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観光庁2026年1月速報深掘り|外国人比率50%超え定着の東京と日本人需要が薄まる地殻変動

観光庁が2026年3月31日に発表した「宿泊旅行統計調査(2026年1月・第2次速報)」は、見出しの数字以上に重要な構造変化を含んでいる。延べ宿泊者数は前年同月比-7.0%、日本人-3.3%、外国人-15.3%と全体的に減速したものの、その内訳を都道府県別に分解すると、まったく異なる2つのトレンドが同時進行していることが分かる。本稿では2024年1月・2025年1月・2026年1月の3年分の都道府県データを突き合わせ、外国人比率の推移、日本人宿泊者数の前年割れ県ランキング、そして「外国人需要に置き換わったエリア」と「純減したエリア」のマトリクス分析を行い、ADR推移と組み合わせて『日本人が宿泊できない価格帯化』が本当に起きているかを検証する。

※本記事における指標の定義:ADR(平均客室単価)=メトロエンジンリサーチが集計した、調査対象施設が公開している販売価格の平均値であり、実際の成約価格とは異なります。価格は2名1室利用時の1室あたり料金(税込)です。延べ宿泊者数・日本人比率・外国人比率は観光庁「宿泊旅行統計調査(2026年1月・第2次速報)」に基づきます。なお2026年1月分調査より層化基準が「従業者数」から「客室数」へ変更されたため、対前年比較には見直しの影響が含まれている可能性があります。

2026年1月速報の全体像|久しぶりの「全方位マイナス」

2026年1月の延べ宿泊者数は4,546万人泊(前年同月比-7.0%)であった。内訳は日本人3,263万人泊(-3.3%)、外国人1,283万人泊(-15.3%)。延べ宿泊者全体に占める外国人比率は28.2%となった。コロナ禍からの急回復局面が一段落し、訪日需要・国内需要の双方が同時にマイナスに振れたのは2024年以降ほぼ初めてである。

外国人マイナスの主因は、2025年1月にあった中国の春節(旧正月)が2026年は2月にずれ込んだ暦要因に加え、中国本土からの宿泊者数が前年同月比-62.9%と大きく減少した点が大きい。台湾・韓国・米国などは前年同月を上回ったが、中国の落ち込みを補いきれなかった構図である。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2026年1月・第2次速報)」よりホテルバンク編集部作成

外国人比率上位県の3年推移|「50%超え」は東京都のみ

都道府県別の外国人比率(外国人延べ宿泊者数÷全体延べ宿泊者数)を2024年1月・2025年1月・2026年1月の1月断面で並べると、ランドスケープが想像以上に動いていることが見えてくる。

まず最も象徴的なのは東京都である。2024年1月の46.4%から2025年1月55.4%、2026年1月56.2%へと、2年連続で50%超えを達成し、ついに「日本人より外国人が多く泊まる首都」という状態が定着した。一方で2025年1月に50.9%まで上昇していた京都府は、2026年1月には43.5%まで低下。中国春節の暦ズレの影響を最も強く受けた格好である。

注目すべきは、見出しでは「全体マイナス」になりやすい都道府県でも、外国人比率自体は2024年比で大きく上昇している点だ。岐阜県は20.6%→27.5%(+6.9pp)、福岡県は30.1%→36.8%(+6.7pp)、山形県は12.0%→18.5%(+6.5pp)、岩手県は9.2%→15.1%(+6.0pp)など、雪国・地方都市・温泉地でじわじわとインバウンド比率が定着しつつある。香川県の+10.0ppは47都道府県で最大の上昇幅となった。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査」(各年1月第2次速報)よりホテルバンク編集部作成

日本人宿泊者数が前年割れした県ランキング|大都市部に集中

2026年1月の日本人延べ宿泊者数の前年同月比は、全国平均で-3.3%。これを都道府県別にみると、減少率が大きいのは大分県(-17.8%)、大阪府(-16.1%)、東京都(-15.7%)、佐賀県(-14.9%)、福岡県(-14.5%)の順となった。

大阪府・東京都・福岡県という3大インバウンド都市が日本人マイナス2桁という事実は、業界関係者にとって特に注視すべきポイントである。これらの都市は外国人比率が高い県と一致しており、後述する『日本人が宿泊できない価格帯化』の仮説と整合する動きを示している。

順位都道府県2025/1 日本人2026/1 日本人前年同月比2026/1 外国人比率
1大分県502,130413,000-17.8%26.1%
2大阪府2,453,9002,058,350-16.1%44.3%
3東京都3,802,6903,205,010-15.7%56.2%
4佐賀県172,940147,210-14.9%9.6%
5福岡県1,223,3301,046,020-14.5%36.8%
6北海道2,176,4501,942,160-10.8%45.5%
7岡山県338,360302,210-10.7%10.6%
8岐阜県421,880381,380-9.6%27.5%
9三重県660,770599,520-9.3%2.5%
10鹿児島県551,060500,410-9.2%11.7%

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2026年1月・第2次速報)」よりホテルバンク編集部作成。日本人前年同月比減少率の上位10県を抽出。

『置換 vs 純減』マトリクス分析|地殻変動の主役はどこか

日本人マイナスの県を一律に「需要減」と捉えるのは早計である。同じマイナスでも、外国人需要が増えて全体は維持されている県と、外国人需要も減って純粋に縮小した県では意味がまったく異なる。そこで日本人前年同月比と外国人前年同月比を2軸にとり、47都道府県を4象限にマッピングした。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2026年1月・第2次速報)」よりホテルバンク編集部作成

結果として、47都道府県は以下の4つに分類された。

象限県数主な県(例)解釈
Q1:置換型
(日本人減・外国人増)
6大分県、岩手県、山形県、沖縄県、兵庫県、広島県日本人需要の落ち込みを外国人で補填している、本記事の中心テーマに最も合致する象限
Q2:純減型
(日本人減・外国人減)
18大阪府、東京都、福岡県、北海道、愛知県、神奈川県中国春節ズレが直撃。インバウンド依存度が高い都市ほど反動が大きい
Q3:両方プラス
(日本人増・外国人増)
12茨城県、高知県、福島県、鳥取県、山口県、栃木県需要全体が拡大している成長エリア。地方部のインバウンド浸透
Q4:国内回帰型
(日本人増・外国人減)
11京都府、富山県、奈良県、青森県、長崎県、長野県外国人の春節ズレ反動を国内需要が補填。京都が代表的

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2026年1月・第2次速報)」よりホテルバンク編集部作成(N=47都道府県)

ここで注目すべきは、Q1「置換型」の代表例である大分県・岩手県・山形県・沖縄県の存在だ。これら4県はいずれも日本人前年同月比がマイナスだが、外国人は2桁プラスとなっており、需要構成が確実に外国人寄りにシフトしていることが分かる。特に大分県は日本人-17.8%・外国人+6.2%と全国でも最も顕著な「置換型」であり、別府・由布院といった温泉地でインバウンド需要が国内需要を埋め合わせる構図が明確になっている。

一方で、見出し的に最も話題になりやすい東京都・大阪府・福岡県は実はQ2「純減型」に分類される。これらの都市は外国人比率が高いがゆえに、中国春節の暦ズレの影響を最も強く受け、外国人・日本人ともに2桁減という結果になった。インバウンド依存度の高さが、外的要因に対する脆弱性として表面化した1月といえる。

ADR推移と『日本人が宿泊できない価格帯化』の検証

では、東京都・京都府などの大都市で日本人宿泊者数が大きく減った背景には、本当に「価格帯の上昇」が影響しているのか。メトロエンジンリサーチが集計した公開価格データから、2024年1月・2025年1月・2026年1月の都道府県別ADR推移を抽出した。

出典:メトロエンジンリサーチ、ホテルバンク編集部より作成。2名1室利用時の1室あたり料金(税込)。集計対象施設数は東京都N=7,187、京都府N=5,813、北海道N=13,790、福岡県N=4,960、沖縄県N=6,337、大阪府N=5,291(2026年1月)。

結果は明瞭である。2026年1月の東京都ADRは¥41,200で、2024年1月の¥28,000から+47.2%の上昇となった。京都府も¥35,400→¥41,700(+17.7%)、北海道は¥30,400→¥34,900(+14.7%)、福岡県は¥25,800→¥28,800(+11.7%)。一方で大阪府は¥21,200→¥23,000(+8.7%)と、東京・京都に比べて上昇幅は限定的である。

東京都の+47.2%という上昇率は、この2年間の日本人実質賃金の伸び率(厚生労働省「毎月勤労統計調査」によれば2024〜2025年で概ね横ばい〜小幅プラス程度)を大きく上回っており、宿泊価格と日本人の支払い能力の乖離が広がっていることを示唆する。日本人宿泊者数が-15.7%と東京都で大きく減少した背景には、暦要因に加えてこの「価格との乖離」が構造的に効いている可能性が高い。

都道府県2024/1 ADR2025/1 ADR2026/1 ADR2024比上昇率2026/1 日本人前年比
東京都¥28,000¥29,600¥41,200+47.2%-15.7%
京都府¥35,400¥35,000¥41,700+17.7%+0.2%
北海道¥30,400¥29,800¥34,900+14.7%-10.8%
福岡県¥25,800¥27,600¥28,800+11.7%-14.5%
沖縄県¥22,500¥23,900¥24,900+10.7%-2.4%
大阪府¥21,200¥22,000¥23,000+8.7%-16.1%

出典:メトロエンジンリサーチ、観光庁「宿泊旅行統計調査」よりホテルバンク編集部作成。ADRは1月の月次平均、2名1室利用時の1室あたり料金(税込)。

京都府がQ4「国内回帰型」(日本人+0.2%・外国人-25.6%)に位置している点も興味深い。ADRが2024年比+17.7%と上昇しているにもかかわらず日本人需要は微増している背景には、外国人需要の急減でディスカウントプランが復活し、日本人にとっての宿泊機会が一時的に戻った可能性が考えられる。これは2025年通年で観察された「日本人が京都から押し出される」状況の一時的な揺り戻しと見ることもできる。

客室稼働率からみる構造変化|稼働は維持できるが、誰の客で?

2026年1月の客室稼働率は全国平均52.7%(前年同月差-1.9pp)。都道府県別では東京都70.7%、福岡県63.7%、大阪府62.8%、千葉県61.8%、埼玉県60.5%が上位5県を占めた。注目すべきは、日本人マイナス2桁を記録した東京都・大阪府・福岡県が、稼働率では全国トップクラスを維持している点である。これは外国人需要が依然として高水準であることを示しており、「日本人が減っても客室は埋まる」という構造が確認できる。

一方で、地方都市では稼働率が前年同月差で大きく低下した県もある。大阪府は-8.9pp、鳥取県-7.7pp、佐賀県-7.0pp、岐阜県-5.5pp、山形県-4.1ppなどが目立つ。地方の中でも、インバウンド需要をうまく取り込めなかった県では、日本人需要の減少が稼働率にダイレクトに反映される。

出典:観光庁「宿泊旅行統計調査(2026年1月・第2次速報)」よりホテルバンク編集部作成

投資家・運営者目線での示唆|単純な「インバウンド勝ち組/負け組」を超えて

本データから、ホテル投資家・運営者にとって意識すべき構造論点が見えてくる。整理すると以下の通りである。

1. 外国人比率50%超え県は「東京都のみ」が定着しつつある
2024年1月時点では0県、2025年1月は東京・京都の2県、2026年1月は東京の1県が50%超え。京都の50%越え→50%割れの揺り戻しは、外国人比率の年次変動を均してみる重要性を示している。少なくとも東京は構造的に「外国人主体マーケット」へ移行したと評価してよいだろう。

2. 「日本人が宿泊できない価格帯化」は東京都で最も顕著
東京都ADRの2024年比+47.2%は、日本人の支払い能力の伸びを大きく上回るペースであり、日本人需要が-15.7%と急減した背景に価格要因が無視できない比重で効いていることを示唆する。インバウンド需要が一時的にでも減速したとき、日本人需要が穴を埋めにくい構造が固定化しつつある。

3. 「置換型」エリアは中長期的な投資対象として注目
大分県・岩手県・山形県・沖縄県といったQ1象限の県は、日本人需要の構造的減少を外国人需要が補填している。地方部は人口減少もあって日本人需要は中長期で漸減傾向だが、インバウンドの浸透がそれをカバーする構図はホテル投資の観点でポジティブに評価できる。一方、Q3「両方プラス」の高知県・茨城県・福島県・鳥取県・山口県は、現在は規模が小さくとも成長率では全国上位に入る要注目エリアである。

4. インバウンド依存度が高い都市ほど短期ボラティリティに脆弱
東京都・大阪府・福岡県・北海道の「Q2純減型」入りは、中国春節の暦要因が直撃した結果である。月次のボラティリティが高まる時代に入ったとき、運営者は単月の数字に一喜一憂するのではなく、複数月平均でトレンドを見る眼を持つ必要がある。同時に、価格戦略の柔軟性(日本人向けプランを残す、内需向け施策を平行運用する等)が、需要急減局面での収益安定化に寄与する。

5. 2026年2月以降の春節後反動を注視
2026年2月の第1次速報では延べ宿泊者数が4,625万人泊(前年同月比-3.5%)と、1月よりは減少幅が縮小している。中国春節が2月に移動した影響で外国人需要が戻った可能性がある。1〜2月を通算してみたとき、本当の構造減速がどの程度なのかは、4月30日公表予定の2月第2次速報をもって改めて確認する必要がある。

まとめ|ヘッドライン数字の裏で進む二極化

2026年1月の宿泊統計は、見出しの「全体-7.0%」という数字だけ見れば一見悪材料に見える。しかし都道府県別に分解すると、需要総量が縮小するエリア(Q2純減型)と、需要構成が外国人寄りに置き換わるエリア(Q1置換型)、そして需要規模自体が拡大するエリア(Q3両方プラス)が同時並行で進行している。この二極化、あるいは三極化と呼ぶべき分布が、日本のホテルマーケットの新しい姿である。

東京都の外国人比率56.2%・ADR2024年比+47.2%という数字は、単なるインバウンド成長の延長線上ではなく、「日本人が首都圏で宿泊しにくくなった」という構造変化の到達点とみるべきだ。一方で大分県・岩手県のように、日本人需要を外国人で置換することで稼働率と単価を維持する地方部の姿も無視できない。投資・運営の意思決定では、47都道府県を単一の「日本ホテル市場」として扱うのではなく、それぞれが置かれた象限と価格帯シフトの方向性を踏まえた個別分析が必要な時代に入ったといえるだろう。

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