宿泊ブランド「ICHI」が、山梨県富士河口湖町に動物同伴型の古民家宿「ICHI 縁(えん)」を11月1日にオープンした。
1日1組限定で最大8名まで宿泊可能。犬や猫、小さな動物たちも一緒に過ごせる空間が整う。2階の浴室からは富士山を一望でき、1階には広々とした土間やドッグラン、キャットウォークを備えた。売上の一部は動物保護団体に寄付され、宿泊を通じて支援にもつながる。富士山の絶景に包まれながら、家族みんなで特別な時間を過ごせる宿だ。
本記事では、宿泊ブランド「ICHI」立ち上げの背景や「ICHI 縁」のこだわりなどについて、代表の松野将至氏に取材した。
▷公式サイトURL:https://ichi-fuji.jp/
―――「大切な家族や仲間みんなで、富士に集う。」というブランドコンセプトには、どのような想いを込められたのでしょうか。立ち上げの背景や、この地を選ばれた理由もお聞かせください。
「大切な家族や仲間みんなで、富士に集う。」というコンセプトには、“人も動物も区別なく、同じ時間と景色を分かち合える場所をつくりたい”という想いを込めています。
私たちにとって犬や猫、小さな動物たちは「ペット」ではなく、かけがえのない家族であり、人生を共に歩むパートナーです。しかしながら、旅をするとなると、どうしてもその家族を置いていかなければならない現実もありました。ICHIはそんな“当たり前”を変えたいという想いから生まれました。――「旅に、動物たちを置き去りにしない」ことを、私たちの出発点にしています。
富士山のふもとという場所を選んだのは、この地に流れる時間が、人にも動物にもやさしく寄り添うと感じたからです。澄んだ空気と静けさ、そして雄大な富士の姿。その自然の中で、誰もが心から解き放たれ、ひとつになれる。そんな瞬間を届けたいと思いました。
「ICHI 縁」では、ドッグランやキャットウォークなど、動物たちが自由に過ごせる空間を整えながら、2階の寝室や浴室からは富士山の絶景を望むことができます。家族みんなで同じ景色を眺め、同じ想い出を紡いでいく。ここは、富士山のふもとにだけ息づく、“人と動物がひとつになる宿”でありたいと願っています。
―――富士山麓の古民家を宿として再生するにあたり、建物選びや改修デザインで特に大切にされたことは何でしょうか。
古民家を宿として再生するにあたって、いちばん大切にしたのは、「富士山麓の自然や町並みとゆるやかに繋がりながら、人も動物も安心して過ごせる空間をどう両立させるか」でした。
富士山や河口湖を望むこの地には、風の流れや光の移ろい、四季の香りといった“自然のリズム”が息づいています。そのリズムを壊さず、むしろ建物の中に取り込むように設計しています。
たとえば1階は、建物の内外がひとつながりになった大きなワンルーム空間。土間を中心に、犬や猫、小さな仲間たちがのびのびと過ごしながら、人も同じ目線でくつろげるようにしました。夜寝る時も動物たちと一緒に過ごせるように準備もしております。
また、広場に面した窓を開ければ、屋内と屋外が自然に溶け合い、家族みんなの気配を感じながら過ごすことができます。外周部のフェンスも、圧迫感を与えないよう半分を地中に埋め、緑と一体化させています。安全性を確保しつつ、風景の中に自然と溶け込むよう工夫しています。
2階には寝室と浴室を設け、落ち着いて過ごしたいときや二世帯・友人同士での滞在にも対応できるようにしました。特に浴室はフルオープンの窓から遮るもののない富士山を望む設計で、自然と一体になるような開放感を味わえます。
私たちは“ペットフレンドリー”という言葉を、単に設備面だけで終わらせたくありませんでした。「ICHI 縁」では、家族(人も動物も)が同じ時間を共有するとはどういうことか、その“しつらえ”を建築のあり方から見つめ直しました。木のぬくもり、風の抜け、空間の距離感——それらすべてが、心地よい「共生」をかたちづくっています。古民家の柱や梁に宿る時間の重みを受け継ぎながら、そこに新しい命と絆が宿る。「ICHI 縁」は、富士山麓の自然と、人と動物のやさしい関係がひとつに溶け合う“再生の宿”でありたいと思っています。
―――人と動物がともに“ひとつの家族”として過ごせる場をつくるうえで、空間設計以外に意識された体験づくりや滞在の工夫があれば教えてください。
「ICHI 縁」では、建物そのものだけでなく、“人と動物が同じ時間を心地よく共有できる体験”を大切にしています。動物を「連れて行く」のではなく、「一緒に行く」旅。その感覚を滞在のすみずみに感じていただけるよう工夫しました。
たとえば、1階の大きな土間空間は、朝には光が差し込み、夜には灯りが温かく包み込む場所。家族みんなが集まり、動物たちもそばで自由に過ごせるようにしています。外のドッグランは富士山を臨み、走り回る姿を眺めながら過ごす時間は、まさに「家族がひとつになる瞬間」です。
食事の時間も、私たちにとって大切な体験のひとつです。地元の名店と提携し、山梨の味を楽しめるすき焼きやオリジナル朝食BOXをケータリングでお届けしています。富士に集まった家族みんなで食卓を囲む。その時間そのものが、家族の絆を深める旅の思い出になります。もちろんキッチンで自由に調理することもでき、小さなお子さまやアレルギーをお持ちの方、そして動物たちの食事にも気を配れるようにしています。
また、売上の一部を動物保護活動へ寄付する仕組みも、体験の延長線上にあります。滞在そのものが、小さな優しさの循環につながるように。「ICHI 縁」で過ごす時間が、家族と動物たちの幸せだけでなく、次の命を支えるきっかけにもなればと思っています。富士山のふもとで過ごす静かな時間の中に、“人と動物がともに生きることの豊かさ”を感じていただけたら嬉しいです。
―――地元の名店との食事提携や、富士山を望む浴室など、滞在中の「非日常の演出」において特にこだわられた点をお聞かせください。
私たちが考える「非日常」とは、派手な演出や贅沢さではなく、“日常の延長線にある幸せを、少しだけ特別なかたちで感じられる時間”を考えています。富士山麓という特別な環境の中で、家族みんなが穏やかに心を解き放てるよう、空間と体験のひとつひとつに丁寧に想いを込めました。
たとえば浴室は、富士山を真正面に望むよう2階に配置し、窓をフルオープンにできる半露天仕様としています。湯船に身を沈めながら、遮るもののない富士の姿を独り占めする時間は、まさに“自然と一体になる瞬間”です。静けさの中に流れる風や光までもが、心を満たしてくれます。
食の時間もまた、旅の非日常をつくる大切な要素です。山梨を代表する名店「紅梅や」と提携した特別なすき焼きや、「オーベルジュマーメイド」とのオリジナル朝食BOXは、地元の食文化をそのまま宿に届けることで、外出せずとも“この土地ならではの味”を楽しめるようにしました。大切な人や動物たちと一緒に火を囲み、語らいながら食卓を囲む時間こそ、何よりも贅沢な体験だと思っています。
そして、古民家の木の香りや、窓の向こうに広がる富士の景色、土間に差し込む朝の光——。そうした自然の息づかいそのものが、ここでしか味わえない「非日常」だと考えています。
―――「ICHI 縁」を通じて今後目指していきたいブランドの在り方や、地域・保護活動との連携の展望をお聞かせください。
「ICHI 縁」は、富士山麓で生まれた小さな宿ですが、ここをひとつの“はじまり”として、今後はICHIブランドとして富士山麓エリア全体に展開していきたいと考えています。富士山は世界に誇る日本の象徴であり、この地を訪れる人々が「また帰ってきたい」と思えるような、温もりと誇りを感じられる場所でありたい。ICHIの宿が点と点のように富士山のふもとに広がり、地域の魅力を未来へつなぐ一助になれたら嬉しく思います。
そして、もうひとつの大きな目標は、「人と動物が対等に共生できる社会」を育むことです。私たちは、動物を“ペット”ではなく“家族”として迎えることの尊さを、宿を通じて伝えていきたいと考えています。この宿泊事業で得られた利益の一部は、動物愛護の活動を行う団体や企業へ寄付し、保護犬や保護猫といった存在がそもそも少なくなっていく社会づくりに貢献したい。
ICHIが、そのような活動の「ハブ」となり、想いを共にする人々と連携しながら、優しさの循環を広げていけるブランドへと育てていきたいと思っています。
富士山のふもとで、人と動物が同じ目線で生き、自然と調和しながら過ごせる時間。その小さな幸福の積み重ねが、やがてこの地域の未来、そして社会全体を少しずつ優しく変えていけるとしたらこれほど嬉しいことはありません。
■施設概要
名称: ICHI 縁
所在地: 山梨県南都留郡富士河口湖町大石1473-1
アクセス: 中央自動車道河口湖ICから約20分、富士急河口湖駅から車で約15分
客室数: 1棟(貸切) ※最大定員:8名
公式サイトURL:https://ichi-fuji.jp/