金沢犀川温泉『川端の湯宿 滝亭』は、令和6年能登半島地震の影響で工事を中断・延期していたライブラリーとプレミアムラウンジの造成、客室のリニューアルが完了したことを発表した。
『滝亭』は、金沢の清流・犀川上流のほど近くに佇む温泉旅館。新たなライブラリー「書庫兎夢」が加わったことで、既存の2つのライブラリーとあわせて総蔵書数が7,000冊以上となり、北陸最大規模のライブラリー併設の温泉旅館となった。
本記事では、『川端の湯宿 滝亭』の特徴やライブラリーオープンへの想いなどについて、運営元の株式会社のと楽について、取材を行った。
▷ 公式サイト:https://takitei.co.jp/
―――まず『川端の湯宿 滝亭』がどのような宿泊施設か教えていただけますか?
『川端の湯宿 滝亭』は、市内中心部にほど近い場所にある温泉旅館です。地の食材を用いた会席料理を提供する料理屋としての側面ももっております。
周囲は豊かな里山の自然にかこまれており、観光の拠点としてばかりでなく心身からリフレッシュできる最高の立地にある宿と考えております。
―――どのような経緯でブックホテルを作ろうとお考えになったのでしょうか?
商業的な観点から言うと、他の宿との差別化を図りたかったことが一因です。しかし、それ以上に、コロナ禍という苦難の中で、どのような環境や状況でもお客様に選ばれる、まるでテーマパークのように楽しく魅力的な宿を目指したいという想いがありました。
『滝亭』は小規模な宿ですので、アトラクションや大型遊具を設置するわけにはいきません。そこで、老若男女、国籍を問わず楽しめるものは何かと考えたとき、「本」に行き着きました。
小説、エッセイ、詩集、漫画、画集、写真集など、幅広いジャンルの本をそろえることで、さまざまなお客様の琴線に触れられるのではないか。さらに、温泉や美酒、美食、そしてどこか懐かしい里山の風景が、より豊かな読書体験を提供できるのではと考えました。
そうした試行錯誤の末、多様な嗜好に応えるために複数のライブラリーを設け、多くの蔵書をそろえるという形にたどり着きました。その結果、『ブックホテル』という在り方が生まれたのです。
―――「書庫兎夢」をはじめとする3つのライブラリーはどのような読書体験を提供することを目的としていますか?
「書庫兎夢」(蔵書数4,800冊以上)は、文豪・泉鏡花の愛した兎と大正ロマンをモチーフにしたライブラリーです。うさぎ達がところどころに配置された不思議な空間で数千冊の本と出会うことで、「不思議の国のアリス」さながらにお客様は素敵な読書の世界に誘われると思っております。
あらゆるお客様に楽しんでいただけるよう、本のジャンルは多岐に渡っており、小説、詩集、エッセイ、漫画と古今東西の文豪の著名な作品を集めたと自負しております。小説については長編、SF、ミステリー、ファンタジー、ホラー、英文小説など各ジャンルを深く掘り下げました。
子供の頃に読んだ懐かしい本、読んでみたいと思っていた本に出会えるのが「書庫兎夢」です。
次に、Art Book ギャラリー「こもれび」(蔵書数1,000冊以上)では、「Art」をテーマに画集、写真集、図録、絵本を集めました。
画集は古典主義やロマン主義から近年流行している写実画を、写真集も天体や動物、建築物など、絵本も日本語・英文をあわせたものを用意しております。
「Art」(芸術)という難解でかつ一人一人の感性により捉え方の異なる分野を幅広いジャンルの作品を用意することで、お客様お一人お一人の感性にマッチしたアーティスティックな時間を過ごせると考えております。
コーヒーやハニードリンク、スナックを用意しており、ステンドグラス照明に彩られた空間で心ゆくまで読書を楽しめます。
最後に「魚眠洞」(蔵書数1,300冊以上)は、魚を愛した文豪・室生犀星の号を借り名付けたライブラリーです。宿一番人気の宿泊棟「離れ犀川」に宿泊されるお客様ためのラウンジに設けました。犀川や田園など里山の風景をのぞめる空間で、小説や漫画、絵本、そして金沢・石川に関する本、宿に縁のある方々の本を用意しております。
特に金沢・石川に関する書籍の収集には力を入れており、お客様が当地への興味・愛情をより抱いてくれればと思い蔵書のメインジャンルとしております。ラウンジの飲み物を召し上がりながら、私どもの愛する里山の風景に包まれての読書体験は最高の時間となると思います。
―――客室やラウンジなど、館内の好きな場所で本を読めるとのことですが、読書環境をより快適にするための工夫を教えてください。
ラウンジ内ではクラシックやジャズを流し、ステンドグラス灯やレトロなランプで書籍や本棚を照らし、本を探す幸せな時間をより上質なものとなるよう配慮しております。
ラウンジやライブラリー、客室には飛騨の家具屋に依頼してつくってもらったソファを配置しており、心身ともに寛ぎきながら本を楽しめます。
―――能登半島地震の影響で工事が延期となったとのことですが、その困難を乗り越えてオープンできた背景についてお聞かせください。
正直、ライブラリーどころではないと思いました。資材・業者の確保は困難ですし、本店である能登の宿の営業再開の見通しはまったく立たず資金的にもかなり厳しい状況でした。
それでも、この先の困難な時代の中で、お客様に選んでいただける宿となるためには、計画を進めるべきではないかと、しばらく葛藤しました。最終的に、計画と工事の再開を決断しましたが、蔵書をそろえるための資金に課題が生じました。
滝亭だけでも地震による被害の補修で多額な費用が発生し、本店に至っては営業できないばかりか、修理費用はその時点で想定もできないほど莫大なものとなることは確実でした。
そこで、恥ずかしながら、お客様やインターネットを通じて書籍の寄贈を募ることにしました。すると、大きな反響があり、多くの方々から本の寄贈や書籍代のご寄付をいただきました。寄贈いただいた書籍の中には、数十年かけて収集されたであろう貴重なコレクションも含まれていました。
そのような大切なものを私どもに預けてくださったご厚情に感動し、よりすばらしいライブラリーをつくらねばと決意を強くしました。多くの方々の助けがあって、オープンできたと思っております。
私どもの計画や状況に心寄せてくださった皆様への感謝の思いを胸に、里山のブックホテルとして人々の記憶に残る素敵なブックホテルで在りたいと考えております。
―――最後に「里山のテーマパーク」構想の今後の展開について教えていただけますか?
先述のようにアトラクションや大型遊具の設置はかないません。その上で創意工夫と当地の魅力である里山の自然を武器に宿の「里山のテーマパーク化」を進めてまいる所存です。
「釣り堀」「かがり火ステージ」「砂金発掘コーナー」など造成計画を進めてまいります。
都会や遊園地では得られないかもしれない自然と文化、おもてなしの融合からなるどこにもない「テーマパーク」をつくっていくことをお約束させていただきます。
■「金沢犀川温泉 川端の湯宿 滝亭」概要
住所:〒920-1302 石川県金沢市末町23-10
TEL:076-229-112
交通アクセス:
・JR金沢駅より車で約25分
・金沢駅兼六園口(東口)より北陸鉄道バス・東部車庫行に乗車、 「末(滝亭口)」バス停で下車
駐車場:50台(無料)
チェックイン:15:00
チェックアウト:10:00
客室:26室(和室または和洋室)
公式サイト:https://takitei.co.jp/