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現場が決める、本部が支える。ダイワロイネットホテルズのボトムアップ経営とデジタル戦略

国内に77のホテルを展開する、ダイワロイネットホテルズ。各ホテルの個性が際立つ運営の背景には、「現場に裁量を与え、挑戦を評価する」経営スタイルがあります。本記事では、「現場主導」の運営哲学と、デジタル活用による業務効率化、そして「人ならではのおもてなし」との両立について焦点を当てます。大和ハウスリアルティマネジメント常務執行役員兼ホテル事業本部の副本部長を務める鈴木大介さんに聞きました。

鈴木:当社では「数字の責任は現場の支配人が持つ」という方針です。目標設定は本部と協議しますが、追いかけるのは現場。支配人が「やりきった」と思えるよう、権限を委ねています。

観光のお客様が多く訪れる、地域の大きなお祭りの時期などは、通常よりも高い料金でも満室になる日があります。特別な日に、「せっかく来てくれるお客様に何か思い出に残るものを提供したい」と考え、提案してくるのは支配人や現場のメンバーです。

例えば、ある施設ではアロマの香りのする冷やしたおしぼりをお渡しする提案がありました。また、これは山形だけの取り組みですが、山形県で人気がある「冷やしシャンプー」を山形のホテルでは、アメニティバーに置いています。山形の支配人が本部に提案し、本部が承認しました。

各現場が責任を持つからこそ、「売上目標を達成するために、このサービスを実施したい」「お客様満足度を上げるために、この設備を導入したい」といった、具体的で前向きな提案が現場から上がってくるのです。
 

ダイワロイネットホテル山形駅前のアメニティバーにて「冷やしシャンプー」を提供している

──働く皆さんにとって、やりがいにつながりそうですね。

鈴木:そう思います。ダイワロイネットホテル横浜公園などで導入している「プロジェクター付き客室」も、ある支配人の「100インチの画面でスポーツの試合を映したい」とのアイデアがきっかけ。ただ、映すための壁がない部屋だったので、「スクリーンを下ろそう」というアイデアでスクリーンも設置しました。

お客様からも好評です。テレビ離れが進んでいる中、自分の好きなコンテンツを大画面で楽しめることが、新しい需要を生んでいます。私も出張で泊まった際、サッカーの試合を観戦しましたが、迫力が違いました。出張中でもホテルでの過ごし方が変わってきていると感じます。

このようなチャレンジに対して、もし失敗したとしてもそのことで支配人が責められるようなことはありません。「挑戦したこと」を評価し、「さらに良くするにはどうするか」を一緒に考えます。失敗を恐れずに挑戦できる文化が、当社の強みだと思っています。

取材に応じていただいた、鈴木大介さん(左)と、ダイワロイネットホテル横浜公園 総支配人の片岡弘敏さん(右)


客層の変化に合わせた改装

──各施設でリニューアルが進んでいるということですが、タイミングに基準はありますか。

鈴木:開業年数が一つの基準です。10年から15年経ち、特に空調設備の入れ替えのタイミングで改装を検討します。(インタビューを行った)ダイワロイネットホテル横浜公園は2010年に開業し、2024年にリニューアルしました。

開業当時は宿泊客の8割がビジネス客でしたが、客層が大きく変わりました。リニューアル前は濃い茶色の木材、白かグレーの壁と、非常に硬派なスタイルでした。それが今は鮮やかな色になっています。
さらに3つの18㎡の客室の壁を取り払い、広い部屋を作りました。この施工を担当しているのは大和ハウス工業です。住宅メーカーである大和ハウスが施工会社であることは大きな強みです。 

「ダイワロイネットホテル横浜公園」シアターツイン(プロジェクター付き客室)

──アメニティについても現場が決めているのでしょうか。

鈴木:多くの同業他社と同様、当社でもアメニティは部屋ではなくフロント前のアメニティバーからご自由にお持ちいただく形に切り替えました。ただ、施設によって統一感がないんですよ。「温泉の素を入れさせてください」「化粧水はこのブランドがいい」といった提案が各地から上がってくるうちに、個性が生まれています。統一に向けた会議もしていますが、先は長そうです。

──本部と現場の議論が活発なのですね。

鈴木:そうですね。現在新規開業を検討するチームでは、26年夏に開業する島根県松江のホテルについて、客室の色使いや照明器具など、細部にまでこだわって議論しています。

カーペットの色一つとっても重要です。以前、明るい色のカーペットを採用したところ、清掃会社泣かせの客室となってしまいました。それを踏まえて、改装ではカーペットの色を落ち着いたトーンにして、全体のバランスを見てカーテンや壁の色を明るくする。こうした議論を本部と現場で繰り広げながら、各ホテルが変化をし続けています。

──「プロジェクター付き客室」や「ペット同伴可」などユニークな客室も増えています。

鈴木:ペット同伴の客室は、他社のホテルで「ペットフレンドリー」の取り組みを見て、「面白い」と議論になりました。

大阪や横浜で受け入れを始めた際、意外と利用者が多いことに驚きました。特に大阪は駐車場がないにもかかわらず、遠方から来られる方がいます。皆さんペットと一緒に御堂筋や中華街を散歩するなど、素敵な過ごし方をされていますね。

愛犬と一緒に泊まれる客室の「ダイワロイネットホテル横浜公園」スタイルツイン

デジタル化で「無人」ではなく「人が関わる時間」を増やす

──会員アプリもリリースされたそうですね。

鈴木:はい。ダイワロイネットホテルズは開業当初からキオスク(自動精算機)を設置していますが、システム改修を行い、昨年の12月よりセルフチェックインも可能になりました。ただ、私たちは「無人化」を目指しているわけではありません。

お客様がご自身でセルフチェックインできるようになれば、手間は省けます。一方で、ご年配の方など、アプリやセルフチェックインに戸惑われる方もいます。人員を削減するのではなく、空いた時間をお客様へのおもてなしに費やすという考えです。

以前は、カウンターの中でスタッフが待機していました。しかし現在は、ロビーに数名のスタッフがおり、お客様をお迎えしています。暑い中来館されたお客様に「今日は暑いですね」と声をかけられるかどうか。そうした気持ちを持ってお客様に対応したいと考えています。

2025年に入り、レベニューマネジメントチームも発足しました。以前現場のスタッフだったメンバーや、キャリア採用のメンバーなどで構成されています。昨年まで支配人を務めていた女性で、出産を経て在宅勤務で活躍しているメンバーもいます。

──最後に、今後の展望について教えてください。

鈴木:「BATON SUITE 沖縄古宇利島」が2025年3月に開業しました。当社にとって初めてのリゾートホテルです。2029年度までにリゾートホテルを合計10店舗展開することを目標としています。
もう一つは海外展開です。海外展開を担当する戦略室が、ダイワロイネットホテルズを世界に広げる計画を進めています。

私たちが大切にしている「まちを元気に、ひとに笑顔を。」というビジョン。その起点は、やはり一人一人のスタッフです。給与改定も、現場に裁量を委ねるボトムアップ型の運営も、すべてはスタッフが安心して挑戦できる環境を作るため。人材への投資が、サービス品質と定着率を生む好循環を生み出す。その先に、お客様の笑顔があると信じています。

▶︎前編はこちら

(取材・執筆 かたおか由衣)

 

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