宿泊施設を利用して非日常を楽しむコラボルームといえばキャラクターものが定番だが、「ヴィラフォンテーヌ 羽田空港」では文具メーカーや障がい者アートなど意外性のあるコンテンツも展開している。長期展開も特長だ。ホテルを含む羽田エアポートガーデン全体を統括する村田尚之さんにお話を伺った。
コロナ禍で生まれた新たなニーズに即対応し、多くのコラボルームを一気に展開
―まず、ご経歴と自己紹介をお願いいたします。
村田尚之さん(以下敬称略):「羽田エアポートガーデン」統括部長の村田と申します。2003年に住友不動産に入社し、1年目はビル事業に携わりました。2年目からホテル事業部に配属され、5年間で6店舗の立ち上げとホテル事業の子会社化に携わりました。2010年にビル事業に戻り、営業、施設管理、人事など多分野を経験しました。2018年に再びホテル事業の担当となり、住友不動産ヴィラフォンテーヌの統括部長に就任しました。「羽田エアポートガーデン」の開業にあたり、2022年12月からは商業施設の運営管理業務を行う住友不動産商業マネジメントという子会社の羽田統括業務を兼務しています。
―コラボルームを始めた経緯を教えていただけますでしょうか。
村田:元々は東京オリンピック開催前の2020年春に、「羽田エアポートガーデン」と「有明ガーデン」の両方を同時オープンさせる予定でした。しかしコロナ禍となり、空港利用者を見込んでいた羽田は開業を延期しました。有明を営業するうちに、コロナ禍で国内観光の形が変わってきました。都内に住む人が都内のホテルに泊まるような需要が喚起され、近場での旅行が増えたのです。羽田でもこうした需要を取り込みたいと考えました。
2022年5月から徐々に水際対策が緩和され、コロナ禍収束の気配を感じ取った夏あたりに、羽田エアポートガーデンの開業を2023年1月に決めました。観光やビジネスで遠方から訪れる空港利用者が一気には戻って来ないことは分かっていましたし、そもそも「ヴィラフォンテーヌ 羽田空港」はプレミアとグランド合わせておよそ1,700室と当社ホテルの中でも圧倒的な規模です。空港利用者以外にも宿泊してもらうことが必要でした。そのための施策を考える中でコラボルームの企画が生まれ、話を進めました。
最初から多くの部屋数で展開したかったので、第1弾で「しろたん」「JAL」「LINE FRIENDS」「初音ミク」「可能性アートプロジェクト」「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」「ANA」「コクヨ」など8つのコンテンツを仕掛けました。
「すぐやる」スピードと柔軟さがヴィラフォンテーヌ流
―他社との差別化ポイント、強みはどんなところでしょうか。
村田:コンテンツに囲まれた空間演出とオリジナルノベルティの開発には自信を持っていますが、そこまでは他社の実施例と比較して大きな違いはありません。違うとしたら長期展開している点でしょう。質の高いコラボルームを実現するにはそれなりの費用がかかりますが、あまり値が張ると競争力が下がってしまいます。そこで「長く愛されるコンテンツ」を探し出し、長期間実施することで投資回収期間を他社より長く取り、お客様に比較的安価にご提供できるようにしています。
―コラボルームの企画運営において、貴ホテルの経営理念が活かされている点があればお聞かせください。
村田:私たちは、「固定観念にとらわれず挑戦すること」「気づいたらすぐにやること」を大事にしています。例えばこの建物はまだオープンから1年半ですが、すでにいろいろなところに手を入れています。温浴施設の洗い場の間隔が狭く、すわったときに後ろの人が近くて気になるということで、全部壊して一列減らしたものに作り直しました。風除室の増設も行いました。ドアが開くたびに冷気が吹き込み、近くの店舗を利用されるお客様が寒い思いをされることが分かったためです。一度出来上がったらそれを良しとして運営するのではなく、お客様の声や使い勝手に応じてその都度いかようにも変えていくのがヴィラフォンテーヌ流です。
コラボルームも、コロナ禍で変わった需要に対応するため迅速に動きました。そして、よくあるアニメコンテンツだけでなく、航空会社、障がいがある方が手掛けたアートを飾って宿泊費の一部を還元する「可能性アートプロジェクト」にも参画しました。コラボルーム展開自体は羽田が初めてではありませんが、これほど長くたくさん取り組むのは初めてだったので、良いと思ったらまず実施して都度修正を加えるようにしています。
―これまでコラボルームにはどんな改善を施されたのでしょうか。
村田:お客様の声を反映できるのも、長く展開するメリットのひとつです。3ヶ月から半年くらい実施して様子をみた後にアンケートを取って集計し、必要と判断したら手を加えています。例えば「しろたん」の部屋は元々キャラクターのモチーフでいっぱいなのですが、もっと欲しいという声を受けて、壁や天井だけでなく姿見やガラス窓にキャラクターのフィルム貼ったり、ぬいぐるみの数を増やしたりしました。最近スタートした「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」も、要望を受けて客室で聞ける「ヴィラフォンテーヌへようこそ」といった内容の音声を各キャラクターの声で楽しめるようにしました。
SNS発信によるPR効果が特に高いのはキャラクターもの
―現状での手ごたえや成果はいかがでしょうか。
村田:狙い通り、コラボルームを目的に来られる新しい層を取り込めています。「JAL」「しろたん」「初音ミク」「LINE FRIENDS」などは海外のお客様にも好評ですが、より多くのお客さんにご利用いただけるよう推進してまいります。アンケートの回答やSNSにアップされる感想を見ると、ありがたいことに多くの方に満足していただけています。
―お客様のSNS発信によるPR効果など副次的なメリットもあれば伺いたいです。
村田:キャラクターものは、特にSNS発信によるPR効果が高いように思います。コラボルームの装飾は基本的にその部屋のために描き下ろしてもらっているので、コアなファンは「早く見たい。誰よりも先に会いたい」という気持ちが掻き立てられ、「泊まりに行かなきゃ」となるようです。また、コクヨとのコラボルームは文房具とのコラボという真新しいアイディアが注目され、テレビをはじめ多くのメディアに取り上げられることになりました。
村田:SNSにアップされることを想定し、部屋づくりもインパクトや映えなどを意識しています。やってみてわかったのは、コンテンツによってお客様が撮りたい写真が違うということです。例えば「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」なら自分は入れずに好きなキャラクターだけを撮り、「しろたん」ならマイしろたんと呼ばれる小ぶりのぬいぐるみをいかに可愛く撮るかが大事で、コクヨの部屋なら自分も入れて撮る、といった具合です。後でお客様のSNSを拝見して「そういうことをやりたかったのか」と気づき、ぬいぐるみを置く位置を変えるなど対応しています。
村田:当社がSNSにアップする写真の撮影についても学びがありました。「このコンテンツならこういう角度で撮れば魅力的に見える」などSNS慣れしている社員の声を受けて撮り直したこともありますし、「こういう要素があると響きますよ」といったファン目線の意見も非常に参考になっています。
つくりこんだ部屋は継続し、他の部分を短期的に変えてリピートにつなげる
―コラボルームのスタートから約1年半が経ち、今後の施策などはどのようにお考えでしょうか。
村田:現在はリピート施策に力を入れています。コンテンツが全く同じままでは再訪してもらえないだろうと当初から思っていて、一部のコラボルームではノベルティグッズやキャラクターのセリフを1カ月ごとに替えています。こだわって丁寧につくりこんだ部屋はそのままに、他の部分を短期的に変えていくことでリピートにつなげたい考えです。先日、毎月客室ボイスを替えるという「ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会」のリリースを出したら、いきなり4カ月分まとめて予約されたお客様がいらっしゃいました。やはりファンの方は聞き逃せないのでしょうね。室内だけでなく温泉や食事などにひと工夫するなど、いろんな楽しみ方、新しい発見をしてもらえるようにしていきたいです。
―今後どんな企画を実現されたいかなど、展望をお聞かせください。
村田:キャラクターものは旬に展開することも大事だと感じていて、個人的にはもっとホットなコンテンツにトライしてみたいと考えています。費用はかかるでしょうが、人気のピークに当てて展開できたら面白いかなと。それと、またコクヨのような意外性のある企業と組んでみたいですね。お客様だけでなくその企業様にも喜んでいただけますし、商品の魅力をアピールするのはやりがいがあります。「可能性アートプロジェクト」のような社会的意義のあるコラボレーションにも引き続き取り組んでいきたいです。
ヴィラフォンテーヌ 羽田空港
2023年1月に開業した複合施設「羽田エアポートガーデン」の核施設で、1,717室を備える日本最大のエアポートホテル。ラグジュアリータイプの「プレミア」と多彩なニーズに応える「グランド」の2ブランドから構成される。羽田空港第3ターミナル到着ロビーと直結。
※この情報は2024(令和6)年8月時点のものです。