BEENOS HR Link株式会社代表取締役社長の岡﨑 陽介がホテル業界が抱える人材不足の課題解決につながる外国人材採用の具体的な方法について解説する本連載。前回は「外国人材が活躍するホテルの職場環境」について紹介しました。第三回となる今回は「外国人材を採用する際に利用できる制度と様々な在留資格」として、特定技能制度をはじめとした宿泊業においてかかわりの深い在留資格について解説いたします。
第3回 外国人材を採用する際に利用できる制度と様々な在留資格
①外国人材を受け入れる際に関わる在留資格
「外国籍人材を雇用したい」と考えた時に、雇用が可能な在留資格によって、従事できる業務が異なります。宿泊業で外国人を雇用する際に利用できる主な在留資格には、特定技能、技能実習、特定活動(46号)、高度専門職、経営・管理、留学などがあります。今回は、外国人材を採用する際に利用できる制度について解説します。
特定技能は、日本国内の人手不足を補うために設けられた制度であり、一定の技能試験と日本語能力試験に合格した外国人が対象となります。特定技能は在留資格を持つ外国人の中では251,747人と7%の割合を占めており(※1)、制度が始まってまだ日が浅いことから今後は更に適用人数が拡大すると見られています。特定技能1号では、宿泊業においてフロントでの受付や予約管理からレストランサービス、清掃、企画・マーケティング業務などに従事することが可能です。レストランサービスに関しては、ホテル内の飲食店と宴会場の運営形態によって該当する在留資格が異なる点に注意が必要です。ホテル内の飲食店であっても、運営主体がホテル法人であれば「宿泊」分野に該当し、外部法人が運営する場合は「外食」分野に該当します。
技能実習は、開発途上国への技能移転を目的とし、一定期間日本で働きながら技能を習得する制度で、宿泊業においても活用されています。外国人労働者にとって主要な在留資格の一つである技能実習ですが、2027年以降には「育成就労」という新たな制度への切り替えが予定しています。
特定活動(46号)は、日本の大学を卒業した外国人が特定の業務に従事できる在留資格です。特定活動は、他の在留資格に該当しないが、法務大臣が特に必要と認めた活動を行う外国人に対して付与される在留資格です。特定技能などと比べて、学歴要件を満たしている場合は、業務内容の制限が少なく、日本人と同様に幅広い職種での就職が可能です。宿泊業においては、学歴要件を満たしていればフロント・接客業務、企画・マーケティング業務、営業・広報、施設やスタッフの管理・運営、予約などのシステム管理・運用のほか経営・管理部門業務や新店舗開発など、特定技能よりも幅広い業務に就労することができます。
高度専門職は、研究や技術開発、管理職など高度な知識を要する業務向けの在留資格であり、ホテルの経営戦略や新規事業開発などの分野で活用されることがあります。経営・管理は、外国人が日本で事業を運営するための在留資格で、ホテルの経営者として活動する場合に取得可能です。
そのほか、留学の在留資格を持つ外国人は、資格外活動許可を得ることで、週28時間以内のアルバイトが可能であり、フロント業務や清掃業務で活躍するケースもあります。
ここまで紹介した在留資格のうち、宿泊業において実務的に活用されることが多いのは特定技能、技能実習、特定活動46号の3つです。今回は、これらの制度を中心に在留資格について詳しく解説していきます。
②特定技能制度とは
特定技能は、2019年に施行された比較的新しい在留資格で、日本国内の人手不足を解消するために設けられました。宿泊業はこの制度の対象14業種の一つであり、特定技能の在留資格を取得すれば、フロント業務、接客、レストランサービス、清掃などの幅広い業務に従事することができます。
特定技能には特定技能1号と特定技能2号の2種類があり、それぞれ適用条件や在留期間、家族の帯同可否などが異なります。特定技能1号は、即戦力として働くことを目的とした在留資格で、宿泊業に従事する場合は宿泊業技能試験と日本語能力試験(N4レベル以上)に合格する必要があります。
特定技能1号は最大で5年間の在留が可能です。一方、特定技能2号は、2023年に対象分野が拡大され、宿泊業も対象となりました。2号では、より高度な技能を持ち、管理業務などを含む業務に従事することができ、在留期間の上限がなくなります。
特定技能制度は宿泊業においても人手不足の解決策として期待されていますが、特定技能1号では在留期間が最長5年であり、より長期的な雇用を望む企業にとってはひとつの課題となっていました。しかし、特定技能2号への移行が可能になったことで、一時的な人手不足の解消のためではなく、長期的に働き、よりプロフェッショナルへと成長していくキャリア形成の道が開かれました。
2号に移行するためには、技能評価試験に合格し、管理的な業務に携わる能力を証明する必要があります。適正や本人の意欲に応じて、管理業務等も任せられるような支援体制を整えることにより、さらに人員の安定化を図ることができるようになったといえます。
特定技能外国人の受け入れには、企業が特定技能所属機関として協議会へ加盟し、特定技能試験の合格者を採用し、雇用契約を締結する必要があります。その後、出入国在留管理庁へ在留資格認定もしくは変更申請を行い、許可が下りれば外国人が入国や引っ越しをし、就業を開始します。特定技能1号の外国人を雇用する企業は、生活支援や職場適応のサポートを提供する義務があり、日本での生活に必要な情報の提供、住居の確保、行政手続きの補助、日本語学習の機会提供などが求められます。
また、雇用状況報告や支援計画の提出など、法令に基づく書類の管理も必要です。こうした業務の負担を軽減するため、半数以上の企業では登録支援機関に支援業務を委託しています。登録支援機関は、外国人労働者の生活面や職場適応のサポートを専門的に行う機関であり、企業側の負担を大幅に軽減できるメリットがあります。しかし、支援業務の委託には一定のコストがかかるため、最近ではコスト削減や管理の透明性向上を目的に、自社で支援業務を行うことを選択する企業も増えています。自社支援では、外国人労働者との直接的な関係を築きやすく、よりスムーズな業務習得や職場定着を促すことができますが、支援業務を適切に遂行するための体制整備が求められます。
③技能実習・育成就労とは
技能実習制度は、途上国への技能移転を目的として設けられた制度であり、日本での実習を通じて外国人が一定の技能を習得し、母国に持ち帰ることを前提としています。宿泊業も技能実習の対象業種に含まれており、実習生は主にベッドメイキングやバンケットでの配膳などの業務に従事します。
宿泊業における技能実習計画認定数は令和4年では526人、令和5年には1723人と約3倍に伸長しており、(※2)宿泊業において深刻な人手不足を解決する手段の一つとして技能実習への関心は高い状態です。
技能実習は1号(1年目)、2号(2~3年目)、3号(4~5年目)の3段階に分かれ、業務の範囲と責任が異なります。1号では基本業務を学びながら、日本の生活や職場環境に適応し、技能検定試験の初級に合格すれば2号へ進めます。2号では実践的な業務が増え、接客や予約管理などの対応範囲が広がり、試験合格が継続の条件です。3号では習得技能を活かし、後輩指導や単独業務を担う役割が求められます。
しかし、制度の目的はあくまで技能移転であり、最長5年の実習を終えて技能を習得した後は原則として帰国しなければなりません。そのため、企業としてはせっかく育成した人材を長期雇用できないという課題があります。こうした課題に対処する方法として、技能実習修了後に特定技能へ移行する道もあります。
技能実習の受け入れ方法には企業単独型と団体監理型があります。企業単独型は、日本の企業が海外の現地法人や合弁企業などから直接技能実習生を受け入れ、自社内で育成する方式です。団体監理型は、団体監理型技能実習の適正な運営を確保するために設立された非営利の監理団体が技能実習生を受け入れ、日本国内の企業に配属する方式です。団体監理型は、受け入れ企業が単独で外国人材を確保することが難しい場合に多く利用され、現在の技能実習生の受け入れのほとんどがこの方式で行われています。
2024年には技能実習制度を見直し、新たに「育成就労」という仕組みが導入されることが決定しました。育成就労は、技能実習制度よりも実践的な労働を可能にすることを目的としています。この制度では、外国人労働者が最長3年間の育成期間を経て、特定技能1号水準の技能と日本語能力を習得することを目指します。施行後は、技能実習制度に代わり、育成就労制度が適用されることになります。技能実習制度は主に短期間の人材確保に有効な制度ですが、長期的な雇用につなげるためには、特定技能制度と組み合わせた受け入れ体制の構築などが考えられます。企業は技能実習生の特定技能への移行も含め、今後始まる育成就労などの制度とも比較検討をしながら雇用目的に沿った在留資格を持つ外国人材を戦略的に雇用する計画を立てることが求められます。
④特定活動(特定活動46号)などそのほかの在留資格(高度専門職 経営・管理 留学など)
宿泊業で外国人を雇用する際の在留資格には、特定技能、技能実習、特定活動(46号)、高度専門職、経営・管理、留学などがあります。
特定活動(46号)は、日本の大学・大学院を卒業した外国人向けで、企画・マーケティングや外国人観光客向けサービス開発をはじめ、広報・PRや営業活動、外国人対応のフロント業務やコンシェルジュ業務、施設の運営・管理やスタッフの教育・研修、予約システムや外国人材の採用管理のほかのほか経営・管理部門業務や新店舗開発など幅広い業務に従事できます。対象者は限定されますが、日本語能力が高く、専門知識を持つ人材を確保しやすい点が魅力です。インバウンド需要の拡大に伴い、SNSやWebマーケティング、観光戦略の立案にも貢献が期待されます。外国人視点を活かしたサービス企画や広報活動で活躍できます。
高度専門職は、学歴・職歴・年収などのポイント制で認定され、市場戦略の立案やデジタル化推進、顧客データ分析などの分野で活躍が期待されます。永住許可の取得が早まる、家族の帯同が可能になるなどの優遇措置があり、企業にとっても高度なスキルを持つ人材確保の手段となります。また、海外のホテルブランドとの提携交渉や、新たな宿泊サービス開発などにも関与できるため、国際的な視点を取り入れた事業展開に貢献します。
経営・管理は、外国人が日本で宿泊施設を開業・運営する際に取得する資格で、一定額の投資や事業計画の提出が必要です。訪日観光市場が拡大する中、外国人視点を取り入れた新しい宿泊施設の運営や、インバウンド特化型ホテルの開発に活用されるケースもあります。
留学の在留資格では、資格外活動許可があれば週28時間以内のアルバイトが可能で、フロント業務やレストラン、清掃などに従事できます。語学スキルを活かして観光客対応をするケースも多く、英語や中国語などの対応力を求める企業にとって貴重な人材となり得ます。卒業後に特定技能や特定活動46号へ移行することで、長期雇用の道も開けます。
今回は、宿泊業で雇用が可能な在留資格について解説しました。一口に「外国人雇用」といっても、「どうして外国人材を採用したいのか」「どういった業務を行って欲しいのか」によって、該当する資格が異なります。ある程度の即戦力を求め、特定技能外国人雇用から始める。外国人材だからこその専門性を求め、特定活動の雇用を行う、など自社の状況に合わせた雇用をご検討ください。
(※1)出入国在留管理庁「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」在留外国人の在留資格・国籍・地域別内訳(令和6年6月末)
https://www.moj.go.jp/isa/content/001335263.pdf
(※2)外国人技能実習機構 「統計」
https://www.otit.go.jp/research_toukei/
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