京都・浄土寺に、工藝を軸にした感性をひらく一棟貸しの宿「うたひ」が2025年7月25日に誕生した。築100年の元・旅館をリノベーションし、穏やかで包み込まれるような和室「奥の間」と、石庭に浮かぶような寝室「水の間」、ハーブや薬草を楽しめるプライベートガーデンを備える。
銀閣寺や哲学の道といった観光名所に加え、食や音楽など多彩なマイクロビジネスが息づくこの地で、旅人は地域の日常に触れながら滞在できる。陶ブランド「SIONE」の離れに位置する客室では、陶磁器の絵付けや鍼灸などの体験プランを用意。中庭に面した「白の間」では、陰陽五行を取り入れた朝食や地域との交流イベントも開催される予定だ。
本記事では、開業の背景や施設のこだわりなどについて、運営を担う株式会社スプリングショウに取材を行った。
▷ホームページ:https://utahi-hotel.jp
―――「うたひ」の開業に至った背景や、浄土寺という立地を選ばれた理由についてお聞かせください。
この場所との出会いは、2016年のことでした。築100年の元旅館だった木造建築を改装し、私の主催する陶磁器ブランドの工房と店としてスタートしました。
浄土寺は、今アーティストや工藝の店、こだわりのある店が増えてきたエリアです。銀閣寺も近くにあり、東山文化を感じられるところでもあります。
また、比叡山や送り火で有名な大文字山など自然にも近く、もともと軒並み井戸がある地域でした。もう使えなくなっていた井戸を1年半前に、新しく掘り、その美味しい井戸水でお茶を淹れ、さらにこの場が、人の心を癒し、活力を与えることのできる事業ができたらと思い、宿の事業をはじめることにしました。
―――“工藝を軸にした感性のひらく宿”という言葉には、どのような想いや背景が込められているのでしょうか?
陶芸家として20年活動してきて、工藝の技術をつなぎ、その価値をあげていく仕事をしてきたなかで、ものづくりに没頭する時間が幸福感をあげていることに気がつきました。
うたひは、五感をひらいてものづくりをし、その場の光の移り変わりや、音、気配をいつもより丁寧に味わうなかで、自分と丁寧に向き合っていただけるような場にできたらと思いオープンしています。
―――プライベートガーデンでの薬草利用や体調チェックシートの導入など、宿泊者の内面に働きかける仕掛けには、どのような意図があるのでしょうか?
京都にはとてもたくさんのホテルがあります。ラグジュアリーホテルや、もっと立地の良いホテルでは体験できないことを提供できたらと思いました。
そこで、わざわざここに来るためのプログラムとして、この場の恵みを取り入れられるようなことを考えました。
採れた薬草を味わったり、井戸水でいれたお茶を飲んだり、心を整えて工藝のワークショップを受けたりというプログラムを通して、徐々に、使いすぎていた論理思考を手放し、感性を開いていただきたいと思いました。
また、この宿は、京都の各所にある伝統工芸の職人工房でのワークショップや妙心寺の禅寺での坐禅と講話や、亀岡の石工でのワークショップとフィールドワークなど、one day tripのプランも企画しています。
―――『白の間』を地域と過ごすプラットフォームと位置づける中で、今後どのようなワークショップや文化交流の展開をお考えですか?
希望があれば、地元の工藝家との食事会や、普段開催しているワークショップにも参加できますし、薬草や鍼灸をはじめとした東洋医学の座学、茶会なども開催予定です。
―――最後に、『うたひ』を通じて宿泊者にどのような時間や体験を届けたいと考えていらっしゃいますか?
時間やコストのパフォーマンスの高いことだけを要求される場にいると、どんどんと体の感覚をつかうことを忘れ、頭だけで考えてしまいます。感性を使わずに生きていると、だんだんと自分のことがわからなくなってくることがあります。
「感性のひらく場」とは、五感を通して自分の本来の力を思い出すことだと思います。
ただその場に身をおき、1日を通しての光の移り変わりや、味わい、ものづくりや、メディテーションをして、静かに自分の役目を思い出せるような、そして宿をあとにした時に、これまで気が付かなかった街中の美しいと感じる風景が増えるようなそんな体験を提供できたらと思っています。
■施設概要
施設名:うたひ
開業日:2025年7月25日
所在地:〒606-8406 京都府京都市左京区浄土寺石橋町29 SIONE銀閣寺本店
アクセス:京都市バス「銀閣寺道」から徒歩3分
電話番号:075-241-3003
客室数:1
ホームページ:https://utahi-hotel.jp
Instagram:https://www.instagram.com/utahi_ginkakuji/