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【取材】戦前の街並み残る京島で福祉と観光つなぐ『1つの風景』開業

東京スカイツリーから徒歩圏に位置する下町・京島。戦災を逃れ、今なお戦前の長屋や路地が息づくこのエリアに、まちづくり複合拠点「TACHIBANA TERMINAL」内のホステル『1つの風景』が2025年9月1日に誕生した。

運営は日常福祉合同会社。併設の就労支援施設で働く障碍者と、国内外から訪れる旅行者が出会い交わる場をつくり、「福祉を起点に観光・文化・地域をつなぐ」ことを目指す。地域の商店やアートコミュニティとも連携し、古き良き下町文化と多様な価値観が交錯する新たな観光・交流の拠点を描いている。

宿の名称に込めた「異なることが希望であり、違うことが可能性である」という理念のもと、旅人と地域、障害のある方と住民、それぞれが未知の風景に出会うきっかけを提供していく。

本記事では、ホステル『1つの風景』開業の経緯とその想いなどについて、日常福祉合同会社に取材を行った。

▷ウェブサイト:https://nichijyofukushi.com

―――TACHIBANA TERMINALという複合拠点にホステルを併設した狙いと、その役割をどのように位置付けているのかをお聞かせください。

▲メインストリート「キラキラ橘商店街」の入口

TACHIBANA TERMINALは「福祉を起点に、観光・まち・文化をつなぐ複合福祉施設」として設立されました。就労継続支援施設だけではなく、宿泊施設を併設することで、障害福祉、地域復興、観光という複数の領域を横断させることを狙いとしています。

その中で、ホステル「1つの風景」は、2階に配置され、この施設で働く障害のある方々と様々な旅行者が交流する場となるように設計されています。

単に宿泊を提供するだけでなく、訪れる人にとっては、地域や障害のある方との交流を通して新たな視点や気づきを得る場、また地域住民・障害のある方にとっても様々な人との出会いによって風景(見える世界・関係性)が広がるような役割を持たせています。

―――就労支援施設と宿泊施設を一体で運営することで、どのような相乗効果や持続的な仕組みを想定されていますか。

▲京島のレトロな街並み

就労支援施設と宿泊施設を一体で運営することにより、宿泊業務に関する幅広い作業があるため、障害のある方々が一般的な軽作業以外の選択肢を持ち、自分の特性に合った就労機会を得られます。

また、ホステル事業という収益性が高い業務を運営することで、月額工賃5万円という全国平均を大きく上回る水準の工賃を得ることを目指しています。

その基盤となるホステル事業では、旅行者が地域や障害のある方との交流を通じて、特別な体験価値を得ることができ、一般的な宿泊施設との差別化につながります。

―――ホステル『1つの風景』の名称に込めた「異なることが希望であり、違うことが可能性である」という世界観は、どのように宿泊事業へ反映されているのでしょうか。

ホステル「1つの風景」の宿泊事業は、地域や障害のある方との接点、普段観光地として知られない下町・京島の暮らしや商店街を含めて旅の一部として捉えてもらう設計になっています。

そのため、訪れた方、地域の方、障害のある方が、異なる風景を見てもらう、普段とは違う日常を体験してもらうことを意図しています。

そのような、気づきや発見のある交流を通じて、「異なることが希望であり、違うことが可能性である」という世界観を反映していこうと考えています。

―――宿泊者・障害のある方・地域住民の三者が交流する場をどのようにデザインしているのか、具体的に伺いたいです。

▲1F
▲2F

2階の宿泊スペースに隣接した場所で、宿泊者と地域住民が集まれる、まちのリビングとして機能する「あづまラウンジ」の設置を予定しています。そこでは、宿泊者、地域住民、障害のある方が利用でき、それぞれが分け隔てなく使える空間です。仕事、制作、食事、ワークショップなど様々な用途で利用可能になっています。

TACHIBANA TERMINAL内で、宿泊事業「1つの風景」・就労継続支援B型「旅のワンダ」・まちのリビング機能を持った「あづまラウンジ」が併設されることで、自然な交流が生まれるデザインになっています。また、それぞれが空間として区切られていることで、望まない関わりを強いられることがなく、オープンにもクローズドにも変化できる施設となっています。

―――ホステルを含む複合拠点全体を通じて、「福祉のまちづくり」を今後どのように発展させたいと考えていらっしゃいますか。

TACHIBANA TERMINALの「まちまるごと福祉」は、場のあらかじめ決まりきった機能だけに頼らず、あえて未確定な空白を残すことで、偶発性や創発を受け入れる設計をしています。

京島という地域に福祉の機能が不足している現状をしっかり見つめ、制度的支援だけでなく、地域の暮らしや歴史・文化を大切にしながら、地域コミュニティが育んできた助け合いや見守りといった福祉(インフォーマルな福祉)を可視化し、制度との重なりで豊かさを創ろうとしています。

「まち」は設計されたものではなく、生きもののように育てていくものであるという考え方を重視し、利用者や住民が参加できる余白を確保することで、福祉・コミュニティ・文化が共に育つ場を目指しています。

■施設概要

施設名称:HOSTEL 1つの風景 (ほすてる ひとつのふうけい)
住所:〒131-0046 東京都墨田区京島三丁目23番11号
電話:03-4400-8770(9:00-21:00)
ウェブサイト:https://nichijyofukushi.com
Instagram:https://www.instagram.com/tachibana_terminal
note:https://note.com/ecowelfare
Facebook:https://www.facebook.com/nichijyofukushi

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