「日本のレジャーをもっと楽しく!」をテーマに、ホテル、リゾート、レストラン、エンターテインメント、リバークルーズなど多岐にわたる事業の開発や運営を手がけるカトープレジャーグループ。トータルプロデュースカンパニーとして、独自の視点で新たな価値を生み出し続けている同社は、施設数を約90施設にまで伸ばし、業界に新たな風を吹き込んでいます。
2023年4月に代表取締役社長 兼 グループCEOに就任した加藤宏明氏。前編では、若くして経営の重責を担う加藤氏に、これまでの歩みや経営方針について伺いました。
幼少期から触れたレジャー事業の魅力
──幼い頃から、事業が身近な環境で育ったそうですね。
加藤:はい。私は大阪で生まれ本社で育ちました。社屋に住宅があり、当時は今ほど会社の規模が大きくなく、帰宅したら会社を通って家に入るような作りでした。父である代表の加藤が働く姿や、スタッフの皆様の様子を日常的に目にしていたので、仕事への憧れを持っていたように思います。
代表は全国を飛び回っていたので、親子として接する時間は多くはなかったのですが、新しい施設ができると視察、事業の素晴らしさやコンセプトについて熱心にプレゼンしてくれていたんです。こうして、レジャー事業の楽しさや面白さを自然と学んでいきました。家業を継いでいく想いは6〜7歳のころから芽生えていました。
──それほど幼い頃から将来を意識していたんですね。
加藤:「経営者とは」「リーダーとは」など、代表は幼い頃から私によく話していました。何より、サービス業はお客さまと接する職業。人とのご縁の大切さや感謝の気持ちを持ち続けることなど、気持ちの部分について熱心に教わったことは、今でも私の核になっている部分です。
グローバルな視点を養う留学経験
──大学卒業後、ニューヨーク大学大学院でホテルファイナンスを専攻されたそうですが、その理由を教えていただけますか。
加藤:ニューヨークで学ぶことで、グローバルな視点やリアルな感覚を体感したいと考えました。ホテルやレストランの最新トレンドに触れることで、自分の感性を磨きたかったのです。
実際、ニューヨークでの3年間は非常に刺激的でした。星付きレストランにはほぼ全て訪問し、様々なホテルを見学するなど、精力的にマーケティングを行いました。
例えば、日本では考えられないような回転率の高いフレンチレストランや、価格設定の違いなど、日本とは全く異なるマーケット感覚を肌で感じることができました。
入社後、大型プロジェクトで経験を積む
──日本に戻られて、すぐにカトープレジャーグループに入社されたのですね。
加藤:2015年、日本に戻ってすぐに入社しました。本来であれば、他社で修行期間を持つことも大切なのかもしれません。しかし、若いうちに入社し、全国の施設を巡って各地のスタッフの皆様からオペレーションを学ぶことが重要だと私は考えました。
──入社してからの歩みを教えてください。
加藤:入社後は全国の施設を回り、基本的なオペレーションやコンセプトについて学びました。入社2年目には、大型投資プロジェクト長崎の「i+Land nagasaki」(旧やすらぎ伊王島)のリブランディングプロジェクトを任され、地方創生の観点から施設運営に取り組みました。
2017年は長崎市より指定管理施設として営業受託していましたが、2018年には民間委譲していただきました。 チャレンジではありましたが、同時に大きな学びの機会にもなりました。
年間300日ほど長崎に滞在し、開発業務やオペレーションの改革に取り組みました。18年間運営してきた施設のリブランディングということで、従来よりのスタッフの雇用維持に加え、新たなスタッフの雇用など、地方創生のロールモデルをキーワードにしました。
この経験を通じて、トータルプロデュースの重要性や、地域と連携した事業展開の可能性を実感しました。その後も沖縄全域を担当するなど、主に郊外型の大型リゾートのプロジェクトに携わり、既存の価値を活かしながら新たな魅力を創出することの難しさと面白さを学びました。
「クオリティ×ブランドスケール」の事業展開
──2023年4月に代表取締役社長 兼 グループCEOに就任されましたが、現在の経営方針についてお聞かせください。
加藤:私たちは、1962年の創業以来、「お客さまの喜び」を常に創造する企業として、トータルプロデュースにより多岐にわたるレジャー事業を展開してきました。
現在は「クオリティ×ブランドスケール」という考え方で事業展開を行っています。各ブランドの高品質なサービスや施設を提供することはもちろん、積極的にブランド展開をさせていくことで、より多くのお客さまに価値を届けたいと考えています。
──グループの柱としてスモールラグジュアリーリゾートがあります。2007年に「箱根・翠松園」と「ふふ 熱海」をオープンし、多くのお客さまに愛されています。施設運営において特に大切にされていることは何でしょうか。
加藤:まず、「地の力」を大切にしています。その土地ならではの魅力や歴史、文化を活かすこと
が、差別化につながると考えています。例えば、リゾート施設の場合、単に景色が良いだけでなく、その場所にしかない特別な体験を提供することが重要です。
また、スケールを決めてからブランド展開を行うことも重視しています。これは、スタッフの目が行き届き、きめ細やかなサービスを提供するためです。
次世代のリーダーとして
──若くに経営を担うことになりましたが、困難やプレッシャーはありましたか?
加藤:実は、プレッシャーをあまり感じたことはないんです。むしろ、責任とリスクがある事業の方が、やりがいがあります。ただ、グループ全体の雇用を維持・拡大し、事業を成長させていくことが私自身の役割だと認識しています。
また、業界全体を見ても、私のような若手がこの規模の経営責任を負っているケースは珍しいですよね。若い世代がこの業界を支えていくということが非常に大切だと考えています。特にホテル業界は年功序列の傾向が強く、人材獲得も難しくなってきています。そういった中で、私たちのような世代が中心となって新しいアイデアを生み出し、実行していくことが、業界全体の活性化につながると信じています。
お客さまにレジャーを提供し、喜んでもらい、また来ていただくことに大きな喜びがあり、事業にはとてもやりがいを感じています。ただ、苦しい時期を強いてあげるとしたら、コロナ禍でしょうか。
──プレッシャーを感じたことがないとのこと、驚きました。たしかに、コロナ禍では多くの観光・レジャー産業が打撃を受けました。御社ではどのような対応をされましたか?
加藤:やはり雇用の維持など課題は多くありました。しかし、新規事業を止めることなく、予定していた全ての施設をオープンすることができました。また、既存の飲食店や施設において徹底的なコスト管理とオペレーションの見直しを行ったことで、2023年には売上、利益ともに過去最高を記録したのです。
特に、創業30年を超える「つるとんたん」1号店で最高利益を達成したのは感慨深いものがありましたね。危機に向き合ったことで、あるべき形により近づくことができたように思っています。
カトープレジャーグループ 代表取締役 兼 グループCEO
加藤宏明氏
1990年大阪生まれ。青山学院大学卒業後、ニューヨーク大学大学院にてホテルファイナンスを専攻。カトープレジャーグループに入社。2017年設立の KPG Internationalの担当責任者に就任。つるとんたんブランドの海外展開や海外事業投資などを行なう。18年カトープレジャーグループ取締役本部長に就任。21年 1月カトープレジャーグループの執行部体制改革に伴い、代表取締役専務兼グループ COOに就任。23年 4月 1日代表取締役社長兼グループ CEOに就任。
(取材・執筆 かたおか由衣)