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秋祭りが埋めるのは何泊か — 川越1泊・京都1泊・佐賀7泊、2026年10月の在庫比較

投稿日 : 2026.08.26

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秋祭りが埋めるのは何泊か — 川越1泊・京都1泊・佐賀7泊、2026年10月の在庫比較

秋祭りの宿泊需要を語るとき、まず持ち出されるのは動員数である。「◯◯万人が訪れる祭だから宿が埋まる」という説明は直感的で、実際に多くの観光振興資料がその順序で書かれている。ところが2026年10月の在庫データを並べると、動員規模と宿泊需要の大きさは、必ずしも同じ方向を向いていない。効いているのは別の変数——その祭が、都心から日帰りできる場所にあるかどうかである。

本稿では、開催時期が近く性格の異なる3つの祭を取り上げ、会場市区町村の客室在庫の消化状況を同一の物差しで比較する。川越まつり(10月17日・18日/埼玉県川越市)、時代祭と鞍馬の火祭(10月22日/京都市)、佐賀インターナショナルバルーンフェスタ(10月30日〜11月3日/佐賀市)の3件である。結論を先に置くと、祭が客室を押し上げる夜数は川越が1泊、京都が1泊、佐賀が7泊と大きく異なり、来場者1,000人あたりの増分客室数では佐賀が川越の約7倍に達した。

本記事における指標の定義

  • 稼働率(OTA掲載在庫ベース・推定):エリア内の総客室数に対する販売済み客室数の割合(OTA販売在庫に基づく推定値)。計算式は(総客室数 − 残室数)÷ 総客室数。OTA上で販売される在庫の消化状況に基づく推定値であり、施設全体の実稼働率とは異なります。本記事では都道府県・市区町村単位でのみ使用し、個別施設の稼働率は算出していません。
  • LT(リードタイム):チェックイン日までの日数。LT0=当日。本記事の比較は原則としてLT80(チェックイン80日前)の観測値に揃えています。対象の全日付で観測が成立する共通のリードタイムがLT80であるためです。
  • 同曜日中央値(ベースライン):2026年10月1日〜11月10日の41日間のうち、祭期間を除いた同一曜日の日について、LT80時点の推定稼働率の中央値。祭日の値からこれを引いた差を「押し上げ幅(pt)」と呼びます。
  • 掲載価格:OTA上で公開されている販売価格の平均(2名1室利用時・1室あたり料金・税込・全プラン平均)。成約価格ではありません。
  • ADR(平均客室単価):各施設がOTA上で公開する最安プラン水準(2名1室利用時・1室あたり料金・税込)に業態別の補正係数を適用して算出した推定成約単価(税抜相当)。上場ホテルREITが開示する物件別実績との照合で誤差中央値は約7%。推定値であり、各施設の実際の成約価格・会計数値とは異なります。エリア単位のADRは対象施設の中央値。
  • データ出典:メトロエンジンリサーチ
Key Takeaways
  • — 川越は土曜の一夜だけ — 10月17日(土)の推定稼働率は95.5%(同曜日中央値比+12.9pt)だが、翌18日(日)は+3.7ptに縮む。
  • — 周辺には広がらない — 大宮・川口・所沢はいずれもベースライン割れ、池袋(豊島区)は+0.7pt。日帰り圏では需要は分散せず、会場市の薄い在庫だけが締まる。
  • — 京都は会場圏より宿泊集積地 — 押し上げは東山区+8.0pt・中京区+7.1ptで、会場を抱える左京区(+4.4pt)を上回る。4区合計の増分は約1,949室。
  • — 佐賀は7泊続く台地 — 10月29日〜11月4日の全泊で同曜日中央値を上回り、単独帰属できる4泊の増分は約1,417室。掲載価格は最大2.04倍。
  • — 効くのは動員ではなく距離 — 来場1,000人あたりの増分客室は川越0.25室に対し佐賀1.77室で約7.1倍の開き。

3つの祭の日程と、会場周辺の「受け皿」の厚み

まず日程を公式情報で確認しておく。川越まつりは川越まつり公式サイトが「令和8年10月17日(土)、18日(日)開催予定」と告知している。時代祭は毎年10月22日に斎行され、2026年は木曜日にあたる。同じ10月22日の夜には鞍馬の火祭が行われ、京都市公式の観光情報サイトでも「2026年10月22日(木)18:00〜24:00過ぎ」と案内されている。佐賀インターナショナルバルーンフェスタは公式サイトの大会概要が「バルーン競技=2026年10月30日(金)〜11月3日(火・祝)の5日間(公式練習、表彰式を含めた全日程 2026年10月28日(水)〜11月4日(水))」と明記しており、参加は124機・チームである。

次に、それぞれの会場からどれだけの客室が手の届く範囲にあるかを見る。宿泊施設マスターをもとに、会場座標から半径5km・10km・30kmの施設数と客室数を集計した。

表1:3会場から半径5km・10km・30km圏の宿泊施設数と客室数(宿泊施設マスターの登録座標に基づく集計)
会場半径5km半径10km半径30km30km÷10km
川越(蔵造りの町並み周辺)41施設 / 1,455室72施設 / 2,518室1,058施設 / 45,429室18.0倍
京都御苑(時代祭 行列出発地)3,643施設 / 71,285室4,143施設 / 77,141室4,580施設 / 88,146室1.1倍
嘉瀬川河川敷(佐賀バルーン会場)36施設 / 1,781室69施設 / 2,567室414施設 / 12,256室4.8倍

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(宿泊施設マスターの登録座標に基づく集計)

ここに、この記事の出発点になる偶然がある。川越と佐賀は、半径10km圏の客室数がほぼ同じ(2,518室と2,567室、差は2%未満)なのだ。受け皿の絶対量が同規模でありながら、後述するとおり在庫の動き方はまったく違う。違いを生んでいるのは10km圏の外側で、川越の30km圏は10km圏の18.0倍——つまり東京北西部の巨大な客室ストックと、それ以上に大きな「自宅」が控えている。佐賀の30km圏は4.8倍にとどまる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

比較の設計 — なぜLT80と同曜日中央値なのか

祭の日と平常日を比べるとき、二つの落とし穴がある。ひとつは曜日で、土曜と木曜を並べても意味がない。もうひとつはリードタイムで、10月17日と11月3日では調査時点からの残り日数が違うため、同じ日に観測した値どうしを並べると、単に「近い日付ほど埋まっている」だけの図になる。

そこで本稿は、対象の全日付で観測が成立する共通点であるLT80(チェックイン80日前)に揃え、さらに祭期間を除いた同一曜日の中央値をベースラインに置いた。ベースラインの構成日数はいずれもN=4〜5日である。なお10月10日〜12日は3連休にあたり、この日の高い値もベースラインに含めている。つまりベースラインはやや高めに出ており、算出される押し上げ幅は保守的な側に振れている。

施設単位のスクリーニングも併せて実施した。OTAに総客室の3割以上を出している施設に限定したところ、川越市は在庫が観測できた14施設のうち5施設、佐賀市は48施設のうち15施設、京都市中京区は92施設のうち29施設が該当した。川越市の該当数が少ないのは、公式サイト直販や電話予約を中心としたチャネル運用、チェックインが近づくにつれてOTAへ在庫を小出しに追加していく在庫コントロール、契約上のOTA割当量そのものが小さいことなど、複数の要因が考えられ、公開データからは一つに絞れない。該当施設数が少ない川越市では施設単位の断定を避け、本稿の分析は市区町村単位の集計にとどめている。

もうひとつ重要な前提がある。対象日はいずれも調査時点(2026年8月23日)から55〜73日先であり、予約はまだ進行中である。以下の数値は「現時点までの途中経過」であって、最終的な着地ではない。

川越まつり — 埋まるのは土曜の1泊だけ、掲載価格は2.2倍

川越市でOTA上の在庫が観測できるのは14施設・838室である。LT80時点の推定稼働率を10月1日から11月10日まで日別に並べると、10月17日(土)だけが突出する。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(川越市 N=14施設・838室/佐賀市 N=48施設・2,100室、LT80時点)

10月17日(土)の推定稼働率は95.5%、残室は838室のうち38室にとどまる。祭期間を除いた土曜の中央値は82.6%なので、押し上げ幅は+12.9pt。同日の掲載価格の平均は約¥40,700で、平常土曜の中央値である約¥18,500に対して2.20倍に達している。

ところが翌18日(日)は推定稼働率80.9%(2026年10月18日泊・LT80時点の観測、残室160室)、日曜中央値77.2%に対して押し上げ幅は+3.7ptに縮む。掲載価格も約¥22,100(1.56倍)と、前日の水準からは後退する。19日(月)に至ってはベースラインを下回る。前夜祭にあたる16日(金)も+1.8ptで、実質的に平常の金曜と変わらない。

この形は祭のプログラムともよく対応している。川越まつり公式サイトが公表した令和5年度の来場者数は延べ56万1千人で、内訳は土曜34万2千人、日曜21万9千人だった。人出そのものが土曜に厚く、そして宿泊在庫が締まるのも土曜の一夜だけである。日曜に来た人は、その日のうちに帰る。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(川越市 N=14施設・838室、観測はLT90以内)

残室推移で見ると、10月17日はLT90(7月19日の観測)の時点ですでに残室39室であり、その後LT56(8月22日観測)まで24〜46室のレンジで推移している。つまりこの一夜は3か月近く前から在庫が薄い状態が続いている。比較のために置いた10月24日(土)はLT90で176室、10月3日(土)はLT90で218室からの出発で、両者は緩やかに消化が進む通常の形を描く。

周辺には広がらない — 大宮・川口・所沢はむしろ下がる

「日帰り圏の祭では宿泊需要が周辺に薄く広がる」という見立ては、直感的にはもっともらしい。会場周辺の宿が取れなければ、一駅二駅離れた街に泊まればよいからだ。しかし在庫データはこれを支持しなかった。

表2:川越まつり当日(2026年10月17日・土)の推定稼働率と土曜中央値との差(LT80時点)
エリア客室数(観測施設)10/17(土)推定稼働率土曜中央値押し上げ幅
川越市(会場)838室(14施設)95.5%82.6%+12.9pt
さいたま市大宮区2,750室(13施設)75.4%81.1%−5.7pt
川口市648室(9施設)48.9%57.6%−8.7pt
所沢市389室(4施設)78.4%83.5%−5.1pt
豊島区(池袋)10,067室(63施設)66.6%65.9%+0.7pt
新宿区20,258室(119施設)82.6%77.4%+5.2pt(※)

※新宿区の値は都心固有の需要要因で決まっており、川越まつりに帰属させることはできない。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(LT80時点)

川越に隣接する3つの市区はいずれもベースラインを下回った。池袋を擁する豊島区は+0.7ptで、実質的に動いていない。池袋から東武東上線の急行で約30分という距離にありながら、祭は池袋の客室在庫を1ptも動かさない。新宿区は+5.2ptと数字の上では最大だが、20,258室という規模のエリアが週末に動く理由はいくらでもあり、これを祭の波及と読むのは無理がある。

つまり日帰り圏の祭で起きているのは「周辺への薄い拡散」ではなく、会場市の限られた在庫だけが一夜で締まり、それ以外は自宅に帰るという二分である。川越の30km圏に45,429室が控えていることは、宿泊需要の受け皿としてではなく、むしろ「泊まらずに帰れる距離」の証明として機能している。遠隔地の花火大会で周辺エリアへの需給波及が実際にどこまで届くかについては、長岡花火大会2026 — 周辺エリアへの需給波及を定量化が対照的なケースを示している。

時代祭・鞍馬の火祭 — 会場圏より宿泊集積地が動く

京都は事情が違う。祭の会場そのものが、日本有数の宿泊集積地の中にあるからだ。10月22日(木)のLT80時点の推定稼働率を、京都市の主要4区で見る。

表3:時代祭・鞍馬の火祭当日(2026年10月22日・木)の京都市4区の推定稼働率と木曜中央値との差(LT80時点)
エリア客室数(観測施設)10/22(木)木曜中央値押し上げ幅掲載価格倍率
東山区3,354室(132施設)74.5%66.5%+8.0pt1.02倍
中京区11,552室(158施設)85.1%78.0%+7.1pt1.15倍
左京区(平安神宮・鞍馬)1,228室(35施設)81.2%76.8%+4.4pt1.09倍
下京区19,686室(283施設)81.2%77.1%+4.1pt1.09倍

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(LT80時点、観測施設数はエリア内で在庫が観測できた施設)

興味深いのは順位である。時代祭の終着地である平安神宮も、鞍馬の火祭の舞台である鞍馬も、どちらも左京区にある。ところが押し上げ幅が最も大きいのは東山区(+8.0pt)と中京区(+7.1pt)で、会場を抱える左京区は+4.4ptにとどまった。

これは京都の宿泊需要の性質をよく表している。左京区でOTA上に在庫が観測できるのは35施設・1,228室で、京都市の宿泊在庫のごく一部でしかない。祭のために京都に泊まる人は会場の隣に泊まるのではなく、四条烏丸や京都駅周辺、祇園といった普段から観光の拠点として機能している場所を選ぶ。祭は需要の「行き先」を変えるのではなく、既存の宿泊集積地の稼働をわずかに底上げする。需要の山が会場圏の外に立つ現象は京都に限った話ではなく、鳥取9月5日の需要の山は会場圏になかったでも同じ構図が確認できる。

押し上げ幅そのものは3祭のなかで最も小さい。しかし母数が桁違いに大きいため、客室数に換算した増分は4区合計で約1,949室(中京区820室、下京区807室、東山区268室、左京区54室)と、1泊としては3祭で最大になる。掲載価格の上昇も、東山区1.02倍・下京区1.09倍と穏やかで、川越の2.20倍とは対照的である。厚い在庫は、需要の増加を価格ではなく数量で吸収する。

佐賀バルーンフェスタ — 7泊続く台地と、30km圏への染み出し

佐賀市の形は、川越とも京都とも違う。10月29日(木)から11月4日(水)まで、7泊すべてで同曜日中央値を上回る。スパイクではなく台地である。

表4:佐賀市の宿泊日別 推定稼働率・残室数・同曜日中央値との差(2026年10月29日〜11月4日、LT80時点)
宿泊日推定稼働率残室同曜日中央値押し上げ幅掲載価格倍率
10/29(木)公式練習81.5%384室64.7%+16.8pt1.35倍
10/30(金)競技初日83.2%349室63.8%+19.4pt1.51倍
10/31(土)85.3%306室70.3%+15.0pt1.50倍
11/01(日)84.0%333室67.7%+16.3pt1.96倍
11/02(月)※94.3%118室58.1%+36.2pt1.99倍
11/03(火・祝)最終日※76.2%496室59.2%+17.0pt1.56倍
11/04(水)表彰式※90.9%188室59.9%+31.0pt2.04倍

※11月2日〜4日は唐津くんち(唐津市、2026年11月2日〜4日)と日程が重なる。両イベントの効果は分離できない。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(佐賀市 N=48施設・2,100室、LT80時点)

佐賀市の観測母数は48施設・2,100室で、川越市の2.5倍にすぎない。それでも押し上げ幅は連日+15〜19ptを維持し、掲載価格は日曜に約¥38,200(平常日曜の1.96倍)まで上がる。日曜という、平常なら最も緩む曜日が最も強く上振れしているのが特徴的だ。

ただし11月2日〜4日については注意が必要である。同じ期間に唐津市で唐津くんちが開催されており(唐津市公式が11月2日〜4日と告知)、佐賀市の11月2日の+36.2ptは両方の効果が重なった値である。バルーンフェスタ単独に帰属できるのは10月29日〜11月1日の4泊で、この範囲の増分は約1,417室となる。

周辺への染み出しも観測できる。同じ4泊で、鳥栖市が+167室、嬉野市が+107室、武雄市が+74室と、いずれもプラス方向に動いた。とりわけ嬉野・武雄は温泉地であり、11月1日の掲載価格が武雄市で1.30倍、嬉野市で1.34倍に上がっている。会場から30km圏という距離は、日帰りには遠く、宿泊の代替地としてはちょうどよい。会場を中心とした同心円で受け皿がどう積み上がっているかは、佐賀バルーンフェスタ2026の宿泊、会場10km圏は2,567室 — 30km圏1.2万室で受ける同心円で距離帯ごとに整理している。一方で唐津市は10月29日〜11月1日にはマイナスで推移し、11月2日以降に自らの祭で跳ね上がる。福岡市博多区は期間を通じてほぼ平常か、やや下回る水準である。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(LT80時点。川越群は10/17、京都群は10/22、佐賀群は10/29〜11/1の平均)

動員では説明できない — 来場1,000人あたりの増分客室

3つの祭を「動員に対してどれだけの客室を生んだか」で並べ直してみる。川越まつりの来場者数は公式サイトが公表した令和5年度の実績で延べ56万1千人、佐賀バルーンフェスタは大会公式サイトが「大会期間中の来場者数は80万人を超える」と案内している。時代祭・鞍馬の火祭については沿道観覧が中心で公表された来場者数が見当たらないため、この指標は算出していない。

表5:来場者数に対する会場市の増分客室(推定)と来場1,000人あたり換算
祭押し上げが続く夜数会場市の増分客室(推定)来場者数来場1,000人あたり
川越まつり(川越市)1泊(実質)139室(2泊合計)56万1千人(令和5年度)0.25室
時代祭・鞍馬の火祭(京都市4区)1泊1,949室(4区合計)公表値なし—
佐賀バルーンフェスタ(佐賀市)7泊1,417室(10/29〜11/1の4泊)約80万人(大会公式)1.77室

増分客室=(祭日の推定稼働率 − 同曜日中央値)× 対象エリアの客室数。OTA上で在庫が観測できる施設に基づく推定であり、OTA非掲載の施設・親族宅への滞在などは含まれない。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

来場1,000人あたりの増分客室は、川越が0.25室に対し佐賀が1.77室——約7.1倍の開きがある。動員規模はむしろ佐賀が1.4倍程度で、この差を説明できない。効いているのは距離である。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(LT80時点。佐賀市は10/29〜11/1の4泊平均)

あわせて掲載価格の反応も整理しておく。川越市10月17日が2.20倍、佐賀市11月4日が2.04倍・11月2日が1.99倍と、在庫が薄いエリアほど価格の振れが大きい。一方で京都は最大でも中京区の1.15倍にとどまる。在庫の厚みが、需要の増分を価格に転嫁するか数量で吸収するかを決めていると読める。

運営者にとっての読みどころ

ここまでの観察を、宿泊施設の運営に引き寄せて整理する。

日帰り圏の祭が立地にある場合——川越型では、収益機会は「祭の日」ではなく「祭の前夜」に集中する。10月17日(土)と18日(日)の差(+12.9ptと+3.7pt)は、来場者の多くが本祭の日に日帰りしていることを示している。前夜に厚く、翌日は薄い。この非対称性を前提に、土曜を単泊で取りにいく設計と、日曜以降を平常運用に戻す設計を分けておくと、需要の形に沿った受け方ができる。また掲載価格が平常土曜の2.2倍まで開いていることは、市場がこの一夜の希少性をすでに織り込んでいることを意味する。ここに、直前まで在庫を持ちすぎない段階的な出し方を組み合わせれば、単価の取り切りにさらなる伸びしろが生まれる。

宿泊集積地のなかにある祭の場合——京都型では、会場の至近であることは必ずしも優位にならない。実際、押し上げ幅が大きいのは東山区と中京区で、会場を抱える左京区ではない。祭は既存の観光動線の上に乗る。したがって訴求すべきは「会場から近い」ではなく、その日に京都へ来る理由を持つ人にとっての移動のしやすさである。掲載価格の上昇余地は限定的(1.02〜1.15倍)だが、平日木曜の稼働を数百室単位で底上げできる点に価値がある。

遠隔地の祭が立地にある場合——佐賀型は最も収益機会が大きい。7泊にわたって需要が続き、しかも平常なら緩む日曜・月曜が最も強く上振れする。連泊需要を取りにいく余地が大きく、実際に周辺30km圏の温泉地(嬉野市・武雄市)にも11月1日を中心に染み出している。会場から少し離れた宿にとっては、「会場圏が埋まったあとの受け皿」として明確なポジションがある。ただし今年は唐津くんちと日程が重なるため、11月2日以降は複数の需要が同時に立つ点を織り込んでおきたい。

まとめ — 動員より距離

「動員数が大きい祭ほど宿泊需要が立つ」という前提は、少なくとも本稿の3件では成り立たなかった。来場56万人の川越まつりが会場市に生んだ増分は139室(2泊合計)、来場80万人規模の佐賀バルーンフェスタは4泊で1,417室。来場1,000人あたりに直すと約7倍の差がつく。

また「日帰り圏の祭では宿泊需要が周辺に薄く広がる」という仮説も支持されなかった。川越に隣接する大宮・川口・所沢はいずれもベースラインを下回り、池袋は±1pt以内で動かない。日帰りできる祭では、需要は周辺に散らばるのではなく、会場市の薄い在庫が一夜だけ締まり、残りは自宅に帰る。

一方で「遠隔地の祭では会場圏に集中する」という仮説は、佐賀については概ね成立した。ただし完全な集中ではなく、30km圏の温泉地にも明確な染み出しが見られる。集中と拡散の境界は、会場から日帰りできるかどうかに引かれている。

なお本稿の数値はすべて調査時点(2026年8月23日)でのLT80時点の観測に基づく途中経過であり、各祭の宿泊需要が最終的にどこに着地するかは、これから2か月の予約動向次第である。

⚠ 将来日程のデータに関する注意:本記事で扱った宿泊日はいずれも調査時点(2026年8月23日)から55〜73日先であり、予約は進行中です。稼働率・残室数・掲載価格はいずれも調査時点でOTAに公開されている在庫と販売価格に基づく推定であり、チェックイン日に近づくにつれて変動します。現時点で在庫が薄いことは最終的な満室を意味せず、逆に現時点で余裕がある日程がその後に埋まる場合もあります。また、この段階では施設側がOTAに在庫を小出しに追加していく運用の途中である可能性もあり、断定的な読み取りは避けています。

集計方法と出典

本稿の需給データは、メトロエンジンリサーチが継続収集しているOTA公開在庫の観測に基づく。市区町村単位で、対象日ごとにエリア内の総客室数と残室数を集計し、推定稼働率を算出した。観測母数は川越市14施設・838室、さいたま市大宮区13施設・2,750室、川口市9施設・648室、所沢市4施設・389室、豊島区63施設・10,067室、新宿区119施設・20,258室、京都市左京区35施設・1,228室、中京区158施設・11,552室、下京区283施設・19,686室、東山区132施設・3,354室、佐賀市48施設・2,100室、唐津市35施設・906室、鳥栖市9施設・1,030室、武雄市16施設・490室、嬉野市32施設・1,080室、福岡市博多区218施設・22,973室である。各日付の観測施設数は本文および図表の注記に記載した。

比較はすべてLT80(チェックイン80日前)の観測値に揃えた。ベースラインは2026年10月1日〜11月10日の41日間から祭期間を除いた同一曜日の中央値(N=4〜5日)である。施設単位のスクリーニングでは、OTAに総客室の3割以上を出している施設に限定した母集団を併用し、該当施設が少ないエリアでは施設単位の断定を避けた。在庫の観測はLT90以内に限定している。周辺エリアの客室ストック集計は宿泊施設マスターの登録座標に基づき、会場座標からの直線距離で算出した。

祭の日程はいずれも主催者または自治体の公式発表で確認した。なお、メトロエンジンリサーチが把握できるのはOTA上で販売が観測できる施設に限られ、OTAに掲載されていない旅館・民宿・簡易宿所は含まれない。

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参考資料・出典一覧

■ データソース

OTA上で公開されている在庫・販売価格の日次観測(対象16エリア×2026年10月1日〜11月10日の41日間)、および宿泊施設マスターの登録座標・客室数(会場からの直線距離で半径5km・10km・30km圏を集計)。祭の日程と来場者数は主催者・自治体の公式発表による。集計・作成はメトロエンジンリサーチおよびホテルバンク編集部。

■ 試算前提

比較はすべてLT80(チェックイン80日前)の観測値に統一した。ベースラインは2026年10月1日〜11月10日から祭期間を除いた同一曜日のLT80推定稼働率の中央値(構成日数N=4〜5日、10月10〜12日の3連休を含むため保守的に振れる)。押し上げ幅(pt)=祭日の推定稼働率−同曜日中央値。増分客室=押し上げ幅×対象エリアの客室数。来場1,000人あたりの増分客室=増分客室÷公表来場者数×1,000。掲載価格の倍率は同曜日中央値との比。

■ 限界・留意点

対象の宿泊日は調査時点(2026年8月23日)から55〜73日先であり、以下はいずれも予約進行中の途中経過で最終着地ではない。稼働率はOTA公開在庫の消化状況に基づく推定値で、施設全体の実稼働率とは異なる。OTAに掲載していない小規模な宿や直販のみの施設は母数に含まれず、OTAへ在庫を小出しに追加する運用の影響も受ける。11月2日〜4日は唐津くんちと日程が重なるため両イベントの効果は分離できない。時代祭・鞍馬の火祭は公表来場者数が見当たらないため来場者あたりの指標は算出していない。新宿区など大規模エリアの変動は都心固有の需要要因を含み、祭に帰属させることはできない。

■ 祭の日程・来場者数(主催者・自治体公式)

■ 地域観光統計

■ 宿泊市場データ

  • メトロエンジンリサーチ — OTA公開在庫の観測に基づく推定稼働率・残室数・掲載価格、宿泊施設マスターの座標・客室数

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