分散型ホテルとは?
日本は少子高齢化と人口減少が進行する中で、空き家問題の解決が重要課題となっている。一方、観光・旅行分野では消費者の旅行ニーズが多様化し、自分の好みの街や馴染みの街をじっくり楽しむ旅行者が増えてきた。これらのニーズに応える形で、空き家対策および地域活性化策の一つとして分散型ホテルが注目を集めている。分散型ホテルは、地域の空き家や廃屋をリノベーションし、レセプション、客室、食堂などの機能をそれぞれの棟に分散させることで、宿泊者が自ずと町を巡り、地域そのものに活力をもたらす。
分散型ホテルの起源はイタリアで、日本では岡山県の矢掛町がアジア初の分散型ホテルとして認定されている。新型コロナウイルスの影響で「マイクロツーリズム」が注目され、近隣の利用が増えた。また、多くの人々がコロナ禍のストレスから解放されたい、良い場所でゆっくりしたいというニーズを抱いていたことも分散型ホテルの発展の理由だろう。
分散型ホテルの事例
SEKAI HOTEL Takaoka
セカイホテルは、「やわやわブルー」というコンセプトを提案する分散型ホテルである。「やわやわ」は富山弁で「ゆっくり」を意味し、「ブルー」は高岡市の多様な青の魅力を指している。セカイホテルでは旅先の日常に飛び込むことを目指している。
ホテルの中核となる建物は、著名な漫画家藤子・F・不二雄が幼少期に通ったとされる地元の書店「文苑堂」である。その看板はリノベーション後もそのまま保たれ、書店時代に公開されていなかったバックヤードを利用するなど、歴史的な要素を尊重した形となっている。
滞在客はチェックイン後に高岡の街を散策し、地域の飲食店で食事をしたり、休憩を取ったりする。そのため、セカイホテルの成功は地域との連携に大きく依存している。ホテルは地域周遊パスポート「SEKAI PASS」を発行し、これを提携店で提示することで滞在客が特別なサービスを受ける仕組みを設けている。
RITA 戸隠
長野県長野市戸隠にある現地法人「株式会社awai」は、戸隠における歴史的な建物の活用を進める分散型ホテルプロジェクトを立ち上げた。第一弾として公民館の「旧中社公会堂」を再生し、「RITA 戸隠」ホテルとフレンチレストラン「awai」を2023年4月28日に開業した。第二弾のプロジェクトでは、元茅葺民家を一棟貸し宿に再生し、2023年中の開業を目指す。
「RITA 戸隠」の開業により、「RITA」ブランドは鹿児島県出水市や福岡県八女市などに続く5施設目となる。そのコンセプトは「あわい」で、自然界と人間界、精神世界と物理世界が共存する体験を提供することである。
戸隠は、自然と人々の営みが共存する地域であり、妙高戸隠連山国立公園にも指定されている。戸隠神社は2千年余の歴史をもつ神社で、地主神として水と豊作大神の九頭龍大神を祀っている。また、地元農家の間で「戸隠講」が広まり、戸隠の風土に根ざした営みが続いている。
第二弾のプロジェクトでは、茅葺屋根の維持が難しい古民家を一棟貸しの宿泊施設に再生する。そのために、茅葺職人と共に、地域内外の人々をワークショップ形式で巻き込むことを予定している。
(出典:RITA 戸隠)
まとめ
分散型ホテルの主な利点は、散在する空き家が一つのホテルとして機能することである。個々の空き家が「民泊」や「宿泊施設」として運用される場合、その存在はあまり目立たず、宣伝や広告の影響も限定的であるが、それらの空き家が一つのネットワークを形成し、一つのホテルとして機能すると、その注目度は増大する。
空き家や空き店舗、使われなくなった古民家などを活用することにより、全国的な空き家問題や地域活性化に貢献すると同時に、新しい形の旅行体験として注目を集めている。この形式のホテルは全国的に広まりつつあり、国や地方自治体などからの協力も得られる可能性がある。
また、日本へのインバウンド旅行者の特性として、リピーターが多いという特徴があり、そのようなリピーターはより地域密着型の観光を求める傾向にある。アフターコロナの観光客やインバウンド需要の回復に向けて、分散型ホテルは新たな取り組みの参考となるだろう。