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ダイワロイネットホテルズ、2026年度から全正社員の給与体系を改革へ 業界平均を超える改定の背景とは

2026年4月より給与改定を実施すると発表したダイワロイネットホテルズ。新卒初任給(全国社員)を22万円から31万円へ増額という内容です。業界平均を大きく上回る数字の背景には、「賃金を戦略的投資と位置づける」明確な経営判断があります。親会社である大和ハウスリアルティマネジメント株式会社にて、常務執行役員兼ホテル事業本部の副本部長を務める鈴木大介さんに、同社の人材戦略についての考え方を聞きました。

ダイワロイネットホテル横浜公園

コロナ禍で実感した「雇用条件」の重要性

──まずはダイワロイネットホテルズの現状と鈴木様のご経歴を教えてください。

鈴木:「ダイワロイネットホテルズ」は、大和ハウスグループの大和ハウスリアルティマネジメントが展開するホテルブランドです。1995年のホテル事業参入から30年、現在は国内77ホテル、約16,200室を展開。駅近で利便性の高い立地を中心に、都市型ホテルとしてビジネスから観光のお客様まで幅広い方にご利用いただいています。

2023年4月には、基本ブランドの「ダイワロイネットホテルズ」に、上位ブランドの「ダイワロイネットホテルPREMIER」、コンセプト型の「DEL style」を加えて、3ブランドでの展開を開始しました。2025年3月には、当社初となるリゾート型ホテル「BATON SUITE 沖縄古宇利島」を開業するなど、新たな挑戦も始めています。

私は2007年に当社に転職してきました。当時はまだ6店舗のチェーンで、その年に7店舗目となるダイワロイネットホテル東京大崎が開業する頃です。入社して以来、大阪や大分、沖縄、福岡と、各エリアで現場に携わってきました。2016年に本社に異動して以降は、ホテル事業全体を統括しています。

2025年3月に開業した「BATON SUITE 沖縄古宇利島」

──2026年度より実施する給与改定について、業界でも話題です。詳しく教えてください。

鈴木:2026年4月より、4年制大学卒の全国社員の初任給を22万円から31万円へ、9万円(40%)増額します。地域限定社員は7万円(33%)引き上げます。全正社員の平均昇給額は約7万円で、年収では約9%の増加となります。

──かなり大きな増額です。背景を教えてもらえますか。

鈴木:ホテル業界は業績に左右されやすい構造があります。コロナ禍では、海外から来ていたスタッフの帰国や、国内スタッフの中にも別の業界へ転職した方が数多くいました。安定的にサービスを提供するためには、雇用条件が非常に重要だと実感したのです。

今回の改定は単なる賃上げではありません。初任給の改定をきっかけに、新卒だけでなく全階層の給与体系そのものを見直しました。月例給与の水準を大幅に引き上げ、ホテル業界特有の業績変動リスクを企業側が引き受ける構造へと転換します。

もともと、日本の宿泊業・飲食サービス業の給与水準は他の産業と比べて低く、人材が定着しづらい傾向にあります。この改定により、当社で働きたいという方が増えることを期待しています。長く働ける環境を整えることで、サービスの品質が安定すると考えています。
業績に左右されない給与支給を実現することで、物価高の中でも従業員が安心して生活できる体制を構築します。

インタビューに応える鈴木大介さん

配属戦略の転換で離職率を大幅改善

──新卒スタッフの定着率向上に取り組まれているそうですね。

鈴木:ホテル業界に入社される方は、ホテルが好きで入ってくださる方が多いです。ただ、コロナ以前は全国チェーン展開を優先し、新卒メンバーには最初から異なる地域での勤務に慣れてもらおうという考えがありました。例えば、東北出身者を九州に、大阪出身者を東京に配属するなどしていました。しかし、結果として離職してしまうケースが多かったのです。

そこで、直近3年間は大きく方針を変えました。第一希望、第二希望、第三希望という形で、働きたいエリアを聞くようにしました。細かく「新宿」や「池袋」といった都市単位での指定はできませんが、まずはエリアの希望を優先しています。

学生の中には、一人暮らしの経験があり「どこでもいい」という方もいれば、親御さんと暮らしながら社会人としてのリズムを作りたいという方もいます。そうしたニーズに応えるよう制度を変更しました。

結果として、精神的にも身体的にも、プライベートの時間をある程度維持できるようになったと感じています。また、職場に1年目、2年目、3年目と先輩たちが続けて勤務していることで、先輩が後輩をサポートする文化が定着してきています。このような様々な取り組みの積み重ねで、離職率も大幅に改善しています。

もちろん、今後どうなるかは分かりません。ライフイベントを迎える年齢になった際に、継続するか退職するかという選択をする方は一定数いると思います。ただ、この3年間の配属方針の変更が良い結果につながったと考えています。

ダイワロイネットホテル横浜公園のエントランス。2024年10月にリニューアルしたばかり

24時間営業のホテル業界でも子育てと仕事を両立できる理由

──子育て支援制度について教えてください。

鈴木:ダイワロイネットホテルズでは、第一子30万円、第二子50万円、第三子以降100万円の出産祝い金制度があります。実は私自身、2008年に双子が生まれた際、当時の制度で支給を受けて、転職したばかりではありましたがとても助けられました。こうした支援もあり、子育てをしながら育休を取得し、活躍しているメンバーは数多くいます。保育園の送迎などがあるため、シフト制を活かして勤務時間を調整したり、休みの融通を利かせたりしています。その方が落ち着いてフルタイムに戻った頃には、別のメンバーがライフイベントを迎えることもあります。「お互い様」という精神で協力し合いながら運営しています。


──ホテル業界は24時間営業で土日も運営しています。両立についてはいかがでしょう。

鈴木:確かに課題はあります。しかし、女性が活躍する場面は増えています。現在、子育てをしながら育休明けで支配人を務めているメンバーもいますし、働くメンバーにとっての憧れの存在になっています。

子育てと仕事を両立しながら支配人を務める女性たちの姿が、後輩にとってのロールモデルになっています。実際に、女性の管理職も増えています。

──そのほかの勤務環境についても教えてください。

鈴木:週休2日制、年間休日110日です。また、勤務終了から次のシフトまで原則11時間空けるルールを設けています。有給休暇取得率は8割を超えており、3か月に1回は取得をしています。月間平均残業時間は約15時間(2024年度実績)と、サービス業としては異例の低水準です。

「まちを元気に、ひとに笑顔を。」の起点は従業員から

──最後に、今回の給与改定を通じて実現したいことを教えてください。

鈴木:私たちのビジョンは「まちを元気に、ひとに笑顔を。」です。その起点は、やはり従業員だと考えています。コロナ禍を経て、従業員が安心して働ける環境の価値を改めて実感しました。雇用の安定は、お客様に質の高いサービスを提供する基盤であり、ホテルにとっても大きな強みになります。

賃金を「コスト」ではなく「競争力の源泉」と位置づける。この経営判断が、業界平均を大きく超える給与水準と、業績変動リスクを企業が負担する構造転換を可能にしました。

人材への投資が、サービス品質と定着率を生む好循環を生み出しています。育休明けスタッフの活躍や、先輩が後輩を育てる文化。これらすべてが、当社の「賃金革命」を支えています。


後編では、この改革を支える「現場主導」の運営哲学と、デジタル活用による業務効率化、そして「人ならではのおもてなし」との両立について聞いていきます。

▶︎後編はこちら

(取材・執筆 かたおか由衣)

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