長崎市で創業57年の有限会社中村塗装は、築30年の旧カラオケ店を改修し、シェア型ホテル「HOTEL URO(ほてる うろ)」を2025年8月1日に開業した。
約10年間空き家だった建物は、スキップフロア構造と中央の外部階段が特徴。水回りを共用化するホステル業態とすることで、建物の持つ独自の構造や雰囲気を最大限に活用したとのこと。白く塗装された階段空間では、長崎出身のサウンドアーティストによる自然音と光の演出を楽しめる。
1階は地域に開かれたカフェ、最上階は街を一望できるラウンジとして整備。宿泊機能に加え、地元住民や観光客が気軽に立ち寄れる空間づくりを目指している。
本記事では、施設開業の経緯や特長などについて、有限会社中村塗装に取材を行った。
▷公式サイト: https://hotel-uro.jp/
―――築30年の旧カラオケ店をホテルとして再生しようと考えた背景には、どのような想いや課題意識があったのでしょうか?
創業57年の塗装会社として、長崎の街で数多くの建築物を手がけてきた中で、空き家問題や建築物の有効活用は常に課題として感じていました。
この旧カラオケ店は10年間空き家状態でしたが、立地的には中心地のエリアに属しており、なおかつ長崎という坂の街の特性を体現した魅力的な建築だと感じていました。そこで、単純に取り壊すのではなく、この建物が持つ独特な構造と歴史を活かし、塗装技術によって新たな価値を創造できないかと考えたのがきっかけです。
また、塗装業界の新たな可能性も示したいという想いもあり、自社施工・運営による持続可能な建築活用のモデルケースを実現しました。
―――全室に水回りを設けず共用化したうえで、ホステル業態を選ばれた理由や、その運営上のメリット・工夫についてお聞かせください。
既存建物は各室に水回りがなく、全客室に新たに設置するには大規模な配管工事が必要で、建物の持つ魅力的な構造を損なってしまう可能性がありました。そこで、この制約を逆手に取り、水回りを共用部に集約することで改修コストを抑制できるドミトリー主体のホステル業態が最適だと判断しました。
幸い、長崎の観光需要を考えても、一人旅やバックパッカーの方々には柔軟で効率的な宿泊スタイルが求められていたことも後押しとなりました。
ただし、ホステル業態で求められる潤沢な共用部の確保には苦心しました。通常のホステルでは、共用キッチンやゆったりとくつろげるラウンジスペースが必要ですが、設備・平米数の条件では十分な面積を確保できません。
そこで、通常は単なる移動経路として使われる外部階段を、長崎の街並みが展望できる共用スペースとして活用し、小規模ラウンジと連携させることを着想しました。1階のカフェ・バーとも連動させることで、宿泊者同士が自然に交流できる空間設計を目指しました。
運営上は課題もありますが、一つひとつ改善可能な課題として前向きに捉えています。
―――塗装専門会社としての技術やノウハウは、今回のホテルづくりにおいてどのように活かされましたか?
今回は、全体的な仕上げを塗装メインとし、改修後の空間をどこまで上質なものにできるかに心を注ぎました。象徴的な階段空間では、白い塗装による空間の再構成で「明るいトンネル」のような独特な雰囲気を作り出しました。単純な色の変更ではなく、光の反射効果や空間の視覚的な広がりを意識した塗装設計を行っています。
また、1階エントランスの壁面・天井には吹付け塗装を施し、質感豊かな通り道のような空間を実現しました。建物全体に統一感を持たせつつ、各エリアに独自の個性を与える色彩計画を通じて、塗装の持つ可能性を最大限に活用しました。
―――音と光を用いた階段空間の演出やサウンドアートの導入が特徴的ですが、こうした体験設計はどのようなコンセプトで構想されたのでしょうか?
階段空間をいかに魅力的にするかがプロジェクト成功の鍵でした。そこで、都市部でどなたにも立ち寄っていただける場所・「URO(樹洞)」というコンセプトから発想し、自然の中で感じる静寂や安らぎを都市空間で再現したいと考えました。
長崎県出身のサウンドアーティスト・坂本豊氏とのコラボレーションにより、地下から空へと移ろう自然の音を4つのスピーカーで立体的に表現する空間を作り上げています。これは事前録音された音源ではなく、リアルタイムで生成される音響体験で、街の環境音や季節の変化と混じり合い、二度と同じ音風景を生み出しません。
宿泊者だけでなく、ふらりと立ち寄った方が時間の流れから解放され、心の安らぎを取り戻す「音浴体験」を提供したいという想いから生まれました。
―――地域住民にも開かれた空間として、1階を“通り抜けられる街路”のように設計されたとのことですが、こうした設計にはどのような狙いや期待があったのでしょうか?
長崎は入り組んだ坂や階段が織りなす街で、人々が自然に行き交う動線こそが街の魅力を生み出しています。
HOTEL UROはホステル業態ですが、地域住民の視点では観光客向けの施設であり、普段は立ち入る機会がありません。そこで、より地域の方々に親しまれる設計とすることで、宿泊者と地元住民が新たに交流できる場になるのではないかと考えました。
1階に公共性を持たせることで、宿泊者と地域の方々が自然に出会える場所となり、ホテル自体が長崎の街並みの一部として機能します。Cafe FAAHも地域に開かれた空間として、日常使いしていただけるよう設計することで、建物が街に馴染みながら新たな文化を生み出す拠点となることを期待しています。
―――初のホテル運営事業としてこのプロジェクトを立ち上げた今、振り返って感じる手応えや、今後の展望についてお聞かせください。
塗装会社としては全く新しい分野への挑戦でしたが、これまで培った建築への理解と技術力が想像以上に活かされていると実感しています。特に、建物の特性を深く理解した上での空間設計や、塗装による空間演出の可能性は、従来のホテル業界にはない独自の強みになっています。
今後は、このプロジェクトを通じて得た知見を活かし、他の空き家や既存建築の再生プロジェクトにも展開していきたいと考えています。塗装技術による建築再生のモデルケースとして、長崎に留まらず全国の地域活性化に貢献できれば幸いです。HOTEL URO自体も地域文化の発信拠点として、より多くの方々に愛される場所に成長させていきたいと思います。
■プロジェクト概要
施設名: HOTEL URO(ほてる うろ)
開業日: 2025年8月1日
所在地: 〒850-0831 長崎県長崎市鍛冶屋町6-10
交通: 長崎電鉄思案橋駅徒歩4分、めがね橋駅徒歩5分、JR長崎駅からタクシー6分
客室構成: ダブルルーム7室、ドミトリールーム20室(全室共用シャワー/トイレ)
共用設備: 男女別シャワールーム、8階ラウンジ、階段テラス
併設施設: Cafe FAAH(8:00-17:00)、Bar zzzzz(17:00-22:30 金・土)
公式サイト: https://hotel-uro.jp/
E-mail: info@hotel-uro.jp