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海外修学旅行コスト上限の壁 — 国内中級ホテルの価格期待への波及

投稿日 : 2026.05.18 更新日 : 2026.05.19

沖縄県

京都府

北海道

海外修学旅行コスト上限の壁 — 国内中級ホテルの価格期待への波及

2026年度に台湾修学旅行を計画した東京都立高校に旅行会社が提示した見積は11万3,090円(税別・燃油サーチャージ別)。東京都が定める海外修学旅行費用の上限「11万5,000円(税抜)」まで残り1,910円という、ほぼ天井に張り付いた水準である。同時に沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)は、2025年度の沖縄修学旅行者数が前年比-11.1%の30万4,524人になる見通しと発表した。物価高騰で交通費が上がり、行き先を新幹線で行ける近場へ振り替える学校が増えたためだ。海外行きの天井と国内行きの再配分が同時に起きており、その圧力は最終的に修学旅行受入の主戦場である中級ホテル(ビジネスホテル・シティホテル)の価格期待に流れ込む。本稿ではメトロエンジンリサーチが追跡するうち稼働が確認できる約27,000施設のうち、沖縄・京都・北海道で客室数80室以上のビジネスホテル・シティホテル計365施設のデータを基に、その構造を整理する。

本記事における指標の定義

  • ADR(平均客室単価):OTA等で公開されている販売価格の平均値。実際の成約価格とは異なります(REIT開示データとの照合では、成約ADRより平均+25〜30%高い傾向。売れ残った高価格帯プランがOTA上に残り続けるため、公開価格の平均が成約価格より上振れする構造による)。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)・全プラン平均(素泊まり〜食事付きプランを含む)。
  • 修学旅行ピーク月:本稿では5・6・9・10・11月を指す。
  • 中級ホテル:客室数80室以上のビジネスホテル・シティホテルを指す。修学旅行団体の受入規模と一致しやすい。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ、観光庁、公益財団法人日本修学旅行協会、沖縄観光コンベンションビューロー、ホテルバンク編集部より作成。

公立高校の費用上限と実勢見積のあいだに残った余裕は2%以下

東京都教育委員会は公立高校の海外修学旅行費用について、2025年度まで「11万5,000円(税抜)を上限」、2026年度以降は「同額を標準」とする運用に改めた。「上限」から「標準」への文言変更は柔軟化を意図したものだが、現場で示される見積額は依然として旧上限とほぼ同水準である。トラベルボイスの報道(2025年6月)によれば、2026年度に台湾コースを準備している都立高校への提示額は11万3,090円。残された余裕は1,910円(1.7%)に過ぎず、燃油サーチャージや為替が10%動けば容易に天井を突き抜ける。

公益財団法人日本修学旅行協会が公表した2023年度実施状況によれば、高校修学旅行のうち国内実施率は95.7%、海外実施率は4.3%である。コロナ前の2018年度(国内86.0%/海外14.0%)と比較すると、海外比率は約3分の1まで縮んだ。協会は復元を牽引しているのは私立校であり、公立校の海外復元は鈍いと指摘する。公立校で海外を再開しにくい主因として、円安・航空運賃・燃油サーチャージ・宿泊費・現地体験費用の同時上昇が挙げられる。費用上限と実勢見積の距離が縮みきった結果、海外を諦めて国内へ振り替える学校は今後さらに増えると見るのが自然である。

出典:東京都教育委員会、トラベルボイス(2025/06/30)、公益財団法人日本修学旅行協会よりホテルバンク編集部作成

沖縄修学旅行は前年比-11.1% — 戻り先は本州の中近距離

沖縄観光コンベンションビューローは2025年度の沖縄修学旅行入域者数を30万4,524人(前年比-11.1%)と推計した。OCVBは減少の主因を「物価高騰に伴う交通費の上昇で、行き先を新幹線などの陸路で行ける近場に変更した学校が増えたため」と説明している。修学旅行の総支出は航空運賃の割合が大きく、空路を要する沖縄・北海道は燃油・運賃の影響を直接受けやすい。京都・関西・中部などの中近距離が代替先として選好されることは、構造上ほぼ必然である。沖縄県内で修学旅行団体の需給がどう動いているかについては、2026年慰霊の日の沖縄南部3市宿泊需給分析が地域単位の動態を整理している。

裏側で観察すべきは、京都の修学旅行団体受入が支える需要の質である。京都市は修学旅行誘致を観光政策の主要施策に位置付けており、市バス・地下鉄を組み合わせた1Dayチケットや、寺社・職人体験のコーディネートを通じて、団体ユニットを束ねた連泊需要を確保してきた。北海道は道教育委員会が「創意工夫を活かした修学旅行」を掲げ、農村・自然体験を組み込んだコース造成を支援する。沖縄から流れた団体需要は、これら2エリアの中級ホテル価格期待にじわじわと影響を及ぼす。

出典:沖縄観光コンベンションビューロー「修学旅行入込状況調査」、琉球新報(2024/12/04)、公益財団法人日本修学旅行協会よりホテルバンク編集部作成

中級ホテルの平日ADRは¥18,000〜¥24,000帯 — 修学旅行団体価格の「家賃」

本稿では、修学旅行団体の受入実態と整合する施設として、客室数80室以上のビジネスホテルとシティホテルを「中級ホテル」と定義する。沖縄・京都・北海道の3エリア合計で365施設、北海道のビジネスホテルが148施設、京都のビジネスホテルが85施設、北海道のシティホテルが47施設と上位を占める。2026年5月平日(11〜15日)の平均販売価格は、京都ビジネスホテルが¥23,900、北海道ビジネスホテルが¥18,400、沖縄ビジネスホテルが¥18,200。シティホテルは京都¥32,500、北海道¥23,700、沖縄¥23,800で、京都だけが頭一つ抜けている。

エリア カテゴリ 対象施設数 平均客室数 平均ADR(平日) 最低ADR
京都府シティホテル20336室¥32,500¥7,000
京都府ビジネスホテル85180室¥23,900¥5,100
北海道シティホテル47293室¥23,700¥5,700
北海道ビジネスホテル148199室¥18,400¥3,300
沖縄県シティホテル7249室¥23,800¥7,980
沖縄県ビジネスホテル58172室¥18,200¥3,150

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(対象期間:2026/5/11〜2026/5/15の月〜木平日、2名1室税込)

修学旅行の宿泊単価は、団体一括契約や食事込みプランの兼ね合いで一般客向け公開価格より低位に置かれることが多い。本稿の関心は団体単価そのものではなく、ホテル側が「修学旅行団体に提示する価格の合理的なフロア(下限)」と「一般客向け公開価格の分布」がどう乖離しているか、である。次の節でその分布を直接見る。

修学旅行価格帯(¥4,500〜¥9,000)の在庫は急速に薄くなった

修学旅行団体の予算感に近い¥4,500〜¥9,000という価格帯について、中級ホテルがどれだけの観測在庫を出しているかを集計した。2026年5月平日(11〜15日)の販売観測の分布を見ると、京都ではこの価格帯に該当する観測点は1,004件で、全観測点(57,789件)の1.7%。北海道は12,889件のうち4.9%、沖縄は2,973件のうち5.0%である。3エリアいずれも、修学旅行価格帯はもはや「市場の片隅」に追いやられている。逆に¥15,000以上の観測点は京都で81.5%、北海道で65.5%、沖縄で59.0%を占める。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(N=237,889観測点、対象期間:2026/5/11〜2026/5/15)

団体一括契約は公開価格と別チャネルで設定されるため、観測点が薄い=団体価格が出せないとは限らない。ただし、ホテル側の収益機会が¥15,000以上のレンジに集中していくと、原資となる「相部屋・素泊まり・大量稼働」型のプランは縮小しやすい。修学旅行団体に提示する1人あたり¥7,000〜¥9,000帯(2名1室換算で¥14,000〜¥18,000)は、シティホテルでは利益機会の最下層にあたり、ホテル側の交渉スタンスが厳しくなる構造である。

修学旅行ピーク月と非ピーク月の平日ADR — 京都は5月と11月で+38%の段差

修学旅行のピーク月は5・6・9・10・11月で、特に5月と10〜11月に集中する。3エリアの中級ホテルの平日ADR推移を見ると、京都は5月¥29,800→6月¥25,500(-14.4%)→7月¥24,400(-18.1%)と一旦底をつけ、10月¥36,400(+22.1%)、11月¥41,200(+38.3%)と紅葉期に大きく跳ね上がる。北海道は5月¥21,000の低い水準から6月¥25,800、7月¥29,300、8月のピーク¥26,800を挟み、10月以降¥23,800→¥22,000と急落する。沖縄は通年で¥17,700〜¥21,900の狭いレンジで推移し、9〜11月の値動きは限定的だ。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(N=2,148,776観測点、月〜木平日のみ、客室数80室以上のビジネス・シティホテル)

京都の11月平均が¥41,200で5月平均¥29,800を+38%上回るという事実は、修学旅行団体の「秋シーズン受入」を取り合う構造が既に出来上がっていることを示す。紅葉時期の京都中級ホテルは、一般観光客(特にインバウンド)と修学旅行団体が同じ在庫を奪い合う形になり、団体価格の見積も毎年上振れしやすい。一方、北海道は10〜11月が低位に沈むため、修学旅行団体にとって秋の北海道は相対的に安定した選択肢として残っている。沖縄は通年フラットだが、空路コストが上昇局面では団体総額の交渉余地が小さい。中級ホテル帯の「平日が下がりきらない」レートフロア構造については、修学旅行が中級ホテルのレートフロアを形成する構造で6都市の平日/土曜ADR比較を通じて掘り下げている。

ピーク月平日のADRは京都+19.7%、北海道-18.9% — 行き先選好の経済合理性

修学旅行ピーク月(5・6・9・10・11月)と非ピーク月の平日ADRを並べると、京都は¥31,400 vs ¥26,300(+19.7%)、沖縄は¥20,200 vs ¥21,300(-5.0%)、北海道は¥24,300 vs ¥30,000(-18.9%)となる。冬の北海道とコロナ後インバウンドが押し上げる京都が、平年のフラット感を打ち消す逆方向のシグナルを出している。修学旅行は学事日程から5月・10〜11月に集中し、北海道はここが季節的に最安。逆に京都は紅葉と秋インバウンドの重なりで最高値圏。経済合理性だけで言えば、北海道の中近距離コースは公立校の「上限予算で組み立てやすい行き先」として浮上しやすい。

エリア ピーク月平日ADR 非ピーク月平日ADR 差分 修学旅行価格帯シェア(ピーク)
京都府¥31,400¥26,300+19.7%1.0%
沖縄県¥20,200¥21,300-5.0%3.1%
北海道¥24,300¥30,000-18.9%1.8%

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(対象期間:2026/5〜11、N=8,310,231観測点)

中級ホテル満足度は3エリアとも4点台後半 — 立地と清潔感が支える受入余力

ホテルバンク編集部が集計した2024年以降の宿泊者口コミ(N=783,773件、2024年1月〜2026年4月)から、対象365施設の評価を6カテゴリで集計した。立地は京都4.39、北海道4.34、沖縄4.33とほぼ並び、清潔感は京都4.38、北海道4.23、沖縄4.27、サービスは京都4.32、北海道4.22、沖縄4.28と僅差で京都優位。朝食は京都4.25、北海道4.24、沖縄4.15で、北海道の朝食評価が一般イメージほど突出していない点は特徴的だ。施設・アメニティだけは全エリア3.9台で、設備の更新余地が共通する。3エリアいずれも修学旅行団体の宿泊体験要件(清潔感・立地・サービス)をクリアできる水準にある。

出典:ホテルバンク編集部調べ(N=783,773件、2024年1月〜2026年4月、客室数80室以上のビジネス・シティホテル)

満足度の水平方向の差が小さいほど、団体送客側(旅行会社・学校)の選択は価格と立地で決まる。「立地は3エリアとも4.3点台」という事実は、修学旅行団体の受入条件として「駅近・学習スポットへのアクセス」が既に標準装備になっていることを意味する。差別化軸は朝食、施設・アメニティ、団体応接ノウハウなど、団体特化の付帯価値に絞られる。

代替先としての東南アジア — 公立校の選択肢にはまだ重い

海外修学旅行を継続する学校では、シンガポール・マレーシア・台湾・韓国などのアジア圏が主流である。トラベルボイス(2025/01)の整理によれば、私立校はコロナ後にこれらアジア中近距離コースを積極的に復元させており、平和学習・SDGs・グローバル探究といった目的に再編して継続している。一方、公立校では費用上限の制約に加え、為替・燃油・テロ警戒情勢の変動が校長判断のリスク管理ハードルを高め、東南アジアへの「乗り換え」は容易には進まない。台湾コースが11万3,090円で東京都の上限ギリギリということは、シンガポール・マレーシアコースは事実上、公立校の現行上限内では成立しにくい。

結果として、海外を断念した公立校の需要は、ほぼ全量が国内中近距離に振り替わる。京都・北海道は学事日程・新幹線アクセス・受入実績の3点で最も振り替えの受け皿となりやすく、沖縄も短時間フライトの利便性と平和学習資産で一定のシェアは保つが、空路コストの感応度が高いため減少圧力は続く。OCVBの-11.1%という数字は、その振替の最初の年が見えてきた、と読める。時期集中の緩和を促す文科省通知後の動きについては、修学旅行の時期分散圧力とホテル価格高騰のクロスポイントで2026年6月時点の代替先ビジネスホテル比較として検証している。

価格期待波及の構造 — 中級ホテルが直面する3つのシグナル

ここまでのデータから、海外修学旅行コスト上限の壁が国内中級ホテルの価格期待にどう波及するか、3つのシグナルが浮かび上がる。

シグナル 観察された事実 中級ホテルへの示唆
①コスト天井の張り付き公立高校の海外修学旅行上限¥115,000に対し台湾コース見積¥113,090(残余1.7%)。海外実施率4.3%まで縮小。公立校発の海外需要は今後さらに国内へ振替。中級ホテルの団体予約問合せ件数は中期的に増加余地。
②空路コスト感応沖縄修学旅行が2025年度-11.1%。OCVBは交通費高騰で陸路近場へ振替と説明。空路依存エリア(沖縄・北海道)は団体総額の交渉余地が縮小。京都・関西・中部の中近距離ホテルへ需要分散。
③価格帯の薄層化¥4,500〜¥9,000帯の観測点シェアは京都1.7%・北海道4.9%・沖縄5.0%まで縮小。¥15,000+が59〜82%を占める。団体価格を出すための「下位プラン」の在庫余力が低下。学校側の予算上限と中級ホテルの一般市況とのギャップが拡大。

結論として、海外修学旅行コスト上限の壁は、海外行きを断念した需要を国内中近距離に押し込み、国内中級ホテルへの団体問合せ件数を中期的に増やす方向の圧力をもたらす。同時に、その受け皿である中級ホテルでは¥15,000+のレンジに在庫がシフトし、団体予算と一般市況のギャップが広がっている。修学旅行の単価上限はインフレスライドしにくい性質(教育委員会の年度予算で固定される)を持つため、「予算を据え置きつつ受入価格は上昇する」という構図は、ホテル側にとっては団体プランの利益寄与度を見直す好機でもある。受入を続ける施設は、団体専用フロアの確保・朝食オペレーションの効率化・学習プログラム連携といった付帯価値で差別化を進めることで、団体予算の天井下でも収益機会を維持できる余地がある。

⚠ 将来日程のADRに関する注意:本記事のADRは調査時点でOTAに公開されている販売価格の平均であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点で高く設定されている価格が直前値下げで下落する可能性がある点にご留意ください。修学旅行団体の実際の契約価格は別チャネルで設定されるため、本稿のADRは「中級ホテルの一般市況フロア」の代理指標として扱ってください。

参考資料・出典一覧

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