2026年のゴールデンウィーク(4月29日〜5月6日)を控え、主要6都市のホテル販売価格が前年同期と比べて大きく変化している。OTA等で公開されている販売価格データを集計したところ、4月・5月の月次ADR(平均販売価格)は京都で前年同月比+18〜+20%、東京で+14〜+17%と大幅上昇した一方、GW期間に日付を絞ると都市間の温度差が鮮明に表れた。本稿では6都市の実データを、インバウンド動向・国内旅行需要・REIT運営状況の3つの観点から読み解く。
※本稿の価格はすべて2名1室利用時の1室あたり料金(税込)。OTA等で公開されている販売価格の平均値を集計。
GW期間中の6都市ADRと前年同期比
まずはGW本番(4月29日〜5月6日の8日間)のチェックイン日で集計した6都市のADRを確認する。最も高価格は京都(¥48,900)、次いで沖縄(¥47,000)、東京(¥41,300)と続いた。前年同期比では沖縄が+13.3%、北海道が+9.7%、福岡が+9.2%、京都が+7.1%と上昇する一方、東京は+4.0%、大阪はマイナス11.3%と対照的な結果となった。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成(N=5,683千件、集計対象2026年4月29日〜5月6日チェックイン)
一方で、GW期間に限らず4月・5月の月次ADRで見ると、前年同月比は京都+18.6%(4月)〜+20.4%(5月)、東京+17.4%〜+14.2%、北海道+11.2%〜+13.1%と、より高い上昇率が確認できる。これはGWの連休特殊需要が平常日の需要拡大と比べて相対的に弱まっていること、言い換えれば「通年を通じた需要の底上げ」がADR上昇の主因であることを示唆している。
| 都市 | GW期間ADR(2026) | GW期間YoY | 4月月次YoY | 5月月次YoY | 売切率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 京都府 | ¥48,900 | +7.1% | +18.6% | +20.4% | 23.9% |
| 沖縄県 | ¥47,000 | +13.3% | +7.0% | +10.9% | 30.3% |
| 東京都 | ¥41,300 | +4.0% | +17.4% | +14.2% | 30.8% |
| 福岡県 | ¥38,800 | +9.2% | +5.2% | +6.4% | 27.9% |
| 北海道 | ¥37,300 | +9.7% | +11.2% | +13.1% | 27.7% |
| 大阪府 | ¥31,000 | -11.3% | +8.4% | +12.5% | 29.1% |
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
なぜ大阪だけGW期間でマイナスになったのか
6都市で唯一GW期間にADRが前年比マイナスとなった大阪府は、月次ベースでは+8〜+12%の上昇を示している。この乖離の背景には、2025年GWに開催された大阪・関西万博の期間中需要を捉えた価格設定が存在すると考えられる。2025年のGWは万博開幕直後にあたり、ホテル需要が集中的に高まった結果、一時的にADRが嵩上げされた。2026年GWはその反動により、通期トレンド(+8〜+12%)の上昇軌道に対してGW期間の前年比が相対的に低く見える格好となった。
ただし、平日を含む月次ADRでは大阪も他都市と同様に前年比プラスを維持している。つまり大阪の「マイナス」は価格下落の反転局面ではなく、特殊需要の剥落による調整であり、構造的な需要の鈍化とは区別すべき現象である。
6都市の月次ADR推移と季節性
続いて、6都市の月次ADRを2024年1月から2026年6月まで通観する。いずれの都市も右肩上がりで上昇しており、特に京都と東京の上昇幅が顕著である。京都は2024年4月のピーク¥39,474から2026年4月には¥50,277へ、2年で約+27%の水準に達した。
出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成
チャートで注目すべきは、京都・東京といったインバウンド需要依存度の高い都市で冬場(11〜12月)のADR上昇が顕著になっていることである。これは従来「閑散期」とされていた期間が、欧米豪からの中長期旅行者流入により平準化されつつあることを物語っている。一方で北海道は2025年夏以降の上昇が目立ち、季節性に沿った需要拡大が観察される。
要因1:訪日外国人数は依然として記録的水準
価格上昇の最大の牽引役は、依然として好調を維持するインバウンド需要である。日本政府観光局(JNTO)によれば、2026年2月の訪日外客数は約347万人と2月として過去最高を更新し、前年同月比+6.4%で推移している。市場別では韓国、台湾、米国など18市場が2月としての過去最高を記録し、旧正月(春節)時期が2025年の1月下旬から2026年2月中旬にシフトした影響を吸収しつつ、訪日市場全体の厚みが確認できる。
なお2026年1月は訪日客数が前年比-4.9%と4年ぶりにマイナスに転じたが、これは主に中国からの訪日客が前年比で大きく減少した影響である。逆に韓国が単月初の110万人超えを記録し、他市場の好調さが際立つ結果となった。インバウンド総量の底堅さに加え、市場構成の多様化が6都市のホテル需要を底上げしているといえる。
要因2:国内旅行需要も微増、近場・短期化の傾向
JTB総合研究所の推計によれば、2026年GW(4月25日〜5月7日)の総旅行者数は2,447万人で前年比+1.9%、総旅行消費額は1兆2,876億円で+1.1%と見込まれる。国内旅行は2,390万人(+1.7%)で微増だが、海外旅行が57.2万人(+8.5%)と顕著な伸びを示している。
注目すべきは平均旅行予算の動向である。国内旅行の平均計画予算は4.6万円と前年から縮小しており、近場・短期化の傾向が進んでいる。消費者心理は「可処分所得に余裕がある」「旅行支出を削らない」方向にシフトしつつも、1人当たり支出は抑制される構図である。これが「需要は堅調、単価は微減」という国内旅行のベースラインを形成している。
それにもかかわらず6都市のADRが上昇しているのは、インバウンドの単価押し上げ効果と、稼働率上昇に伴う価格戦略の強気化が国内需要の単価抑制を上回っているためと考えられる。
要因3:REIT運営実績が示す稼働率と単価の両輪上昇
需要側の指標だけでなく、供給側の運営実績からも価格上昇の裏付けが得られる。都市型ホテルを中核とする主要REIT3社の2026年2月月次運営実績を見ると、稼働率・ADR・RevPARのいずれも前年同月比でプラスを維持している。
出典:各社REIT月次運営データよりホテルバンク編集部作成
ジャパン・ホテル・リート投資法人(8985)は2026年2月時点で稼働率85.2%(前年同月比+2.4pt)、ADR¥19,449(+3.1%)、RevPAR¥16,567(+6.1%)となった。インヴィンシブル投資法人(8963)も稼働率86.6%(+2.0pt)、ADR¥13,473(+0.9%)、RevPAR¥11,669(+2.9%)とプラス基調を維持している。
一方、リゾート系中心の星野リゾート・リート投資法人(3287)は稼働率76.5%(+1.9pt)、ADR¥20,771(+8.6%)、RevPAR¥15,884(+10.5%)と、ADR牽引による収益拡大が顕著である。これらのデータは、6都市ADR上昇の背景に「高稼働+単価上昇」の両輪型成長があることを裏付けている。
出典:各社REIT月次運営データよりホテルバンク編集部作成
要因4:供給鈍化と「選別期」入り
価格上昇の供給側要因として、新規開業ホテル数の鈍化も無視できない。2026年の新規開業ホテルは全国で約36軒と伝えられ、帝国ホテル京都祇園や那覇、東京ベイエリアのリゾート型など主要プロジェクトは続くものの、回復期を牽引してきた大量開発局面は一段落している。
宿泊業界の構造面では、観光庁が「観光を稼げる産業にする」を掲げ、「高付加価値化×省力化」への予算シフトが明確になっている。人手不足対策費は前年比6倍に拡充され、バリアフリー化予算は13倍に急増した。こうした政策の方向性も、客室供給量の急拡大よりも既存施設の価値向上と稼働率最適化に舵を切る動きを後押ししている。
加えて、2019年水準に届いていない日本人旅行需要と、過去最高水準のインバウンド需要のギャップが、都市型ホテルの稼働率を押し上げ、単価強気化を正当化する環境を形成している。業界は回復期を終え「選別期」に入ったとされ、価格競争力と顧客体験価値で明暗が分かれる局面である。
都市別の要因寄与度サマリー
6都市それぞれのADR上昇要因を、インバウンド・国内需要・供給制約の3軸で定性的に整理すると以下のようになる。
| 都市 | インバウンド | 国内需要 | 供給制約 | 主要ドライバー |
|---|---|---|---|---|
| 京都府 | ◎ | ○ | ◎ | 欧米豪長期滞在+高付加価値化 |
| 東京都 | ◎ | ○ | ○ | 都市型MICE+ビジネス需要 |
| 沖縄県 | ○ | ◎ | ○ | リゾート長期滞在+新規開業 |
| 北海道 | ○ | ○ | ◎ | 季節性+冬季需要の平準化 |
| 福岡県 | ○ | ◎ | △ | ビジネス安定+韓国需要 |
| 大阪府 | ○ | ◎ | △ | 万博反動+基調は上昇継続 |
出典:ホテルバンク編集部による総合評価(◎:強い寄与、○:中程度、△:限定的)
まとめ:2026年GW価格は構造的シフトの通過点
2026年GWの6都市ADRは、GW期間単独で見ると+4〜+13%、月次ベースでは+5〜+20%と幅のある上昇率を記録した。最大要因は「過去最高水準のインバウンド需要」と「稼働率を維持しながら単価を上げられる供給環境」であり、これはREIT各社の運営実績からも裏付けられる。
大阪府のGW期間マイナスは万博特殊需要の剥落による一過性現象であり、月次トレンドは他都市同様プラスを維持している。都市別の寄与要因を踏まえると、今後もインバウンド依存度の高い京都・東京は単価上昇余地が大きく、リゾート性の高い沖縄・北海道は長期滞在型需要の拡大余地が残る。宿泊業界は「選別期」に入り、価格戦略と顧客体験価値の両輪がこれまで以上に問われる局面である。
