近年、東京都では新規ホテルの開業や新規ホテル建設計画の発表が相次いでいる。この流れは2015年から本格的に始まったもので、年を追うごとに開業、計画発表ともに増えている。
本稿では、2015年から2017年9月の間に東京都で発表された新規ホテル計画を分析し、東京都におけるホテル業界の傾向、そしてその背景にあるものを探っていく。
2015年までのホテル開発の中心は東京都心
現在の東京都内における新規ホテルの計画発表ラッシュの流れは2015年から始まっているものだが、2015年における新規開発発表の中心は東京都心である。これは下図を見ると明らかで、2015年に新規ホテル建設計画を発表した16計画のうち、実に14計画が港区、中央区、千代田区、新宿区といった都心部が占めている。
ホテル開発や商業施設開発といった都市開発は、都心部から周辺エリアへという流れが一般的であるので、この時点でほとんどのホテル計画が都心部に集中していることは別段特徴的なこととは言えない。しかし、後述する2016年以降の流れとは2015年の傾向は明らかに一線を画すため、この項で指摘したことは覚えておいてもらいたい。
2016年には新規ホテル計画が前年の6倍以上に
2016年に入ると、発表された新規ホテル計画数は前年と比べると大幅に伸びていく。具体的に見てみると、2015年に発表された新規ホテル計画数が16計画なのに対し、2016年の計画数は前年比6倍以上の105計画である。
2016年に発表された新規ホテル計画の変化は計画数が増えたことだけにとどまらない。出店発表エリアにおいても前年と明らかに傾向が変わっている。都心部の計画は引き続いて多いものの、周辺エリアの計画数が格段に伸びている。
2016年の新規ホテル計画のキーワードは外国人観光客
2016年は浅草周辺、上野周辺といったエリアの出店計画が明らかに増えている。これはひとえに、各企業が外国人観光客によるインバウンド需要を期待したものと言える。このことを裏付けるように、東京を訪れる外国人観光客は増加の一途を辿っている。「訪都旅行者数等の実態調査結果(実施:東京都)」によると、2016年度の1,310万人を数えている。これは前年比10.2%の数字で、この傾向はしばらくの間は続いていくものと予想されている。
その反対に東京を訪れる日本人観光客はこのところ伸び悩んでおり、前年比微減という年度も珍しいことではなくなってしまっている。つまり、東京におけるホテルの開発ラッシュの背景には外国人観光客の存在が大いに関係しているということが言えるのである。
浅草、上野エリアの出店計画が伸びる理由
先述した浅草、上野の各エリアは外国人に屈指の人気観光地である。東京都が発表している「国別外国人旅行者行動特性調査」の調査によると上野は7位、浅草は3位にランクインしている。
2位の銀座、1位の新宿・大久保エリアにはもうすでに数多くの宿泊施設があり開発可能エリアも限られていることから、人気観光地かつこれまであまり外国人が好むような宿泊施設が十分でなかったエリアでの出店計画が相次いでいると読み取ることができる。
オリンピック需要を見越しての出店計画が増えているという側面も
また、2015年と2016年との間に6倍以上の出店計画数の違いがある背景には、オリンピック需要を見越して出店計画数が増えているという側面も無視できない。なお、2016年に入ってから新規計画の発表が激増している理由のひとつとして、企画段階から発表に至るまでに数年単位で時間がかかることが挙げられる。
2020年の東京オリンピック開催が決まったのは2013年9月のことである。ホテルを出店する場合、企画段階から土地所有者への交渉、行政との折衝等を経て計画を発表できる段階に至るまでに、数年かかることも珍しくない。2013年に東京オリンピック開催が決まり、企画、社内折衝、土地所有者との交渉、行政との折衝などの工程を経て、2016年に各企業がようやく計画を発表できたという流れが読み取れる。
2017年は出店計画の発表がさらに増えている
2017年は、現在のところ9月末までの計画発表分までしかデータとして出揃っていないが、その時点で2016年を大きく上回っている。表3を見ると分かるように、9月末の段階で120もの計画が発表されているが、この背景にも時間的成約が関係している。2020年の開業に間に合わせるためには、2017年~18年が計画発表のピークと見られる。
また、北区、足立区、江戸川区といったさらに都心エリアから離れた場所への出店計画も目立つようになってきた。加えて、府中市、八王子市、稲城市といった郊外都市の建設計画も発表されている。東京オリンピックは、東京都心部だけではなく郊外でも行われる予定で、それに合わせた開業計画と見ることができる。
一方で、開発できる土地が都心部および観光地に近いエリアでは少なくなってきたという側面も指摘できる。いずれにしても企業にとって魅力的なホテル開発エリアは残り少なくなってきたというのが実状ではないだろうか。