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【取材】歴史建築を再生 函館に複合施設「T9 HAKODATE」開業へ

函館市の歴史的景観が残る末広町に、築100年超の建物を再生した複合施設「T9 HAKODATE」が2026年4月に開業する。

かつて漁業組合事務所として地域の生業を支えた建物を、ホテル、クラフトビール醸造所、ラウンジを備えた交流拠点へと刷新する。観光地・函館が量から質への転換を模索するなか、歴史資産を宿泊や滞在体験に生かすこのプロジェクトは、まちの記憶を未来につなぐ新たな観光まちづくりのモデルとして注目されそうだ。

本記事では、「T9 HAKODATE」開業の背景やこだわりなどについて、オーナーである安達 健氏に取材した。

公式WEBサイト:https://t9-hakodate.jp

―――築100年を超える歴史的建築物を、今回「Artisan Heritage Hotel」というコンセプトで再生するに至った背景と、函館という土地だからこそ実現できる価値についてお聞かせください。

安達氏:
本プロジェクトの出発点は、「歴史的建築を保存する」だけではなく、「現代及び未来にむけて最大限の形で再び生き返らせる」という考えにあります。
築100年を超えるこのような貴重な建物は、単なる文化財ではありません。かつては海産業をはじめとする地域の営みのなかで機能していた“器”であり、人々が交流する場でもありました。だからこそ、それを現代の感覚に合わせて再編集し、過去と現在をつなぐ場所をつくりたいと考えたのです。

「Artisan Heritage Hotel」というコンセプトには、職人性(Artisan)と継承(Heritage)という2つの意味を込めています。建物の歴史を尊重しながら、現代のつくり手たちの手で新たな価値を織り込んでいく。そんな思想を表しています。

いま世界的にも、日本のものづくりやクラフトマンシップの高さに注目が集まっています。私たちはこのプロジェクトを通して、その制作に関わった地元の職人さんやアーティスト、そしてクリエイティブな才能を世界に知らしめたいと考えます。

また、函館という土地は、和洋折衷の文化や異国との交流の歴史が色濃く残る稀有な場所です。そのため、単なる“保存”ではなく、“改善・再解釈”が自然に受け入れられる土壌があります。この都市の持つ多層的な文化背景があってこそ、歴史と現代を融合させた宿泊体験が成立すると考えています。

―――かつて漁業組合事務所として地域の生業を支えてきた建物の歴史を、現在の宿泊体験や施設づくりにどのように反映されているのでしょうか。

▲客室:Renga – 煉瓦 –

この建物は、かつて海産物の取引所として地域の漁業を支える中枢として機能していました。つまり、「人が集まり、情報が交差し、意思決定がなされる場所」だったわけです。

私たちは、この“機能としての記憶”を重視しました。単に意匠を残すのではなく、「集う」「交わる」という性格を、現代に引き継ぐことを意識しています。

▲客室:Gunjo – 群青 –

具体的には、1階には醸造所とタップバーを設け、地域に開かれた場として再生しました。かつてのように、人が自然と行き交い、交流が生まれる拠点にしたいと考えています。
また、建物の構造材や当時の痕跡もあえて残すことで、過去の営みを感じ取れるような空間体験を設計しています。

―――全5室それぞれに函館の風景を「色」として落とし込んだとのことですが、宿泊者にどのような滞在価値や地域理解を持ち帰ってほしいとお考えでしょうか。

▲客室:Sakura – 桜 –

私自身、東京から2拠点生活者として何度も足を運ぶ中、レンガの色、海の色、函館山の緑、五稜郭の桜など、函館の四季を通して奏でる色彩の豊かさがとても印象に残りました。

5つの客室は、それぞれ函館の風景や時間帯、気候がもたらす印象を「色」として抽出し、空間に落とし込んでいます。これは単なるデザインの違いではなく、滞在を通して函館という土地を感覚的に理解していただくための試みです。

▲客室:Midori – 緑 –

観光はどうしても「点」の体験になりがちですが、宿泊はより長い時間を過ごす「面」の体験です。その時間の中で、光の入り方や空気感、色彩の違いを感じていただくことで、函館という街の奥行きに触れていただきたいと考えています。部屋ごとに異なる印象を楽しんでいただきながら、「自分なりの函館の記憶」を持ち帰っていただけたらと思います。それがこの宿の大きな価値だと考えています。

ところで、最後の一部屋、<1920>は一番うちの建築チームが悩んだテーマの部屋です。ぜひ楽しみにしてお泊まりいただきたいです。

▲客室:1920 – 大正9年 –
▲客室:1920 – 大正9年 –

―――1階のクラフトビール醸造所やタップバー、今後予定されている3階ラウンジを含め、観光客とローカルが自然に交わる場として、どのような利用シーンや交流のあり方を思い描いていらっしゃいますか。

▲1階に函館発のクラフトビールブランド「white seed」が醸造拠点を開設予定

1階のクラフトビール醸造所とタップバーは、宿泊者専用ではなく、地域に開かれた場として設計しています。観光客とローカルが自然に同じ空間を共有することで、意図しない出会いや会話が生まれることを期待しています。

たとえば、地元の方が日常的に利用する中に旅行者が混ざることで、その土地のリアルな空気に触れることができます。また、醸造という行為そのものが“つくる過程”を共有する体験となり、人と人との距離を縮める役割を果たすと考えています。

▲ラウンジスペース(イメージ)

今後予定している3階ラウンジスペースでは、より落ち着いた交流や、小さなイベント、地域の文化を紹介する場としての活用も想定しています。単なる宿泊施設ではなく、「滞在」と「地域」が緩やかにつながるハブのような存在を目指しています。
また、インバウンドのゲストとローカルの皆さんが交流する場にもなればいいと願っています。

―――T9 HAKODATEを通じて、函館というまちにどのような新しい魅力や価値を加えていきたいとお考えでしょうか。

T9 HAKODATEを通じて目指しているのは、クラフトマンシップやアート、モノづくりといったArtisanとの協奏を通して「歴史的建築の新しい活用モデル」を提示することです。
保存か解体かという二択ではなく、持続可能な形で再生し、収益性と文化的価値を両立させる可能性を示したいと考えています。

また、観光のあり方についても、消費型から滞在・関係性重視へとシフトするきっかけになればと思っています。地域の中に入り込み、人や文化と接点を持つような体験を提供することで、函館という街の魅力をより深く感じていただけるはずです。

最終的には、このプロジェクトが点ではなく、周辺エリアや他の歴史的建築へと波及し、街全体の価値向上につながっていくことを期待しています。

■施設概要

施設名:T9 HAKODATE
開業日:2026年4月15日予定
所在地:北海道函館市末広町15−3

1F:クラフトビール醸造所「white seed」
2F:Hotel 全5室
3F:ラウンジスペース(予定)

公式WEBサイト:https://t9-hakodate.jp
Instagram:@t9hakodate

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