さらに食事付きプランの食事相当額も含んでいる。したがって掲載価格の全プラン平均は、構造的に成約単価より高く出る。

メトロエンジンリサーチでは、施設ごとのOTA掲載最安プラン水準に業態別の補正係数を掛け、上場ホテルREITが開示する物件別の成約ADRに合わせ込んだ推定成約ADRを算出している。2026年7月について、客室数30室以上の施設を業態別に抽出し、①掲載価格の全プラン平均、②掲載価格の最安プラン、③推定成約ADRの三段階を並べたのが次の表である。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年7月・客室数30室以上/ビジネスN=131・シティN=127・リゾートN=118・旅館N=120施設)

業態別 掲載価格の全プラン平均・最安プランと推定成約ADR(2026年7月・客室数30室以上)
業態N①掲載・全プラン平均
(税込)
②掲載・最安プラン
(税込)
③推定成約ADR
(税抜相当)
③÷①
施設別比率の中央値
ビジネスホテル131¥16,588¥10,732¥9,4380.573
シティホテル127¥31,111¥14,742¥14,1820.492
リゾートホテル118¥45,718¥25,692¥16,6130.362
旅館120¥45,732¥24,048¥16,4740.340

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年7月)。①②③は各施設の月次値の中央値。最右列は施設ごとに③÷①を計算したうえでその中央値をとった値であり、中央値どうしを割った比とは一致しない

ビジネスホテルでは、掲載価格の全プラン平均が中央値¥16,600に対して推定成約ADRは¥9,400、施設ごとの比率で見ると中央値0.573である。つまり掲載価格の平均をそのままADRとして扱うと、水準を7割以上過大に見積もることになる。シティホテルは0.492、リゾートホテルは0.362、旅館は0.340と、上位業態ほど乖離が大きい。

この差は三つの段階に分解できる。第一に、全プラン平均から最安プランへの落差である。ビジネスホテルで施設別中央値0.645、旅館では0.524まで下がる。素泊まりから2食付き特別室までを一律に平均した数字は、実際に多く売れる価格帯を代表していない。第二に、最安プランから成約単価への補正である。業態別の補正係数はビジネス・シティが0.897、リゾート・旅館が0.607で、この一段には消費税の税区分差と、上位プランへの実際の販売ミックスが同時に織り込まれている。第三に、リゾート・旅館では掲載価格に食事相当額が含まれる比率が高く、客室売上ベースのADRに引き直すとさらに下がる。

実務上の含意は明快である。掲載価格の推移は「値付けの動き」を見るには有効だが、収益シミュレーションやREIT開示値との比較にそのまま持ち込むと桁を誤る。用途に応じて、掲載価格と成約単価のどちらを見ているかを明示的に切り替える必要がある。この乖離が全国のどこで大きいかは、「掲載価格」と「実際に売れた価格」の差はどこが大きいか|47都道府県アップサイド・マップ2026で都道府県別に地図化している。

2026年7月の実勢水準 — 業態別と都道府県別

次に、推定成約ADRの実際の水準を確認する。2026年7月の1ヶ月について、47都道府県それぞれの業態別中央値を求め、その分布を整理したのが下表である。都道府県の数と施設数はいずれもその月に推定対象となった実数を記載している。

業態別×都道府県 掲載価格と推定成約ADRの実勢水準(2026年7月)
業態対象
都道府県
施設数掲載価格
全プラン平均(税込)
推定成約ADR
(税抜相当)
最高/最低の都道府県
ビジネスホテル477,398¥14,115¥7,159東京都 ¥12,306/徳島県 ¥5,450
シティホテル461,114¥21,732¥9,131東京都 ¥22,434/山口県 ¥6,520
リゾートホテル471,613¥43,156¥14,180愛媛県 ¥25,185(N=8)/茨城県 ¥7,930(N=16)
旅館476,814¥34,007¥12,105神奈川県 ¥19,307/茨城県 ¥6,913
カプセルホテル776¥12,374¥4,589北海道 ¥6,003(N=5)/千葉県 ¥2,846(N=5)

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年7月)。掲載価格・推定成約ADRはいずれも都道府県中央値の中央値。推定対象が5施設未満の都道府県は集計から除外

カプセルホテルは全国で推定対象が76施設と母数が小さく、対象都道府県も7にとどまる。中央値¥4,589という水準は参考値として扱い、都道府県単位での比較には用いないほうがよい。リゾートホテルの最高値(愛媛県)も対象8施設であり、同様に幅を持って読む必要がある。

都道府県別に業態を問わず集計すると、2026年7月の推定成約ADRは全国中央値が¥8,974(対象36,282施設のうち推定成約ADRを算出できた17,060施設)となった。上位20都道府県を並べたのが次のグラフである。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年7月・47都道府県/推定成約ADR算出対象 N=17,060施設)

都道府県別 推定成約ADR上位・下位と全国中央値(2026年7月)
順位都道府県推定成約ADR掲載価格
全プラン平均
推定対象
施設数
1沖縄県¥13,722¥29,766508
2神奈川県¥12,784¥31,908576
3静岡県¥12,687¥31,632861
4東京都¥12,642¥22,6501,136
5大分県¥12,606¥30,908466
6京都府¥12,161¥28,689604
7北海道¥12,156¥28,693952
8兵庫県¥12,027¥34,879545
…(全国中央値)新潟県¥8,974¥22,851421
45鹿児島県¥6,522¥16,940317
46宮崎県¥6,498¥15,737166
47徳島県¥6,346¥15,370141

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年7月)

上位と下位の差はおよそ2.2倍である。ここで押さえておきたいのは、順位が高い県ほど掲載価格が高いとは限らないという点である。東京都は推定成約ADR ¥12,642で4位だが、掲載価格の全プラン平均は¥22,650と上位県のなかでは低い。逆に兵庫県は掲載価格¥34,879と全国有数の高さでありながら、推定成約ADRは¥12,027である。両者の比は東京都0.558に対して兵庫県0.345で、施設構成——具体的には2食付き旅館・リゾートの比率——が違えば掲載価格と成約単価の関係そのものが変わる。掲載価格の県間比較を「その県のADRが高い」と読み替えることはできない。同じ県のなかでも市区町村単位では単価の開きが大きく、その分布は47都道府県の市区町村ADR格差ランキング2026で整理している。

推定成約ADRの精度をどこまで信じてよいか

推定値を使う以上、どの程度ずれるのかを先に開示しておく必要がある。本稿の推定成約ADRは、上場ホテルREITが物件単位で公表している実績ADRとの突合によって補正係数を決め、その残差を検証している。検証結果は業態セグメントごとに次のとおりである。

推定成約ADRの精度検証 — セグメント別の補正係数・検証サンプル・誤差中央値
セグメント補正係数検証サンプル誤差中央値
ビジネスホテル・シティホテル0.897132物件月6.0%
リゾートホテル・旅館0.60734物件月15.8%
全体—184物件月7.5%

出典:メトロエンジンリサーチ(検証期間2026年4〜5月、突合先はインヴィンシブル投資法人の物件別公表ADR、5分割交差検証を20回反復)

ここで単位に注意したい。184というのは「物件月」、すなわち物件×月の観測数であり、施設数ではない。検証期間は2026年4月と5月の2ヶ月なので、実質的には90物件強を2ヶ月分ずつ突き合わせた規模と読むのが正しい。「184施設で検証済み」と読み替えると、カバレッジを二倍に見積もることになる。

もう一点、業態による精度差が大きい。ビジネス・シティは誤差中央値6.0%だが、リゾート・旅館は15.8%で、検証サンプルも34物件月と薄い。上場ホテルREITの保有物件が宿泊特化型に偏っているためで、これは推定手法の限界というより突合先の構成に由来する制約である。したがって旅館・リゾートの推定成約ADRは、都道府県単位・業態単位の相対比較には使えるが、個別施設の単価を1桁の精度で当てにいく用途には向かない。

比較の座標軸として、実績側の数字も置いておく。インヴィンシブル投資法人が公表した2026年6月の月次運営実績は、国内ホテル103物件で稼働率82.2%・ADR ¥12,306・RevPAR ¥10,118、前年同月比ではADRが−5.0%、RevPARが−6.0%であった。同REITの保有はビジネス・シティ中心であり、本稿のビジネスホテル全国中央値(推定¥7,159)より高い水準にあるのは、都市部・大型物件へのポートフォリオ偏りを反映したものである。全国中央値は地方の小規模施設まで含む「標準的な1施設」の水準であり、REITのポートフォリオ平均とは母集団が異なる。

薄いサンプルの月をどう外すか — 兵庫県2025年11月のケース

時系列でADRを追うときに見落とされやすいのが、月ごとの観測母数の変動である。推定対象施設数が一時的に大きく落ち込んだ月は、残った施設の構成が偏るため、単価が実態から乖離して跳ね上がることがある。

2024年1月から2026年8月までの47都道府県×32ヶ月の月次系列を点検したところ、推定対象施設数がその都道府県の月次中央値の60%を下回った月は1件だけ存在した。兵庫県の2025年11月である。

薄いサンプル月の判定例 — 兵庫県2025年10〜12月の推定対象施設数とADR
月推定対象施設数推定成約ADR扱い
2025年10月539¥13,326採用
2025年11月34¥17,611除外
2025年12月540¥15,145採用

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。兵庫県の推定対象施設数は同期間の月次中央値560施設

2025年11月の推定対象は34施設で、平常月の6%にすぎない。この月の推定成約ADR ¥17,611は前後の月より¥2,500〜¥4,300高く、上振れの方向が母数の落ち込みと一致している。本稿の全国系列では、この1点を除外したうえで中央値を再計算した。ADRの月次推移を扱うときは、値そのものより先に「その月に何施設を観測できていたか」を確認するのが実務上の安全策になる。

ADR・OCC・RevPAR・GOPの関係を1本の線でつなぐ

ADRは単独では収益を語れない。稼働率を犠牲にした値上げでもADRは上がるからである。ADRから利益までを一本の式でつなぐと、どの指標がどの階層の話なのかがはっきりする。

客室単価から営業総利益までの構造(前掲モデルケース・30日間集計の数値)

ADR ¥16,000 × OCC 60.0% = RevPAR ¥9,600

RevPAR(販売可能客室1室あたり売上)は、価格と稼働を1つに束ねた指標。ADRだけを追うと、値上げによる稼働減が見えなくなる。

RevPAR ¥9,600 × 販売可能客室数 3,000室 = 客室売上 ¥28,800,000

RevPARに供給量(客室数×日数)を掛けると客室部門の売上になる。ここまでが「客室部門」の話。

客室売上 + 料飲・宴会・その他売上 − 部門費用・一般管理費 = GOP(営業総利益)

GOPは全部門を合算した後の利益。朝食相当額を客室売上とF&B売上のどちらに按分してもGOPは変わらないが、ADRは変わる——按分ルールの確認が必要なのはこのためである。

出典:ホテルバンク編集部作成(金額は前掲モデルケース)

この構造から、ADRを見るときの実務上の作法が導ける。第一に、ADRの前月比や前年同月比を語るときは必ず同じ期間のOCCを併記する。ADRが上がってRevPARが下がっていれば、それは値付けではなく需要の話である。第二に、ADRは供給量の情報を持たないため、客室数の異なる施設同士を比べても収益規模は分からない。規模を含めて比べたいならRevPARに客室数を掛けた売上ベースで見る。第三に、ADRは客室部門の指標であり、料飲比率の高い旅館・リゾートではADRだけを最適化してもGOPが動かないことがある。

各指標のより詳しい解説は、以下の既存記事も参照されたい。RevPARとは(Revenue per available room)ではADRと稼働率の掛け算がなぜ経営判断の軸になるのかを、ホテルの収益最大化に活用したい9つのKPIではADR・OCC・RevPARを含む主要指標の全体像を整理している。稼働率そのものの読み方はリゾートホテルの客室稼働率とはが、GOPを起点にした投資判断の実例は運営委託3提案の採点フレーム — フィー控除後NOIで見る損益分岐GOP34.3%が参考になる。

宿泊料CPIとADRは別物 — 統計指数を自館の単価目標に使えない理由

「宿泊料の物価指数が前年比プラス何%だから、自館のADRも同じだけ上げられるはずだ」という議論を耳にすることがある。だが総務省が公表する消費者物価指数(CPI)の宿泊料は、ADRとは設計が違う。CPIは全国の宿泊料を対象とした固定バスケット型の価格指数であり、消費税込み、季節調整なし、ホテル・旅館・簡易宿所を横断した集計である。一方ADRは、個々の施設の客室売上を実際に売れた客室数で割った、税抜・施設単位の実績値である。

出典:総務省「消費者物価指数」(全国・宿泊料・2020年=100、e-Stat 統計表ID 0003427113)よりホテルバンク編集部作成

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(47都道府県の推定成約ADR中央値。推定対象施設数がその都道府県の月次中央値の60%を下回った月は除外=兵庫県2025年11月の1件)

二つのグラフを重ねて見ると、季節の山が8月にあることは共通している。しかし振れ幅が違う。CPIは2025年1月の150.2から8月の181.4まで+20.8%だったのに対し、推定成約ADRの全国中央値は同じ期間に¥8,960から¥11,407へ+27.3%動いた。指数は基準年のバスケット構成を保つよう設計されているため、繁忙期に高単価カテゴリへ需要が移るミックス変化を、現場ほどには拾わない。

前年同月比で見ると差はさらに大きい。CPI宿泊料の前年同月比は2026年1月+5.9%、3月+5.0%、6月+3.1%と、おおむね+3〜+6%の帯に収まっている。これに対し推定成約ADRの全国中央値は2026年1月が前年同月比+15.6%、3月+9.5%、6月−2.9%、7月−5.6%と、同じ年の中で二桁のプラスからマイナスまで振れている。

宿泊料CPIと推定成約ADR全国中央値の前年同月比(2026年1〜6月)
2026年宿泊料CPI
前年同月比
推定成約ADR全国中央値
前年同月比
差
1月+5.9%+15.6%+9.7pt
2月+6.0%+1.4%−4.6pt
3月+5.0%+9.5%+4.5pt
4月+4.6%+3.8%−0.8pt
5月+4.8%+4.1%−0.7pt
6月+3.1%−2.9%−6.0pt

出典:総務省「消費者物価指数」(e-Stat 統計表ID 0003427113)/メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。CPIは2026年6月が最新公表月

差が生じる要因は主に三つある。第一に対象範囲で、CPIには簡易宿所や民宿を含む全国の宿泊料が入る一方、本稿の推定成約ADRはOTA上で価格が観測できる施設が母集団である。第二に税区分で、CPIは消費税込み、ADRは税抜が原則である。第三に集計方法で、CPIは基準時のウエイトを用いた指数、ADRは各都道府県の中央値の中央値であり、施設構成の変化がそのまま反映される。

結論として、宿泊料CPIは「全国の宿泊価格が全体としてどちらへ動いているか」を示すマクロの温度計であり、個々の施設の値付け目標を導く指標ではない。自館のADR目標を組み立てるなら、同一商圏・同一業態の実勢水準と自館の需要曲線を見るのが筋である。逆に、事業計画の前提として中長期の価格上昇率を置く場面では、CPIのような広範囲の指数のほうが振れが小さく扱いやすい。用途によって使い分ければよい。CPIベースで宿泊料の価格転嫁がどこまで進んだかは、宿泊料はどこまで上がったか — CPIで見る2026年の価格転嫁力が時系列で追っている。

よくある質問

Q. ADRとRevPARはどう違いますか?

A. ADRは実際に売れた客室1室あたりの単価(客室売上÷販売客室数)、RevPARは売れなかった客室も分母に含めた販売可能客室1室あたりの売上(客室売上÷販売可能客室数)です。RevPAR=ADR×OCCの関係にあり、ADRだけが上がっても稼働が落ちればRevPARは下がります。値上げの成否はADRではなくRevPARで判定します。

Q. ADRに朝食代や入湯税は含まれますか?

A. 消費税・宿泊税・入湯税は自治体等への預り金であり、客室売上には含めません。朝食代はUSALIの考え方では料飲部門へ按分するのが原則ですが、実務では朝食付きプランの売上を客室部門に一括計上している施設もあります。他館やREIT開示値と自館ADRを比べる際は、按分ルールが揃っているかを先に確認してください。

Q. OTA等の掲載価格をそのままADRとして使えますか?

A. 使えません。掲載価格は2名1室利用時・1室あたり・税込の表示で、売れ残った高単価プランも含めた全プラン平均です。2026年7月の実測では、掲載価格の全プラン平均に対する推定成約ADRの比率は施設別中央値でビジネスホテル0.573、シティホテル0.492、リゾートホテル0.362、旅館0.340でした。掲載価格をADRとして扱うと、水準を大きく過大評価することになります。

Q. 1名で泊まった予約はADRにどう反映されますか?

A. 1室として1回カウントされ、その予約の客室売上がそのまま分子に入ります。宿泊人数はADRに影響しません。1室あたりの宿泊人数は、ADRとは別のダブルオキュパンシーという指標で管理します。掲載価格を人数で割って1人単価にした数字は、ADRではありません。

Q. 月次ADRは日次ADRの平均ではないのですか?

A. 違います。月次ADRは月間の客室売上を月間の販売客室数で割った値で、販売室数で加重された平均になります。日次ADRを単純平均すると、販売室数の少ない日と多い日が同じ重みで効いてしまい、実績と乖離します。

Q. 推定成約ADRの精度はどの程度ですか?

A. 上場ホテルREITの物件別公表ADRとの突合(184物件月・2026年4〜5月・5分割交差検証を20回反復)で誤差中央値は7.5%です。業態別ではビジネスホテル・シティホテルが6.0%(132物件月)、リゾートホテル・旅館が15.8%(34物件月)で、後者は検証サンプルが薄く精度が劣ります。なお184は物件×月の観測数であり、施設数ではありません。

まとめ

ADRは客室売上を販売客室数で割った、1室あたり・税抜・売れた分だけを対象とする指標である。定義自体は単純だが、日本のOTA表示が「2名1室・1室あたり・税込」であることから1室単価と1人単価の取り違えが起きやすく、また掲載価格をそのままADRと読む誤用が広く見られる。2026年7月の実測では、掲載価格の全プラン平均に対する推定成約ADRの比率は施設別中央値でビジネスホテル0.573、旅館0.340と、業態によって倍近い開きがあった。

水準感としては、2026年7月の推定成約ADR全国中央値が¥8,974、業態別ではビジネスホテル¥7,159、シティホテル¥9,131、旅館¥12,105、リゾートホテル¥14,180であった。都道府県別では最上位の沖縄県¥13,722と最下位の徳島県¥6,346で約2.2倍の幅がある。ただしこれらはいずれも推定値であり、誤差中央値7.5%、リゾート・旅館では15.8%という前提のうえで読む必要がある。

そして、ADRは単独では収益を語れない。RevPAR=ADR×OCCという関係を常に手元に置き、値上げの成否はRevPARで、規模を含めた比較は客室売上で、利益はGOPで判定する。宿泊料CPIのような統計指数は市場全体の方向感を掴むには有効だが、2026年上半期にはCPIが前年同月比+3〜+6%で推移する一方、推定成約ADRの全国中央値は+15.6%から−5.6%まで振れており、指数を自館の単価目標に読み替えることはできない。指標ごとに答えられる問いが違う——ADRを正しく使うとは、この線引きを守ることに尽きる。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

メトロエンジンリサーチのエリア別月次集計(2024年1月〜2026年8月・47都道府県×32ヶ月)および施設別の掲載価格・推定成約ADR。政府統計は総務省「消費者物価指数」(2020年基準・宿泊料・全国・月次/統計表ID 0003427113)。実績側の照合先はインヴィンシブル投資法人の月次運営状況(2026年6月度・国内ホテル103物件)。

■ 試算前提

推定成約ADRは、各施設のOTA掲載最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数(ビジネス・シティ0.897/リゾート・旅館0.607)を適用した税抜相当の推定値。エリア単位の値は対象施設の中央値。業態別集計は推定対象が5施設未満の都道府県を除外。月次系列は、推定対象施設数がその都道府県の月次中央値の60%を下回った月を除外している(2024年1月〜2026年8月で該当は兵庫県2025年11月の1件)。計算例の¥16,000・OCC 60.0%は本文中のモデルケースであり実測値ではない。

■ 限界・留意点

精度検証は184物件月(2026年4〜5月・5分割交差検証を20回反復)で誤差中央値7.5%。「物件月」は物件×月の観測数であり施設数ではない。業態差が大きく、ビジネス・シティの6.0%(132物件月)に対しリゾート・旅館は15.8%(34物件月)で、後者を個別施設の単価判断に用いることはできない。掲載価格と推定成約ADRは税区分・プラン範囲・利用人数の基準が異なるため、両者の差分は水準比較の目安であって値引き余地そのものではない。宿泊料CPIは対象範囲・税区分・バスケット構成がADRと異なり、指数の伸びを自館の単価目標に読み替えることはできない。

■ 市場データ

  • メトロエンジンリサーチ — 推定成約ADR(2026年7月・47都道府県・推定対象17,060施設)、掲載価格の全プラン平均および最安プラン水準、業態別補正係数と検証結果

■ 政府統計

■ REIT開示資料

■ 指標定義の参考

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