2026年3月1日、京都市の宿泊税が大幅に改正された。従来の3段階制から5段階制に移行し、宿泊料金6,000円以上20,000円未満の層では税額が200円から400円へ倍増している。年間税収は52億円から126億円に膨らむ見通しであり、観光都市・京都の宿泊コストに構造的な変化をもたらす施策といえる。それでは、この改正は実際に1万円以下のビジネスホテル・ゲストハウス層の公開価格にどのような影響を及ぼしたのか。メトロエンジンリサーチのデータを用いて、京都市内と東京都(新宿区・渋谷区・台東区)の日次ADR推移を比較検証する。
宿泊税改正の概要と1万円以下ホテルへの影響仮説
京都市の宿泊税は2018年10月の導入以来、宿泊料金に応じた3段階の定額制を採用していた。2026年3月1日の改正では、税率が以下の5段階に細分化された。
| 宿泊料金(1人1泊) | 改正前 | 改正後 | 増減 |
|---|---|---|---|
| 6,000円未満 | 200円 | 200円 | ±0 |
| 6,000円〜20,000円未満 | 200円 | 400円 | +200円 |
| 20,000円〜50,000円未満 | 500円 | 1,000円 | +500円 |
| 50,000円〜100,000円未満 | 1,000円 | 4,000円 | +3,000円 |
| 100,000円以上 | 1,000円 | 10,000円 | +9,000円 |
出典:京都市「宿泊税について」
本記事が注目するのは、ハイライト行に示した「6,000円〜20,000円未満」の価格帯である。ビジネスホテルやゲストハウスの多くがこの価格帯に該当し、宿泊税が1泊あたり200円増加する。金額としては小さく見えるが、5,000〜8,000円台のプランにとっては税込総額に対する負担率が2.5〜8%程度に達する。加えて、宿泊施設側が税額増加分を吸収するか価格転嫁するかの判断は、ダイナミックプライシングの設定や収益管理方針に直結するため、公開価格への影響は一様ではないと考えられる。
一方、東京都の宿泊税は2026年3月時点で改正されていない(定率3%への移行は2027年度以降の予定)。したがって、東京都内の同カテゴリホテルは「宿泊税改正なし」の対照群として機能する。京都と東京を並べることで、季節要因やインバウンド需要など共通の外部要因を除外し、宿泊税改正固有の影響を浮き彫りにすることが本分析の狙いである。
分析対象と手法
メトロエンジンリサーチが収集する公開価格データのうち、以下の条件で抽出を行った。
| 項目 | 京都市 | 東京3区 |
|---|---|---|
| 対象エリア | 京都市内全11区 | 新宿区・渋谷区・台東区 |
| 施設カテゴリ | ビジネスホテル、カプセルホテル、ゲストハウス、ホステル、簡易宿所 | |
| 対象施設数 | N=561 | N=366 |
| 価格フィルタ | 1室2名利用・税込1万円未満のプラン | |
| 期間 | 2026年2月22日〜4月25日(日次) | |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
分析指標は、1万円未満プランの平均公開価格(ADR)、販売可能プラン数(N)、および売切率の3つとした。京都市の宿泊税改正日(3月1日)を境界として、改正前後での変化を日次で追跡している。なお、東京都の宿泊税改正は未実施であるため、東京側のADR変動は純粋な需給・季節要因として解釈できる。
京都市:1万円以下ホテルのADR推移(日次)
まず京都市の結果から確認する。3月1日の宿泊税改正後、1万円以下ホテルのADRは改正前(2月最終週平均¥8,100)に対し、3月第1週で平均¥8,300と約2.5%の上昇が見られた。しかしながら、3月中旬以降は桜シーズンの需要逼迫により1万円以下プランの供給数が急減し、月末には1日あたりわずかN=10〜23件にまで縮小している。つまり、3月後半の価格上昇は宿泊税改正よりも季節的な需給逼迫が支配的であったと考えられる。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(N=京都市内ビジネスホテル・ゲストハウス等561施設)
4月に入ると桜需要が落ち着きはじめ、1万円以下プランの供給数は徐々に回復した。4月中旬以降はN=200〜700件程度で推移しており、この期間のADRは¥8,400〜¥8,800のレンジに収束している。改正前の2月下旬(¥8,100)と比較すると、+300〜700円(+3.7〜8.6%)程度の水準引き上げが定着した形である。宿泊税の増額分(+200円)を超える上昇幅であることから、税負担の転嫁に加え、インフレや人件費上昇などの複合的な要因が重なっている可能性がある。
東京3区との比較:税改正なしでも同水準の上昇
次に、宿泊税改正のない東京3区(新宿区・渋谷区・台東区)の1万円以下ホテルADRと比較する。興味深いことに、東京でも3月第1週のADRは¥8,400前後であり、2月最終週と概ね同水準を維持していた。ただし東京の場合、3月後半にかけての需給逼迫は京都ほど極端ではなく、1万円以下プランの供給数も相対的に多い。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(N=東京3区ビジネスホテル・ゲストハウス等366施設)
4月中旬以降の安定期で見ると、東京のADRは¥6,500〜¥7,900のレンジで推移しており、京都の¥8,400〜¥8,800と比べて明確に低い水準にある。これは京都の観光需要プレミアムに加え、宿泊税改正の影響が一定程度含まれていることを示唆する。ただし、両都市で共通する物価上昇やインバウンド増加の効果を完全に分離することは困難であり、宿泊税改正「単体」の影響を正確に数値化するには慎重さが求められる。
週次平均ADR比較:京都 vs 東京
日次データの振れ幅を平滑化するため、週次平均ADRで両都市を並べた。京都は3月第1週の¥8,300から4月第3週の¥8,700へ緩やかな上昇トレンドを描いている。一方で東京は3月第1週の¥8,200から4月第3週には¥7,000前後まで低下しており、両都市の価格差は拡大傾向にある。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
この乖離パターンは注目に値する。京都のADRが底堅い推移を見せる一方、東京では閑散期に向けた値下げ圧力が顕在化している。京都で値下げ圧力が弱い理由として、宿泊税の増額分を価格に織り込んだ結果、値下げ余地が狭まっている可能性が考えられる。換言すれば、宿泊税改正がADRの「下方硬直性」を高めるという間接的な効果が観察されたともいえるだろう。
1万円以下プランの供給数推移
価格だけでなく、1万円以下プランの供給量にも着目したい。京都市では3月上旬にN=4,000〜5,800件あった1万円以下プランが、桜シーズンの3月20日前後にはN=15件前後にまで急減した。これは施設側が需要増を見込んで価格を引き上げた結果、1万円以下の閾値を超えたプランが大量に発生したことを意味する。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
4月後半になると供給は回復傾向を見せ、4月19日には京都でN=1,007件まで増加した。しかしながら、2月下旬のN=4,000〜5,800件と比較すると依然として低い水準にとどまっている。これは宿泊税改正後の価格水準が恒常的に上昇し、1万円以下で提供可能なプラン数が構造的に減少した可能性を示している。東京でも同様の傾向は見られるものの、京都ほどの減少率ではなく、この差異は宿泊税改正の間接的な影響と解釈できる。
売切率の推移:京都と東京の需要温度差
売切率は需給の逼迫度を反映する指標である。京都市では3月中旬から売切率が急上昇し、4月上旬の桜最盛期には64%を記録した。一方、東京でも年度末・卒業式シーズンで需要が高まったが、ピーク時の売切率は69%(4月4日)と京都を上回る場面もあった。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
注目すべきは、4月中旬以降の売切率の落ち着き方である。京都は30〜42%の範囲で安定しているのに対し、東京は34〜64%と振れ幅が大きい。京都の売切率が比較的安定しているのは、宿泊税改正後の価格上昇が需要の一部を抑制(もしくは分散)させた結果と読み取ることもできる。ただし、この仮説の検証には、実際の予約件数や客層データなど追加的な情報が必要であり、あくまで一つの解釈にとどまる。
前年同月比で見る構造変化
2025年3月第1週(宿泊税改正前)の京都市1万円以下ホテルADRは¥8,200であり、2026年3月第1週は¥8,300で前年同月比+1.2%の上昇となった。一方、東京3区は2025年3月第1週が¥8,500、2026年が¥8,200で前年同月比-3.5%の下落である。
| 指標 | 京都市 | 東京3区 |
|---|---|---|
| 2025年3月第1週 ADR(1万円以下) | ¥8,200 | ¥8,500 |
| 2026年3月第1週 ADR(1万円以下) | ¥8,300 | ¥8,200 |
| 前年同月比 | +1.2% | -3.5% |
| 2026年2月最終週 ADR(改正前基準) | ¥8,100 | — |
| 改正前→改正後(3月第1週)変化 | +2.5% | — |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
京都がプラス圏を維持する一方で東京がマイナスに転じているという非対称な動きは、宿泊税改正が京都のADR水準を下支えしている可能性を間接的に裏付ける。もっとも、京都は3月が桜シーズンの立ち上がりで需要が強い時期であるため、季節要因との複合効果である点には留意が必要である。
まとめ
京都市の宿泊税改正(2026年3月1日施行)が1万円以下のビジネスホテル・ゲストハウス層に与えた影響を、メトロエンジンリサーチの公開価格データで検証した結果、以下の3点が確認できた。
第一に、改正直後の3月第1週において、京都市の1万円以下ホテルADRは改正前(2月最終週)比+2.5%の上昇を記録した。宿泊税の増額分(+200円)は税込価格ベースでの直接的な押し上げ要因のひとつとなっている。
第二に、1万円以下プランの供給数が構造的に減少した。京都市では4月後半でもN=500〜1,000件程度にとどまり、改正前の2月下旬(N=4,000〜5,800件)から大幅に減少している。宿泊税改正後の価格底上げにより、1万円の閾値を超えるプランが恒常的に増加したと考えられる。
第三に、東京3区(宿泊税改正なし)との比較で、京都のADRには「下方硬直性」が観察された。東京が閑散期に向けて値下げ傾向を見せる一方、京都は¥8,400〜¥8,800のレンジを堅持しており、宿泊税の織り込みがフロアプライスの引き上げに寄与した可能性がある。
今後は東京都でも2027年度に宿泊税の定率3%化が予定されている。京都の先行事例は、税制改正がダイナミックプライシング戦略や価格帯別の供給構成にどのような影響を及ぼすか、全国のホテル事業者にとって重要な参照事例となるだろう。
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※本記事における指標の定義:ADR(平均客室単価)=調査対象施設が公開している販売価格の平均値であり、実際の成約価格とは異なります。売切率=調査時点で予約受付を終了していた販売プランの割合であり、施設全体の客室稼働率とは異なります。価格は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。
