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シニア世代と訪日観光客の交差点:地域観光の新たな可能性

2025年、団塊世代が75歳以上となり、日本は本格的な超高齢化社会へと突入する。労働人口の減少が進む中、労働集約型の観光産業は人手不足の影響を受けやすい業界の一つである。一方で、内閣府の「高齢社会白書」によれば、現在収入のある仕事をしている60歳以上の約9割が高齢期にも高い就労意欲を持っていることが示されている。また、『じゃらんリサーチセンター』の調査では、シニア世代の中には「住んでいる地域の発展に貢献したい」と考える層が一定数いることが明らかになった。さらに、香港・台湾の訪日経験者の多くが「地域ならではの文化体験」に関心を寄せていることも分かっており、こうした訪日経験者の関心とシニア世代の意向が交差し、シニア世代が観光業の担い手として活躍する可能性が広がっている。

(出典:株式会社リクルート

『じゃらんリサーチセンター』が実施した「セカンドライフ観光需要調査」によれば、40~80代を対象に現在の仕事・就労や社会参加の理由を尋ねたところ、70代以上では「経済的理由」よりも自己実現や社会貢献といった「社会的理由」を挙げる割合が半数を超えていた。また、セカンドライフへの期待として「住んでいる地域の発展に貢献したい」という意識が年代が上がるほど高まる傾向が見られた。これらのデータから、地域振興の側面が強い観光産業はシニア世代の意向と合致し、新たな活躍の場となる可能性がある。

(出典:株式会社リクルート

観光庁の「地方滞在者の消費行動等に関する分析」によれば、韓国・台湾・香港の訪日観光客は地方訪問が特に多いことが示されている。さらに、『じゃらんリサーチセンター』の「インバウンド観光資産活用調査」によると、香港・台湾の訪日経験者の多くが日本の食文化、歴史的建造物、伝統文化など「地域ならではの文化体験」に関心を寄せていることが分かった。このような背景から、地域文化や歴史を深く理解するシニア世代が観光業に携わることは、訪日観光客のニーズに応え、シニアにとっても地域貢献の機会となると考えられる。

(出典:株式会社リクルート

また、香港・台湾の訪日経験者の中には、日本の高齢者そのものに興味を持つ層もいる。『じゃらんリサーチセンター』の調査では、香港・台湾の訪日経験者に対し、日本の高齢者の暮らしや知恵に関する文章を読んでもらい「日本に行きたいと興味を持ったか」を尋ねたところ、両エリアとも8割以上が「興味をもった」と回答した。また、「日本の高齢者から学びたいこと」として「健康を保つ秘訣」「伝統的な食生活の取り込み方」「地域に伝わる風習や言い伝えの伝承」などが挙げられた。訪日観光客の中には、日本の高齢者との交流を通じて日本文化や生き方をより深く理解したいと考える層が一定数いることが分かり、シニア世代が地域の観光資源を形成する可能性が高まっている。

(出典:株式会社リクルート

岩手県野田村の「苫屋」は、シニア世代の暮らしや語りが観光価値を生む事例の一つである。築160年以上の古民家を活用した宿泊施設で、60代夫婦が運営している。予約は手紙のみの受付、1日2組限定、冬季休業という独自のスタイルを貫いている。宿泊者は囲炉裏を囲んだ団欒や郷土料理を通じて宿主と交流し、地域の歴史や生活文化に触れることができる。単なる宿泊にとどまらず、宿主との交流や昔ながらの暮らしが観光体験の一部となり、国内外からのリピーターが多い。

シニア世代の観光業への関わりは、地域文化の新たな価値を創出する可能性を秘めている。シニアの経験や技術は観光の魅力を形成し、訪れる人々に「地域の物語」を伝えることで観光体験を深化させる要素となる。また、デジタル化が進む現代において、昔ながらの暮らしや手作業が特別な価値として注目されている。さらに、シニア世代との対話や交流は、観光客に地域の温かみを伝え、地域への愛着やリピーター獲得につながる。シニア世代の観光業への参加は、地域文化の継承や観光資源の創出に寄与し、持続可能な観光の担い手としての期待が高まっている。

 

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