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中国客マイナス60%の衝撃 — 2026年Q1 国籍別訪日客と宿泊市場の地殻変動

2026年第1四半期(1〜3月)の訪日外客数は累計1,068万3,500人と、2年連続で年初3カ月で1,000万人の大台を突破した。一方で内訳を見ると、中国本土からの訪日客は前年同期比で半減水準まで急減し、その代わりに韓国・台湾・米国・欧州が記録を塗り替える勢いで伸びている。本稿ではJNTO国籍別データ、観光庁宿泊旅行統計、当社が集計した公開価格データをもとに、需要構造の地殻変動と、その変化が地域別ホテル価格・GW2026需要に何をもたらすのかを定量的に整理する。

※本稿の価格はすべて2名1室利用時の1室あたり料金(税込)。ADRはOTA等の公開価格データから集計したもの。

中国激減の規模感 — 3カ月連続で前年比マイナス45〜60%

JNTOが公表した2026年1〜3月の国籍別訪日外客数によれば、中国本土からの訪日客は1月385,300人(前年同月比-60.7%)、2月396,400人(同-45.2%)、3月291,600人(同-55.9%)と、3カ月連続で大幅な前年割れとなった。Q1累計では1,073,500人にとどまり、前年同期の236.5万人から実数で約129万人が消失した計算になる。前年同期比の縮小率は-54.6%であり、訪日全体に占める中国客のシェアも大幅に後退した。

JNTOの月次プレスリリースは、減少の背景として「中国政府より日本への渡航を避けるよう注意喚起があったこと」「航空便の減便」を明示している。前年は1月下旬であった春節(旧正月)が今年は2月中旬にずれた季節要因も一部あるものの、注意喚起と減便の影響が3カ月続いていることから、構造的な減速とみなすべきだろう。

出典:日本政府観光局(JNTO)月次推計値よりホテルバンク編集部作成

ピーク期との比較で見ると下落の規模は更に鮮明になる。2024年は中国本土からの訪日客が年間698.1万人と回復ピークを記録し、単月ベースでも7月に77.7万人(コロナ後初の単月1位)まで戻していた。しかし、2025年下期から中国客の前年比が頭打ちになり、12月に前年同月比-45.3%、その後3カ月連続で大きなマイナスとなった。

中国本土 訪日客数前年同月比主な背景
2024年7月776,500人+138.1%2024年単月ピーク。コロナ後初の国別1位
2024年12月571,000人+82.7%回復基調を維持
2025年12月312,400人-45.3%日中関係冷え込み・航空便減便
2026年1月385,300人-60.7%中国政府の渡航注意喚起
2026年2月396,400人-45.2%春節月にもかかわらず大幅減
2026年3月291,600人-55.9%桜シーズン入りも回復せず

出典:日本政府観光局(JNTO)月次推計値よりホテルバンク編集部作成

つまり、2024年7月のピークと比較すれば、2026年3月の中国客数は約63%減と、ほぼ3分の1の水準にまで縮小していることになる。訪日全体は過去最高を更新する一方、最大の構成比を持っていた市場が急速に縮んだという、極めて偏りの大きい1〜3月であったといえる。

代替需要の中身 — 韓国・台湾・米国・欧州が連月で過去最高を更新

では、中国客の急減を補ったのはどの市場か。JNTOの国籍別データを2026年Q1累計(1〜3月合計)で前年同期比に並べ替えると、韓国・台湾・米国・豪州・欧州主要国の伸びが鮮明に浮かび上がる。

出典:日本政府観光局(JNTO)月次推計値よりホテルバンク編集部作成

韓国は1月に単月で全市場初の110万人超え(1,176,000人)を記録した後、2月・3月も2桁の伸びを継続し、Q1累計で305.8万人(前年同期比+22.0%)と、訪日市場で最大のボリュームを誇る存在感を強めている。台湾も継続する訪日旅行人気と台北桃園線の増便を背景に、Q1累計204.1万人(同+25.7%)となり、3カ月連続で月次過去最高を塗り替えた。

欧米豪に目を移すと、米国はウィンタースポーツ需要と桜シーズン需要の両方で押し上げられ、Q1累計80.3万人(前年同期比+12.1%)と引き続き堅調である。とりわけ目を引くのは欧州の伸び率であり、ドイツが+24.2%、英国+16.7%、フランス+15.1%、イタリア+22.8%、スペイン+27.2%、北欧地域+32.0%と、いずれも2桁成長を記録している。これらは経由便の多様化、クルーズ船寄港、若年層の訪日意欲の高まりが重なった結果であり、JNTOプレスリリースでも「3月として過去最高」「単月として過去最高」を更新した市場として明示されている。

国・地域2026 Q12025 Q1前年同期比特記事項
韓国3,058,1002,506,183+22.0%1月単月110万人超
台湾2,041,5001,623,663+25.7%3カ月連続で月次最高
中国1,073,5002,365,261-54.6%渡航注意喚起・減便
米国803,400716,802+12.1%ウィンター・桜需要
香港650,200647,599+0.4%座席数微減で横ばい
豪州344,700313,713+9.9%スノー需要が押上
英国135,300115,926+16.7%3月単月最高更新
ドイツ98,70079,444+24.2%3月単月最高更新
フランス91,50079,511+15.1%若年層需要が拡大
イタリア55,70045,343+22.8%クルーズ船寄港増
スペイン44,60035,054+27.2%経由便多様化

出典:日本政府観光局(JNTO)月次推計値よりホテルバンク編集部作成

注目すべきは、これら代替需要が単に量を補っているだけではなく、消費単価(ADR)の高い市場である点である。観光庁の消費動向調査では、欧州・米国・豪州の宿泊単価は中国客より明らかに高く、欧州主要国の宿泊単価は中国を3〜5割上回るとされている。つまり、訪日客の構成が中国から欧米豪に置き換わることで、ボリュームの減少が必ずしも宿泊収益の減少につながらない構造になりつつある。

どのエリアが中国依存だったか — 観光庁2024年確定値で見る都道府県別構成比

中国客減少の影響は、エリアによって大きく異なる。観光庁「宿泊旅行統計調査」2024年確定値によれば、中国本土からの延べ宿泊者数は全国で約2,519万人泊(外国人全体の18.2%)を占め、なかでも近畿エリアの集中度が際立っていた。近畿運輸局が公表した府県別データでは、外国人宿泊者数に占める中国客の構成比は、奈良県31.9%、兵庫県25.6%、和歌山県25.9%、大阪府25.3%、京都府19.3%と、関西を中心に高水準である。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査報告」2024年確定値(近畿運輸局集計)よりホテルバンク編集部作成

逆に欧州・米国系の構成比が高いのは京都府(米国14.4%、欧州合計13.6%)と兵庫県(欧州合計10.0%)であり、これは桜・歴史観光・関西国際空港経由の周遊需要が重なるエリアの特徴である。北海道はスノーシーズンに豪州・米国・台湾の比率が高いことが従来から知られており、2024年の延べ宿泊者数でも豪州が全国の中で最も大きな存在感を持つ。

ここから示唆されるのは、中国客減少の影響が地域間で非対称に出るということだ。大阪・京都のような大都市は欧米豪・台湾・韓国による分厚い代替需要が機能するため、中国減少の打撃が相対的に和らぐ。一方、奈良・和歌山のように中国客比率が30%前後に集中していた地域では、代替需要の取り込みが十分でない場合に、需要総量の縮小が顕在化する可能性がある。

それでもADRは上昇継続 — 6都市の前年同月比推移

当社が集計した公開価格データ(OTA等)によれば、中国客の急減にもかかわらず、主要6都市のADRは2026年Q1も前年同月比で上昇を続けている。2026年3月時点の前年同月比は、京都+18.6%、東京+11.1%、大阪+9.5%、沖縄+8.5%、北海道+7.5%、福岡+2.7%といずれもプラスである。中国比率が高かった京都・大阪でADRが二桁伸長していることは、需要の置き換えが価格面でも実現していることを示している。

出典:OTA等の公開価格データよりメトロエンジンリサーチ・ホテルバンク編集部作成。N=全国主要6都市の調査対象ホテル群(2026年3月時点)

京都の上昇率が突出している背景には、欧米豪客の単価耐性に加えて、客室供給の伸び悩みがある。京都市内では新規ホテル開発に対する規制強化の影響もあり、調査対象ホテル数は2024年3月の1,683軒から2026年3月の1,550軒へと、約8%の減少が確認できる。需要はインバウンド構成入れ替わりで実質維持され、供給は微減という条件下でADRが押し上げられる構図である。

エリア2024/3 ADR2025/3 ADR2026/3 ADR2025→2026 YoY中国客構成比(2024)
京都府¥38,900¥39,200¥46,500+18.6%19.3%
東京都¥32,000¥33,100¥36,800+11.1%(参考:全国18.2%)
大阪府¥21,700¥22,700¥24,900+9.5%25.3%
沖縄県¥23,200¥24,800¥26,900+8.5%
北海道¥30,000¥27,600¥29,700+7.5%─(豪・台湾比率高)
福岡県¥26,100¥28,500¥29,300+2.7%─(韓国比率高)

出典:OTA等の公開価格データよりメトロエンジンリサーチ・ホテルバンク編集部作成。価格は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)

大阪のADRも前年同月比+9.5%と上昇を維持している。中国客比率が25.3%と京都より高かったにもかかわらず堅調なのは、2025年4〜10月の万博需要が一巡した後も韓国・台湾の継続需要が下支えしているためである。一方で大阪の調査対象ホテル数は2024年3月の924軒から2026年3月の872軒へとやや減少しており、需要構造が変化するなかで小規模事業者の市場退出が進む兆しもある。

北海道は2025年Q1のADRが前年比でややマイナスだったところから、2026年Q1には反発に転じた。これはインバウンドのスノーシーズン需要、とりわけ豪州(Q1+9.9%)と台湾(同+25.7%)の高水準が支えた構図である。北海道は2024年宿泊統計でも豪州延べ宿泊者数の構成比が大きく、中国減少の直接的影響が小さい地域の代表例といえる。

REITデータが示す上澄み — JHR・星野リゾート・リートで確認できる単価上昇

個別物件の運営実績に踏み込むと、ホテル系REITの公表値も需要の質的変化を裏付けている。ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)の2026年2月運営実績ではポートフォリオ全体ADRが+3.1%、稼働率+2.4ポイント、RevPAR+6.1%と量・単価の双方が改善した。JHRはハイアットリージェンシー大阪、神戸メリケンパークオリエンタルなど関西を含む上位ホテルを保有しており、中国減少が顕著だった地域でも欧米豪客の取り込みでRevPARが押し上げられたことが分かる。

地方リゾートを軸にする星野リゾート・リート投資法人(3287)も、2026年2月にADR+8.6%、稼働率+1.9ポイント、RevPAR+10.5%と二桁の伸びを示している。ニセコ、軽井沢、星のや等のスノー・リゾート物件が、豪州・米国・台湾客の旺盛な需要を取り込んだ結果である。インヴィンシブル投資法人(8963)はビジネスホテル比率が高く、ADR+0.9%にとどまるが、稼働率は+2.0ポイントで需給は引き続き堅調である。

一方、日本ホテル&レジデンシャル投資法人(3472)はADR-12.1%・RevPAR-11.9%と一見大きな下落に見えるが、これは2025年からのリブランドや一部物件の改装に伴う暫定的な希薄化が主因であり、市場縮小を意味するものではない。記事中ではポートフォリオ構成の違いがREIT間の見え方の差につながる点に留意が必要である。

※REIT月次運営状況の参照対象は7法人:いちごホテルリート投資法人(3463)、インヴィンシブル投資法人(8963)、日本ホテル&レジデンシャル投資法人(3472)、ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)、星野リゾート・リート投資法人(3287)、森トラストリート投資法人(8961)、霞ヶ関ホテルリート投資法人(401A)。

GW2026の見通し — 中国不在のなかで前年比2桁上昇の主要4都市

2026年5月のGW期間について、当社が集計した公開価格データを見ると、京都+20.4%、東京+14.2%、北海道+13.1%、大阪+12.5%、沖縄+10.9%、福岡+6.4%と、いずれの主要都市も前年同月比でしっかり上振れている。中国客がほぼ不在の状態でもGW需要は弱まっておらず、欧米豪・韓国・台湾を中心とする観光・スノー後需要・桜延長需要が価格を押し上げている。

出典:OTA等の公開価格データよりメトロエンジンリサーチ・ホテルバンク編集部作成(2026年4月時点の販売価格)

京都の+20.4%は6都市のなかで最大の伸び幅であり、欧米客比率の高さと供給縮小という条件が際立った形である。一方、福岡の+6.4%は他都市より控えめだが、これは韓国比率が極めて高い福岡で、韓国客の伸び(Q1+22.0%)が量的には需要を押し上げている一方、韓国客の単価感応度が他市場より高いため、価格上昇には自然なブレーキがかかっていることを示唆している。

つまり、中国客マイナス60%という見出しの裏側で、宿泊市場全体としてはむしろ単価面で恩恵を受けているという、極めて複雑な需要構造が浮かび上がる。GWに向けた運営判断としては、以下の3点が重要だろう。第1に、エリアごとの「主要構成国」の入れ替わりを前提に、ターゲット顧客の言語・予約導線を設計し直すこと。第2に、中国客比率が25%超だった大阪・奈良・和歌山などの地域では、代替需要のミックス比率を見極めながら、中国向けに特化していたプランをリパッケージすること。第3に、ADR上昇は需給バランスを反映した結果ではあるが、スピードが速すぎると米国・欧州の予約離れを招くため、価格弾力性を考慮したダイナミック・プライシングが従来以上に重要になる。

まとめ

2026年第1四半期は、訪日全体が記録更新を続ける一方で、中国本土からの訪日客が前年同期比-54.6%と半減水準まで急減するという、極めて偏った構造の四半期であった。それを補ったのは韓国(+22.0%)、台湾(+25.7%)、米国(+12.1%)、ドイツ(+24.2%)、英国(+16.7%)、スペイン(+27.2%)など、単価の高い欧米豪・近距離アジア市場であり、結果として京都+18.6%、東京+11.1%、大阪+9.5%といったADR上昇が継続している。

GW2026に向けては、主要6都市すべてで前年同月比2桁上昇(福岡を除く)が確認できており、需要の質的入れ替えが価格に反映され始めている。中国客減少を「市場縮小」とのみ見るのではなく、構成市場の変化に運営戦略をどう適応させるかが、2026年後半の競争力を分ける論点となる。今後はGW実績を経た6月〜夏季の単価感応度、秋以降の中国客回復シナリオ、欧米客の単価の天井を継続的にウォッチしていく必要がある。

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※本記事における指標の定義:ADR(平均客室単価)=調査対象施設が公開している販売価格の平均値であり、実際の成約価格とは異なります。売切率=調査時点で予約受付を終了していた販売プランの割合であり、施設全体の客室稼働率とは異なります。価格は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。

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