サイトアイコン HotelBank (ホテルバンク)

【2025年12月最新】京都市の旅館を徹底分析!”量の拡大を終え、再編が進む滞在市場”

京都市の旅館、分布状況

メトロエンジンリサーチによると、京都市の旅館の分布状況は以下の通り。

出典:メトロエンジンリサーチ

出典:メトロエンジンリサーチ

メトロエンジンリサーチによると、京都市の旅館は市内全域に点在しているものの、その立地には明確な偏りが見られる。
特に高密度で集積しているのは、市内中心部から東山エリアにかけての観光動線上となっており、歴史資源・景観価値・回遊性の高いエリアを軸に分布している点が特徴だ。

地図から確認できる主な集積エリアは、①四条河原町〜祇園・東山エリア、②京都駅周辺、③嵐山エリアの三つに大別できる。なかでも四条河原町から祇園、清水寺周辺にかけては、町家改修型や小規模高付加価値型の旅館が連続的に立地しており、京都らしい滞在体験を重視するインバウンド・観光客需要を強く意識したエリアを形成している。

京都駅周辺では、新幹線・在来線・地下鉄が集中する交通結節点としての利便性を背景に、比較的規模の大きい旅館や宿泊特化型施設が集積している。観光の起点としてだけでなく、短期滞在や団体利用、国内観光客の利用を想定した立地戦略が見られ、都心観光エリアとは異なる役割を担っている点が特徴といえる。

一方、嵐山エリアでは自然景観と歴史資源を背景に、滞在そのものを目的とした旅館が点在する形で分布している。市中心部の高密度集積とは対照的に、低層・低密度で景観との調和を重視した施設が多く、長めの滞在や体験型観光との親和性が高いエリアとなっている。

また、市北部や南部の住宅地エリアにも小規模な旅館・簡易宿所の分布が確認できるが、これらは観光動線から一段外れた立地を活かし、価格帯や滞在スタイルで差別化を図るケースが中心だ。

このように、京都市の旅館は「四条河原町・東山を核とした観光中心型」と「京都駅周辺の交通拠点型」「嵐山を代表とする滞在価値重視型」という三層構造を形成しており、観光都市・京都ならではの多層的な宿泊分布が浮き彫りとなっているようだ。

京都市の旅館、施設数の推移

高止まりから調整局面へ|量の拡大を終え、選別が進む京都旅館市場

京都市における旅館・施設数の推移には以下の傾向が見られた。

出典:メトロエンジンリサーチ

京都市の旅館の施設数は、2019年時点で約150施設前後だった旅館数は、2020年にかけて一時的に増加し、最大で154施設規模まで拡大し、その後、2020年後半から2021年にかけては減少局面に転じ、148〜149施設前後まで落ち込んだ。これはインバウンド需要の急減や運営継続が困難となった小規模旅館の休廃業が影響したものと考えられる。

一方で、2021年後半から2022年にかけては回復基調が見られ、施設数は再び152〜153施設水準まで持ち直している。この時期は、既存旅館の再開や、簡易宿所から旅館業態への転換などが一定程度進んだ局面と位置づけられるが、その後は再び緩やかな減少傾向となり、2023年には150施設前後、2024年には一時147施設程度まで減少している。

直近の2025年に入ると、施設数は再度150施設超へと回復しており、現在は151施設前後で推移している。全体としては、2019年比で大きな増減はなく、「高水準を維持しつつ、緩やかな調整を繰り返す」推移となっている点が特徴だ。

この背景には、京都市中心部や東山エリアを中心とした高付加価値旅館の需要が底堅い一方で、競争激化や人材確保、建物維持コストの上昇などを理由に、経営体力の弱い施設が市場から退出している構造があると推察される。新規開業による純増というよりも、入れ替わりによる新陳代謝が進んでいる段階といえるのではないだろうか。

考察

京都市の旅館市場は、量的な拡大フェーズをすでに終え、施設数は150前後で安定する局面に入っている。今後は単純な開業数の増加ではなく、立地・規模・体験価値を軸とした選別がさらに進むだろう。

特に、分布章で見た東山・四条河原町周辺の集積エリアでは、施設数を維持しながらも、内容面での入れ替えが続くと考えられ、京都市の旅館市場は「数より質」を競うフェーズへと本格的に移行していくと見られる。

京都市の旅館、部屋数の推移

小規模分散から集約・高密度化へ|旅館市場に進む構造転換

京都市における旅館・部屋数の推移には以下の傾向が見られた。

 
 
京都市の旅館の部屋数は、施設数の動きとは異なる、特徴的なトレンドが確認できる。

2019年時点の旅館客室数は約2,390室前後で推移していたが、2020年にかけて一時的に大きく減少し、2021年前半には約2,210室程度まで落ち込んでいる。これは、施設数の減少と同様に、コロナ禍による休業・改装・用途転換などが重なった結果と考えられる。

しかし、その後の動きは施設数とは対照的だ。2021年後半以降、客室数は急速に回復し、2022年には2,550〜2,600室規模まで拡大。2023年にはやや減少局面を迎えたものの、2024年以降は再び増加に転じ、直近では2,550室前後まで回復している。中長期的に見ると、客室数は明確な右肩上がりのトレンドを描いている。

この背景には、京都市の旅館市場における構造的な変化があるのではないだろうか。前章で見た通り、施設数自体は150施設前後で頭打ちとなり、むしろ緩やかな減少傾向にある。一方で、部屋数が増加していることは、1施設あたりの客室規模が拡大していることを示している。

具体的には、東山・四条河原町周辺を中心に、従来の極小規模旅館が統合・建替・拡張されるケースや、町家複数棟を一体運営する形での客室増設が進んでいる。また、インバウンド需要を見据え、滞在日数の長期化や快適性向上を目的に、客室数を一定規模確保する運営モデルへの転換が進行していることがうかがえる。

考察

京都市の旅館市場では、「施設数の増加=供給拡大」という従来の構図はすでに成り立たなくなっている。
現在起きているのは、施設数は量の拡大を終えている一方で、1施設あたりの収容力と付加価値を高める方向へのシフトチェンジのようだ。

今後も新規参入は限定的となる一方、既存旅館の統合・再編・高密度化が進み、部屋数ベースでは緩やかな増加が続く可能性が高く、京都市の旅館市場は、量的拡大ではなく「選別された施設による効率的な供給」を前提とした成熟フェーズへと移行しつつあるといえるのではないだろうか。

京都市の旅館、稼働率の推移

全国平均を上回る変動幅|観光依存型市場ならではの回復曲線

京都市の旅館の稼働率の推移を全国平均と比較して分析すると、以下のような傾向が見られた。

出典:メトロエンジンリサーチ

京都市の旅館稼働率は、全国平均と同様に2020年初頭のコロナ禍で急落し、一時は10%を下回る水準まで低下している。

全国平均も同時期に大きく落ち込んだものの、京都市はそれを下回る水準まで下振れしており、観光需要への依存度の高さが強く表れた局面といえる。

その後、2021年にかけては段階的な回復が見られたが、京都市の稼働率は全国平均に比べて上下動が大きく、20〜40%台を大きく振れる推移となっている。修学旅行や国内観光需要が回復する時期には全国平均を上回る一方、行動制限や季節要因の影響を受ける局面では再び下回るなど、回復の過程においても変動性の高さが際立っている。

2022年以降は回復基調が明確となり、京都市の稼働率は全国平均を概ね上回る水準で推移。特に2023年から2024年にかけては、50%台後半から60%前後の月が増加し、繁忙期には全国平均との差が拡大する傾向が見られる。直近では、全国平均が40%前後で推移する中、京都市はそれを安定的に上回り、観光都市としての集客力が再び顕在化しているようだ。

全国平均と比較した際の最大の違いは、京都市の稼働率が「平準化」ではなく「集中型」である点だ。全国平均が比較的なだらかな回復曲線を描くのに対し、京都市は繁忙期と閑散期の差が大きく、イベント・季節・インバウンド動向に応じて稼働が大きく変動していることだろう。

考察

京都市の旅館市場は、全国平均よりも回復のスピードが早い一方で、変動幅が大きいという二面性を持つ市場である。
前章で示した通り、施設数が抑制される中で部屋数が増加している状況は、需要が集中するタイミングで高稼働を実現しやすい構造を生んでいる。一方で、観光需要に強く依存するため、外部環境の変化が稼働率に直結しやすい点は今後も変わらないだろう。

今後はインバウンド回復の本格化や観光分散施策の進展により、稼働率の底上げと平準化が進む可能性がある。京都市の旅館市場は、全国平均を上回る集客力を武器にしながらも、「高稼働だが変動幅も大きい」構造をどうマネジメントしていくかが、次の成長局面の鍵になると考えられる。

京都市の旅館市場の今後の展望

量の拡大を終え、京都らしさが再定義される滞在市場へ

足元のデータを見ると、京都市の旅館市場は、施設数が横ばいから微減傾向で推移する一方、部屋数は中長期的に増加し、稼働率は全国平均を上回る水準まで回復している。一見すると成熟市場に見えるが、その内側では明確な構造転換が進行しているようだ。

旅館は四条河原町・祇園・東山といった観光中枢エリアを中心に高密度で集積しており、立地そのものが強い競争力を持つ。一方で、施設数の増加が見られないことは、これ以上の量的拡大が制度・立地・景観面で制約されていることを示している。市場はすでに「増やすフェーズ」ではなく、「残す・磨くフェーズ」に入っているといえるだろう。

部屋数が増加傾向にある点は、今後の京都市場を読み解くうえで重要だ。これは単なる供給拡大ではなく、老朽施設の統合、建替、複数棟運営といった形で、選ばれた旅館が収容力と体験価値を同時に高めていることを意味するのではないだろうか。小規模・分散型から、一定規模を備えた高付加価値型への移行が、静かに進んでいるといっていいだろう。

稼働率の推移からは、京都市場のもう一つの特徴が浮かび上がる。全国平均と比べて回復は早いが、変動幅が大きい。これは観光依存度の高さの裏返しであり、インバウンド、季節要因、イベント動向に強く反応する市場構造を示している。裏を返せば、需要が集中する局面では高稼働・高単価を実現できるポテンシャルを依然として持っているといえる。

展望

京都市の旅館市場は、量的成長を終えた先にある「質の競争」へと本格的に移行している。今後は新規開業の数そのものよりも、どのエリアで、どの体験価値を提供できるかが明暗を分ける局面となるだろう。

インバウンド回復の進展、滞在日数の長期化、体験消費へのシフトといった潮流は、京都の旅館にとって追い風となる一方で、均質な宿泊機能だけでは選ばれにくく、歴史・文化・空間・サービスをどう編集するかが問われる。

施設数が抑制されるからこそ、市場に残る旅館の存在感はより際立つ。京都市の旅館市場は、「増えないが、深まる」市場として、今後も国内外から高い注目を集め続けるだろう。成熟の先にある進化こそが、次の京都の滞在価値を形づくっていくと考えられる。

関連記事

モバイルバージョンを終了