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ハイアットセントリック札幌開業 — 北海道に広がる外資系ブランドとADR動向を読む

2026年6月、施工不良による2年以上の遅延を経てハイアットセントリック札幌が開業を迎える。北海道は2020年のリッツ・カールトン・リザーブ東山ニセコビレッジ開業以降、外資系ブランドの進出が加速しており、札幌市内ではこの2年間でコートヤード・バイ・マリオット、グランドメルキュール、Mギャラリー、インターコンチネンタルなどが相次ぎ開業した。本稿ではメトロエンジンリサーチが保有する公開価格データをもとに、札幌市内のグレード別ADR推移、道内主要エリアとのADR格差、そして外資系ブランド開業前後における周辺ADRの動きを過去事例から検証する。

※本記事における指標の定義:ADR(平均客室単価)=メトロエンジンリサーチが収集している販売価格の平均値であり、実際の成約価格とは異なります。価格は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。前年同月比はYoY(Year over Year)で表記しています。本記事に登場するホテル数・データポイント数の集計はメトロエンジンリサーチが把握する範囲のものです。

ハイアットセントリック札幌の概要 — 施工不良からの復活

ハイアットセントリック札幌は、NTT都市開発が札幌市中央区北2条西2丁目(旧北海道放送本社跡地)で開発を進める「アーバンネット札幌リンクタワー」の17階から26階に入居する。総客室数は216室で、JR札幌駅から徒歩約10分、地下鉄大通駅から地下道直結という立地が特徴である。当初は2024年春の開業予定であったが、2023年3月、施工を担当する大成建設が施工不良と虚偽報告を発表したことで状況が一変した。

発表された不具合の内容は深刻だった。鉄骨同士を接合するボルトが規定より小さく、鉄骨70箇所で平均4ミリ・最大21ミリのずれが確認され、加えて床・天井のコンクリート245箇所で厚みが規定より平均6ミリ・最大14ミリ薄かった。すでに地上15階まで組み上がっていた鉄骨は全て解体され、ゼロからの再施工となった。大成建設は建て直し費用と工期遅延に伴う違約金として約240億円の損失を計上したが、これにより竣工は2026年6月末まで延期されることとなった。

施工不良からの復活は単なるスケジュール変更にとどまらない意味を持つ。札幌市中心部の再開発計画は北4東6再開発、北8西1街区、月寒東地区など複数進行中であり、ハイアットセントリック札幌の開業遅延は中央区中心部のラグジュアリー〜アップスケール供給スケジュールに約2年の空白を生んだ。後述するインターコンチネンタル札幌(2025年10月開業)が先行する形となり、結果的に外資系ブランドの開業ラッシュが2024年〜2026年にかけて段階的に分散される構図となった。

項目 内容
所在地札幌市中央区北2条西2丁目(旧HBC本社跡地)
建物名アーバンネット札幌リンクタワー(地上26階)
客室階17階〜26階
客室数216室
アクセスJR札幌駅から徒歩10分/地下鉄大通駅地下道直結
開業時期2026年6月(当初2024年春→施工不良で延期)
開発主体NTT都市開発
運営ハイアット ホテルズ コーポレーション

出典:NTT都市開発・北海道新聞・トライシー報道よりホテルバンク編集部作成

北海道内の外資系ブランド一覧と開業タイムライン

北海道は長らく「外資系ブランドの空白地帯」と呼ばれてきたが、2020年のリッツ・カールトン・リザーブ進出を起点に状況は大きく変わった。札幌・ニセコ・倶知安の3エリアを中心に、ヒルトン、ハイアット、マリオット・インターナショナル、IHG、アコー、YTLなどメジャーチェーンの主要ブランドが揃い始めている。以下は道内における主要外資系ブランドホテルの開業タイムラインである。

開業年 ホテル名 エリア 運営チェーン 客室数
2006ヒルトンニセコビレッジニセコヒルトン506
2020パークハイアット ニセコHANAZONO倶知安花園ハイアット100
2020東山ニセコビレッジ リッツ・カールトン・リザーブニセコマリオット50
2024.1Mギャラリー サッポロ ファクトリー札幌(中央区)アコー154
2024.4グランドメルキュール札幌大通公園札幌(中央区)アコー222
2024.7コートヤード・バイ・マリオット札幌札幌(中央区)マリオット321
2025.9LXR / Curio / Tapestry(ニセコビレッジ3軒リブランド)ニセコヒルトン約500
2025.10インターコンチネンタル札幌札幌(中央区)IHG約280
2026.6ハイアットセントリック札幌札幌(中央区)ハイアット216
2029(予定)パークハイアット札幌札幌(中央区)ハイアット未公表

出典:各ホテルチェーン公式発表、トラベルボイス、北海道新聞報道よりホテルバンク編集部作成

表からわかるのは、2024年が「札幌外資元年」と呼べる転換点だったということである。年初のMギャラリー、4月のグランドメルキュール、7月のコートヤード・バイ・マリオットと、わずか半年で3ブランドの外資系ホテルが札幌中央区に集中開業した。これに2025年10月のインターコンチネンタル、2026年6月のハイアットセントリックが続き、さらに2029年にはパークハイアット札幌の進出が予定されている。客室数ベースで見ると、2024年〜2029年の5年間で札幌中央区に外資系ブランド約1,200室超が新規供給される計算になる。

一方、ニセコ・倶知安エリアではヒルトンが2025年9月にニセコビレッジの3軒(カサラ、ヒノデヒルズ、ザ・グリーンリーフ)をそれぞれLXRホテルズ&リゾーツ、キュリオ・コレクションbyヒルトン、タペストリー・コレクションbyヒルトンへとリブランドした。これによりニセコ単体で見るとパークハイアット、リッツ・カールトン・リザーブ、ヒルトン3ブランドが揃い、ラグジュアリー〜アッパースケールの厚みが増している。

札幌市内のグレード別ADR推移(2024〜2026年)

外資系ブランドの集中開業が札幌市内のADRにどう影響したか。メトロエンジンリサーチが収集している札幌市内ホテル約210施設の販売価格データを、グレード別・月次で2024年〜2026年8月まで集計したのが下図である。グレードは標準的な5段階分類(ラグジュアリー/ハイグレード/アッパー/エコノミー/バジェット)を採用し、年次でオーバーレイ表示することで季節性とトレンドを同時に可視化した。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(札幌市内ラグジュアリー約34施設、N=月平均約30万データポイント)

ラグジュアリーグレードは2024年から2025年にかけて+12.7%の伸びを示し、2025年7-8月にはADR約¥50,000〜¥51,000のピークを記録した。2026年も基調は維持されているが、伸びは+2.8%と鈍化しており、ラグジュアリーセグメントは需給バランスがやや均衡領域に入りつつあることがうかがえる。次にハイグレード〜バジェットの4グレードの推移をまとめて確認する。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(札幌市内ハイグレード約27施設)

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(札幌市内アッパー約74施設)

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(エコノミー約26施設、バジェット約42施設)

グレード 2024年通年ADR 2025年通年ADR 2025年YoY 2026年Jan-Aug ADR 2026年YoY
ラグジュアリー¥39,200¥44,100+12.7%¥45,800+2.8%
ハイグレード¥26,700¥30,700+15.0%¥33,900+11.3%
アッパー¥26,600¥28,500+7.3%¥30,200+6.5%
エコノミー¥20,400¥24,600+20.5%¥25,500+4.9%
バジェット¥16,800¥20,900+24.8%¥22,300+8.8%

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

注目すべきは2025年の伸び率の偏りである。バジェット+24.8%、エコノミー+20.5%、ハイグレード+15.0%、ラグジュアリー+12.7%、アッパー+7.3%という順序で、最下層グレードの上昇率が最も大きい。これは札幌市内全体でインバウンド需要と新ブランド開業による需要喚起が、低価格帯にまで波及したことを示唆する。一方、2026年に入るとハイグレードのみが+11.3%と二桁成長を維持し、他グレードは伸びが減速している点も見逃せない。ハイグレード帯は外資系ニューブランド(コートヤード・バイ・マリオット、グランドメルキュール、Mギャラリーなど)の開業で競争が激化したが、それが価格を引き下げるどころか押し上げる方向に作用していることになる。

札幌駅周辺 半径1.5km圏内 競合ホテル分布

続いて、ハイアットセントリック札幌が立地する札幌駅周辺の競合環境を可視化する。札幌駅から半径1.5km圏内に立地し、メトロエンジンリサーチが把握している営業中の宿泊施設は83軒、総客室数は約13,900室である。グレード分布は下記の円グラフのとおりで、バジェット23軒、アッパー20軒、ラグジュアリーとハイグレードがそれぞれ13軒、エコノミー13軒という構成になっている。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成

札幌駅から半径1.5km圏(地図上の円)/円の大きさは客室数

地図に示した競合施設のうち、ラグジュアリー帯にはJRタワーホテル日航札幌(342室)、ANAクラウンプラザホテル札幌(412室)、ホテル京阪札幌(200室)などが含まれる。ハイアットセントリックがフォーカスする「ライフスタイル系アッパースケール」の領域で、駅徒歩10分以内に直接的な比較対象となる外資系ブランドは現時点で限定的であり、ポジショニング上の優位性が高いと考えられる。とくにJRタワーホテル日航札幌は1キロ圏内で最大の供給を持つラグジュアリーホテルだが、開業から20年超を経過しており、2003年開業の同施設に対して2026年新規開業のハイアットセントリックは設備面でも明確に差別化できる。

道内主要エリアのADR格差マップ(2026年5-9月)

北海道は単一の市場ではない。札幌のビジネス需要、ニセコのインバウンドスキー+夏季リゾート需要、富良野のラベンダー観光、函館の歴史観光、登別の温泉需要など、エリアごとに季節性と価格水準が大きく異なる。下図は2026年5月〜9月の道内主要6エリアのADR比較である。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年5-9月平均、円の大きさはADR水準)

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(2026年5-9月集計、対象施設数:ニセコ・倶知安123、登別26、小樽85、富良野エリア119、札幌市288、函館153)

意外に映るかもしれないが、2026年夏季のADRが最も高いのは登別市である。¥62,500のADRは札幌市の¥38,700を約61%上回る水準で、これは温泉旅館主体の高単価セグメントが集中していること、また通年営業の限られた施設で需要密度が高いことが背景にある。ニセコ・倶知安は¥56,800で2位だが、これはオフシーズンの夏季データであり、冬季ピーク(12〜2月)にはADRが¥150,000〜¥200,000台に到達するエリアであることを念頭に置く必要がある。札幌市は¥38,700と道内最大のホテル供給を抱えながらも、ニセコや小樽、富良野エリアより低い水準である。これは288施設という大量供給による分散効果と、ビジネス・観光双方の幅広い価格帯ホテルが集中している構造を反映している。

外資ブランド開業前後のエリアADR変動 — 過去事例の検証

ハイアットセントリック札幌の開業が周辺ADRにどう作用するかを推察するうえで、過去の外資系ラグジュアリー開業事例は有益な参照点となる。ここでは2023年4月のブルガリ ホテル 東京(東京駅前)、2025年4月のウォルドーフ・アストリア大阪(大阪駅前)の2事例について、開業前後の周辺エリアラグジュアリーADRの推移を可視化した。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(東京千代田区・中央区ラグジュアリー約110施設、月次平均)

東京駅前エリアでは、ブルガリ ホテル 東京開業直前の2023年3月にラグジュアリーADRが¥49,200だったのに対し、開業月の4月には¥52,100、9月には¥55,700、11月には¥57,900と階段状に上昇していった。開業半年後で約13%、1年後では約14%の上昇となり、超高級ブランド進出が周辺の既存ラグジュアリー施設の価格戦略を引き上げた可能性が示唆される。1泊¥250,000〜¥4,000,000という極端な価格帯のホテルが市場に登場すると、周辺の既存ラグジュアリー(¥50,000台)はミドルレンジに位置付け直される心理効果が働き、結果として既存施設も価格を引き上げる行動を取りやすくなる。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(大阪市北区ラグジュアリー約14施設、月次平均)

大阪市北区(梅田・グラングリーン周辺)では、ウォルドーフ・アストリア大阪開業(2025年4月)の前月2025年3月のラグジュアリーADR¥69,700に対し、開業月の4月は¥87,900と26%急騰した。これは開業直後の話題性と大阪・関西万博開幕(4月13日)の同時要因であるが、注目すべきは開業1か月後の5月以降である。5月¥80,100、9月¥73,200、10月¥84,700と、ピーク時より緩和しつつも開業前水準(¥70,000前後)よりは高い領域で推移している。

東京・大阪の事例から札幌への示唆として導けるのは以下の3点である。第一に、ラグジュアリー〜アップスケールの新規外資ブランド開業は、既存施設の価格にプラス方向に作用しやすい(カニバリ効果より価格帯引き上げ効果が優勢)。第二に、開業直後の急騰は1〜3か月で落ち着くものの、ベースラインは開業前を上回る水準で安定する。第三に、これは万博・五輪のような一過性イベントと組み合わさったときに特に強く出るが、純粋なブランド開業効果でも一定の押し上げが観察される。

これを札幌に当てはめると、2025年10月のインターコンチネンタル札幌、2026年6月のハイアットセントリック、2029年予定のパークハイアット札幌という連続的な外資ブランド開業は、札幌中央区のラグジュアリー〜ハイグレード価格帯を構造的に押し上げる方向に作用する可能性が高い。実際、本記事のグレード別ADR分析でも札幌のハイグレード帯は2026年も+11.3%と高い伸びを維持しており、これは既にその効果が顕在化していることを示している。

まとめ — 札幌外資ラッシュの中期展望

本稿で確認したポイントを整理する。第一に、ハイアットセントリック札幌は施工不良からの復活案件として2026年6月に216室で開業予定であり、札幌中央区における外資系ブランド集中期の一翼を担う。第二に、2024年からの2年間で札幌中央区は外資系ホテル(Mギャラリー、グランドメルキュール、コートヤード・バイ・マリオット、インターコンチネンタル、ハイアットセントリック)の開業ラッシュに突入し、2029年のパークハイアットまで含めると約1,200室超の新規供給が予定されている。第三に、にもかかわらず札幌のグレード別ADRは2024→2025年で全グレードが二桁前後で上昇し、2026年に入ってもハイグレード帯は+11.3%という高い伸びを継続している。第四に、東京・大阪の過去事例から、外資系ラグジュアリー新規開業は周辺の既存施設の価格を引き下げるどころか引き上げる方向に作用する傾向が観察される。

道内主要エリアの比較では、登別・ニセコ・小樽がADR水準で札幌を上回り、北海道は単一市場ではなく複数の独立した需給バランスを持つことが改めて確認できた。ハイアットセントリック札幌の開業は、札幌中央区における高単価ホテル供給の厚みを増し、周辺施設のADR押し上げに寄与する可能性が高い。レベニューマネジメント担当者にとっては、開業直前期から半年後にかけての周辺ADR動向を週次で観測し、新規供給に伴う需要シフトと価格帯再編にいち早く対応することが重要となるだろう。

関連リンク・出典

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