森鴎外ゆかりの旅館「水月ホテル鴎外荘」が、クラウドファンディング(CF)を通じて募った寄付によって2021年初頭に営業を一部再開することが明らかになった。
東京・上野公園の西側、不忍池の近くにある「水月ホテル鴎外荘」は1943年創業。敷地内に明治の文豪、森鴎外の旧居を擁し、都内第1号の天然温泉や江戸東京野菜の発信地として人気を集めていた。
しかしながら、東京五輪・パラリンピックを前に都内で新しいホテルの建設が相次いだ影響で、昨年夏頃から客足が遠のいた。さらに新型コロナウイルスの感染拡大で宿泊や会食のキャンセルが相次ぎ、5月末に閉館。かつて10億円以上あった借金の返済は終わっていることから、おかみの中村みさ子さん(62)は「さみしい気持ちもあるが、旧居を守るのが私たちの使命。旅館に体力があるうちに、いい決断を下せた」と語り、約80年の歴史に幕を下ろした。
関東大震災や東京大空襲にも耐え、130年以上の歴史を持っている旧居の保存、移築の道を模索するも引受先が見つからず、将来的な復活を目指してCFサイト大手のREADYFOR(レディーフォー)を通じた寄付を募ることを決断。1口5000円から、1万円以上の寄付には来年1月以降に開かれる鴎外荘の見学会への招待など特典が付く。1000万円を目標にしていたが、常連客や鴎外ファンから寄付が集まり目標額を達成。集まったお金は屋根瓦の修繕に充てるとしている。
「水月ホテル鴎外荘」は来年1月に一部営業を再開する準備をしている。旧居の維持・管理には人件費、光熱費などさらにお金がかかるため、食事は提供せず、素泊まりのみの予定。
近年、インターネットを通じて広く支援を募るクラウドファンディング(CF)を通じた寄付が広がっている。寄付文化の定着に取り組む「日本ファンドレイジング協会」によると、2016年の個人の寄付総額は7756億円にのぼるという。今年はコロナ禍でより活発化しており、国民への一律10万円支給を受けYahooなどが始めた「コロナ給付金寄付プロジェクト」では約2億8000万円が集まっている。