株式会社帝国データバンクは、企業信用調査報告書ファイル「CCR」などを基に、全国の旅館・ホテル業界の市場推移および企業動向について調査・分析を行った。
2024年度の国内旅館・ホテル市場は、事業者売上高ベースで5.5兆円に達し、過去最高を大幅に更新すると見込まれている。コロナ禍からの回復が進み、訪日外国人観光客の増加や国内旅行支援策が市場の成長を後押しした。2月末時点での業績動向によると、約3400社のうち33.8%が前年度から増収となった。特に北陸地方では、能登半島地震の影響で一部の旅館・ホテルの収益が伸び悩んだものの、円安による訪日客需要の増加により宿泊料金の値上げが進み、高級ホテルからビジネスホテルまで幅広い施設で業績が好調であった。大都市圏では観光客やビジネス客の宿泊需要が回復し、稼働率の改善が顕著であった。地方では国内旅行支援策が温泉地やリゾートホテルの稼働率向上に寄与し、市場全体を押し上げる要因となった。
一方で、前年度からの増収割合はコロナ禍以降で初めて低下し、減収企業の割合が2年ぶりに1割を超えた。清掃スタッフなどの人手不足による稼働率低下や、従業員確保のための人件費増、エネルギー・食材費・リネンサプライ料金の上昇など、利益面での課題も顕在化している。
都道府県別では、和歌山県の旅館・ホテル業界が最も高い増収割合を示し、56.0%が前年を上回る業績を記録した。福岡県(50.0%)や長崎県(44.7%)をはじめ、九州地方で増収となった企業が多かった。これには、アジアを中心とした訪日観光客の宿泊需要の増加や、大都市部からの出張需要の取り込みが影響している。
円安の影響で訪日客需要は引き続き高水準を維持すると見られる一方、国内市場では旅行需要回復の一巡や消費者の節約志向が強まることで、高価格帯の宿泊施設が厳しい競争環境に直面する可能性がある。それでも全体としては、旅館・ホテル市場は好調を維持する見通しである。
しかし、労働力不足の影響は2025年度により深刻化すると予測されている。帝国データバンクの調査によれば、2025年1月時点で旅館・ホテル業界の人手不足割合は、正規・非正規社員ともに5割を超えた。宿泊施設ではフロントや調理スタッフの確保が難しく、客室稼働率を制限せざるを得ないケースも増えている。こうした状況を受け、外国人材の活用や受付の自動化など、デジタル化・省人化への投資が一層求められる年になると見られる。人手不足への対応が、旅館・ホテル事業者の成否を分ける重要なポイントとなるであろう。